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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
幕間

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317/1136

魔王現る

*** 神託 ***


ヴェゼル東域の神竜帝治める地にて、魔王現れり。


その者、黄金の鎧纏いし巨人なり。


その者、腕を六つ持ちて、巨大な刀操る益荒男なり。


その者、虹の輝きを帯び、紅蓮の炎を身に纏いし者なり。


その者、漆黒の大翼広げし、空舞う者なり。


その者、王者の気を放ち、魔性を従え恐怖を言霊とする支配者なり。


その者、大地を割り、天を歪めし超越者なり。


その者、即ち魔王なり。


名をアスラ・カザネリアンと称す者なり。



**********



◎ツヴァーラ王国 王都グリフォニア 王城グリフォニアス 王の間


「魔王が現れただと!? それもティアラたちのいた竜の里にか!!」

 アウディーンが激昂し、その場にいた王宮騎士団のレイゲル団長が渋い顔をしながらもアウディーンに言葉を返す。

「陛下、姫様方は昨日には里を飛び立っているのですから、接触はなかったのでしょう。姫様の身は安全ですよ」

「うむぅ、そうだな。確かにその通りだ」

 レイゲルの言葉に、アウディーンは唸りながらも納得する。いきなりの情報に混乱していたようである。

 確かに昨日に父であるメフィルスが夢枕に立って、アウディーンの戴冠式の日取りを連絡してきたのだ。実際には魔王アスラ・カザネリアンが現れたのは突然の事ながらティアラたちが発つ前であるし、神託はいつ魔王が出現したなどとは告げてはいなかったのでアウディーンたちの認識には齟齬がでているようである。

「しかし、何故にあの里に魔王などが……」

 ここ20年近くはなかったことである。まさしく異常事態に他ならない。

「その点ではメフィルス様にお聞きになってみてはいかがでしょうか。何かお知りかもしれません」

「そうだな。しかし、父上とのあの紅玉獣を通じての会話は正直あまり使いたくはないのだがな」

 毎回毎回後ろに急に気配を感じてゾッとするのだ。何故背後からしか出てこれないのか。それがアウディーンには謎である。

「まあ、良い。父上にお尋ねすることにしよう。それとは別にハイヴァーンには使者を送っておくのだ。何か恐るべき事態が起きているのやもしれん」

「はっ!」

 レイゲルが勢い良く応える。アウディーンはそれに頷くと、別の懸念を口に出してきた。

「それで、例の噂の方はどうなっておる?」

 その問いにはレイゲルは苦い顔で返す。

「はい。やはりシェルキン様の一派のようですな」

 ツヴァーラ王国内にシェルキンの方を王にと考える貴族たちは多い。アウディーンの強引な政策に対して貴族たちとの調整をしているのはシェルキンであり、実務的な能力においては確かにアウディーンよりも弟のシェルキンの方が上なのも事実である。しかし、王はアウディーンなのだ。

「弟はそれを止められんのか?」

 そしてシェルキン自身は自分を王へなどと考えてもおらず、実際によくアウディーンを支えている。だが、アウディーンの娘の暗殺疑惑という餌が放り出された時点で暴走する貴族が増えて、シェルキンですら抑えられていない状況となっているようだった。

 それは悪魔ディアボが後々の為に仕掛けておいた争いの火種が勝手に芽吹いた結果ではあったのだが、神の視点を待たぬアウディーンらには当然知る由もない。

「四苦八苦しておるようです。糸のきれた凧のようだと」

「とっとと墜落させて燃やしてしまえば良いのだ。そんな凧など」

 アウディーンがそう言うも現時点で凧を落とす手段は、とっとと暗殺されたという娘を国に戻すことだけであった。

「下手に手を打てば、こちらがごまかしていると思われかねませんからな。第二、第三の噂が出てきかねません」

 レイゲルの言葉にアウディーンも唸る。しかも過去にティアラがそう誤解したようにシェルキンが黒幕的な流れにまで入りかねない状況でもある。慎重に事を進めないと無用の悲劇が起こりかねない。場合によっては『暗殺を現実にしよう』と考える者も出兼ねない。

「ティアラよ。無事でいてくれ」

 アウディーンの深い溜息が王の間に静かに木霊した。



◎ミンシアナ王国 王都シュバイン 王城デルグーラ 女王の寝室


「というわけでカザネっちからの連絡通り、ミュール神殿から神託が下ったみたいっすね」

「あー、本当にあの娘は問題を大きくする天才ね」

 ベッドに突っ伏したままのユウコ女王がそう口にする。そしてベッドの横にはユウコ女王の影武者イリアが立っていた。この影武者が起き抜けに聞かされるにはヘビーな話を持って来たのだ。

