第二百八十話 全力を尽くそう
「チィッ」
直樹は舌打ちをした。
すでにタツオによって飛竜の一体は倒され、そしてライルの方ももうじきかすでに片が付いている頃合いだろう。如何に竜種といえど片腕を落とされ、空も飛べぬ飛竜ならば今のライルが負けるとは直樹は思ってはいない。
だが直樹の方は、と言えばひとり一体というノルマを達成出来るか否かといえば難しいと言わざるを得なかった。
今、直樹の目の前にいる飛竜はさきほどとは姿形が違っていた。後ろに向かって延びていた二本角は捻り曲がって正面を向いており、竜種にしては薄いはずの鱗は厚みを増し、その身体の色は黄色がかり、僅かながら放電していた。
そして変化した飛竜がブレスを吐く。その吐き出されるブレスは帯電した霧状のもの。それを直樹は不滅のマントを纏いながら右へと避ける。僅かにかすめた左足が一瞬バチッと感電する。そのブレスは雷を帯びたブレスだった。
そう、目の前の飛竜は進化していた。さらに一つ上の存在『雷飛竜』へと。
「ついてないな。本当に」
そう言いながら直樹は走り回っている。止まっていては容易に殺されてしまうほどに相手の機動力が上がっている。
直樹はすでに魔剣を遠隔操作する『繰者の魔剣』は鞘にしまって、今は竜炎の魔剣『牙炎』と水晶竜の魔剣『虹角』の二刀流で攻めていた。
『繰者の魔剣』、銘を『エクス』というその魔剣は直樹のユニークスキル『魔剣の繰者』とは相性のよい剣だ。そもそも直樹のユニークスキルは誰も使いこなせなかった繰者の魔剣『エクス』を使いこなしたことから発生したものであったし、ここまでの3年間に直樹の命を何度となく助けた魔剣でもある。だが、フォローもなく、ただひとりで強固な鱗に包まれた敵と戦うには遠隔操作だけでは火力不足と言わざるを得ない。
とはいえ直樹も近接に特化した二刀流で挑んではいるが雷飛竜への決定打は未だ与えられてはいない。風音との特訓でようやく形になってきた二刀流(風音に言わせれば口伝オダノブナガ流という)は確かに直樹の実力を一段階引き上げ、事実実戦に通用するほどにまで成長している。何しろ姿形こそ魔王カザネリアンだが、あの姉からのマンツーマンでの指導である。そんな機会は以前にしてくれたマンツーマンでのゲーム指導以来かもしれない。サクランボをガン見したあの時以来かもしれないのだ。
だからこそ直樹は目の前の難敵を前にして死なずに済んでいるとも言える。しかし状況は不利であった。
『グォォオオ!!』
その叫びとともに直樹とともに戦っているタツヨシくん・ドラグーンが雷飛竜のテイルアタックで吹き飛ぶ。飛竜であった先ほどまでは耐えられていたのだが、突然の進化により目の前の魔物の能力は予想以上に上昇しているのだ。
これも珍しいことではあるが、危機意識を持った魔物が唐突に進化することは冒険者として生きていると時折見る現象ではあるのだ。
そして急速な進化による体内魔力の急激な消費により圧倒的飢餓感が魔物を支配する。それによって肉体だけではなく、その精神性においても凶暴さを増すのだ。それは戦った相手を食らわなければ進化した後すぐにそのまま自滅という魔物にとっても背水の陣である現象だが、しかしそれが今は直樹を追いつめる。
「つぇいっ!!」
直樹は一歩踏み込み、剣を振るう。竜炎の魔剣『牙炎』の炎刃『フレイムザッパー』、水晶竜の魔剣『虹角』の虹刃『セブンスレイ・エッジ』。2メートルにも届くふたつの魔力の刃が雷飛竜を切り裂く。
攻撃は通じている。だが、決定打にはならない。そして、雷飛竜の翼腕による雷の爪が厄介だ。
振り抜いた一瞬を狙ってその爪は直樹を襲う。
(速いッ!?)
あまりの速度に交わしきれず直樹は両剣を交差させて身を守るが、体格に差があり過ぎる。受け止めるだけの力もない。故にそのまま一気に弾き飛ばされた。
「くっ、うぉおお!?」
直樹の体が宙を舞った。そのまま3メートルは飛ばされるが、竜鱗の鎧の力でダメージは最小にまで抑えられている。不滅のマントにより爪の付与効果の雷撃も散らせていた。直樹はそのまま大地に落ちて、何度か転げはしたもののどうにか崩れ落ちずに立ち上がって体勢を整える。
そして雷飛竜の攻撃に備えようとするが正面を見れば、タツヨシくん・ドラグーンとノーマルの2体が特攻しこちらへ来ようとする雷飛竜を防いでいた。
「ノーマル?」
「よう親友。苦戦してるみてえじゃねか」
突然の背後からの言葉に、直樹の顔から安堵の笑みが浮かぶ。
見ずとも分かる。彼の親友が後ろでイタズラ小僧のような笑みを浮かべているのは。
「苦戦っつっても、ちょっとだけな」
ばつが悪そうに答える直樹にライルが苦笑する。
「相変わらず負けず嫌いだな。つーかもう飛竜じゃねえじゃん」
「途中で進化しやがったんだよ。属性は雷系統だ。堅さも速さも力も前よりもかなり高い」
ライルの問いに直樹が答える。
「みたいだな」
目の前でノーマルとドラグーンが弾き飛ばされるのをみてライルが引きつった顔でそう返した。
「来るぞ!」
「あーもう、やってやるよー!」
直樹とライルが走り出す。そして4対1の戦闘は激化する。
雷飛竜の攻撃は素早く、重い。直樹とライルも幾度となく攻撃を受け、飛ばされ、転げる。その装備が竜鱗の鎧でなければとっくの昔に死んでいたに違いない。
