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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
幕間

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女王の考察

 さて、風音たちが去った王城デルグーラではあるが、ユウコ女王は翌日には再び目覚めたものの、ボルトア大臣ら文官派らが好き勝手に動き回ったことの後始末をせざるを得ず多忙を極めることとなる。

 そもそもの首魁のボルトアがいつの間にやら消え去ったことで文官派の結束と同時に指示系統も消えてしまい収拾の付きがたい状況になりかかったが、ゆっこ姉が弱みを握っている文官派の人間をすべて脅しつけてコントロールすることで、どうにか事態を収めることに成功したのである。

 また一度は外された自分の配下の王宮騎士団を戻すことに関しては、それほどの労力は必要とはしなかった。貴族の息子たちで結成した綺人騎士団の城内での狼藉は隠しようがなく、拐かされようとした侍女とそれを護った兵と諍いを起こしている最中でもあったのだ。綺人騎士団はすぐさま解散。狼藉を働いた者は皆貴族の息子たちであり、彼らの首をはねるか否かはゆっこ姉の判断次第であり、貴族たちへの良い牽制材料となった。

 問題があったのはディオス将軍だ。

 彼は元より秘密裏に投獄された。そのため状況そのものが表には知られておらず、罪状を白紙にすることでその復帰自体は難しくはなかった。だが別の問題が発生した。ディオス将軍を秘密裏に処分しようと裏で手を引いていたのが、文官派の中でも特に有能な者たちのグループであったのである。

 そうした連中であったからこそ、ディオス将軍を投獄も出来たのであろうが、彼らは反女王の立場であってもその能力は高く、得がたい人材でもあった。目を光らせておけば無能な味方の十倍は働くので便利ではあったが即位時より軍と密接な関わりを持つゆっこ姉がこれを見逃すわけには行かず、処刑せざるを得なかった。

 もっともそれらの状況に至るまでには、まだいくばかりかの時を必要としていたし、ユウコ女王が目覚めてから最初に悩ませたのはアオからイリヤに預けられていた、東の竜の里の悪魔襲撃のレポートであった。



◎王都シュバイン 王城デルグーラ 来賓室


「まったく頭の痛いこと、この上ないわね」

 そう言ってゆっこ姉は久方ぶりの紅茶だというのに、それを楽しめない状況に苦笑していた。

「やっぱり面倒なことになってるっすか?」

 そう尋ねるのはアオの姿をしたイリアだ。彼女は現在、変化の術で西の竜の里のアオとしてこの王城デルグーラに滞在しており、今はゆっこ姉と会見を行っていることとなっている。明け透けな性格でもあるイリアは普段のゆっこ姉の相談相手でもあった。

「なっているわね。東の竜の里を襲ったのは、憤怒イラのジルベール、ゼクウを名乗るエルフの老人、今は亡きレイヴェル王国の元国王 白王ユキト、そしてエイジという少年型の悪魔と、黒い魔物たちだそうよ」

「エイジというと女王様を倒した子供っすね」

「不意打ちでね」

 ゆっこ姉が眉をひそめながら、そう返す。不意打ちとはいえ負けは負け……というのはゆっこ姉にも分かってはいるが、そこは意地である。

強欲アワリティアのエイジ、傲慢スペルビアのディアボ、怠惰アケディアのゾアラル、 嫉妬インヴィディアのゴーア。憤怒イラのジルベールを加えれば七つの大罪が5人か。ゼクウという老人はともかく、白王ユキトは悪魔王と呼ばれていたのだし、残り二名に含まれているかは微妙ね」

「なんなんすかねえ、七つの大罪って。なんか悪い連中っぽいっすけど」

「私は映画のタイトルの元ネタだってくらいしか知らないわよ。まあ悪魔は元々警戒対象で今回はうちの大臣にとり憑いてたみたいだし、国としても敵認定には出来るけど、ゼクウという老人については面倒な感じね」

 そういうゆっこ姉に、イリアが身を乗り出して尋ねる。

「悪魔狩りの一番偉い人っすか。でも悪魔狩りを調べることは出来ないっすよね?」

「難しいわね。冒険者ギルドと同じように複数の国を渡って協力関係にあるところだもの。本拠もアモリア王国にあってこちらから手が出せないし、下手をすればうちだけが協力関係からハブられて終わりになりかねない」

「ま、あの悪魔狩りの連中は病的なほどに悪魔狩りに命懸けてるっすからねえ」

 キャンサー家を中心とする本家と、悪魔に対して恨みなどの敵意を持つ者たちの集団である分家によって構成されている集団だ。それに悪魔を使ってますかと証拠もナシに尋ねるのは難しい。ましてや反キャンサーに近いルイーズの言葉である。泥沼の言い合いで終わりだろう。

