第二百四十七話 交差をしよう
ツァイトの森の中心付近で弓花が魔狼たちとの戦いを行っている頃、弓花たちに追いつこうと動いていた直樹たちもまた、魔物たちに足止めを喰らっていたのを弓花は知らない。直樹たちの目の前に迫る魔物たちの数もまた、弓花と対峙している魔物たちと同等クラスの驚異であり、とてもではないが救援に向かうことが出来る状況ではなかった。
「コボルト地竜モドキライダーが一番多いかな。これが弓花たちを狙ってた魔物ってことですかね」
直樹は緊張した顔で目の前を見る。だが横にいるジンライは首を傾げる。
「いや、どうだろうな。こことは別に『戦場の気配』がある。ユミカとエミリィのチームもすでに戦いに突入しておるやもしれん」
そうジンライは口にした。直樹はその言葉に眉をひそめる。
「それって、弓花やエミリィが危ないってことじゃないですか?」
「かもしれん……が、こちらも十分に脅威と言っていい状況だがな」
そう答えるジンライの視線の先にズラリと並んでいるのは、地竜モドキや地竜に乗ったコボルト、ハイコボルト、コボルトブルー、そして中心にいるコボルトキングと呼ばれるコボルトの最上位個体と地核竜であった。
元々、ジンライたちがドルムーの街に向かう途中で戦ったのはコボルトライダーの群れであったのだ。であればコボルトたちの群れとは本来、こちらが本筋なのだろう。
だがこれまでの山狩りで冒険者たちが出会ったのは魔狼の群れがメインで、このコボルトライダーの集団はあまり表には出てこなかった。それが出てきた理由をジンライたちは知らない。意志の疎通もない魔物の群れのことなど知るはずもない。今まさに弓花と戦っている魔狼フェンリルイミテーターのチャイルドストーンが元々モンスターテイマーのもので、魔狼がそのスキルを継承し他種族ですら操れるがために、群れが分かれていたことなど分かるはずもない。
直樹「コボルトライダーたちと接触。数は100組ぐらい」
風音「弓花、見てる?」
直樹「ジンライさんが別口で戦いが始まってるかもって」
風音「弓花、返事なし」
直樹「弓花が戦ってるの?」
風音「遠隔視は森の中だと探せないし分かんない」
直樹「こっちももうぶつかりそう」
風音「ジンライさんに連絡。私以外の私のチームと馬車組当てれば勝てる?」
直樹はチャットから目を離し、ジンライに風音からの要求を告げる。
「無論だ。犠牲を気にしなければこのままでも行ける」
ひとりでケリをつけることすら想定内のジンライである。
そして直樹は風音にその旨を連絡すると、獣の咆哮と共にコボルトライダーたちがこちらに向かってくるのを目撃する。
「来たか。コボルトキングはワシの獲物だ。盗るなよ?」
そうギラつく目を光らせながらジンライが周囲に睨みを利かせるとユッコネエを加速させた。そのジンライたちの後ろを冒険者たちが続いていく。
このジンライと直樹のチームには古参の者や荒くれ者が多く組まれていた。ジンライならば御せるだろうと見込まれた強面連中だ。そしてジンライの言葉を聞いてなお従う気のない連中の気配を感じながら、ジンライはほくそ笑む。戦士とはそうでなくてはな……と。
こうして第二の戦場はこの場で確定する。そして風音は、残りの冒険者の戦力をこの一戦に集中させ、自分は弓花の元へと飛び出していった。
さらに同じ頃、弓花の離れたエミリィたちのチームは連絡役もなく孤立した状態で追いかけてきた魔物たちとの戦闘に入り、そしてまもなくそれも終結しようとしていた。
「はっ、はっ、これで最後か」
虎の子の竜牙鋼の矢でジェミニスヘッドのコアを打ち抜き、その動きを止めたのを確認するとエミリィはへたり込んだ。
他の冒険者たちもようやく動くもののなくなった森を見渡し、全員がドサリと倒れ込んだ。ここはここで死闘であったのだ。
実のところ、当初見えていた数よりも魔狼の混合魔物群は多かった。そして弓花に200の魔物が、エミリィたちには100の魔物たちが追ってきていたのだ。
それを弓花を欠いての26名でしとめた。弓使いロンドと獣人の戦士であるモッコの獅子奮迅の活躍があってようやく勝ちを掴み取れたようなものの、全滅とは紙一重だった。既に半数は負傷し、死者も3名出ている。1名は囲まれてなぶり殺され、2名はコボルトブルーの毒爪にかかっていた。
そんななかでエミリィもおそらくは周囲の期待以上に活躍を見せていた。地核竜の牙で作った矢も惜しげもなく使い、上位種を2体もしとめていた。道具に頼った……と本人は考えているが、活躍としては先に述べたモッコとロンドに次いだもの。恥いることではない。
「さて……どうする?」
一息ついたモッコが、そう言いながらも一点の方角を見る。本来であればもう間に合わないだろう。10分で直樹たちの増援が来ると聞いてはいても無理だとしか思えない。
「行くしかないだろうよ」
