第三百二十九話 生意気なボディにぶっかけよう
マッドスパイダー討伐の初日は昼過ぎからだったため、風音たちも日の落ちる頃でもそれほど森の奥には入ってはいなかった。そのため一旦森の外まで戻り、そこで風音がコテージを出して一晩過ごすこととなった。
すでに森の入り口周辺のマッドスパイダーの駆逐は完了しており、夜間に襲われる心配は減っている。その上に周囲はロクテンくんを筆頭にタツヨシくんシリーズ、ヒポ丸くん、ヒッポーくんシリーズらの動力石持ちの自律機動組によって常時警戒態勢をとらせている。仮にマッドスパイダーの襲撃があっても撃退可能な状態となっていた。
◎風音コテージ 大浴場 夜
「うーん、まだ身体がネバネバしている気がするよ」
風音がまるで子供のようにツンツルテンで健康的な身体をシャカシャカと洗いながらマッドスパイダーの蜘蛛の糸を直接受けた肌を気にして見ている。
「とは言ってもマッドスパイダーの蜘蛛の糸は魔力体なんだから、すでに消滅している以上は実際には残ってるはずもないんだけどね」
ルイーズはそういって苦笑する。実際に粘ったのを受けたのは他には直樹とライルぐらいである。ルイーズも後衛で糸を受けるほど近付かれることはなかった。
「それで、その糸ってそんなに粘ついてたの?」
「餅みたいな感じでねえ。まあ、これなんだけどさ」
ルイーズの言葉に、風音がとなりで髪を洗っていた弓花のワキに手を向けて、手のひらからビュッと白いネバネバを出して当ててみる。それはマッドスパイダーより入手したスキル『スパイダーウェブ』である。
「へっ? ひゃっ、なにこれ、ネバネバしてる!?」
風音の攻撃(?)を喰らったことで、髪を洗うのに目をつぶっていた弓花がパニックになる。
「エロいわ」
「なにがーーー!?」
ルイーズのつぶやきに弓花は叫んだ。
「ちっ、震えておるわ。忌々しい」
風音が慌てている弓花の身体の一部が震えてプルンプルンとしていることに歯ぎしりをする。最近肉が育ってきているようである。
(この女……やはり成長している)
このまま成長を続けていけば、いずれ取り返しのつかないことになるかもしれない。そんな恐るべき未来を必死で頭の隅に追いやりながら風音は「こんにゃろっ」と怒りのままにピュッピュとネバネバをかけ、弓花が当たるたびに「ひゃんっ」と鳴く奇妙な光景がそこにはあった。そしてそれは弓花がスキル『化生の加護』から『直感』を呼び出して目をつむったまま風音をブン殴れるようになるまで続けられたのである。
「親友同士の戯れって憧れますわね」
「あれに憧れを抱くのは無理だわ」
湯船の中でそう口にしあったティアラとエミリィの目の前では、白いネバネバまみれの弓花がハァハァと息を荒くしながらグッテリと女の子座りをしていて、その前には「ぐへー」とマッパで大の字で倒れている風音の姿があった。ちなみにルイーズはすでに我関せずと離れた場所でタツオの背中を洗ってあげていた。気持ちよかったのだろう。くわーという声が浴場に響きわたった。
◎風音コテージ リビング
「姉貴ー。とりあえず素材はまとめて倉庫に入れておいたぜ」
風呂から出てきた風音に直樹が声をかけてくる。
「うん。あんがとー。直樹たちもお風呂、空いたから入んなよー」
「あいよー」
ホンワカと湯気がでているパジャマ姿の姉の姿を堪能した直樹は、倉庫のある1階にいるジンライとライルを呼ぶべく階段を降りていった。
実は、以前に浮遊島で追加拡張したコテージ内の倉庫は、出し入れに不便であることが指摘されたために一階に作り直されていた。大きな倉庫用入り口も用意されている。そのため、現在はリビングや大浴場などは二階に上がっている。
また、今回討伐したマッドスパイダーの素材は毒牙、毒針、毒袋などである。
扱いが難しい素材で、自分に毒が回る可能性もあるため、これらは特に残しておかずに売却予定である。そして本日だけでそれぞれ40つ近くの収穫があった。
他にも、蜘蛛の巣に掛かって死んでいた魔物の素材や、主に風音が回収した黒水晶なども回収できている。また冒険者3名分の遺品も発見されていた。
(戻ってきていないパーティは8組。今回の3人組を抜かせば7組か。生きていてくれればいいけど)
風音はそう思い、残りの冒険者の安否を祈った。
