第二百四十一話 親友と戦おう
冒険者ギルドでいくつか気になる情報を仕入れた後、風音たちは当初の予定通り宿を取らずにそのままデイドナの街を去った。そして街道よりやや離れた位置に風音のコテージを建てて、その日はそこに泊まることとなったのだが、コテージに初めて泊まるバーンズ兄妹は驚愕していた。
実のところコテージそのものはブルーリフォン要塞前やディアサウスの大学で見てはいた。しかし四角で周囲を鏡張りなんていう外見の建物ではなかったし、実際に入って泊まるのもこの兄妹は初めてであった。
なお住環境で言えば宿屋よりはコテージの方が元々良かったのに、あえてその街の宿に泊まる方針にしていたのは、旅の醍醐味とかその街の特産品などを味わう機会を増やすためなどである。
長期滞在するなら拠点を街の中に持つのも良い。だが、たった一日寝泊まりするだけならば、タツオを隠す必要もあるのでわざわざ宿に泊まる必要もないだろうというのが現状の結論であった。
そして、バーンズ兄妹は見事に風呂・メシ・温水洗浄機能付トイレ・不滅の布団の多段コンボにより撃沈した。それは白き一団に入れば誰もが必ず通る道であった。
◎デイドナの街近辺 コテージ前 草原 早朝
「んー、このままドルムーの街に直行したいの?」
「うん。アレが私たちのせいとは思わないけどさー。原因のひとつではあるから、ちょっと放っておくには収まりが悪くてさー」
そうノンキな会話を続けながらも、弓花と風音の間には火花が散り続けている。それは比喩的な表現ではなく弓花の槍と風音のトンファー、そして脚甲が激しくぶつかり合って出ているものだった。
実は風音は、東の竜の里に帰還してからジンライと弓花たちの修行になるべく付き合うようになっていた。
それはトンファー入門書(上)の内容は読み尽くした上で『キックの悪魔』スキルを育てるには実際に数をこなしておく必要性があることを感じていたためだった。
プレイヤーの特権としてレベルアップによるステータス上昇があるため、基礎体力向上というもっとも基本的な部分は風音もクリアできている。だが、戦闘技術というものは経験がモノを言うのは弓花の日々の修行の成果でも明らかであった。何かをきっかけに激的にパワーアップするのはマンガやゲームやラノベの話であり、リアル系少女の風音はこうした地道な修練こそが最強への近道だと理解していた。故の早朝模擬訓練である。
「確か持ってかれたのはあんたらが倒した地核竜の肉だったんだっけ」
「うん、そう」
余裕の弓花の言葉に対して風音は若干余裕ない声で返す。
「まあ奪われたチャイルドストーンを手に入れた戦場も同じだってのは聞いてるけど……さッ」
弓花から三撃の突きが入る。風音がそれを見て、両腕のトンファーでカンカンと弾きながら、三撃目は蹴りで跳ね上げる。
「よし、取った!!」
「はい、残念さん」
槍を跳ね上げた隙に風音が懐に飛び込んだッ……と思ったときには、すでに風音が地面に転がされて「ごふっ」とか言ってる間に槍を突きつけられていた。
「誘いよ、誘い。内側に飛び込まれたときにこそ『柳』の技が生きる訳ね、おわかり?」
弓花の言う『柳』とは相手のテンポを読んで僅かな動作でかわす技だが、槍の重心移動による普通の人間とはズレた動きが相手の意表を突くらしいと風音は聞いていた。
その後のかわした直後、相手の認識外で槍で思いっきり転ばすのが『転』と呼ばれる制圧用の槍術で今風音が喰らったものである。弓花はこれを得意としている。
「むう。勝てない」
そういってむくれて立ち上がる風音は現在全敗中である。対して弓花はまだ余裕で、その上に変身を二つ持っている。
「ま、そりゃ土俵が違うんだし。あんたが近接戦のみで挑んで私に勝てるわけないでしょ」
「まあね」
弓花の言葉には風音も頷くしかない。現在の風音は特に魔術もアクティブスキルも使ってはいない。また槍とトンファー、または蹴りとの間合いの違いも弓花に有利に働いている。蹴りもトンファーもその間合いの差を殺す技も存在しているが、今の風音はそれを学んではいなかった。
「アンガスさんはアンタみたいに打撃と防御だけでなくもっと器用にトンファー使ってたわよ」
トンファー使いアンガス。弓花はそのアンガスに負けているのを風音は思い出した。変身こそしていなかったが、素の勝負に於いては弓花はアンガスに劣っているらしいのだ。
「ちなみにどうやって、弓花は負けたの?」
「んー、トンファーの長い方を手にとってグリップをこう鎌みたいに使って、槍をね。抑えられたのよ。そのまま蹴りを喰らって終わったかな。後はトンファーを回転させて弾かれた隙に懐に飛び込まれてね。正直、慣れてないってこともあったけど、トンファーを防御に特化させて蹴りで攻撃って感じだったわ」
アンガスのトンファー使いは本人の性格に反して、極めて正道のようであった。
「ぬう。もらったトンファー入門書の上巻は蹴り技だけだしなあ。下巻も貰わないとそういう技っぽいのは難しいなあ」
そして風音は唸る。トンファー使いとしてのボキャブラリが風音には足りなさ過ぎるのである。
「けど、形にはなってきたし、コンボパターンも決められてきたかな」
「『キックの悪魔』のスキルだったっけ? 攻撃がだんだん重くなってったけど」
