第二百三十九話 御輿に乗ろう
さて、風音たちが立ち寄ったドラムスの街だが、ここは首都ディアサウスから東の竜の里までをつなぐドラゴンロードという街道に連なる中でも里に一番近い街である。つまり、東の竜の里とはもっとも交流がある都市であり、特にドラゴニュートシティとの繋がりは強いようだった。
黒い悪魔騒動の後始末や、山狩りもこの街から人員が派遣されているし、さらには種子を警戒してドラゴンイーター討伐後の素材採りの委託人員もこの街の冒険者ギルドを経由して送られてきていた。
また住人の多くは血の薄まった竜人であり、竜信仰のようなものがドラゴニュートシティと同様に存在している。元よりこのハイヴァーンは公国。神竜帝ナーガに仕えるハイヴァーン大公の国なのだ。故に神竜帝ナーガに対する畏敬は当然のように高い。
そして、そんな街に風音は特に備えもなく普通に寄ってしまった。
入ってから気付いたことだが、来る前の段階で先に手を回しておくべきだったのだ。目立たぬようにしたければ根回しは必要なことだったのだ。
だというのに風音はそのまま街に入ってしまった。であれば、その結果は火を見るよりも明らかであった。
◎ドンゴルの街 中央通り
ワッショイ、ワッショイ
グラグラと揺れている。
ワッショイ、ワッショイ
風音の乗っている御輿が揺れている。
ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ
(……『また』お祭り騒ぎすぎる)
風音は愕然としながら手で顔を覆い、下を向いていた。目立っている。異常に目立っている。またまた目立っている。
「見ろー!我らが神竜皇后様が感動のあまりむせび泣いておられるーー!!」
「わざわざ人化し、我らの前に降りてくださったのだ!もっと、もっとお喜びいただくのだー!!」
周囲の男たちのかけ声とともに、様々な発光色の爆竹が放たれ、赤いラインで彩られた猿と竜の面を付けた者たちが踊り狂う。
以前に見た光景である。積極的に竜人族と名乗らないのは、血が薄いからだろうか。だがやっていることは変わらない。なぜこうなった……風音が思うことはそれである。
風音たちが街に入ったときにはすでに街全体が歓待モードに入っていた。なぜか前夜祭と称してお祭り騒ぎであった。
そして今が本番らしい。街自体が一丸となって祭りに取り組んでいて風音もさすがに「抑えていただけると」とは言い難かった。
風音は、私目立ちたくないのになーと言いながら壁に隠れてチラチラさんしたいお年頃なのだが気が付けば御輿の上である。ガン目立ちである。風音はこの付近の誰よりも目立っていた。最速で目立ちランキングを駆け抜けていった。
ちなみに仲間たちは今回は同行していない。ジンライがマジメ腐った顔で「タツオの面倒はこちらで見よう」などと言って離れていったが、その馬鹿騒ぎから離れたいのが理由であることは、その目の泳ぎようで明らかであった。ジンライもあまり人に歓待される環境には慣れていないのだ。チクショーチクショーと風音は心の中で罵倒したが、だがタツオを同行させて正体を知られるわけにもいかず、故に仲間を巻き込むわけにも行かない。風音は詰んでいた。
「神竜皇后様、どうでしょうか。お気に召しましたでしょうか」
風音の御輿の横についている、この街の領主が不安げに尋ねる。
彼らにとって、竜とは最大限の敬意を以て接する相手であると同時に下手をすれば災害ともなりうる相手だ。例え風音が妙なチンチクリンなお子さまに見えていようが、その実体はあの神竜帝ナーガの后となるドラゴンである。機嫌を損ねればこの街程度、軽く破壊されてしまうと思っていた。
特に神竜皇后は異国の地よりやってきたと領主は聞いている。外来の竜相手では里の竜の常識は通用しないかも知れないのだ。
そんな風音にとってはまったく寝耳に水なことを前提にしての領主の言葉に風音は「とりあえず表の身分である冒険者の私のことは口外しないでねー」とだけ伝える。今更現状の待遇をもっと普通に……といっても逆に気を使わせるだけだろうと考えての言葉である。とはいえ人の口に戸は立てられぬということわざもあり、風音もあまり期待はしてなかったのだが、領主はそれに対して顔を真っ青にして「は、はいぃ」と返していた。とってもいやな予感のする返答だった。
