第三百三話 魔王を倒そう
「雷よっ、雲の中を走れ!!」
ジンライがキリングレッグを避けた直後、突如出現した雷が魔王を襲った。稲光がその場を照らし出すが、しかし魔術自体は魔王の周囲を覆うレインボーカーテンによって防がれる。
『効かんな』
魔王は鬱陶しげにそう答えながらも目がチカチカしてぐぬぬとなっていた。その術はルイーズの魔術サンダーストームだった。ダメージを与えることを考慮せず、目くらましとしてルイーズはその魔術を放っていたのだ。魔法耐性が高いとはいえ、使い方次第ではこうして効果を発揮することも可能なのだ。
「ルイーズ姉さんか!?」
「ジンライくん、今よ!」
ジンライは「ありがたい!」と言いながら、突進する。目の前の魔王の蹴りは厄介ではあるが、しかし来ると分かっていれば対処は出来る。
『ふむ。狂い鬼よ、やれ!』
しかし魔王はそれには新しい手を打つ。そしてジンライの前に黒い悪鬼が出現する。獰猛な瞳でジンライを見て、黒い棍棒を振り上げる。あまりにも早い召喚速度ではあったが、しかしジンライは慌てたりはしない。
「ジン・バハル、お主の力を貸してくれ」
「任せよ!」
そして狂い鬼に対してはジンライは骸骨竜騎士ジン・バハルを召喚する。現れた直後に振り下ろされた棍棒を、聖槍グングニルを使って受け流す。
「グヌォッ」
「鬼退治とは乙なものだ」
受け流された棍棒はそのまま大地に激突し、大地を抉り、ジン・バハルはそのまま踏み込んで聖槍を穿つ。しかし、狂い鬼の肌は黒岩竜の鱗と同じ強度を持っているのだ。
「ぬっ、硬い!?」
グングニルはほとんど狂い鬼に突き刺っていない。硬い皮にナイフを突き立てたような感触。ただのオーガと同じと考えて力の加減を誤ったジン・バハルのミスである。それを見て狂い鬼が確かに笑った。
「チッ!?」
そして同時に繰り出される狂い鬼の蹴りをジン・バハルがバックステップと併せてライトシールドで受け止める。下がりながら受けて威力を減衰させたにもかかわらず盾は砕け散り、そのままジン・バハルが二メートルは吹き飛んだ。
体勢を崩さず、着地して踏ん張れたジン・バハルはそれはそれで見事ではあるが、盾を装着していた左腕の骨にヒビが入っている。
「ぬぅ、オーガがここまでの化け物になるとはな」
ジン・バハルはそう感嘆する。たった一撃で左腕を持って行かれたのだ。魔物化し能力も上昇しているはずの自分がこうも易々と……と苦笑し、目の前のソレを恐るべき敵と理解する。しかしジンライはこの悪鬼に対してやれると見込んでジン・バハルを喚んだのだ。ならば無様は晒せまいとグングニルを握りしめた。
そして魔王は狂い鬼が止められたことを知ると続いての手札を晒す。
『ならばユッコネエ、来るが良い!!』
「ふにゃーーー!!」
「なんだと、ユッコネエが!!」
それにはジンライが悲痛な叫びが上がる。
「ユッコネエ、ワシだ。お前のパートナーのジンライだッ!!」
ジンライがそう説得するが、しかしユッコネエは主の命には逆らわない。主付きの召喚獣の多くがそうであるようにユッコネエにとって主たる風音のそばにいることこそが喜びであり、主に従うことこそがユッコネエの選んだ意志なのだ。例えジンライがどれだけユッコネエを好いていようが、それは一方通行の想い。ジンライはユッコネエのオンリーワンにはなれない。
だが、そんな残酷な事実をジンライが知る前にユッコネエには別の何かが飛び出していく。それは三つ首の大きな銀狼だった。
『三つ首の銀狼、弓花か!?』
『甘いよ風音ッ!!』
驚く魔王に銀色の光が迫ってくる。それは先ほどまでよりもさらに銀色の輝きを持つ全身毛むくじゃらの、鎧を着て槍を持った狼だった。
『『深化』したか弓花よ』
その魔王の言葉に、狼が獰猛なキバを持つ口をニィッとつり上がらせる。それは化生の巫女の能力でさらに獣化した弓花だった。そしてクロマルも銀狼たちと融合し、三つ首の銀狼と化していた。
