第二百八十七話 新世界を垣間見よう
くわー。
そう声をあげていたのはタツオであった。青い空の下でひとりタツオはくわーと鳴いていた。
現在、タツオは母である風音と離れてエンジェリートの街にいる。
タツオの主な食事は風音の竜気そのものであるため、長期間……というよりも3日程度でも離れると本来は危険である。だが弓花の持っている竜結の腕輪に風音が竜気を込めて、お弁当としてタツオに持たせていたので数日間ならばどうにかなるようだった。また造船所に着いた時点で風音は一度竜体化で竜になりエンジェリートの街までタツオと弓花に会いに来ていたりもした。空を飛べばひとっ飛びなのだ。
くわー。
そしてタツオは母親の造ってくれた黒竜偽装用の黒炎の鎧を身に纏って屋根の上をゴロゴロしている。会えないことは寂しいが母親の温もりを常に身に纏っているも同然だと考えればタツオは満足出来た。魔力には意志が宿る。黒炎の鎧はタツオを護ろうという風音の意志が込められていた。
なお、黒炎装備維持の魔力に関してはヴォード遺跡で直樹が倒した雷飛竜の『竜の心臓』を供給源としているので心配はないどころか、その強度もほぼマックス状態で具現化し続けているようである。
くわー。
ともあれ、タツオはエンジェリートの街にある一軒家の屋根の上でじーっと森の方を眺めていた。さきほど風音がこちらに向かっていると弓花に連絡があった為である。
なのでタツオは屋根の上で風音が来るのを今か今かと待っていた。そして森を見ながらゴロンと転がる。何故転がるだけでこうも楽しいのか。タツオはその謎に魅せられる。ゴロゴロと転がっていく。回転数が上昇していく。世界が回り続ける。そしてゴロゴロゴロゴロと転がり続け、気が付けば屋根からグルングルンと回転しながらタツオは飛び出していった。
くわーくわー。
そして、タツオの声が響き渡る。タツオは焦っていた。それはそうであろう。ヒマなのでちょっとゴロゴロと転がっていたら勢い余って屋根を飛び越え宙を舞ってしまったのだ。
アイキャンフライである。タツオは今、空を舞っている。その身をグルングルンと回転させながら舞っているのだ。
(めーがーまーわーるーーーー)
そしてタツオは気付いてしまう。なんということだろう。空と街が何度も何度も入れ替わり見えている。世界に一体なにが起こっているのか。分からない。そして自分はこれからどうなってしまうのか。分からない。タツオには何も分からない。だがこのまま落ちれば地面に激突してしまう。
(まーわーるーーーー)
しかし今のタツオは世界がすさまじい速度で回転していることに驚愕していて、落下などという些事にかまけている暇はなかった。タツオは今、自分が体験している不思議体験を風音にどう伝えるべきか、必死に考えていた。
(まーわーるーーーー)
そして世界の深淵をその身に感じながら、タツオはそのまま地面へと、
「危ないって!?」
激突する前に、弓花がタツオをキャッチした。タツオがくわーと鳴きながら弓花を見る。空と街の狭間が回転する世界の中で、気がつけば弓花が目の前にいたのである。空と街を合一させることで弓花が生まれるという、なんとも不思議な体験だった。くわーと鳴かざるを得ない。
「いくら、鎧に包まれてるからって危ないわよタツオ」
なんだかよく分からないという顔をしているタツオに弓花がため息混じりにそう注意をする。タツオの身に纏っているのは風音の愛情100パーセントの鎧である。たかだか屋根の上から落ちようとタツオが怪我をするとも弓花には思えなかったが、打ち所によってはムチウチぐらいにはなったかもしれない。
だがタツオはそんなことはどうでもいいとばかりに弓花に自らの不思議体験の神髄を興奮気味に話すのである。
『世界の真理を見ましたユミカ』
「はあ? なんなのそれは?」
『それはぐるんぐるんです』
そしてくわーと鳴いた。その言葉に弓花は首を傾げたが、子供の言うことである。それは良かったねえと弓花がいうとタツオはくわーと鳴いて頷いた。良かったらしい。
「そんじゃあ、もう風音が来るみたいだから、家の中で待ってようね」