「うん。コンボが続くたびに、攻撃力が増してくの。そしてトドメの」
そう言いながら左手薬指の指輪を見た。
「旦那様との愛の共同作業が必殺の技となるんだよ。昨日ようやく完成したんだよね」
そう言いながら風音は指輪にチュッチュした。
「愛の……まあいいけど。確かにあれならいけるでしょうね。つか、私も危なかったし」
その攻撃を弓花も一つ前の模擬戦闘で喰らいかかった。当たっていれば、確かに負けていた可能性もある一撃だった。
「けど、なんつーか、日本のRPGっぽい技だったよね」
「基本、昔のゲームの召喚術ってアレが普通だよね」
などとやりとりしている二人であるが、その背後では、また別の訓練が行われている。
「にゃっにゃー」
「はっはー、走れユッコネエ」
「あー爺さん、暴走してやがらねえか」
「分かんないわよ。最近いつもあんなだし」
「ようやく剣がある程度使えるようになったってのに、チョロチョロと」
「速くて狙いが付け辛いですねえ」
それは猫騎士vs直樹とゆかいな仲間たちの模擬戦であった。なお、直樹側の主力は炎の有翼騎士とライル。直樹とタツヨシくんノーマルは後衛組護衛である。
とはいえ、ユッコネエのスピードに振り回されてライルはついていけていないし、フレイムパワーだけでは技量に差がありすぎる。当然エミリィの矢もあの速度には当たらないし、直樹はどうやら魔剣をある程度使いこなしてきてはいるようだが、さすがに魔剣の能力である『ファイアブレス』を仲間に使うことはできない。そして未だに剣の腕は向上していない。
故に当然のように護るべき後衛にはさっと飛び込まれる。あの速度相手では全員が固まって戦わなければ個別に撃破されてしまうだろうが、時折ジンライとユッコネエが分離してそれぞれがパーティを分断していて、それもままならない。
「遊ばれてるねえ」
「だね」
一休みとなった風音と弓花がそう口にしながらアイテムボックスから出したお茶を飲んでいる。なお朝方なのでタツオとルイーズはまだお休み中である。
「ああ、そういやこっから先のことだけど、そのままドルムー直行予定?」
「んーー、朝から夜通しで走れば何とかはなると思うんだよね」
「まあ、今更夜の移動が危ないとは思えないけど」
夜の魔物は気性が荒いし、暗闇では戦闘には不利……などという常識はヒポ丸くんにはあまり通用しないだろう。
「もう討伐されてるかもしれないけどさ。とりあえず何か出来るなら行きたいんだよね」
「ワシとしても早めにドルムーにはたどり着きたいがな」
その風音と弓花の会話に後ろからジンライが声をかけてきた。
「あれ、特訓はいいの?」
風音の問いにジンライが後ろでまだ戦っている様子を見ながら、
「ユッコネエに任せてきた。今のユッコネエであればあれぐらいはこなせるだろう」
そう口にするジンライの言葉に「ユッコネエは私の相棒なんだけどなあ」とぼやく風音。最近ユッコネエがジンライに寝取られそうで怖い。
「まあ、それはそれとしてだ。竜騎士部隊が撤退したというのが気にかかるのでな」
半月前に聞いた話ではハイヴァーン軍の討伐部隊が組まれるということだった。そして昨日に酒場で聞いた話では、実際に組まれて挑んだが撤退したそうなのだ。そして冒険者の召集である。
「その魔狼フェンリルイミテーターが強かったのか、数が多くて撤退せざるを得なくなったのか……というのは、少し無理があるかもしれんがな」
ジンライは自分で言って、そう一笑に付した。ここ最近の風音たちの周囲にドラゴンは多かったが、彼らは実際に最強の種族の一角である。如何に進化したとしても元がコボルトならば精々が成竜にならぬドラゴンに相対できるか否かという程度の筈だ。
「ドラゴンの臭いは強力だからねえ。逃げられまくってるに一票かな」
風音の言葉にジンライも頷く。特に狼種や犬種は臭いをかぎ分ける力に優れている。
「とりあえずは状況だけでもすぐに確認が取りたいものだ」
コボルトブルーならば鱗さえ通れば竜種すらも毒で殺すことが出来るかも知れない。万が一という可能性を排除できない魔物だ。
「うん。それじゃあ、さっさとドルムーいこうか。ま、サンダーチャリオットなら早々乗ってて疲れることもないだろうしさ」
そのジンライとの話し合いで一行はドルムーの街まで飛ばして移動することに決定する。そして翌日の朝にはドルムーの街にたどり着いた。
なお、夜中に走り回る紫の稲妻の姿を目撃した旅人たちによってレア魔物『這い寄る稲妻』の出現分布図がまた書き加えられたようだった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー(未完成)×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:33
体力:135
魔力:260+420
筋力:57+20
俊敏力:52+14
持久力:33
知力:65
器用さ:41
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』
風音「ジンライさん、飛ばしてるなあ」
弓花「さらに強くなってるんだから手に負えない」




