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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
鬼たちの試練編

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第三百四十話 バージョンアップをしよう

 マイティー・ウルティマス一世。それがヒポ丸くん2号に付けられた名であった。

 ハート型の装飾を基調とした全身ピンク色の装甲とマッスルクレイとチャイルドストーンで動くゴーレム馬。最高時速120キロメートルを超える、ミンシアナでも飛竜便に次ぐ速度を誇るその乗り物は、現在はマジリア魔具工房長アガトの所有物となっている。


「マイティー、君は最高だ。素晴らしい。惚れ惚れする」


 そしてマイティーにへばりついて頬ずりしている男の名をアガトという。このミンシアナでもっとも権威ある魔法具専門の工房『マジリア魔具工房』の工房長である。

 リザレクトの街で風音によって命を吹き込まれたゴーレム馬は、親方から無事アガトへと届けられて、こうして毎日のようにアガトに愛でられていた。

 無論、ただ愛でているだけではなく、存分に乗り回してもいる。そして、毎日のように走り回っていて、アガトも当初の頃よりもマイティーの動きが良くなっていると感じていた。それは決して勘違いではない。アガトが日々乗り回すことによって、経験値を積み、その動きを最適化していった結果が出ているのである。


 また、アガトは風音よりもたらされたマッスルクレイの研究も行っている。蓄魔器という成果こそ出たものの、マッスルクレイそのものを操ることはアガトたちにはまだ出来ない。

 そして、日々研究しているマッスルクレイの到達点のひとつが、このマイティーであるとアガトは考えている。

 これを解析すれば……と言われることも多いし、実際にアガトも魔術式を探査してもみた。しかしその術式は異常に複雑で、その上に効率的に造られ過ぎていて、とてもではないが解析出来るようなシロモノではなかった。そのため、今では術式の解析はストップして、一から自分たちで術式を組み上げる方が早いだろうという結論になっていた。

 ちなみに風音に面倒がかからぬようマイティーが風音の力で動いていることは隠し、周囲には竜船同様の古イシュタリア文明の遺産であると説明していた。

 ともあれ、その究極の存在が自分のものなのだ。アガトは常日頃、興奮の坩堝の中にいたと言っても良かった。怖い。


「工房長、すみません」


 そしてそんなアガトの優雅なプライベートタイムに無粋な声が割り込んできたのである。

「なんだ。私の至高の時間を邪魔するとは。魔法具に魂を封じてやろうか!」

 故に鬼の形相でアガトは入り口にいる工房員を睨みつける。

「勘弁してください。お客様がいらしてるんですよ」

 毎度の事ながら、プライベートタイムのアガトに声をかけるのは部下たちにとって命がけの仕事であった。少なくともその時その場においてアガトは間違いなくそうするつもりで罵声を浴びせてきているのだ。

「客? 誰だ?」

「それが白き一団のカザネ様と……」

 その言葉を聞いてアガトの表情が、鬼から菩薩へと一瞬で変わる。

「なんと私の神か!!」

 その神との言葉にマジリア工房の工房員が目を丸くするが、アガトは気にしない。

「この馬鹿。それをさっさと言いなさい。この愚図ッ!」

 そして一転してやっぱり罵倒が工房員に突き刺さった。

「もう、早く行かなければ。マイティー、お前も来なさい」

 そして呆気にとられる工房員を後目に、アガトとマイティーは部屋から出ていったのである。残された工房員はしばらくは呆気にとられていたのだが、意識を取り戻すと「……どうしろと」と呟いたのであった。



◎マジリア魔具工房 入り口前


「おお、我が神よ」

「は? 神?」


 工房の中からダッシュでやってきたアガトの勢いと言葉に風音が引きながら首を傾げる。いきなり神呼ばわりである。意味が分からなかった。

 そんな風音の戸惑いに、さすがのアガトも己が取り乱していることに気付き、コホンと咳払いをしてから「ようこそカザネ様」と頭を下げたのである。そして風音はアガトに対して微妙な苦笑いで返すのであった。


 すでに風音たちが王都シュバインに着いてから1日が経過していた。

 ゆっこ姉の愛のお説教部屋も朝方まで行われ、ついさきほど終了したようである。そして風音のほっぺは真っ赤に腫れあがっていた。


「少し丸くなりましたかな?」

「それ、女の子に言うセリフじゃないし、違うよ」


 アギトの失礼な言葉に風音がブスッとした顔でそう返す。

 そもそも風音は太らない体質である。それは若さの特権でもある。しかし20代も半ばを過ぎた辺りからその体質が解除される者も多いと聞く。年に10キロとか増えたりする者もいる。本当になんでこんなことになったのかと嘆く者も多い。でもダイエットとか無理なのである。健康診断で肥満判定とか出ても何かの間違いとしか思えない。そもそも何故科学の発達した現代においてバリウムなどというものが存在しているのか。いや或いは真なる悪は発泡剤ではないだろうか。どちらにせよ腹立たしい。……などということを風音は特には考えていなかった。当然であろう。


 なお、風音のほっぺが赤いのはゆっこ姉の愛の鞭によるものだ。女の子としての道徳とか教育とかそんなものを一晩で出来る限り詰め込まされた結果として、ホッペを相当な回数、摘ままれたのである。

