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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
眠りの女王編

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第二百十八話 鬼に反撃されよう

◎ミンシアナ王国 上空


 今日も今日とてドラゴンのアオに乗っての風音親子の旅は続く。


「うがががが……」

 そして風音は死にそうであった。その理由は筋肉痛である。風音の全身がビキビキいっている。

『母上、大丈夫ですか』

 タツオの心配そうな顔に風音は「大丈夫」と頭を撫でる。何しろ今はもう筋肉痛だけである。何も問題はない。

『やはりあの鬼との戦いは危険ですね。まさかあそこまでやり切るとは思いませんでいた』

 そう口にするアオだが、彼は彼で頬の横が焦げていた。

「まあ、相棒だしね。喧嘩だってするよ。ま、あれほど暴れるとは思わなかったけど」

 そう口にする風音は身体こそ今は元通りだが、昨晩の特訓ではひどい有様だった。それは狂い鬼との実戦訓練の結果であった。そして結果として勝利こそしたものの戦闘後はズダボロだったのだ。



 それは昨晩のミンシアナの夜の森、風音が出したコテージの三階でのことだ。

 最初に風音が呼び出したとき、狂い鬼は静かだった。黒岩竜の鱗と同等の堅さを持つ隆々とした筋肉で全身を覆い、その両腕と両足に黒岩竜の爪を生やした漆黒の巨人は、その場で黙って仁王立ちをしていた。

 その姿は800年を生きた成竜を経て神竜の域に入っているアオですら脅威を感じるほどの威圧感があったが、しかし狂い鬼は風音の言葉に従っていた。表向きは素直に頷き、練習試合に応じる姿勢だった。そう風音は理解していたし、アオにもそう見えていた。

 だがそれはあくまで表面上のことだ。狂い鬼から風音の命令はどう映ったのだろうか。目の前でへらへらと笑いながら軽く小突き合うなど言われて、果たして狂い鬼がそれを良しとするのだろうか。否、するわけがない。戦うための種族に下らぬことを望む主に怒りを覚えないわけがない。

 それに風音が蹴り技のみで挑もうとしたのも狂い鬼の琴線に触れたのだろう。たかだか一日程度覚えただけの緩い技で、自分に挑もうとする者に狂い鬼が果たして言われるがままに相手をするだろうか?


 否である。断じて否である。


 狂い鬼は風音を認めている。だからこそ召喚が可能になったのは違いない。しかし、それは強さがあってのことなのだ。ぬるま湯に浸かりきった主など狂い鬼には不快な存在でしかないことを風音は理解していなかった。

 だから、狂い鬼はそれをぶち破ったのである。試合開始を宣言する直前に、不意の一撃を喰らわせて風音を弾き飛ばした。その拳を風音がとっさにドラグガントレットで受けていなければ、確実に内臓が潰れていただろうし、その手甲が黒岩竜の鱗でなければ腕ごと持って行かれただろう。それを見たアオが飛び出そうとするが、しかし遅い。あるいは狂い鬼が速すぎた。

 訓練場の壁に叩きつけられた風音が次に見たのは足の裏だ。ガードの上にぶちかまされて、そのまま壁を崩されて、外に投げ出された。さらに狂い鬼はそのまま風音を追って、外へと飛び出した。

 その姿を見た風音がとっさに全周囲型マテリアルシールドを放つが、狂い鬼は発生した不可視の衝撃波を勘だけで竜爪で切り裂いてしまった。それには風音も驚愕するが、しかし風音は空中跳びで体勢を整えようと宙を蹴って、跳び上がる。しかしそこに狂い鬼のかかとが落とされた。『直感』と『空中跳び』で直撃を逸れたものの掠めただけの左肩が切り裂かれた。

 その痛みに風音は悲鳴をあげそうになるが、だが現在の風音は三階から投げ出されて空中にいるのだ。そのまま地面に激突して動きを止めれば確実に殺される。故に落下する直前にマテリアルシールドを放って落下への衝撃を和らげ、『身軽』のスキルで受け身を取った。が、しかし頭上からは狂い鬼が迫っているのだ。その上空からの脅威に風音が歯を食いしばる。『直感』でも防げる未来はない。だから、そのまま狂い鬼は落下の勢いに任せて拳に生えている竜爪で風音の心臓を抉った。