シジリの街のランクB冒険者の武闘派5組が三日前に討伐に向かったのだという。そしてまだ戻ってきていない。まだ三日なので狩りの途中である可能性は高い。その前に戻ってこなかった3パーティもまだ生存の可能性がないわけではない。
また森に入って分かったことだが、内側はまだ外から見えるほどにマッドスパイダーがいるわけではないということだった。入り口近くにたまたま集中していただけで、森の中はマッドスパイダーの巣のないエリアも少なくはない。
「まあ、明日は闇の森方面に進んでみるかなあ」
基本的に魔物が集団で移動するなどがあった場合には群れのボスが存在している可能性が高い。今日ですでに散々狩っているわけでもあり、群れのボスが好戦的であるならば、仕掛けてくる可能性もあると思われた。
◎黒い石の森内 朝
そして今日も今日とて蜘蛛退治である。メンバーは昨日同様。
森に入って30分と経たずにマッドスパイダーを発見した風音たちは、さっそく奇襲を仕掛けて退治に動き出していた。
「ほっ!」
マッドスパイダーから白いネバネバが飛び出してくる。風音はそれを今度はスキル『イージスシールド』を用いてはじき返した。今回は『直感』も特には働かない。
(やっぱ、こっちなら正解か)
体勢を崩したり、接近状態から引きはがすなどのオフェンスとしてのマテリアルシールド使用は使い勝手も良いが、防御を考えるならば未知の攻撃に対しては物理と魔法の双方に対して効果のあるイージスシールドを優先した方が良さそうである。もちろん魔力コストの問題もあるので状況にもよるだろうが。
ともあれ、今は戦闘中。余計な思考は身を滅ぼす。
イージスシールドによってネバネバを返され困惑しているマッドスパイダーは、隙だらけであった。
「一気に行くよーー!!」
風音はスキル『ブースト』で距離を詰め、蹴り蹴りトンファー蹴りとコンボを決めてから最後にかかと落としで頭を潰して仕留めた。
一緒に戦っていたジンライ、ユッコネエにジン・バハルと狂い鬼もそれぞれの相手を倒し終わったようである。この場で倒したマッドスパイダーの数は13匹を超えていた。
「まとまってやって来たみたいだね」
「昨日にも散々殺してまわったからな。警戒のレベルが上げられておるのだろう。まあ、この程度ではワシ等を止められんがな」
風音の言葉にジンライがそう返す。確かに数を多少増しただけでは今の風音たちに対抗することは無理だろう。
「でも、すぐに対策を打ってきているということはやっぱり指示系統が存在してるってことだよね」
「ボスの存在か。まあ、確かにいるであろうな」
ジンライもその言葉には頷く。
「蜘蛛で闇の森の系統だとルナティックアルケニーとかがいるのかなあ」
ルナティックアルケニー。それは気が狂った女の上半身が生えている巨大な蜘蛛である。だがジンライは首を横に振る。
「それは闇の森に生息している中でも上級の魔物の名だろう。今回はもう少し格下であろうよ」
であれば……と、風音は再度考える。そして、ひとまずボスを片づけて、マッドスパイダーたちの数をある程度散らせれば、依頼完了と言ってもいいだろうとも。
実際には、現在までの討伐したマッドスパイダーの討伐確認部位があれば十分過ぎる成果である。さらに森の惨状を報告するだけで報酬は加算されるだろう。
なお、風音は今回でレベルが37に上がっていた。また森の中で黒水晶や食用のキノコ、山菜などを『直感』と『食材の目利き』に頼って取っていたらどちらもLv2になっていた。『直感』はさらに磨かれウィークポイントなどが把握できるようになり、『食材の目利き』はレア食材の発見力が上がったようである。
今夜はおいしいキノコ鍋が食べられそうであった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:37
体力:149
魔力:321+420
筋力:70+20
俊敏力:77+14
持久力:41
知力:73
器用さ:50
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』
風音「サービス!サービス!」
弓花「あんたにはまたパンチをサービスするわよ」
風音「ノーサービス!」




