第三百十話 挑戦を受けよう
風音たちが向けた視線の先にあったのは中央闘技場。そして聞こえてきた声の主は闘技場の入り口に仁王立ちの厳つい顔の禿げ……いや、スキンヘッドの、上半身に簡単な革鎧を着せただけの『筋肉』男であった。
(ふむ。あれは極上の肉だね)
風音の視線が鋭く光る。顔は兎も角、良い肉を育てている。身長は1.8メートルほど。それを覆う鎧の如くミッシリとした筋肉が所狭しと纏われている。しかし見た目の派手さとは裏腹にあの筋肉達ひとつひとつの存在感はなんだろうか。
(ただ魅せるために育てることを目的とした筋肉じゃない。使う目的があって、そのためにああした姿へと自然と進化したというわけか)
あのパンパンに膨れ上がったタイヤのような大胸筋や、盛り上がった上腕二頭筋、腹筋の割れ具合のエグさときたらなんだ。
(ええい、尻を見せろ!グイッと引き締まった尻を!!)
触りたい、撫で回したい、パンツにお札をスッと差し込んでみたい。そう風音は評価した。風音は大人になったらそうしたお店に行ってみようとずっと考えていたのだ。
「ドラゴンを討伐したと言っても王族の護衛に過ぎん。その手のコネがあることはディアサウスでの騎竜出迎え騒動で知っての通りだろう!」
筋肉禿げの言葉はどうやら白き一団の話のようであった。なお風音はフンフンと盛りのついた犬のように鼻息荒く熱い視線を送っているようである。
「少し前に聞いたクリスタルドラゴンも目撃者は少なく、素材そのものが出回っていないことからデマという話もある」
「まあ、自分たちで使ってるからねえ」
その言葉には興奮状態の風音に代わって弓花がひとりぼやいた。
クリスタルドラゴンのコアであるレインボーハートはタツオになり、角と目は直樹の剣とイヤリングに、爪はジンライのサイドアームに使用し、竜晶石はヒッポーくんクリアとクリスに使用してしまった。ちなみにクリスタルドラゴンの牙も残っているが、質的には黒岩竜の方が高いためにそちらが優先的に使われてるだけでキープしてある。竜葬土も取れたがこちらはマッスルクレイ用。もっともマッスルクレイ自体は浮遊島の竜船内から巨大ゴーレムを作れるぐらいの量を回収しているのだが。
「ダンジョン化したブルーリフォン要塞ではこともあろうか、心臓球を破壊したとも聞く」
風音の鼻息が一瞬止まったが、すぐさま再開した。まるで何かを押し流すかのように。風音は過去を振り返らず未来を見て生きているのだ。
「ベアードドラゴンだとて単独討伐ではなく、デイドナの冒険者たちとの共同討伐だ。しかもランクAのグロリアス・ディーン率いる『ソードフィッシュ』の活躍あってのこと。連中はそうした周囲の働きをまるで自分たちのモノのように吹聴しているのだ!!」
吹聴したような事実はないが、そのように話がでていることも事実である。もっともいっしょに戦っていた相手は、ともに戦ったという事実があれば、その物語の参加権を得て自分の名を売れるのだから非難など出ていないようではある。
「そもそも魔狼と200の魔物をひとりで倒したなど誰が信じろというのか。そんな女がいたらただの化け物だ。人間じゃない!」
そして、言葉の刃は弓花に投げつけられた。弓花はその身を崩れ落ちさせ、シクシク泣いた。
「よーしよし」
横でティアラが慰めている。ユッコネエも「にゃっ」と言いながら弓花の肩に手を置く。肉球がプニッとした。ちょっと重かった。
「そして俺はこれからその血染めの狂戦士の伝説を打ち砕く!この腕でッ!!」
ムキッと腕の力コブを見せつける男の姿に「ウォォオオオオ」と声があがる。
「ウォォオオオオオ!!!」
そしてこの場で一番熱狂的に叫んでいるのは風音であった。テンションがやばい。その風音を見ながらタツオが『あの禿の人です母上』と口にしているが当然ここまでくれば風音も分かってる。あの禿げマッチョこそが『バロック・ジーニアス』、現在のリザレクトの街の闘技会で無敗を誇る男であった。
◎リザレクトの街 中央闘技場 事務所
「ああ、白き一団の皆さん、来てくれたようだね」
中央闘技場に入った風音たちが通された先の事務所にいたのはこの闘技場のオーナーであり、街の領主であった。
「はーい、みんな」
そしてその横ではルイーズが手を振って出迎えていた。
「あれ、ルイーズさんがなんでここに?」
風音が首を傾げてそう尋ねるが、それも当然の疑問であろう。朝から出掛けていたルイーズが、何故か闘技場の事務所にいるのだ。経緯が分からない。
「なんでって、アンタが昨日言ってた悪魔の種子のことをギルドで聞いてたら、こっちで活躍してる無敗の人が怪しいんじゃないかって話になってね。今確認を取ってたところなのよ」
「無敗の人って、バロック・ジーニアスさんのこと?」
風音がさらに首を傾げる。
「そう。あんな実力があるのに、今まで名前が挙がってなかった人物だしね。その、例の薬『ブラックポーション』の常習者なんじゃないかってね」
なるほどと風音は頷くが、だが風音は続いて首を横に振る。
「んー、あの人は違うよ」
風音の即答に領主がホッと一息つく。今の闘技場の看板にケチが付くのではないかと内心では気が気ではなかったようである。
「ハッキリ言うわね。理由はあるのよね?」
ルイーズの問いに風音が頷く。
「良い筋肉の人に悪い人はいない」
「いや、それはどうかと思うわ」
ルイーズの呆れ顔に風音が「分かってないなあ」とフフンと笑う。
「薬を使ってる筋肉じゃあないよ。純粋に研ぎ澄まし続けて鍛え上げられたスティールのような肉体は圧巻だったよ。あそこまで自分の肉体をいじめ抜いた人が安易に薬に頼るとは思えないよ」
「うーん、も少し具体的な根拠はないの?」
ルイーズにも風音の言いたいことは分かったが、だが推測だけでは良しとは出来ない。
「まあ、スキル『犬の嗅覚』を使えば悪魔が憑いてるかは臭いで分かるしね。アストラル状態になってる部分もなかったよ」
「それを最初に言って欲しかったわね」
ルイーズがため息をついたが、風音としてはそんなチェッカー的なことよりも筋肉で判断して欲しかったのだ。
「まあ、取り敢えずはあたしも見てみるけど、大丈夫そうね。それで、こっちの領主さんに聞いたけど、ユミカがあのバロックと戦うんだって?」
「ええ……」
ルイーズの問いに弓花がうなだれながら答える。弓花は、たまたま街を視察していた目の前にいる領主と昨日に出会っていたのだ。そして確かにそんなことを話した気がする。
「まさか、ふたつ返事で引き受けて下さるとは思ってませんでしたからな。さすが白き一団は豪気ですな」
わはははは、と領主の悪意のない笑いが事務所内を木霊し、弓花も力なく笑みを浮かべた。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』
風音「まあ、領主さんは乗り気だけど契約書交わしたわけでもないからキャンセルは出来るよ?」
弓花「んー、自分でまいた種だから受けるよ。師匠からは色んな人と戦った方が良いって言われてるしね」