「ミンシアナの女王閣下は宣告された魔王様とご交友にあらせられるっていっそ謳っちまいますか?」

「勘弁して頂戴。それで風音に行き当たりでもしたら面倒なことになるし」

「面倒?」

「時期がねえ。悪魔と魔王を結びつけてイチャモン付けてくるところもあるでしょうよ。ソルダードとかね。ああ、トーレもそうね」

「ソルダードはいつも喧嘩売ってるっすけどね」

 ミンシアナとソルダードの仲の悪さは歴史的にも長きに渡って続いている。

「けど、王が変わったことであの国は姿を変えつつあるわ」

 風音とアオがソルダードの竜騎士から聞いた王権簒奪の話は、当然ユウコ女王の耳にも届いている。ここ最近は悪魔の問題よりも、身近な驚異であるソルダードの状況の方にユウコ女王の意識は向けられていた。


 簒奪したのは、ソルダードの守護兵装である守護騎士『エルバロン』に選ばれた王バローム・ソルダード。現在は第三王女を娶り、ソルダード王族の一員となっているが民衆上がりの王を民は支持しているらしいとの話は間諜から受け取っている。しかも現在は己に従わない王族、貴族の粛正の嵐が行われている真っ最中で今ソルダードの首都マウアーデントの大広場は名だたる貴族たちの首の鑑賞会場となっているらしいとのことだった。


「物騒な話よねえ」

「殺してきた数だけならユウコ女王様も負けてないっすけどね」

「晒すなんて下品な真似はあまりした覚えはないわ」

 恐怖政治に走りたいわけではない。見せしめは効果的にとユウコ女王は考えているのだ。

「でも軍が僅かな期間に増強されていってることは見逃せないのよねえ」

「おかしな薬も流行ってるみたいっすしね」

 ソルダードの王都を中心に製造元不明の禁制薬が流行っているという噂である。

「狙いがミンシアナにあるかは分からないけど、今は悪魔のこともある。慎重に行きましょう」

「ラジャーっす」

 イリアの元気な声にユウコ女王も頷いた。

(王権簒奪ねぇ。これもまた悪魔の仕業じゃなきゃいいんだけど)

 そうユウコ女王は思うが、それなりの確率で当たっているのではないかとも思っている。

 ツヴァーラとミンシアナの上層部に悪魔が入り込んでいたのは事実。魔道大国アモリアも悪魔狩りのトップであるゼクウが悪魔である可能性が高い。であればソルダードも一連の悪魔の動きの中で、簒奪が行われたのではないか……と。

 杞憂であるならばよい。だがユウコ女王の懸念が晴れるような話は今のところなかった。



◎ハイヴァーン公国 首都ディアサウス 大公城マルフォイ 王の間


「由々しき事態ですな。まさか我が国で魔王が誕生するとは」

「まさか、里を襲ったのも魔王が!?」

「なんということだ。このような時期に何故」


 ハイヴァーン王国の中枢である大公城マルフォイの王の間ではいつになくざわついていた。文官たちも武官たちもみな緊張した面もちで周囲と情報の確認を行っている。

 しかし、そんな喧噪とは無縁の人物がこの中に二人いた。

 それはライノクス大公とジライド将軍である。


「なあ将軍」

「はっ」

「これってやっぱりあのお方の事だよな」

「でしょうな」

 ジライドの真面目腐った返答にライノクスは頭をかいた。

「神竜皇后様は何をお考えだ思う?」

「何かを考えて事を起こしたとお思いで?」

 ジライドの言葉にライノクスが苦い顔をする。二人は少し前まで竜の里にいたのだ。そして風音が造ろうとしているものも図面だけなら見せられていた。そしてノーマン神殿からもたらされた神託の内容は、その完成図面のものと特徴が一部一致していた。

「まあ、完成時期を考えると多分、出来たときにやらかしたんだろうなぁ」

「いったい何をやらかせばこうなるんだか皆目見当もつかないですけども」

 ライノクスとジライドはそういって苦笑する。あの別れた状況から何故魔王に認定されるのか理解できない。第六天魔王の血珠をコアにした神竜帝ナーガが認定されたのならまだ分かるのだが。

「ともかく、竜の里へ連絡だ。早急に神竜帝様には状況の確認を行ってくれ」

「承知いたしました」

「それと言うまでもないが、憶測でその正体のことを広めんようにな。俺はもうドラゴンに抑えつけられてズボンを下ろされるのはゴメンだ。刺されるのなんて以ての外だ。もう絶対に嫌なんだ」

 ライノクスがブルッと震えながら「嫌なんだ……」と再度そう口にした。

 どうやらトラウマになってしまったようである。一部ではあれを好んで行う者もいるそうだが……とジライドは思ったが、ライノクスはそうした性癖は持ち合わせていないようであった。


 良かった。良かった。


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