また直撃こそなかったものの、雷のブレスも厄介だった。不滅のマントがなければ、手足の二三本は使い物にならなくなっていたはずだ。そして機動力が削がれれば泥沼。即死亡であろう。
装備が彼らを救った。ソレは間違いない。だがそれだけではない。
直樹の双剣は幾度となく雷飛竜を切り裂き、ライルの竜牙槍も雷飛竜の体を貫いた。
タツヨシくんドラグーンとノーマルも幾度となく特攻し弾かれることも多いが、その両足に何度も傷を与え、動きを封じることに成功していた。
彼らは繰り返し繰り返し、手傷を負わせては、吹き飛ばされ、地を這わされ、その度に立ち上がる。だが延々と続く戦闘も終わりはある。
「ウォオオオオ!!」
ライルの槍が再度襲ってきた右の翼腕を突き立てる。既に雷飛竜も疲労の色が強い。その爪の攻撃も最初の頃に比べれば精彩を欠いていた。故にライルもここぞとばかりに貫き、そして雷飛竜が叫び声をあげた。
そもそもドラゴンの驚異とは基本的には、巨体から繰り出される顎、爪、尾の一撃とブレスなどの『攻撃力』、魔物の中でも随一の堅さを誇る竜の鱗の『防御力』、そして何度戦っても尽きぬ『持久力』の高さ……の3つにある。
しかし進化することで雷飛竜は体内の魔力を喰らい、その『持久力』を手放している。『防御力』も直樹たちの武器は竜の鱗を通す武器だ。また『攻撃力』も直樹たちの身を護る黒岩竜の鱗によって阻まれている。
だからこそ直樹たちはまだ生きていて、こうしてようやくの勝機を掴んだ。
「やれ、直樹ッ」
「『セブンスレイ』!!」
動きを止めた雷飛竜に直樹の水晶竜の剣から七色の光が放射される。
風音のオーダーで射程距離よりも威力上昇に特化されたクリスタルドラゴン系統の最終光撃。範囲を限定することで人間の魔力でもオリジナルに近い威力となったソレを直樹は雷飛竜へと解き放った。
それには雷飛竜も反射的に体を反らすが、だがライルの突き立つ右の翼腕の反応が鈍かった。結果として右肩部が吹き飛ばされる。
『ギュギャアアアアア!!』
咆哮する雷飛竜。
途端に暴れ出し、周囲に尻尾を振り回すが所詮はでたらめに振り回しただけの最後の足掻き。そしてそれをライルは見逃さない。すでに千切れた右の翼腕から槍を抜いたライルは一直線に特攻し、狙いも定まっていない尾を避け、その内側へと入り込む。
(祖父さんの間合いに入るよりも数倍楽だぜ、こりゃあ)
そして心の中でそう悪態をつきながら、無防備な雷飛竜の顎に向かってバーンズ流槍術『振』を放った。それは対甲殻系魔物用の振動破壊技。だが今のライルは破壊を目的としては放っていない。それは振動により雷飛竜の脳を揺らし、行動不能とするためのもの。最後のトドメのための布石。そしてライルは叫んだ。
「トドメだナオキッ!!」
「ウォォオオ!!!」
ライルの言葉に反応し直樹が叫び、両手の剣に力を込める。それは直樹のユニークスキル『魔剣の繰者』から派生したスキル『リミットブレイク』。100パーセントを超えた威力の光と炎が剣の刀身を走り、意識を奪われ無防備な姿を晒す雷飛竜へとバツの字に切り裂く。
それこそが口伝オダノブナガ流・バツの字斬り(風音命名)。ふたつの魔剣を全力で振るった最大攻撃であった。
そして、その一撃を喰った雷飛竜は叫び声を上げ、その場で血を吐きながら崩れ落ちた。そのまま二度と動くことはなかったのである。
……と、風音が聞いたのはそこまでである。
「それで三人とも無事なんだね」
『はい。今はタツオくんと三人で素材取りを頑張っています』
今、風音たちはヴォード遺跡の中にいた。そして外にいるティアラからのかなり際どい報告を受けて冷や汗をかいていた。
飛竜3体。さらには一体は進化をしたというのだから、かなり危険な状況だったのだろう。だが直樹たちはそれを見事撃退した。
実のところ、ティアラもトランス状態に近い形で召喚体の操作に集中していたために外の状況に気付かず、終わった後に事後報告を受けた身であった。正直、聞いたときにはティアラも肝が冷えたモノだ。
そうして息子と弟の活躍に喜びよりも安堵する風音であったが、ともあれ現在は無事である模様。周囲には最大限注意するようにとの忠告と、雷飛竜の喉袋の回収を風音はティアラに伝言をお願いする。
『喉袋ですの?』
「弓花と同じ雷属性の竜の喉袋だからね。面白いモノが出来るかもしれない」
首を傾げる炎の有翼騎士に風音はにやりと笑うと正面を向いた。そして目の前にいる相手に謝罪する。
「ごめんね。ちょっと所用があって」
『構イマセン。私ニトッテハコウシタ待ツトイウ行為モ久方ブリノこみゅにけーしょん。今私ハ非常ニ感動シテオリマス』
そういってそれはガチャンガチャーンと風音に対して手を振った。
その姿に風音と弓花を除く全員が奇っ怪なものを見るような視線を向けていた。それはあえていうならばタツヨシくんに近いものだろうかとジンライは考えたが、それはそれで間違ってはいないだろう。
目の前のソレはどこからどう見てもロボットそのものであったのだから。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』
風音「ワレワレハ未来人ダ。旧世界ノ人類タチヨ。ヒレ伏フスガ良イ」
弓花「楽しい?」
風音「んーそこそこ?」