 実際のところ、ゆっこ姉とて最初はそこまでする気はなかった。だが、ゆっこ姉もまさか思わなかったのだ。話し始めてわずか2分で風音が瞼が閉じて、コテンと寝てしまうとは思わなかった。

 あんなお通じメールを大量に送りつけたことを反省しているはずのチンチクリンがまさかの2分撃沈である。実は目の前のチンチクリンは自分の興味のあることには凄まじい集中力を発揮するが、興味のないことにはてんでダメな子だったのだ。その傾向はここ最近、特に強まっている。注意する人もいないので。

 そんな風音が「くひゅー」とかわいい寝息をたてて寝ていたので、ゆっこ姉もホッペをにゅーっとせざるを得なかった。いっぱい引っ張るしかなかった。「うにゅれー」と風音が寝ぼけて口にしていたが、ゆっこ姉は心を鬼にして教育を施した。そしてここに名状しがたき道徳的な風音が爆誕したのである。何が変わったかについてはよくは分からないが、ゆっこ姉に変なメールは送っちゃいけないという事は覚えたようだった。大きな進歩である。


 そんなこんなで風音は前日にゆっこ姉に薦められた通りに、マジリア魔具工房のアガトの元に訪れたのである。ここでならば進化した魔物素材の武具の加工も可能だとのことだった。


「おお、ヒポ丸くんがまた勇ましく変化しましたな」

 そしてやってきた風音に対してアガトが出迎えたのだ。

 アガトは風音のホッペへの興味は特にはないので、ヒポ丸くんに視線が移った。ヒポ丸くんは黒岩竜の角を正式に衝角として装備し、その形もスザによって衝角ラムに相応しい姿に加工されていた。

 アガトは勇ましいと口に出したが、一般的には禍々しいが正解なデザインである。だがアガトの言葉には風音もうれしそうに頷いた。

「随分と経験積んだし、色々とカスタマイズされたよ」

 今では『這い寄る稲妻』という必殺技まであるくらいである。

「そっちのヒポ丸くん2号も元気そうだね。名前は決めたの?」

「ええ、マイティー・ウルティマス一世と申します。マイティー、お前の創造主にご挨拶を」

 アガトの言葉に反応し、マイティーがアガトの前に出て頭を下げる。よく躾けられているようだった。

「動作にぎこちなさがない。良い感じに成長してるみたいだね」

「さすがです。分かりますか?」

 アガトもうんうんと頷いている。ちなみに風音はウィンドウを開いて確認しているので、かなり細かいところまで情報が見れている。

「まあ、平地での移動は問題なさげだけど、凹凸の多い路面だと少し厳しいかもね」

「確かにカザネ様のゴーレム馬はただ早いだけではなく、森の中などの悪路も移動できるのが特徴ですからな」

 アガトは風音の言葉に「なるほど」と再度頷いた。

「丁寧に乗っているみたいだし、このままなら問題なく使用し続けられると思うよ」

「ありがとうございます。マイティーも喜んでおります」

 そういうアガトだが、そしてそのまま当然のように風音に尋ねる。

「して、本日は何かご用でしょうか。モチロン、マイティーを見に来たのであれば、存分に見ていっていただきたいのですが」

「あーうん。そっちの用事ではないんだけど、後でちょっと触らせてほしいかも」

 マイティーのデータを会得することで風音のゴーレム馬もより強力になるし、それらを統合して、マイティーをヴァージョンアップする事も出来るのである。

「マイティーのヴァージョンアップや、この前に魔術をひとつゴーレムに付与できるようになったから、その付与もしたいんだよね」

「ま、魔術を付与ですか!?」

 風音の言葉にアガトが身を乗り出して尋ねた。

「うん。まあ、そこらへんを使った実証実験を手伝ってもらえればなーと思うんだけど」

 今はまだ具体的な案はないが、ゴーレム製作を通じて何か出来ないかと風音はそこそこ真面目に考えていた。そのための先行馬としてはマイティーは非常に魅力的なモルモットであったのだ。モチロン、良い意味で。

「モチロンですとも。して、魔術というとどんなものでも覚えさせられるんでしょうか?」

「いや、私の覚えてる魔術限定なんだけど」

 バフ系がないのであまり選択肢はないが、ファイア・ヴォーテックスやミラーシールドなど強力な魔術も風音は覚えている。だが、アガトは出来合いの魔術では納得できないようだった。

「でしたら、こちらにグリモアがあります。さあ、どれを覚えるか選びましょう」

 そして、そう口にしてアガトは工房の中へと走っていったのである。

 風音は「何しに来たんだろ、私……」と首をひねったが、まあ魔術が覚えられるなら良いかなーとテクテクとアガトについて行ったのであった。

名前:由比浜 風音

職業:召喚闘士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者リベレイター

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪

レベル:38

体力:152+20

魔力:340+440

筋力:72+40

俊敏力:78+34

持久力:43+20

知力:75-5

器用さ:51

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』


弓花「タツオは連れて行かなくて良かったの?」

風音「まあアガトさん、あんな人だしさ。正直黒炎装備がバレかねないかなーと思ってね」

弓花「なるほどね。まあ、こっちはこっちでタツオとゆっこ姉とノンビリしてるから、さっさと鎧を直してきなさいよ」

風音「そういえば、そのために工房に来たんだったっけ」

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