「そうよねえ。だとすれば、このレポートにあるルイーズという人が嘘を付いてる可能性はある?」

 ゆっこ姉の質問に、ルイーズとパーティを組んでいたイリアはうなる。そして情を交えず、己の認識をそのまま口にする。

「可能性はあるっす。ルイーズ姉さんは実家を毛嫌いしてたんで、陥れられるなら積極的にやるかもしれんすね。でもそれにしては、中途半端すぎる気がするっす」

「でしょうね」

「それと、悪魔狩りの連中が実は悪魔の手先でしたってオチはあっしには信じられねーっすね。連中ほど悪魔を毛嫌いしてるのなんていないっしょ」

 イリアの言葉にはゆっこ姉も同意する。悪魔狩りの面々をゆっこ姉も見たことがあるがどちらかといえば悪魔狩りにすべてをかける狂信者に近い集団だ。

「それは同感するわね。であれば、上の少数か、もしくは横流しされてるのか。そもそもゼクウというエルフの老人というのがブラフなのか……という問題もあるわね。そもそも悪魔たちの活動がミンシアナ内でないなら、こちらは動けないという弱みもあるし」

「だからって諦める気はないんすよね?」

「当然ね。私とジークを狙った連中よ。必ず追い詰めてやるわよ」

 その瞳には凶暴な色が宿っている。

「問題なのは連中の狙いよ。エイジの言っていたディアボという名前には聞き覚えがあるわ。確か、風音たちが倒した、ツヴァーラのルビーグリフォンを狙っていた悪魔だったハズよ」

 ディアボの件についてはツヴァーラとは協力関係にある。

 ティアラをさらって売り飛ばす先だったらしい娼館もすでに取り潰しになっている。そこから発見され救出された女性達の身分にいろいろと問題があり過ぎて、現在揉めている最中でもあったりするが。

「ディアボの例を考えれば、今回の悪魔の本当の目的は国の乗っ取りではなく白剣と使い手だったのかもしれないわ」

 それはつまりジークが狙いの本命であった可能性もあるということだった。

「狙われたのはナーガラインと接続できる守護兵装ってことっすか。となると他の国も何かしらやられてる可能性もあるっすね」

「それにハガスの心臓……黒竜ハガスのダンジョン出現に関連したものかもしれない」

 ではそれらを使って何をするのか。そして何が狙いなのか。実はゆっこ姉にはひとつ推測できることがある。

(問題は何に使うのか……いや、使う『相手』が何なのか)

 レポートにはエイジたちはこの世界の主役は自分たちだと言っていたとある。

(プレイヤーという視点に立って考えたとして、ラスボスの魔王の撃退は千年前に行われているのだから)

 それの再現というのも守護兵装を必要とするとは思えない。そもそもラスボスの魔王の撃退レベルは平均で80から90ぐらいだったハズである。現時点でのゆっこ姉だけでも倒せる相手なのだ。

(もっと上の相手、少なくともこの世界で倒したという記録の残っていないイベントボスの『アレ』が本当にこの世界にいるとすれば……)


 オープンワールドRPGであるゼクシアハーツは、冒険者ギルドを通して他のプレイヤーを雇うことでオンライン上での協力プレイを行うことが可能だが、それ以外にこのゲームの売りのひとつとして攻城戦やイベントモンスター戦などの大型イベント戦闘も存在していた。そしてこの千年の間にイベントモンスター戦のボスクラス魔物は実は三体を除き、討伐されて記録に残っている。


 うち残っている一体は黄金剣を持ちしクリスタルドラゴン、つまりは現時点における神竜帝ナーガである。彼の率いる竜の軍勢との戦闘がゲーム中では発生していたが、この世界における竜族は人と和解し現在に至っている。


 そしてもう一体は世界最大級のゴーレム、クリカラの巨岩男。現時点ではA級ダンジョンと化し世界をさまよう歩く災厄とも言われている存在だ。

 

 最後の一体は、千年経った現時点においても所在不明の存在。もっとも多くのプレイヤーを苦しめた奈落の王『深淵のアバドン』。


(ナーガ様は元より問題はない。クリカラの巨岩男も退治されるだけならば寧ろ害がなくなるだけ。でもアバドンは不味いわね)

 設定通りの状況になるとすれば、その被害は極めて甚大だ。

 ゆっこ姉は己が推測がただの推測で終わればと願った。


 『深淵のアバドン』の召喚。それはラスボスである魔王が、プレイヤーに倒されてなければ……というifの産物。魔王に支配された一国そのものを贄として呼び出される悪魔の神なのである。


 実際のところ、ゆっこ姉はこの世界をゲームのその後の世界であるとは見ていない。まずゲーム内のフィロン大陸とは面積からして違う。この世界が100人の村であったならば……とまではいかないが、規模については随分と拡大されている。

 また、すでに1000年経っているから国などもかなり違う……と思いきや、1000年前の世界の記録を見たところ、その頃でさえ相違点はかなり大きく、途中では挟まれるイベントなどで無理矢理辻褄を合わせている……という感じが漂っていた。

 これが現代では尚更である。魔術や戦闘などはゲームに酷似している部分もあるが、それぞれが正しく体系化されて、まるで結果だけが一致しているだけに見えるが、恐らくはソレも1000年前がゲームと最大限に一致していたのだろう。今ではまた独自の体系化も進んでいる。

