第二百八十三話 手を入れよう
一度エンジェリートの街に戻り、そこからイスカニルの森を通って、その先にあるドラゴニル造船所で必要数の動力石を確保。そしてヴォード遺跡へ引き返しバットラー13号へと引き渡す……というのが昨晩、風音が開いたパーティ会議によって決定した内容であった。
もっともヴォード遺跡の探索を終えれば、その次はイスカニルの森を抜けて造船所へは行く予定であったので、当初の予定との違いはヴォード遺跡探索が早く完了したというぐらいだろう。
元々、風音たちはヴォード遺跡探索に掛かる時間を3日から一週間程度と考えていた。それがバットラー13号より与えられた地図により最短で目的のグリモアフィールドまでたどり着けたために予定が早まったのである。
また当初考えていたイスカニルの森のドラゴンイーター討伐だが、その総数が想定よりも遙かに多いことがモーフィアとの会話で判明している。なので、見つかった獲物だけを狩る方向に対応を修正していた。全滅させることなどとてもではないが無理そうだったのである。
なお、ドラゴンイーターに取り込まれているのはそのほとんどが飛竜タイプばかりとのこと。ドラゴンイーター化すると飛べなくなるので、鱗が薄く防御力の低い飛竜タイプはドラゴンイーターとしては比較的容易な相手なのだそうだ。
そうして目的も決まった一行はヴォード遺跡からエンジェリートの街へと一旦戻ってそのまま街で一泊した。また、その際にすでにエンジェリートの街に来ていた鳥人族の面々とも会っていた。
もっともその際に島が落ちる可能性があることについては話に出すことはなかった。モーフィアはまだ村にいるらしく、非常に重要かつデリケートな問題であるため誰かに伝言を頼むのは危険だとのメフィルスの判断があったためである。
そしてまだ村に残っているというモーフィア宛にドラゴニル造船所にいくことだけを伝言すると風音たちはイスカニルの森に向かうこととなった。
◎浮遊島 イスカニルの森
「森を焼き払うって訳にもいかないしなあ。この周辺の飛竜はドラゴンイーターの匂いへの耐性がある程度あるらしいから、そこらへんを切り口に旦那様に話してみようか」
森の入り口までたどり着いた風音がそんなことを口にしていた。そしてそんな風音の後ろでハァハァという息遣いが聞こえてくる。
「ねえ、弓花……」
「なぁに風音?」
「おっぱい揉むの止めてくれる?」
そう弓花は風音の胸を鷲掴みにしていた。具体的に言えば、風音の後ろにいる弓花が手ブラっぽい感じで掴むように風音の鎧の隙間に手を入れていた。
「ないよ、おっぱい?」
「いやちょっとはあるし。後、ないならないで揉まないでいいよね?」
「でも幸せな気分になれるし!」
そう言って後ろで目がハートマークの弓花が風音に抱きついていた。首筋にキスをされて風音が(うぎゃー)という顔をしている。後、後ろで見ている直樹とティアラが何とも言えない顔をしていた。主に羨ましくて。
そんな百合展開というか、完全にズーレーとなった弓花が出来上がってるのには理由があった。それはつまりドラゴンイーター対策の風音のスキル『ドラゴンフェロモン』のせいである。
そもそもの発端は以前に倒したドラゴンイーターの素材である竜喰木。これを身につけていればドラゴンイーターに同族と認識されるために寄生されないと風音は聞いていた。そしてそれ自体は間違いではないのだが、実際にはあくまで寄生されないだけで竜種に連なる存在がドラゴンイーターの匂いに惹かれてしまうことは防げないようなのである。風音は前日のアオとのメールのやり取りで専用のマスクが必要であることを知ったのである。完全な確認漏れだった。
なので、代案として風音がドラゴンフェロモンで匂いを出すことでドラゴンイーターではなく風音に意識を向けさせようとしたのだが、やってみればこの有様である。風音も言い出しっぺではあるのでここまで我慢してはいたのだが、弓花の様子が劇的に変化していた。
「うふーふ、風音ー、風音ー。かわいーかわいー」
「ちょ、止め。耳とか。嫌だったら。下はダメ、わーーズボンに手を入れるなーーー!!」
蹴られた。
「は、私は何を!?」
「弓花は今回待機! 決定!!」
スキルが解かれて正気に戻された弓花は、顔を真っ赤にして涙目でズボンを引き上げているリーダーに待機勧告を出されていた。それは有無をいわさぬリーダー命令であった。
ちなみにタツオは母親への愛情度が元々マックスなのであまり変わらないようだったが、匂いにやられて体調そのものがあまりよろしくない感じだったので併せてヒッポーくんクリスに乗せてエンジェリートの街で待機させることとなった。
