第二百九十九話 専用装備を見よう
東の竜の里に一度出戻った白き一団は、ひとまずは風音がスザに依頼した装備が完成するまでは里にいることに決めた。
その間はナーガのリハビリもかねて、風音の特訓メニューに竜体化での訓練も追加されたのだが、護剣の四竜たちも参加することで大竜御殿の中庭が怪獣大決戦のような様相となっていた。
とはいえ、やはりスキルも使えない成竜手前の青竜風音では周囲の神竜の領域にいるドラゴンたちには見劣りする。それを覆す……とまではいかないが、竜の姿で天使化という能力の併用により、竜体時に翼が猛禽類のものとなり『イージスシールド』と『暴風の翼』のスキルも使用可能となったため、東青候セイには一矢報いることに成功していた。
またライノクスが最後までジークとの対戦を望んでいたのだが、10日制限もあるし、切り札をあまり大っぴらに使いたくもないので却下した。それにライノクスも公務があるのでいつまでも里にはいられないため、ショボンとしながら首都ディアサウスへと帰って行ったのである。
そして日々は過ぎてゆき、風音たちが里に戻ってから一週間を過ぎた日のこと。東の竜の里ゼーガンの南の封印宮内の工房で、風音考案の新装備がいよいよ完成しようとしていたのである。
◎東の竜の里ゼーガン 南の封印宮 スザの工房
「やースザさん、調子はどーおー?」
『お邪魔します』
「いらっしゃいませカザネ様、タツオ様。鎧のことなら順調ですよ」
工房の中に入った風音とタツオをスザは快く出迎えた。現在スザは風音の依頼の品を作成させるために人化して作業に当たっていた。ドラゴン用の巨大剣などの制作にはドラゴンの姿で行うそうだが、さすがにサイズが違う人の武具をドラゴンの姿で作ることは出来ないようである。
そして、そのスザの後ろには3メートルほどの黒い甲冑が立っていた。それは風音が依頼し、今まさに完成一歩手前までたどり着いた、第六天魔王の鎧をベースにしたシロモノである。
「というか毎日、同じことを聞かれている気もしますが」
「えー、気のせいじゃない?」
スットボケの風音さんである。しかしスザの言うとおり、スザに仕事を依頼してから風音が毎日ここに来ているのも事実である。
単純に興味があるということもあるが、この鎧は必要魔力量や必要スキルの問題もあり完全なカザネ専用装備となっているのである。当然、その調整には風音自身が必要となっていた。
もっともそれも昨日で終了。今は組立に入っている状態である。
「おお、いよいよ人の形になってるねえ」
風音が目の前の3メートルほどの黒光りする甲冑を見ながら呟いた。スザも満足そうに頷いて答える。
「ご依頼通り、正面の胸部のパーツを開くことで中に入れるようになっております。内部は不滅のカーテンを挟み込んだアダマンチウム製のフレームで固定し囲っていますので万が一があっても防御を抜けられる心配はありません」
そのスザの言う胸部は現在は堅く閉じられており、そこが開くようには見えない作りになっていた。これは風音の魔力認証によって開くように設定されており、風音の意志によって開閉されるようになっている。
「以前に比べると黒くなってるねえ?」
「魔力が切れているからでしょうね。装備して魔力をそそぎ込めば、黄金の輝きを持った表面に変わりますよ。まあアダマンチウムで補強した部分は銀色のままですけどね」
そうスザの言うように、浮遊島から持ってきたアダマンチウムは鎧の隙間や装飾的な部分などの様々な場所に使用されていた。防御能力には定評のあるアダマンチウムである。魔物素材の補強用の素材としては十分であった。
『ところで、顔の部分が平たいのはなぜなのでしょうか。確か覇王の仮面というのをはめているのですよね?』
タツオは甲冑の頭部を見ながら尋ねる。風音が浮遊島で手に入れた覇王の仮面もこの鎧を構成する大事なパーツであったはずだが、そのはめこまれているはずの顔の部分がスッポリと鉄板が被せられていた。
「ええ、今も仮面は付いておりますよ。しかしカザネ様が装着なさらない場合にはこの鎧はリビングアーマーとして使うそうですし、通常はバイザーを下ろす形にして隠してあるんです」
「あれはあれで結構貴重品だしね。あまり人目にさらさないほうが問題が起きにくいってことでこうしてるんだよタツオ」
タツオはくわーと鳴いて頷いた。納得したようだ。
「それとリビングアーマー時は一緒にマントと後ろの4本腕は収納するんだよね?」
「ええ、まだ仕込んではおりませんが、その予定で制作しています。今は突き出ている頭部の二本角もリビングアーマー時は収納する仕掛けになっています。仮面の頭髪も非装着時は出てきませんし、鎧の色も黄金から黒に戻ります。マッスルクレイが膨張してサイズもかわりますし、リビングアーマー時とカザネ様が装備しているときでは見た目がまるで違うことになるでしょうね」
「いいねえ。変形時とそれ以外で見た目が切り替わるってのは」
実に中二心をくすぐる仕掛けである。
「それと一応、もうこれは鎧とは呼べませんし私の方では変形前を装甲体『第六天魔王』、変形後を装甲体『阿修羅王』と呼称していますが、何か呼び方を考えますか?」
スザのその言葉に風音の中二マインドが震えた。