『あ、私は屋根の上で待ってますのでお構いなく』
そう言って飛び立とうとするタツオをガシッと掴んで弓花は家へと戻っていった。また屋根からダイブされても困るのである。
ちなみに一緒に街に駐留している鳥人族が、青竜の状態の風音の到来にかなり本気でビビっていたのは、まあ、当然と言えば当然の反応ではあった。
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「タツオと弓花が仲良くなりすぎてて心配なんだよ」
「タツオくんが成人する頃には、弓花はおバアちゃんだから大丈夫よ」
エンジェリートの街から戻ってきてからの風音の言葉にルイーズがそう返した。
「私、タツオの成人まで生きられるかなあ」
それは切実な悩みではある。
「この職業やってれば、いつどうなるって分からないものねえ」
「いやそうじゃなくて。寿命的な問題で」
風音の言葉にルイーズが「うーん」と唸る。
「んー、見た感じ、子供の頃から風音の成長は止まってるみたいだし、もしかしたら成長が止まって固定されてるかも」
「いや、成長するからね。ルイーズさんみたいにバイーンバイーンになるからね」
「それは無理よ」
死刑宣告であった。ぐあーという顔を風音がするが、ルイーズは無視する。
「というか、ジンライくんの例もある通り、若返りの薬も存在してない訳じゃないからねえ。カザネならそういうのを手に入れることも可能だろうし、単純に寿命を伸ばす方法もあるわよ。まあそういうスキルだってあるかもしれないしね」
「あー、スキルでどうにかするって手もあるのかー」
「そもそも竜体化のスキルの影響ですでにある程度伸びてるかもしれないわよ」
なるほどと風音が頷いた。確かに現在あるスキルの影響で、寿命などといったものも変動している可能性はある。それが実感として分かるのはずいぶんと後になりそうだが。
「ちょっと、おふたりさん。さっさと片付けないと夜になっちまうぜ」
そんな会話を楽しんでいるふたりに野暮な声がかかる。それはライルの声であったが、言ってる内容は至極もっともでもあった。
今は風音たちは小型竜船を見つけてから二日目の昼過ぎである。
最初の区画では大量のアダマンスカルアシュラ素材とマッスルクレイを手に入れた風音達であったが、肝心の動力球はすべて抜き取られており、目的は達成出来なかった。
また最初の竜船で見つけた動力球(小)は元々風音達が発見した確認した小型竜船のものだったようである。小型竜船に動力球(小)をはめ込んだ時にたまたま擦り跡が一致したのが確認出来たのだ。
推測にしかならないが、何者かが動力球を奪われた竜船を動かそうとして、たまたま見逃されていた小型竜船の動力球(小)を使おうとして、結局使えなくて放置したのではないか……と考えたのだが、推測の域でしかない。なにしろ数百年も人の立ち入っていない場所だ。遠い昔のことなど風音達に分かるはずもない。
そして、その翌日は一旦休息とし風音は一度エンジェリートの街に戻った。そしてさらにその翌日が今である。
二番目の区画内に現れたアダマンスカルアシュラの数は27体。最初の区画に出現したのと併せて計73体分のアダマンスカルアシュラ素材と438本のアダマンチウム製武器が手に入り、現在はその素材の回収中。
なお、今回は安全優先でコアはすべて破壊したので上級スケルトンコアはなしである。
その後、風音達はまた竜船の探索を行ったが内部には予備用であろうマッスルクレイがあった以外はやはりもぬけの殻であった。
その成果ゼロの状況にはさすがに意気消沈する風音達であったが、しかしその翌日に最後の区画に入ってその原因を発見する。
そこにあったのは大小の動力球と無数の白骨たち。そしてすでに機能停止している機械の竜と、その竜の眉間に槍を突き刺したまま死んだと見られる竜騎士の骸骨であった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』
風音「タツオー、もーすぐ戻るから待っててー」
弓花「タツオなら今私の横で寝てるよ」
風音「なんだとー!」