なお、ズボンが降ろされたことで少しだけパンツが見えて、直樹がグッと拳を握って歓喜していたことには誰も気づかなかった。幸いなことに。
風音も女子の間のマスコット的扱いならば中高と続いて受けてきた実績はあるのだが、モノホンのズーレーはダメなのだ。吉永さんみたいなことは二度とごめんなのである。なお、弓花は「アルコールの入った吉永さんみたいになってたよ」と風音に言われて酷く意気消沈していた。さすがの弓花も吉永さんみたいになっていたとは思わなかったのだ。あまりにもショックで顔が真っ青であった。
そんなわけでロクでもないことは忘れて風音たちはイスカニルの森へと入っていった。
ちなみにジンライはユッコネエに乗っている。息を合わせるためとジンライは主張していたが、実際には一緒にいたいだけである。ジンライは嫉妬を覚えることで猫スキーのランクをまた一つ上げていたのだ。つまり、より厄介になったということだった。
また鳥人族はドラゴンイーターと出会わぬようにとイスカニルの森にはほとんど立ち入らないらしい。そのため造船所までの道は当の昔に廃れ、道なき道が続いており馬車は出さずヒポ丸くんとヒッポーくんだけで進んでいくこととなった。
そして森の中にいるドラゴンイーターだが、
「あーそうそう。それ、ジンライさん、そこでオッケーだよ」
風音の指示に従ってジンライが、目の前の木々の下、少し盛り上がっている土塊に目を向ける。それはよくよく見れば木々と土塊と木の根っこに偽装した飛竜タイプのドラゴンイーターであった。
ジンライはスッと一対の竜牙槍を持ち上げると力を込めて一気に槍で突いた。
それは『心臓狩り』と言われる魔物のコアを切り裂くために考案したジンライの奥義である。その技により、ドラゴンイーターのコアがザクッと周辺部分と切り裂かれて転げ落ちる。
「……終わりだ」
ジンライがそうつぶやく。
ドラゴンイーターは脳を持たず意志系統をコアを介して行う魔物である。活性状態であるときならばともかく唐突にコアを分離させられては動くことなど出来るはずもなく、寄生されていた飛竜もすでに意識はないため、とても静かにその命を閉じた。
「ふん。これでは狩りとは言えんな」
「つってもジンライさんの腕がないと、一発でしとめられないしねえ」
わずかな間に討伐を終え、素材取りをしながらぼやくジンライに風音がそう返した。ドラゴンイーターが動かなかった理由は風音のドラゴンフェロモンである。風音が同族の匂いを出すことで、ドラゴンイーターは風音たちを仲間だと認識して木々への擬態も解かず反応もしなかったのである。
それをジンライが一撃でコアを切り抜いて行動不能としたため、まったく攻撃を受けずに狩りが成立していた。ドラゴンイーターがドラゴンの天敵ならば、今の風音はドラゴンイーターにとっての天敵であると言えた。
もっともこれは一撃でドラゴンイーターを仕留められるジンライがいてこそのもの。そうでなければ攻撃を受けたドラゴンイーターは即時反撃に出ていたはずである。風音もメガビームなどの大技を使えば一撃で倒せるがジンライのように、スッとコアだけを切り抜くような真似は出来ない。
そして想定以上の入れ食い状態に風音たちは森に入った日と翌日、さらにその次の日もドラゴンイーター狩りを行い、計37体のドラゴンイーターを討伐することに成功した。
かかったのは倒す時間でも探す時間でもなく素材回収の時間である。寄生されていたのはそのほとんどが飛竜で、コアも有機質のただのコアで死亡時には動かなくなっていった。だが通常のドラゴンも4体ほど寄生されており、ヴォード遺跡前で直樹たちが倒した雷飛竜のものも含め、この浮遊島で計5つの竜の心臓が手に入っていた。ふたつは量産型タツヨシくんへの動力に回す予定だが、残りの用途は未定である。
また高級食材であるドラゴンイーターコアもそのまま37つ手に入った。その他素材もあわせると相当な量になり、そろそろ不思議な倉庫も満杯である。ドラゴンイーターコアはドラゴンの好物でもあるので、旦那様へのお土産にもいいかなーと風音は考えていたが、売ればひと財産であるので仲間との相談が必要だった。
しかし、今回の成果は如何にこの地にドラゴンイーターが根付いているかの証明でもあった。移動時に出会っただけでこれだけの数である。浮遊島からドラゴンイーターを排斥するということは相当に難しいようだった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』
弓花「あー、もう死にたい……」
風音「でも弓花って時々百合フラグたてるよね。あざといよね。百合妖怪チラチラさんが後ろにいるのかな?」
弓花「いないわよ!」