「うん。いや格好いいし、そのままで行こう」
「ありがとうございます」
風音の満足げな顔を見て、スザは正解だったなと頷いた。しかし風音はうーんと唸ってから「やっぱり」と訂正する。
「けど名前は一つの方がいいかな。それじゃあ呼び名はロクテンくんにしよっか。通常形態を『第六天魔王』モード、変形後を『阿修羅王』モードと呼ぶことにしよう」
その言葉に「え? ロクテンく……え?」とスザが口にしたがそのまま飲み込んだ。使うのは風音なのだ。本人の望む名前が一番良い……と力なく項垂れ、話の続きを再開する。
「あーはい。それでですね、動力についてはナーガ様より返却された動力球(小)を腰部に仕込みましたので、リビングアーマー時の自律行動が可能です。あの動力ならば不足ということもないでしょう」
それは風音が魔力切れで動かなくなったとしても動力を風音から動力球(小)にすることで動かすことは可能ということである。
「それで武器の方はどうなったの?」
今、目の前にある甲冑には武器が設置されていない。そして武器自体は風音はすでに依頼済みであったので、気になったのである。
「はい。今は別のところで仕上げに入っています。予定通りメインの武器は第六天魔王の大太刀と、カザネ様から提供していただいた3メートルクラスのあの魔剣『断頭』をアダマンチウムによって補強し斬馬刀に仕立て直しました。背中の4本腕についてはオダノブナガの大太刀を二本と同じ形に合わせたアダマンチウム製の大太刀を二本用意しております」
メインの3メートルの大太刀2本に残り4本も1.5メートルはある。普通に考えてまともに振れるわけもないのだが、それは風音のスキル『猿の剛腕』とマッスルクレイによって可能となる予定であった。
「リビングアーマー時は大太刀は背中に収納され飾り翼に、第六天魔王の大太刀は斬馬刀へと収納出来るように仕込みました」
「そりゃ、遊んだねえ」
風音が嬉しそうに言う。斬馬刀『断頭』は鞘ともなり、その形はリビングアーマー時には重斬馬刀へと変化するのだ。
「カザネ様もこういうのお好きでしょう?」
スザのその返しには風音もにんまりと気持ち悪い方の笑顔で返した。無論、好きである。寧ろ大好きだ。
「それと両手、両足はともに言われたとおりにアダマンチウム製の骨格とマッスルクレイの筋肉を仕込んであります。普通についている二本の腕は第六天魔王のものですが、4本の腕についてはオダノブナガ・ブレードのものをアダマンチウムで補強したものを使用していますが、それでよろしいんですよね?」
「うん。アダマンチウム製だけでも良かったんだけど、魔物素材の成長要素と自己修復能力は捨てがたいしね」
オダノブナガ種の素材装備は自己修復能力が備わっているのである。実際にジンライとジークに貫かれた胸の甲殻部分も既に塞がっている。驚異的な能力である。
「それと義手、義足を使うために一時的に本体の手足の機能を遮断する術式は既に仕込み終わっています。テストでは成功しましたし、動作には問題ないと考えていますが、一応あとでテストをお願いします」
「うん、分かったよ。実際そこがネックだったからね。対応出来たようで良かったよ」
義手、義足などには欠損していなければ使用出来ない。それがゼクシアハーツのシステムとしての制限であったのだが、それを魔術によって本体の身体機能を落とすことで風音は可能としていた。実際にはない4本腕も六刀流のスキルがある以上は風音は6本の腕まで操ることができるのだ。
ちなみに風音がこの鎧に入るときには胸部の中で体育座りのような姿勢で固定して納まることとなる。こうなると、もはやパワードスーツを通り越してロボットであると言えるかもしれないが、操作は自分の手足を動かしている感覚で動かすことが出来、体感的には竜体化で竜の体を動かしているのに近い。さらにこの鎧ならば風音は制限なくスキルの使用も可能でもあった。
「しかし、長時間の使用は危険ですよ」
「うん。まあ、全力で15分しか持たないような代物だから問題ないよ」
そう答える風音の言葉通り、長時間の使用はそもそも出来ない仕様であり、それがこの鎧の弱点でもある。性能を高くしすぎた余りに相当に燃費が悪くなっているのだ。しかし、現状の風音の戦闘能力を考えれば、そのくらいやらないと着込んだ状態の方が弱いということにもなりかねないということもあった。
「まあ、これの全力に耐えきれる相手がどれだけいるのかということではありますがね」
スザはそう言って、装甲体ロクテンくんを見た。
これは『紅の聖柩』などを持ち魔力に余裕がある風音だからこそ扱える装備である。並の人間ならば数分と持たないし、そもそもこの鎧を動かすためのスキルを持たない者には動かすことすら不可能。専用装備という響きは風音をたいそう興奮させるものがあった。
「今日中には動かせるかな?」
「はい。夕方には慣らし運転も可能でしょう」
「いやー楽しみだなーー」
そう言う風音の表情はたいそう晴れやかだった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』
風音「いやー夢が形になるって良いものだね」
弓花「1話使って装備の話で終わってる!?」