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『母上が運ばれていますねー』
「だねえ」
インビジブルと光学迷彩で隠れたタツオを肩に乗せながら弓花は、風音が御輿で運ばれている光景を眺めていた。タツオは風音を除くパーティの中では弓花に一番懐いていた。風音ともっとも仲がよいのが弓花であることを見抜いたという面もあるかもしれないが、弓花の身体から湧き出る竜気が、ビャクと同様にタツオにも心地良いようだった。
なので、風音も弓花にタツオを任せて泣く泣く御輿に乗りにいったのだった。風音としても弓花はもっとも信頼の置ける相手である。タツオの希少性を考えれば実力的にもタツオの護衛として任せられる相手でもあった。
『このように多くの者たちが活気づいてひとつのことを成す。これが人の世なのですね』
そしてタツオは初めて見る街、人の群れを物珍しげに眺めている。何もかもが目新しく、何もかもが新鮮のようだった。
「んーまあ、毎日こうだと疲れちゃうけどね」
風音は確実に疲れてるみたいだなーと、弓花は親友の状態を見て的確に把握していた。
『疲れても母上に抱きしめてもらえれば、元気になれます』
「風音、ひとりしかいないからなあ」
当たり前のようにいうタツオに弓花がそうぼやく。
『母上がいっぱいいればよいのに』
「んーまあ、そうだね」
それは勘弁してくれと弓花は思ったが、特に反論はせず、相づちだけ打った。なお現在弓花は一人である。直樹とライル、ティアラとエミリィの思春期組と、それにティアラの護衛のルイーズとルイーズに抱き抱えられているメフィルスは祭りを見に行ってるし、ジンライは酒場へと行ったようだった。
そしてさきほどから弓花が歩いていても誰も見向きもしない。気付いていないわけではないようだが、スルリと避けてゆく。
実は弓花は『隠形歩』という周囲の認識から外れる歩法スキルを使っている。それはジンライが以前に、クノイチで現在はゆっこ姉の影武者のイリアから指南を受けて覚えた技で、それを弓花も教えられて使いこなしていた。どうやらジンライの見事な土下座も、イリアの指導によるものらしい。
(そういえば直樹の知り合いもイリアって名前だったっけ。この世界ではポピュラーな名前なのかな?)
たとえ流行りの名前であろうとあまり同時に出たり、話題に上がって欲しくもない二人である。イリアとイリアと名前が並ぶとか分かり辛いことこの上ない。
そして弓花は先ほど露店で買った肉串を最後まで口に入れると串をアイテムボックスに入れる。ゴミは持ち帰るという常識が弓花のなかにはあった。
ちなみにタツオがその弓花が食べてる様子をジーッと見ているのは姿は見えないが気配で分かった。なので買ったのは失敗だったなと購入後に気付いたのだが、後の祭りである。そして遠慮して食べないというのも気を使わせそうな気がしたので弓花は急いで食べたのだった。
なお、タツオの食事は現在も風音の竜気のみ。どうやら風音の因子も受け継いでいるので普通の肉も食えるだろうということだが、生まれて三ヶ月は与えるのは竜気のみである。その間は成長もしない。それは転生竜の儀式で得た魔力体を物質として安定させるために必要なことらしい。その後も食事は水晶化したものを与えながら、普通のものも食べさせる方針とのことだった。
「うーん。ま、風音も行っちゃったし、私たちは温泉にでも行こっかタツオ。風音もそのうち戻ってくるよ」
気を取り直して弓花はタツオにそう尋ねるとタツオも頷いた。
『はい。暖かいアレは好きです』
そのタツオの言葉に弓花はタツオの頭を撫でながら「んじゃあレッツ温泉」といいながら、本日の宿に向かっていった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・ドラグホーントンファー(未完成)×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:33
体力:135
魔力:260+420
筋力:57+20
俊敏力:52+14
持久力:33
知力:65
器用さ:41
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』
弓花「ご苦労サマー」
風音「うーん、疲れた。タツオを抱きしめたい」
弓花「残念。タツオなら私の隣で寝てるよ」
風音「なんだとー」




