第二百九十三話 ネギを刺そう
◎東の竜の里ゼーガン 大竜御殿 正面広場
さて、状況を整理しようか。
風音たちは約一ヶ月ぶりに竜の里へと舞い戻り、大竜御殿前の広場へと小型竜船を止めた。そして、まだかまだかとソワソワしている神竜帝ナーガやアオ、それに護剣の四竜の3名やその他、多くのドラゴン達の前へと姿を見せた。
だが、その集団の中心にはなぜかジンライの息子であるジライドが何とも言えない顔で立っていて、その横ではなぜかハイヴァーン公国のライノクス大公がボロッボロの姿で土下座をして待っていた。いや、そもそも土下座に見えているだけで、実際にはケツに長ネギが突き刺さったことでケツを振り上げて倒れ、目をうつろにして喘いでいるだけのようである。
そういう趣味なのだろうか?
風音はそう考えた。一国の主となれば、その責任は重大。日々のプレッシャーの中で大公の精神も肉体もボロボロとなり、長ネギをケツにブッ刺して人前であえぐという形でしかストレスを解消できなくなってしまったとしたら?
(…………)
瞬時に風音の精神のブレーカーが落ち、己の考えをシャットアウトした。変態の考えることなど分からない。そして呆然としている風音たちにナーガが歩み寄る。
『カザネ、タツオよ。そして白き一団よ。再び出会えたこと嬉しく思うぞ』
「うん、私もだよ旦那様」
風音の言葉と一緒にタツオがくわーと鳴いた。嬉しそうである。他のメンバーも次々と挨拶をするが、その視線は長ネギの植木鉢となっている男に向けられていた。ナーガもそれに気付き、申し訳なさそうに口にする。
『カザネよ。この男も悪い男ではないのだ。しかし我が后を泣かせるような真似をするとは思わなかった。汝も怒り心頭であろうが、これで勘弁してやってはもらえぬだろうか?』
何を勘弁するのだろうか……と風音は思ったが、長ネギがプルプル震えていたので両手で丸を作りオッケーと返す。そして産卵時の亀みたいな顔をしたライノクスはジライドにそのまま運ばれていった。
その後は、他のドラゴンたちと挨拶をして、風音たちは大竜御殿の神竜帝の間へと通されたのである。
◎大竜御殿 神竜帝の間
『古来より人の世では罪人に長ネギを突き立てることで、その者から罪を払えると聞く。それにならい、我もライノクスから罪を払おうとしたのだ。カザネよ。汝の怒りはもっともだが、これでその怒りを収めてくれるな』
いえ、それで払えるのは風邪ぐらいです……と言おうとも思ったが、ナーガが自分のためにしてくれたことだと思えば、風音もケチを付ける気にはならなかった。何がどう間違って民間療法が罪人の罰になったのかは謎であるがプレイヤーが悪ふざけで広めたりでもしたのだろう。
そして以前、風音が出会ったライノクスは皮肉屋のクール系俺様男っぽい感じであったはずだが今となっては長ネギブッ刺し男以外の何者でもなくなっていた。これ以上の追い打ちは危険であった。
ちなみにハイヴァーンでのジライド投獄騒動の際にナーガにメールで風音が愚痴ったのが発端のようである。文章だけのコミュニケーションだと、どの程度の怒りなのか分かり辛いのが難点だなーと風音は遠い目をして反省した。そして風音はひとつお利口になったのである。
「あれ以来、大公様はナーガ様の奥方を泣かせたとの話が広まってな。それはそれは身の縮まる思いをしてきたようなのだ」
とはジライドの言葉。このアカンタレがー!と唾を吐きかけるドラゴンもいたのだとか。ドラゴンの唾なのでビッショリである。そして臭い。
そもそもハイヴァーンの騎竜たちにとって神竜帝ナーガとはほとんど神にも等しい存在。そのナーガを救い、后となった風音は、いわばドラゴン業界のシンデレラストーリーを爆進中のアイドルみたいなものである。それを泣かしたと知れればドラゴン達が怒り心頭になるのも無理のないことであった。
ジライドの時のように風音からの許しを得ないと収まりがつきそうもないようだったので、ライノクスも風音たちが東の竜の里に来ると聞いて急ぎやってきたのだ。もちろん、浮遊島の件もあるが。
