第二百七十五話 遺跡へ向かおう
◎エンジェリートの街 廃墟
「ほらほら、耳が伸びた」
「おお、少しエルフっぽい」
弓花と直樹の会話である。
洞窟から出た弓花はスペリオル化した自分のお披露目をしていた。まあ耳しか変わってないのでほとんど違いはないのだが。なので直樹が付き合いで反応しているだけで、他の仲間たちは何が起きているのかがそもそも分かってはいなかったようである。
突然種族変わりましたとか言われても、ティアラたちには意味が分からない。寧ろ「実は仙族でした」ということを隠してたというのならば納得がいくのだがそういうことでもないらしいので「そんなこと言われても」という感じであった。
なお、本場モノのエルフであるルイーズの言葉によれば仙族は東方に流れた同族の末裔であるらしい。仙術という独自の術や、霞を食べて生きられるという話もあるようだが、仙術は教えられる者がいないし霞もそもそもどうやって食べるかも分からないので、結局は種族としての効果は寿命アップとステータス微上昇というところである。
「直樹の時はもっとこうパーッとピンチになって死にかけたときの起死回生で一発出しちゃってよね。こうグワーッと化け物っぽくなった感じで『お、おで、もうにんげんじゃない』的なことを言ってくれたらお姉ちゃん、感動的なことを言うから」
「……やだよ」
姉の言葉に直樹がイヤそう顔をする。直樹は姉が好きだが絶対服従ではないのだ。イヤなものはイヤである。
ともあれ、予定以上にスムーズに魔生石をこの地からなくすことには成功した。すでに魔素の流れが弱まっているのを風音も臭いで感じているし、このままいけば街から魔物が出没しなくなるの時間の問題だろうと思われた。
もっとも中心である魔生石を外して散らしただけの一時的処置ではある。なので、その後の対応はモーフィアたち鳥人族の仕事となるのだ。
そしてこの後どうするかだが、今はまだ昼を越えてそれほど経ってはいない頃合いである。なのでまずは昼食を取りつつ、今後の方針を決めようということになり、風音は街の離れでコテージを出した。
◎エンジェリートの街 近辺 風音コテージ
「どこにでも、出せるんだな」
驚きと言うよりは呆れてているといった顔のモーフィアがそう口にした。
モーフィアにとって今日という日は生まれて34年間生きた中でもとびきり驚きに満ちた日であった。そんなモーフィアの視線に晒された風音コテージは土台さえ作れればどこにでもアイテムボックスの大型収納スペースから取り出して設置できる。ここ最近はあまり目立ったことはしていないが、屋上をオシャレなテーブル一式や噴水などを設置したりと休憩スペースとして使えるように改装していた。それはルイーズなどには好評のようであった。
そして昼食の準備も整い、晴れているしせっかくなのでリビングではなく屋上で食事をすることとなったのである。
「とりあえず、エンジェリートの街の魔生石は取り除いたけど、でも、もうしばらくは魔物って出るんだよね?」
用意されたスモークチキンサンドを食べ終わると風音が尋ねた。対して質問されたルイーズがそれにはイエスと答える。
「そうねえ。まあ後2〜3日で一旦は魔素は消失するとは思うわよ」
魔生石とは魔素という、体内の魔力であるところの『オド』に対しての外界に存在する魔力『マナ』が高密度化したものが物質化したものの結晶体である。それは魔素の流れのポインターとして機能していて、それが外されると魔素の流れが崩れるそうである。
「魔生石が消えると他の流れに魔素が誘導されてしばらくは魔物は発生しなくなるのよね。けど何ヶ月か過ぎると、正しい流れにまた戻るから街への魔素の流れは戻ってくると思うわよ。まあ700年も経ってるんだし、流れが変わって出てこなくなる可能性もあるかもだけど」
そうルイーズは説明を締めくくった。
「それについては我々でなんとかするので、大丈夫だ。これ以上、客人の手を煩わせはしない」
ルイーズの言葉にモーフィアがそう強く口にした。すでに十分すぎるほどのことをモーフィアを含む鳥人族は、白き一団より施された立場である。
「そして改めて感謝申し上げる。あなた方は我々鳥人族の地を奪還してくれた恩人だ」
モーフィアがこの場で頭を下げた。700年ぶりの街の奪還である。かなり短時間のスピード解決ではあったが、それは鳥人族には大きな意味を持つ出来事である。頭を下げるだけで良い問題ではないのはモーフィアは重々承知だが、だが今は感謝の意を伝えることが重要であった。
そのモーフィアの行動に対し大人組はその意味を理解していたが、子供組は「いやー」とか「大したことはー」とか言って縮こまった。
実際、風音も自分自身に特殊な能力があったからこそ出来たことだし、思ったよりもスムーズにいったのであまり力を使ったという気もない。だが、モーフィアとしては魔王の懐の深さを知り、逆に感動しているようだった。そしてモーフィアは何かしら、ちゃんとした形でお礼をすると言って再度頭を下げた。
そして今後の予定だが、風音たちもこのコテージがあれば食と住には困らないし、村に戻る理由もない。なのでこのまま天帝の塔のお膝元にあったヴォード遺跡に向かうことに決めた。
またモーフィアはこのエンジェリートの街の対応を他の村と協議する必要があるとのことで、ここで村に戻るとのことである。それと竜弓の扱いを教えてもらうためにエミリィも一旦パーティを離脱することとなった。
モーフィアの話によれば、この島に散らばっている鳥人族の村から戦士を募り、このエンジェリートの街に駐留することになるだろうということである。いずれは鳥人族がまた街に暮らすように進めていくそうだが、そうしたことも一旦は村に戻って協議する必要がある。確かにエンジェリートの街奪還は鳥人族の悲願ではあるが、誰もが街に戻りたいというわけでもないのだ。志願者を募って、街への移住者を決めていくことになるだろうと思われた。
そして風音たちもヴォード遺跡の次の探索地であるドラゴニル造船所に行く際に一度はこの街を経由する必要があるため、そのときには再会できそうだと考えていた。
「ヴォード遺跡はここから南にあるが、だが気をつけろ。前にも言ったがここまでは客人たちもこれたし、我々も何度となく訪れている。だが、あの遺跡は別だ。あの中の魔物は決して遺跡から出てはこないが、だが入った者は例外なく襲われ、ほとんどの者が殺されている。我らもあの地には決して立ち入らないように定めている」
去り際のモーフィアの言葉に風音たちが頷いた。
あのヴォード遺跡と言うところはゲームのメインシナリオでも終盤に相当する場所であり、当然敵もそれに準じた実力の持ち主たちである。風音も、直樹も、弓花も手強いのは承知の上である。
その敵の名はアダマンスカルアシュラ。アダマンチウム製の骨を持ち、6本の手で攻撃を繰り出すスケルトン族最強の一角でありながら、ユニークモンスターではなく複数いる通常の敵なのだ。
金剛石にも等しい硬質の攻撃力と防御力を持ち、倒されても一定時間が経てば復活する。何より魔物ではなく、魔道トラップのひとつであり、経験値も手には入らない。ゼクシアハーツの中でも逃げの一手を推奨される危険な敵であった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:36
体力:145
魔力:304+420
筋力:67+20
俊敏力:71+14
持久力:38
知力:72
器用さ:47
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』
風音「弓花というかアーチの血が大量に染み着いている地だね」
弓花「ゲーム中はアーチはここで随分とつらたんしたからね。死にまくりだったよ」
風音「まあ、アーチに限らずプレイヤー全般に言えることだけどね。ここはともかく死亡率高かったんだよ」




