第二百二十八話 義手をつけよう
さて、風音が制作したジンライの義手だが、その外見上は肩に赤い宝玉をはめ込んだ漆黒のガントレットである。それは黒岩竜の鱗と焦げ茶のベアードドラゴンの毛を使用しているために必然的に黒一色となっていた。肩部の宝玉はベアードドラゴンの竜の心臓だ。そして、専用の胸当てを身につけて固定して使用するタイプのものであった。
◎大竜御殿 中庭
室内だと危ないからと言った風音の指示に従ってジンライは中庭へと足を運んでいた。そして風音の指示に従って上半身の胸当てや服を脱ぎ、鍛え上げた上半身とそのちぎれた腕をさらした。後ろからルイーズの「キャアアア」という黄色い声が響いたが、わざとらしすぎて逆に引かれていた。
「痛みとかはもうないんだよね?」
風音が若干痛ましそうにもうない右腕の方を見ながら尋ねるがジンライはさばさばした声で返事をする。
「うむ。アストラル体ごと喰われたらしいからな。幻肢痛も起こらん」
この世界では、生命体は肉体とアストラル体の重なり合って存在している二重生命体だと認識されている。再生魔術などは例え肉体が破損しようともアストラル体の情報を元にある程度の再生を行うことが出来るのだが、そのアストラル体も一緒に奪われた場合、再構成に必要な情報が存在してないために再生が不可能になってしまうらしい。
そしてジンライはエイジに腕をアストラル体ごと喰われていた。だからジンライの腕を復活させることは出来ない。もっともジンライは特に気にした様子もないようだった。
「そんなことよりもさっさと試させてくれ」
ワクワク顔のジンライに風音は「へいへい」と言いながら、固定具でもある専用胸当ての下に身につけるためのアンダーシャツをジンライに着せてから、まずは胸当てを装着させる。
「むっ、こそばゆいな」
「じっとしててよね。よいしょっと」
風音がギュッとベルトを絞めると、ピッタリとジンライの千切れた肩を覆う形で収まった。そして風音は胸当てから肩の付け根を覆っている接合部にガントレットをはめ込む。
「ふむ。こうしてみると中々厳ついように見えるな」
ジンライはその漆黒の腕を見て、そう口にした。顔がニヤケているから、そのデザインが嫌というわけではないのだろう。ヒポ丸くんやサンダーチャリオットが好きなのだから寧ろ好みの部類のハズである。
「そんじゃあジンライさん。肩の竜の心臓に自分の魔力を送り込んで起動させてみて」
そしてジンライは言われるままに、竜の心臓に左手を当てて魔力を送り起動させる。竜の心臓と呼ばれる結晶が真っ赤に輝くと義手にその魔力が満ちていくのがジンライにも分かった。そしてその魔力が肩部内で術式となってジンライへと伸びていくのが分かる。
「カザネ、これは?」
その感覚に不安を感じてジンライは風音をみたが、風音は「大丈夫」と返した。
「ジンライさんの神経と義手の疑似神経を魔術で繋ぐの。アストラル体ではなく、実際の神経に疑似信号を送ることで動かすから本物の腕と同じように動かせるはずだよ」
風音の言葉はジンライには分からないが、しかし受け入れる覚悟を決めると、スンナリと魔術がジンライの中に通っていくのが分かる。まるで根を張るように浸透すると同時にジンライは義手に熱が宿ったようなものを感じた。
それはかつて感じていたものに近い感覚だ。肩から腕へ、腕から手のひらへ、手のひらから指先へと浸透していくような感覚があり、そしてジンライが恐る恐る義手の右手を持ち上げ、そして指を一本一本開いていく。
「ふむ。これはすごいな。まるで我が手のように動く」
実際に義手を使ってみたジンライは、そのあまりのすんなりとした馴染みの良さに感嘆の声を上げた。
そして興奮した顔つきで実際に槍を振るってみたが違和感はほとんどない。その義手の動きも魔力を通してジンライにフィードバックされているようで、ほとんど自分の腕のように振り回せることが出来ていた。
「おおお。すごいぞ、これは」
以前と同じように二つの槍を振り回すジンライは、あまりにも自然な動きに信じられないという気持ちでいっぱいだった。確かに腕をなくしたことは後悔していなかったが、しかしそれが間違いだと思ってしまえるくらいに、その義手はジンライにフィットしてしまった。
「若干、反応が良すぎる感じはあるが」
一旦槍を振るうのを止めてジンライは風音にそう感想を告げる。恐らくはダイレクトにジンライの意志を反映させすぎているのだろうと風音は考えたが、それ自体は悪いことではない。
「そこらへんは慣れかなぁ。鈍く調整も出来るけど、いざというときに反応できなくても困るし」
その返しに「ふむ」と答えたジンライは再度二本の槍を振るって、その動きを再度確かめ始めた。そのジンライを見て、弓花がゲンナリした顔で見ていた。
