第三百十六話 言うことを聞かせよう
竜船が落ちる。そんなことを聞かされれば誰しもがパニックになるのは避けられない。
しかし、乗客たちがそのような状況になることはなかった。
なぜならば、あの小さなチンチクリンな女の子がどうにかすると宣言していたからだ。そしてそれを彼らは戯れ言と聞き流せなかった。それは少女から発せられる、まるで王の如き威容に彼らは圧倒されたからだ。そして、まるで王の命に従う忠義ある配下のごとく乗客たちは動いていた。
そうして、ひとまず甲板の上にいた乗客たちは唯一の船内である貨物室へと集められることとなる。すでにひどい揺れとなった甲板上で転げ落ちそうになる乗客もいたが、ティアラのフレイムナイツや風音のロクテンくんやタツヨシくんたち、そして弓花の魔狼クロマルや銀狼たちが誘導することでどうにか全員を収納することが出来た。
他にも白き一団以外の冒険者や局員も乗客の安全のために動き、乗客の安全は一時ではあるが迅速に確保が出来た。しかし、どうであれ、このまま落ちるのであれば彼らの死は免れないだろう。それに対処するためにチンチクリンたちは今も動いていた。
◎ハイヴァーン上空 竜船甲板
「……またマシューさんみたいになるのかなぁ」
思わず風音はため息を付いた。
風音はさきほど混乱状態にあった乗客たちに対してスキル『魔王の威圧』をかけることで無理矢理従わせたのだが、どうもスキルにかかった人たちの目がよろしくない感じだった。なにか心酔しているような、言うならば月刊マッスルスパークを読んでる途中にふと窓を見た時に映った自分の顔のような感じだったのだ。怖い。
(ま、あの状態じゃあどうしようもないよね。あーもう今は忘れよッ!)
そう考えながら首をブルブルと振って気持ちを切り替える。
そんな様子の風音だが、今は皮膜が破壊され骨だけとなった翼の前にいた。グラグラと揺らぐ甲板だが、風音はスキル『壁歩き』によって姿勢を固定しているため、誤って空中に投げ出されることもない。
「それにしてもこりゃ、ややこしいね」
そして風音が行っている作業は、手持ちのマッスルクレイを徐々に流し込みながらの翼の再生である。すぐさま翼を形作るだけならば可能だが、竜船の制御術式と竜船のマッスルクレイは直結している。あくまで制御系が竜船と繋がっていなければ形だけ直しても意味はなく、動きもしない。だから風音が行っている作業というのは流し込んだマッスルクレイを少しずつ竜船の制御に書き換えながらの再構築であり、それは揺れる甲板の上という悪環境もあって極めて高い精神力を必要とするものだった。さらに言えば、ただ制御を書き換えるだけでは事態は改善されない。
現状は自動操縦でカバーできる範囲を超えている。なので風音の作業に併せて実際に竜船を操縦し制御する人間の協力が必要であった。そしてそれが出来るのは小型竜船の操縦にも慣れている直樹だけであったのだ。
◎竜船 操縦室
「うわぁ、本当に入れるんですねえ」
竜船管理局の局員クラークが驚きの顔で操縦室の中を見回している。竜船管理局というのは表向きは竜船の管理をしている組織ということになっているが、彼らは竜船の中に入る手段を持ち合わせておらず、ただ単に定期的に街を行き交いしている竜船に併せて荷物の運搬や乗客の搭乗を管理しているだけの組織であったのだ。
なので局員が竜船の中に入ることなど竜船管理局が出来て以来の初めての出来事であったのでクラークの驚くのも無理のない話ではある。だが、しかし今はそんなクラークの驚きに付き合っていられる状況でもない。
「あ、そこら辺のもの、触らないでくださいね」
直樹は神経質そうに周囲を見渡しながらクラークにそう口を出す。それにはクラークも自らの中にわき上がる驚きや好奇心を押し殺して緊張した顔でうなずいた。乗客と自分の命が掛かっている。失敗は許されない。
「そんじゃ弓花はサポートで頼む」
「機体がブレないようにしてればいいんだっけ?」
そして操縦席の片方に座っている弓花に直樹が指示を出す。
「ん、難しい操作は出来ないだろうし『直感』で支えられるだけで良いからさ」
「わーったわよ」
難しい操作が出来ないと言われて弓花が少し拗ねるが、だが事実は事実である。そして直樹は、風音から預かった『最上位権限カードキー』を操縦席の横のスロットに差し込んだ。
『最上位権限カードキー』、それが直樹たちが封じられていた扉を開き、護衛の機械人形にも邪魔されず、この操縦室までなんの問題もなくたどり着けた理由であった。風音の無限の鍵でも代用は可能だが、使用可能な風音本人が翼の修理を行っていて動けない。
それに浮遊島で手に入れた『最上位権限カードキー』ならばハイヴァーン公国でも竜の里でも把握され認知されているため、後々の竜船管理局に対しての説明に出すことも問題はないと風音たちは判断していた。そして実際に使用したことを証明するための証拠固めとしてクラークの同行も許していたわけである。
「さっと、そんじゃ飛ばしますか!」
『待った。自動操縦をマクロ保存しといて』
直樹の声に『情報連携』による風音の声が飛ぶ。
「あーそうだった」
直樹がウィンドウを操作し、ミンシアナのウォンバードの街とハイヴァーンのリザレクトの街の航路を行き来する動作を保存しておく。すべてが終わったときにまた元のように戻せないとそれはそれで不味い。
ともあれ、いよいよ直樹は操縦へと移る。
(基本的にこの竜船ってのは浮遊石で動いてるけど、姿勢制御は翼によって行ってるからなあ)
このまま行っても緊急着地で船の損傷はそこまでないだろうが、だが乗っている人間は船の中でシャッフルされて挽き肉になりかねない。無論、甲板上にいても振り落とされて地面に叩きつけられる運命が待っている。
「よし、自動制御から手動制御に切り替え完了」
開いたウィンドウのボタンを押し、直樹が操作を切り替える。
そして直樹が操縦桿を握り、操作を行う。ウィンドウから距離計、速度計、高度計などが統合されたUIが表示される。それは小型竜船と大体同じモノで、実のところ操縦桿の横にある針式メーターに表示されているものとでている数字は同じであったりする。
姉が修理しているのであろう左の翼が徐々に回復していく。ドラゴンの扱うものと同様の風の加護が徐々に元の状態に戻っていくのも分かる。
「……こりゃ、間に合ったな」
そして一息ついてから直樹は操縦桿を改めて握り直す。
途中で降りる場所もないのだから、少なくともウォンバードの街に着くまでは手動操作のままとなる。気の抜けないフライトになりそうだが、それでも先行きの見えない状況ではなくなったのは精神的に大きい。
その後、直樹が風音と交代で夜通し操縦してウォンバードの街に着いたのは、十時間後のことだった。そして風音たちが街に着いたときには、何人かの局員が既に行方を眩ましていた。
それは後に調べたところによればナザレと接触があり、悪魔の手先であったと見られた者たちであったようだった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』
風音「ピンチが脱出できたよ」
弓花「まあそれはそれとして『魔王の威圧』がヤバいわね」
風音「分かってるけどさあ。でも、あのままだとパニックが起きてほとんどの人、甲板から投げ出されて死んでたと思うよ」
弓花「まあねえ。クロマルたちで誘導できたのも乗客が落ち着いてたからだしさ」
風音「ともかく、今後は使用に気を付けないといけないのは確かだね。マジ怖い」