ロンドの言葉に戦える者たちはみな立ち上がる。その中には当然エミリィもいた。そして負傷者を街の方角に帰して、自分たちはすぐさま元いた場所へと引き返す。だが、口に出した言葉はどうあれ、内心では彼らは覚悟を決めていた。それはひとり残った少女の死と、そしてこれから待ち受けるであろう自分たちの死を……だ。
今の戦いでさえ、彼らは半数に減るほどのダメージを受けたのだ。ましてや、これから向かう先の魔物たちは今戦った数よりも多いはずだった。増援があろうとも、勝てると自信を持って口に出来る者はいないだろう。だが、彼らの道行く先にあった光景は、そんな悲壮な決意すらも一瞬で打ち砕いてしまうような、壮絶なモノだった。
◎ツァイトの森 中心近く
「グルォオオオオオオオォ!!!!!」
魔狼が吠える。それを声も発さず弓花は立ち向かう。
その槍の先が走り、魔狼の爪と激突し、そして魔狼が雷の光と共に弾き飛ばされる。
「……ヒュウ」
弓花は僅かに離れた魔狼を前に、軽く息を吸う。目の前の敵はこちらが息をすることすら簡単には許してくれない。すでに神狼化は時間切れで解かれたため、弓花は竜人化に入っていた。故に銀狼たちももういない。そして周囲に生きた存在は魔狼と弓花しかいない。
200はいた魔物たちの群れはここに至る戦いの間に弓花が駆逐してしまった。恐るべき戦闘力……と言いたいところだが、それが可能とした最大の理由は神狼化による疲労回復スキルによるものだろう。
実際、普通にあの規模の波状攻撃を受ければ、たとえジンライであろうともスタミナ切れで倒されてしまう。どれだけ強かろうとも疲労という問題がある限りパフォーマンスを維持し続けることは難しいのだ。ドラゴンが最強種と呼ばれ強敵とされる理由も防御力と持久力により倒し切ることが困難なためであることが大きい。
もっとも今は既に神狼化は解かれているため、弓花はもう疲労回復は出来ない。なので肩で息をして疲労を顔に滲ませながら魔狼と向き合っていた。
そして今の弓花は自分の竜気を使用した雷竜の系統の竜人化になっている。雷光の光が弓花の槍を包み、魔狼を殺すべくにじり寄る。
対して魔狼フェンリルイミテーターも今や満身創痍といったところだ。ここまでの弓花との戦いでその身は切り刻まれ、血塗れとなっていた。竜人化でパフォーマンスの落ちた弓花ともギリギリで渡りあっているような状態だった。
そして弓花が槍を構え直し、魔狼が唸りを上げる。すでに対峙して30分は経過し、互いの手の内も出し尽くした頃合い。
そして弓花は走り出した。
そして魔狼は走り出した。
弓花の武器はこれひとつ、己の信じる雷光の槍を突き出す。
魔狼の牙こそ最強の武器、敵の刃を抜けて噛み砕こうと突き進む。
両者は交差する。すべては一瞬のことだ。
魔狼は目の前に迫る雷光の輝きを避け、弓花の懐に飛び込んだ。そして雷を発さぬ槍の一撃が魔狼の口の中へと吸い込まれる。
それは弓花の最後の賭けだった。槍に纏う雷光の輝きを餌に敵の認識をそらしたのだ。雷光の軌道と、それとはズレた槍の軌道、そしてそれに気づかぬ魔狼は雷光を避けたところに雷纏わぬただの槍の一撃を突き立てられた。
そして弓花は魔狼を貫く。そのまま弓花は竜気を一点に集中し魔狼の身に雷撃を放った。弓花の内にある竜気をすべてそそぎ込んだ雷を受けては、もはや魔狼とて抗することは出来ず、ついには崩れ落ちた。
勝者は立ち、敗者は地に落ちる。
当然の論理がその場の勝敗を明確に語っていた。
そんな光景に圧倒されつつも、駆けつけた冒険者たちは一斉に歓声を上げる。彼らも確かに周囲の状況には絶句した。だが彼らは無力な民衆ではない。冒険者であり魔物と戦う戦士なのだ。故にその見事な戦いに全員が畏敬の念を持って弓花を讃えたのだ。
だが、その感動も一瞬だった。
バサァッと音が聞こえた。
勝利の余韻は一瞬で消え去る。空から来た絶望によって書き換えられる。
冒険者の一人が空を見上げ、悲鳴をあげ、別の誰かは呻いた。
「ドラゴン……だと?」
そう、それはこの世界の最強種。
神竜皇后と呼ばれ、魔王の名すら詐称し、高位の悪魔すらも討ち滅ぼす強大なる存在。数々の獲物を刈り取り得た力を携えて、水晶の輝きを纏わせて圧倒的な威圧感を放ちながら、それは闘争の気配をまき散らしながらその場に降り立ったのだった。
……空気も読まずに。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー(未完成)×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:33
体力:135
魔力:260+420
筋力:57+20
俊敏力:52+14
持久力:33
知力:65
器用さ:41
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』
風音「私参上!弓花、助けに来たよ!!」
弓花「うん、ありがとう。私のために急いで駆けつけてくれたんだね。分かってるよ、私は」
風音「さあ、かかってこい。私のクリスタルブレスを喰らいたいやつはどこだーー!がおーーー!!」




