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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
オダノブナガ編

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第二百五十七話 あの娘を狙おう

「はははは、あんたらがジンライの仲間なのかい。嬢ちゃん、坊ちゃんばかりじゃないか。エミリィとライルも久しぶりだねえ」

 そう言って宿に入ってきたのは、恰幅の良いオバさんだった。

 クロエ・ハクアというそのオバさんはジンライの姉である。ジンライよりも5つ上だが、見た目はだいたい50代前後くらいのようであった。

 これは魔力の高い人物にはよくある老化抑制状態で、それほど珍しいわけでもない現象だと風音は聞いていた。


「はじめましてー」「師匠にはお世話になってます」「お久しぶりクロエ婆様」「よぉ、婆さん。来たぜ」「お初にお目にかかります」「はじめまして」「くえー」


 そして、それぞれが挨拶を交わす。なお、その恰幅の良いオバさんが抱えているぼろ雑巾のようなものには全員触れないことにしている。ルイーズが横で苦笑しているので。

「だから……会いたくなかったのだ」

 ぼろ雑巾がそうブツブツ言っているが、意味不明なので放置。弓花が心配そうにオロオロしていたが、とりあえずはぼろ雑巾の意識もあるようだし抵抗もしていないようなので周りと同じように触れないことにした。

 そしてクロエはクロエで「まったく何十年帰ってきてないんだか」などと言ってぼろ雑巾のアタマをぐりぐりしている。「ええい、もうワシは子供ではないわ」とぼろ雑巾が抗議するが「ガキに戻ってるじゃないのさ」とクロエが反論する。実際ぼろ雑巾は見た目が若返っただけではなく、最近のはっちゃけ具合がヒドい部分がある。それに気付いて言ったのだとすればさすが身内というところだろう。


 その後は宿の食事ができたとイリーサから告げられたので一行は部屋を出て食堂で食事をとることにした。ジンライはクロエから離れたかったのか離れた席にいた宿屋の主人と、また主人に似た(兄弟だろうか?)男と飲んでいるようだった。「あんたも苦労したんだな」とか「俺たちのことは兄弟みたいに思ってくれよ」などと相手も言っているようだし、ジンライはジンライで「お前等とは他人の気がせんな」と口にしており、3人は気が合うようだった。さすが同郷というところだろうか。

 それをクロエが感慨深そうに、そして苦々しそうにしばらく眺めていたがそのまま放置して、若者組からこれまでの旅のことを聞いてきた。

 クロエもジンライが猫騎士と呼ばれていることには爆笑していたが、実際に目を丸くするようなエピソードが次々と飛び出てきて驚くことの方が多かった。宿屋の娘のイリーサも混じって話を聞いていたが、直樹の横にいつのまにか座っていてエミリィとティアラも気が抜けない状況だ。

 ライルにとってもイリーサは、子供の頃に村に来たときに「ちょっといいかな」と思っていた相手でもあったので、若干親友に対して殺意を抱いていた。もっとも最近のライルはタツヨシくんノーマルの調整などで風音と話していることも多く、直樹のライルに対する殺意の方がやや上と言ったところだ。さすが親友同士である。いつ殺し合いが始まってもオカしくはないようだ。

 もっともその後に風音がお眠になったタツオ(黒竜装備)をユッコネエに乗せて部屋に戻り、イリーサも釣られて一緒についていってしまったので、当面の危機は回避されていた。

 そして部屋の中でイリーサはユッコネエのモフモフを堪能したり4本のしっぽでペチペチされたりと魅了されていた。いつの間にか来ていたジンライ(状態:酔っ払い)も肉球をプニプニと触ったりして一緒に魅了されていた。魅了されまくりである。


(うーん?)