「あの日以来、俺の居場所は急速に失われていってな。地獄だったよ」
憔悴したライノクスがそう語る。その背後ではハイヴァーン最強の三騎竜の一体である閃輝竜ゴードが「自業自得だ」と口にしていた。ジライドの愛竜である飛雷竜モルドも「せやな」と頷く。どうやら彼らにしてもライノクスの味方ではないようだ。
『汝は子供の頃からそういうところがあった。政治のために多少のことならば目を瞑る愚かさ。少しは身に染みたであろう?』
「子供の頃からとか言うな。大体、それ言ったらあんたのほうこそ、良い歳してこんな子供を娶って恥ずかしくないのか」
そう言ってライノクスは風音を指さしてナーガを睨む。風音は少しムスッとしたが、ナーガはそんなライノクスを一笑に付した。
『恥ずかしいわけがなかろう。我は我が后を、カザネを愛しておる。誰に対してでも胸を張って言えるわ。戯けが』
「旦那様、私も大好きだよー」
『父上ー、私もですー』
風音とタツオの声にナーガの目元が緩む。完全にやられてる目であった。
「このロリコンめ」
『愛する者が多少幼い姿だからと貶める。小さい男よな。これだからお前はダメなのだ。妻も娶りもせず未だに童貞。しかも90間近で先に処女喪失してしまうのだ』
ライノクスが噴いた。
「ライノクス、あなた」
ルイーズが信じられないという目で見ている。ライノクスはルイーズの孫。そして30歳で魔法使いになれるのであれば、目の前の孫はもうじきトリプルウィザードになってしまう逸材ということである。何故槍使いなのだろうか。さらには意味の通じた全員から哀れみの視線が注がれて、ライノクスは涙目となっていた。忠臣であるはずのジライドすら「マジっすか?」という目で見ているのではもはや彼に救いはない。
「おバア様、これはですね」
慌てたライノクスが言い訳をしようとするのだが、ルイーズが意を決したようにライノクスの言葉を遮り口を開いた。
「ライノクス、お婆ちゃんで筆下ろしする?」
「止めてください。父上に殺されます!?」
ちなみにライノクスの父親であるところの前大公はルイーズの息子である。そして重度のマザコンでもあった。筆下ろししたら長ネギ追加では済まなくなる。
「それにしてもまさか童貞とは。帝政であれば童帝と言われてしまうところであったな。危なかった」
フォローに回ろうと呟いたジンライのなんら慰めになってない言葉が、親友であるライノクスの心をさらに抉る。そもそもの話だがライノクスは本来シンディを娶るつもりだったのだ。
「私、ライくんのお嫁さんになるー」
目を閉じればそんな幼き頃の思い出がライノクスの脳裏に再生される。そのシンディが目の前の男にかっさらわれたのがケチのつきはじめだったのだろう。長命種だからという理由で本格的に后をとろうとしなかったら、そのまま続いてしまったというのもある。或いはジンライが寿命で亡くなってから……という淡い期待もあったのかもしれない。
ともあれ、そうした事情もあり、下手に愛人も囲えずこの様である。そして童貞非処女の長ネギケツブッ刺し男という罪の十字架を彼は背負わざるを得なかった。運命が彼を弄んだのだ。
まあ、どうでも良い話ではあるが。
「では、風音。浮遊島についてお聞かせ願いますか」
ゴホンっと咳払いをしたアオがそう言って風音に促した。そもそも彼らがここに集まったのはネギを刺したり童貞を拗らせた話を聞くためではないのだ。
そして話はようやく正しい流れへと修正される。大体の事情はここにいる全員が共通認識として持ってはいたが、ともあれ、まずは白き一団のリーダーの口からことの次第が話され始めたのであった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』
風音「たった一話で大公様が徹底的にディスられた件について」
弓花「女の涙を軽んじた罰か」