「え、なんで不満顔なの?」
腕がなくなって困っているであろうジンライのために作成した義手ではあるが、当然親友の弓花も喜んでくれると思っていた。だが、どこか自嘲気味の顔である。
「いや、師匠がまた強くなっちゃったなあって……えへへ……いや、いいんだよ、ホント。うん、師匠が遠くなってっただけだから」
そう遠い目をする弓花に首を傾げる風音だが、後ろからティアラがやってきてボソッと理由を話した。
「え、負け越してるの? 片腕のジンライさんに?」
風音もさすがに大きな声では返さなかったが、弓花には聞こえていたようで、よりいっそう沈んだ顔になった。
「なんでも、あのエイジという悪魔との戦いでジンライさんは何かを掴んだらしいのですわ。そしたらユミカが手も足も出なくなってしまって」
その言葉を聞いて風音は(そういえばジンライさんが二槍になったときも同じ感じで落ち込んでたなあ)と思い出した。その時には盾という手段を与えて希望を持たせられたが、今回はさすがに何も浮かばない。
「それと似たような理由で、ナオキも少しナーバスになってますわ」
「直樹が?」
風音がチラッと直樹を見る。今はライルと何かを話しているようだった。
「あちらもライルに負け越しているのですわ。ライルもカザネが指示した竜鱗の鎧と竜骨の盾を装備した途端に、強くなったみたいでして」
そちらはカザネにも理由が分かっている。元々避けるよりも受けて戦うのが本来のスタイルであるライルが装備の貧弱さから避ける戦いを今まで強いられていたのだ。それが本来の戦い方に戻ったために、己の能力が上手く発揮できるようになったのだろう。ちなみに装備の変更を指示したのは風音だが、実際には風音がジンライにアドバイスを受けて、そう提案したものであったりする。
そんなわけで残念組の弓花は顔を伏せたままであったが、ジンライは気にせず風音に尋ねる。
「ところでカザネよ。胸当てに絡み付くように付いてるこの細い足のようなモノなのだが、これ動くのか?」
「お、よく気が付いたねジンライさん。動けって念じれば動くよ」
風音の言うがままに、ジンライが頭の中でその足に対して「動け」と念じると、胸当てにくっついていた細い棒がその身を引き延ばしながら、関節を曲げて6本広がっていく。
「な、なんじゃ、これは?」
さすがのジンライもこれには驚いた。そして伸びた棒がワシャワシャと動く。それはまるで蜘蛛の足のような動きだった。
「おお、動く?」
ジンライが念じたままに、それは動くようだ。
「補助腕だよ。崖とか登れたり、高いとこから落ちたときにも助けてくれるよ」
「これは確かに便利ではあるが」
その奇抜な動きにジンライが驚きを隠せずに見ている。
「まあ、本来の用途は、地面に固定して『強力』な攻撃や『大砲』の衝撃なんかを受け流すためのものなんだけどね。あと、その爪先はクリスタルドラゴンの爪だから普通に攻撃力高いし、ジンライさんの努力次第だけど全部を自分の好きに動かして使うことも出来るよ」
「む、努力次第というのは?」
「ティアラのフレイムナイトみたいなものだよ。腕がプラス6本になったんだから、実戦で使いこなすにはそりゃ神経使うよ」
風音の挑発にも近い言葉にジンライはウヌヌと唸る。後ろで弓花が「二本でもキツいのに八本とか無理だから」と泣きそうである。なんだかエロい話に聞こえるがエロい話ではない。エロい道具としても使えるだろうが、おそらくジンライは触手プレイはしないだろう。弓花にはしないだろう。シンディには分からないが。
「ほかにもいくつかの機能があるけど、とりあえずはそれに慣れてもらってからの方が良いかな」
「ふむ。まあ、そちらも気になるがとりあえずはユミカよ。ここはひとつ手合わせしてみるか」
ホクホク顔のジンライに弓花が「えー」と声を出しながらも、渋々立ち上がる。弟子としては師匠の言葉には逆らえない……ということもあるが、弓花もその義手には興味がある。或いは使い辛くて弱体化している可能性もある。
(まだ慣れてない状態ならば私にも勝機がある!)
キラーンと弓花の目が光る……が、それが希望的観測に過ぎなかったことを弓花は十分と経たずに知るのであった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:32
体力:124
魔力:235+420
筋力:55+20
俊敏力:50+14
持久力:32
知力:62
器用さ:39
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』
弓花「補助腕の説明に凄く不穏な単語が入ってた気がするんだけど」
風音「気のせいじゃない?」