 ただそれを風音は離れたところから見ながら、どうもユッコネエが若干デブってるのではないかと感じていた。ユッコネエは最近は魔力供給のために馬車の上でずっと昼寝ばかりしている。あまり動いている気配がないのだ。


「あんた、太った?」

「ふにゃーーーーー!?」


 風音の問いにユッコネエの毛が逆立つ。図星のようである。

 そして風音は馬車の上で寝かせてばかりでなく走らせようと決心したのだった。デブ猫もブサ可愛いが別にユッコネエは愛玩動物ではない。このまま肥えさせるのは危険であった。肥満症で死んだ召喚獣など聞いたこともないのだ。



  ***********



 そして夜も更ける。気が付けば若者組はみな部屋に戻ってもうお休みの時間だった。朝の特訓もあるので『白き一団』は早寝早起きが基本であるのだ。ルイーズ以外は。

「ジンライくんももう寝ちゃったみたいねえ」

 ルイーズの言葉にクロエがガバガバと酒をジョッキに注いでいく。

「ふん、飲み過ぎなんだよ。あのバカ弟は。ていうか女子部屋から出てきたのになんで分かんのさ?」

「いや、ジンライくん。ユッコネエにくるまって寝てるのよねえ。イリーサちゃんと一緒に」

 朝にどう反応するのか見物だとルイーズが笑う。それをクロエが「はっ」と笑い返す。その横では上品そうな、可愛いらしいと言っていいお婆さんがクスクスと笑っていた。後から合流してきたジンライの幼なじみのミルラである。

「でもジンライくんが以前と変わらない姿だったときは驚いちゃいましたね」

「ま、そうかもね」

 ルイーズがクロエに注がれた酒を飲みながらそう返す。まあ普通は驚くだろう。もしくは別人だと思うだろう。老化を止める手段は金銭を積めばそれなりにはあるが、若返りの手段は非常に少なく、その存在を知っている者もほとんどいないのだ。

「でも結局あのバカとは挨拶ぐらいしか交わしてないじゃない。ミルラもなんか言いたいことあったんじゃないの?」

 クロエがミルラを見ながらそう言った。だがミルラは首を振る。

「私はジランを授かっただけで幸せですから。メーベル姉さんも同じ想いだったと思います」

「殊勝なことだね。父親不明って言ったって、あんたらがほかの男に手ぇ出すわけないのにね」

 クロエの言葉にミルラが「ふふっ」と笑う。

「あの人があの人らしく居てくれるなら私は良いんです」

 そう口にするミルラにクロエが肩をすくめる。それはもう何十回と繰り返したやりとりだ。ミルラとメーベルが納得しているからこそクロエもジンライには何も言わないし、だが苛々はするのでジンライには鉄拳制裁をするのである。

「それにあの人は父親にはなれませんよ。いつだって自分本位な人でしたから」

 それは結婚したシンディを見れば一目瞭然だった。ジライドがグレなかったのは奇跡のようなものに見えるが、それもシンディがジンライがいかに素晴らしいかをジライドに刷り込んだ結果である。あれは洗脳に近い。ミルラは私には無理だなーと思っていた。

 女としてのミルラは今でもジンライを好いているが、母親としてのミルラはあんな父親の元にいる子供がまともに成長するとは思っていなかった。なので子供が出来た時点でミルラはある意味ではジンライは切り捨てたと言っても良かった。

 なお、孫のカールはミルラの懸念通りに村の英雄であるジンライに憧れて冒険者になってしまった。そして他にもジンライに倣って村を飛び出す若者は多い。ひとり村を出て成り上がりハイヴァーンの名家の娘を嫁にもらう。そんなサクセスストーリーに惹かれる者も多い。だがジンライほどに大成した者はいないし命尽きた者もそれなりにはいる。時折カールからは手紙をもらうが今でも孫のことはミルラの心配事のひとつであった。