 風音はグリモアで覚えた魔術をカスタマイズして強力な術として使っているが、実のところ威力を考えなければ、いろいろと応用が利くことも多いのに風音はウィンドウの機能に沿ってしか魔術を使えていない。弓花は師匠であるジンライの指導の元でウィンドウの機能に頼らず、正しい意味で自らのスキルとして身につけているようだった。極めるという観点で考えた場合には弓花の鍛え方の方が正解である。ウィンドウは便利だが、ウィンドウの仕様に沿う必要があり、応用性という点については堅い部分も多い。

 そしてこの世界をゲームのようなものとプレイヤーに誤認させている最たるものはウィンドウだ。まるでこの世界がゲームと同じだとでも言うようなゲームのメニューウィンドウと同じような機能を持った存在。

 だから、それと同じカテゴリにあるだろうアバドンというボスも存在はしているとゆっこ姉は考えている。ゲームに関連する部分だけ、奇妙な人為的な力を感じるのだ。

(神様に何度か尋ねてはみてもはぐらかされるし、元の世界の穴のこともあるとなると本格的に気にはなってくるわね)

 そう心の中でぼやくゆっこ姉は、考えに没頭して、イリアのことを忘れていたことを思い出した。


「あ、ごめんなさいね。少し考え事を」

 そういうゆっこ姉にイリアは大丈夫と返した。

「いつものことっすから、気にしてないっすよ」

 女王と配下の関係ではあるが、この気軽な女性はゆっこ姉にとっては友人でもある。それを非道な目に遭わせた悪魔たちを許す気はゆっこ姉には当然ない。

「まずは連中の目的ね。後はどうやって皆殺しにするか」

「物騒な単語が出てるっす」

 若干引き気味にイリアが口にする。

「そういえば、カザネっちに助けられるちょっと前なんすけど」

「何かしら?」

「一瞬とんでもない殺意がよぎったと思えば、すぐさま消失したんすけど、あれなんだったんすかね。多分カザネっちのしたことだと思うんすけど」

「あれは『極大殺界』ね、多分。威力が凄まじかったけど」

「なんすか、それ?」

「術者の殺意の固まりで周囲を取り囲んだ空間を造って、敵を逃がさないようにする結界。内部の敵は殺意を常に向けられて、動きが鈍くなるそうよ。アストラル系の敵には効き辛いけど」

 ゆっこ姉も、ゲーム以外ではその術はみたことがない。それは現代の魔術からは消滅した『邪なる神術』と呼ばれるものだ。

 ただ、『極大殺界』発生時に周囲に殺という漢字のエフェクトが飛び散るので、恐らくは最初に感じた殺意はそれを表したものだったのではと考えていた。

「ジークがあれを使えるわけがないし、セカンドキャラ、多分あれが達良ちゃんの言っていたヤツか」

 実のところ、達良はゆっこ姉に風音のセカンドキャラクターの存在を知らせていた。

 当時の中二の頃の風音の情緒は不安定で、ファッションと言って眼帯をしたり、周りから「大丈夫?」と言われまくって外したり、カッカッカッカと笑い声に個性を付けようとして「大丈夫?」と心配されたり、「のじゃー」と語尾を変えてみたら「大丈夫? 頭打った?」と心配されたり、カラコンを買って片目だけに着けたけど二回ぐらい着けたらめんどくさくなって以後放置したり、お爺ちゃんを大量に引き連れてハーレムを気取ったり、お爺ちゃんがノリノリすぎて逆に風音が引いたり、宿題を「さぼってやんよ」と言ってやってなくて泣きながら放課後残されてやらされたりと、やりたい放題だったのだ。あまりやりたい放題ではなかった気もするが気にしない。油性ペンで黒い竜を右手に書いて絵心がない自分に号泣し、泣きながら「消えないんだよー」と洗面所でゴシゴシしてたら腕が真っ赤になって翌日涙目で包帯巻いて学校行ったら「KOKURYUとか中にいるの?プークスクス」と笑いながら尋ねた弓花にパンチをくれてやったりした辺りはやりたい放題っぽかったかもしれない。弓花はその後一週間は口を聞いてくれなかったが。

 そんな中二真っ盛りの風音が突然「世界を花で満たす」と言いながら、ゼクシアハーツで別のキャラを造って和平ルートを目指し始めた時期があった。いつもと違う別の不審さを感じたゆっこ姉はそれを達良に相談していた。

 風音に土下座されて事情を知っている達良としては、あえて黒歴史を掘り下げるよりはと、ゆっこ姉にチートの件も含めてある程度のことを話し、このまま様子を見てくれとお願いしていたのだ。そして今問題なのは風音が、そのチートを使うキャラを扱えているようだということだった。

(あれがそのまま使えるとなると、あのこ、無敵じゃないかしら?)

 主に性格的な面で使い辛いのだが、そんなことはゆっこ姉も知っているわけもないので、気軽に考えていた。

 そして意識が風音に移ると、途端に昨日のメールの件を思い出す。そしてゆっこ姉は風音に対して、「メールの件については顔を合わせたときにゆっくり話しあいましょう」と書いて風音に送った。

 親友として、一児の母として、そして同じ母親同士として、風音にはちゃんと教えておかなければならないこともあるとゆっこ姉も考えていたのである。


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