『クロマルたちが合体したホーリーケルベロス、ユッコネエじゃあ勝てないよ』
完全狼化した弓花が言うとおり、ユッコネエはその三つ首の狼からは逃げまどっている。元々の魔物としての格の差がある上にクロマルは魔物たちを多く従えていた『獣の従属』スキルを所有している。それがユッコネエの行動を制限しているようである。
『なるほどな』
確かに今のユッコネエでは三つ首の銀狼の相手は厳しい。しかし足止めが出来れば十分。そして後ろから迫ってくる者たちにも枷が必要だ。
『スキル『ストーンミノタウロス』及び『武具創造:黒炎』と『リビングアーマー』!!』
追撃する弓花とジンライを背後に下がりながらかわしつつ、魔王は配下を呼ぶ。
そして『ストーンミノタウロス』が土塊から生み出され、『黒炎のリビングアーマー』が黒い炎と共に出現する。しかし、その標的はジンライと弓花ではなかった。
「チッ、阻まれたか」
そう口にしたのは直樹だ。ルイーズのライトニングスフィアとティアラの炎の有翼騎士もいる。ライルとエミリィも苦しそうな表情だがどうにか付いてきている。しかし魔王と弓花たちに近付こうとして分断された。
『さすがに数で圧されたら勝てないもんね』
姿形までかなり変化した影響か、くぐもった声で狼姿の弓花がそう指摘する。
『笑止!』
だが魔王はそう言って戦いに興じる。さきほどまでの六刀流だけでなく、蹴りも多用してきている。何より空を飛びながら空中跳びで軌道を自在に変えてくるのが非常に厄介だ。
さらには斬馬刀『断頭』の振り上げるときに軽くなる魔剣の能力は生きていて、その攻撃動作の緩急がついていてやり辛い。『第六天魔王の大太刀』の能力である『飛ぶ斬撃』と『打ち合わせた攻撃の衝撃を反射する能力』も相手にするには厳しいだろう。紅の大太刀も切り裂いた箇所が紅水晶化するようで気が抜けない。それを初手で受け流していたジンライが異常なのは確かだが、それが成せたのはここまでの経験という下地があってのこと。対して対人戦闘の経験の浅い弓花は上手く対処は出来ていない。今は『深化』によって向上した身体能力で強引にそれを押さえつけている形だ。
(思ったよりも攻撃がキツい。技量的にはそうでもなくとも、武器の数と威力、それに能力が高すぎる)
さらには3メートルの大太刀二本、1.5メートルの紅の大太刀四本、そしてそれぞれの間合いをくぐり抜けても近接での蹴りが待っている。
(それに間合いがバラバラなのに、よくもまあここまで使いこなせるわね)
事実上の八刀流の状態の魔王の攻撃に呆れながらも弓花は戦闘を継続する。弓花の槍術『反鏡』を気にしてかマテリアルシールドを打つことはなくなったが、時折、炎球を投げつけたりするので離れても気が抜けない。
(ストミノなんかも呼んじゃったし魔力も結構使ってるはずだから、15分どころかすでに後何分って感じかな。だったら、この『深化』した状態なら保つハズだから)
化生の巫女のスキル『深化』は発動することで己を変質させている根源の力をさらに解放するものだ。能力発動の条件は消費コストの倍加。神狼化のスキル継続時間が20分から10分に縮まるが、風音の方の継続時間を考えれば問題はない筈だった。
相手の手数は多く、こちらの攻撃はことごとく防がれる。仮に攻撃が届いても、ロクテンくんを破壊するだけの威力は出せないだろう。
締まりがない終わりになりそうだが、このまま時間切れでカタを付ける。そう弓花が考えているが、
『ククク、アハハハハ』
しかしこの状況で、魔王はひとり笑っていた。それはとても嬉しそうな、涙ぐんだ笑い声だった。ソレは未だ余裕があるということなのか。他に切り札があるのだろうか。弓花がそう眉をひそめるが、魔王の笑いは止まらなかった。そして……
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』
風音「あひゃひゃひゃひゃ」
弓花「壊れちゃった!風音が壊れちゃった!!?」