「ま、師匠としては優秀みたいだけどね」

「ユミカちゃんでしたっけ。あの人の愛弟子の……」

 さきほどまでこのテーブルにいた少女をミルラは思い出す。そして心の中にシンディにすらほとんど湧かなかった感情がチラッと姿を現す。それは嫉妬という名の炎だろう。

「ミルラちゃん、オイタはしちゃダーメよ」

 それを察してルイーズが鋭い視線をミルラに向ける。

「ふふ、まさか。ありませんよ、そんなこと」

 ミルラはルイーズの言葉に笑顔で返す。だが目は笑っていなかった。だからルイーズは言う。

「シンディと同じ顔してるのよ貴方」

 ルイーズの言葉にミルラが目を丸くして、そして再度笑う。それはつまり自分の認識が間違っていなかったということだ。


 それは少し前の話だ。

 ジンライハーレム等の噂がハイヴァーンにまで届いてきた頃の話。

 その噂がシンディの耳に入り、その心中が穏やかではないようだということにジライドは気付いた。だが、それはジライドの懸念していたような『ジンライのいかがわしい噂』に心を痛めていたわけではなかった。

 シンディは元よりそのようなことなど気にしてはいなかった。確かに別の女がジンライと一緒にいるだろうことには嫉妬を覚えるが、自分の男を奪われるということを端から考えてもいなかった。


 シンディが本当に恐れていたのは『ジンライが愛弟子をとった』ということであった。


 シンディはジンライが二槍を捨ててから常にジンライの動向を窺っていた。既に己の限界を察していたジンライが愛弟子をとり、自分のすべてを教え始めたという……その先のことにシンディは脅えていた。


 己のすべてを、その命すらも糧にして弟子へと継承させるつもりなのではないか……とシンディは恐れていた。


 そしてシンディの懸念は、少なくともジンライが風音たちと旅をしていた最初の頃は正しかったのだろう。いずれジンライは弟子である弓花と死合い、そして戦士として戦いの中で死ぬつもりだった。

 もっともハイヴァーンでシンディがジンライと再会したとき、もはやその心配事は完全に払拭されていた。二槍は復活し、若さも取り戻し、活力に満ちたかつての頃の、シンディの好きなジンライに戻っていた。

 そうでなければあの場で弓花は殺されていただろう。例えジンライに罵られようと風音に恨まれようとも自分が殺されようともシンディは実行する心積もりだった。ジライドはそんな母の心境を正しく把握していたわけではないが、だが親子だからその焦りは感じてた。それこそがジライドを狂騒に駆り立てた理由でもあった。


 実のところ、最初からルイーズなど問題ではなかったのだ。ルイーズは一緒に食べようと考えることはあっても奪うことはない人なのだから。

 だからこれは、いずれ自分の男を奪うはずだった女を排除するという女の本能が実は弓花に向けられていた……という、ただそれだけの話だ。


 もっとも、それが回避されようと、例え色恋とは別のものであろうと、ジンライが選んだのが弓花という少女であるのは歴とした事実。シンディが弓花に竜結の腕輪を贈ったのも弓花という選ばれた者の中に自分という存在を加えようという儚い想いから来ていた。


「ユミカちゃんか。仲良くなっておきたいなぁ」

 そう笑うミルラに、ルイーズとクロエが肩をすくめる。そんな多くの女たちが恋いこがれた男の横にいる少女、弓花は……


「やったー、師匠からいっぽーん……」


 と、これまたイリーサとジンライと一緒にユッコネエのもふもふに寄り添って眠りについていた。そして幸せそうな夢を見ながら弓花は笑っていた。ひとつルートが外れれば、死の危機にあったことを彼女は知らず、安らかに眠りについていた。

名前:由比浜 風音

職業:召喚闘士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪

レベル:33

体力:135

魔力:260+420

筋力:57+20

俊敏力:52+14

持久力:33

知力:65

器用さ:41

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』


風音「…………(今回は回避されたジンライさん死亡ルートその1と、幕間に入れ忘れたシンディさん弓花殺害未遂告白エピソードがちょこっと顔出してるね)」

弓花「何か言った?」

風音「ううん、なんでもないよ。そういえばミルラさんってジンライさんの幼なじみなんだってね。小動物系で、守ってあげたくなるような女の子だったらしいよ」

弓花「へー、なんかちょっと睨まれた気がしたんだけど、気のせいだったのかな?」

風音「さあ?」


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