 その光景にアオとタツオの叫び声が夜の森に響いた。が、しかし現実は変わらない。召喚体の暴走により術者が死んだ。そんな良くある結果が目の前にあり、そして狂い鬼が勝利の雄叫びをあげようとした直前に、


 狂い鬼の右腕が飛んでいた。


 それにもっとも呆気に取られたのは狂い鬼だろう。何しろ心臓が刺された筈の風音が、目の前にいたはずの風音が、迎撃態勢を整え、竜爪を脚甲から解放して蹴り上げていたのだ。

 狂い鬼の攻撃は防げない。ならば防がない。『直感』は告げていたのだ。『致命の救済』という絶体絶命の一撃を因果律を歪めて防ぐスキルのことを。かつてディアボが持っていたスキルが使用されることを告げていた。故に風音は一度は死ぬことに身を委ね、その次を考えて動いていた。

 そして狂い鬼の一瞬の隙を突いた一撃は、完全に風音の意志を反映させていた。狂い鬼の肉体は黒岩竜の鱗に等しい防御力を有している。例え同じ黒岩竜の爪とてそう易々とは切り裂けない。だが付け根となる関節部分はわずかに柔い。

 そして狂い鬼の右腕はなくなり、風音はリジェネレイトのスキルで回復中。もっとも、この近接した状況では溜め系のスキルは使えないし、カザネ・ネオバズーカなど出せるはずもない。『致命の救済』も日付制限のスキルで7日は使用できない。

 なお既に体勢は整え直し、いつでも狂い鬼の召喚解除も可能な状態だ。だが、ここで召喚を解除した日には狂い鬼は永久に自らの前には出てこないと風音は相手の目を見て悟った。狂い鬼の主であるためには強者でなければならない。それを示すよう求められている。

 そして三階にいるアオは飛び出すか否かと考えていたが、風音に召喚解除の意志なしと悟るとその場で見守ることを決めた。タツオもアオの横で母親の姿をジッと見ていた。バッサバッサと翼をはためかせてクエーと叫ぶ。

 それからの攻防は一時間は続いた。『身軽』と『直感』のスキルを駆使してクリーンヒットを避けながら、傷つきながらもリジェネレイトで回復し続ける風音だったが、狂い鬼の筋肉の壁は厚い。風音のリジェネレイトほどではないが、狂い鬼にも『超回復』というスキルがあるため、多少の攻撃では回復されてしまう。かといって風音に即効性のある攻撃手段はない。体力と防御力を突破出来ないと起こる対竜戦での泥沼の状況に風音は陥っていた。


 であれば、どうするか。 


 風音は賭けに出た。小刻みに回避しながら狂い鬼に蹴りを入れる。左腕でガードされたが、関係はない。当たればよいのだ。そして空中跳びで一段上がって再び右の蹴りを放ち、続けて左、空中跳びによる空中固定による連続蹴り。煩わしそうにそれを振り払おうとする狂い鬼を、しかし風音が『身軽』スキルでその腕の中へとスルリと入り、近距離でのマテリアルシールドを放つ。


 そこで狂い鬼がそれに気付いた。威力が違うと。


 だが風音は止まらない。体力も限界に近い。ならば集中。これを繋げるためにすべての力をそそぎ込む。

 マテリアルシールドで弾いた狂い鬼を風音はそのまま迎撃する。呻く狂い鬼が放つ蹴りを風音は自らの足で蹴り止める。それにも狂い鬼は驚愕した。なぜ小さき主の身体で、自らの蹴りが同じ蹴りで止められるのか。

 その疑問に風音が答えるはずもなく、そのまま狂い鬼の足を踏み蹴って頭上にあがり、頭頂部に踵落としを決めると、続けて背面へと跳び降り、再度近距離でのマテリアルシールドを放つ。ゼロ距離マテリアルシールド、それは威力こそ必殺ではないが、相手を崩すには有効な攻撃だろう。しかし風音のユニークスキル『キックの悪魔』のコンボによるダメージ増強が効いている今ではまるでハンマーで打ち付けられているような衝撃が発生している。

 そして風音には、この先に続く流れが読める。どうにか風音の勢いをそごうと、姿も見ずに放つ狂い鬼の裏拳を風音はバックステップで避けて距離を取る。

 『キックの悪魔』のコンボはここで切れるが、仕方がない。今はまだ風音にはあの距離での決め手がない。だがこの距離ならば違う。


 そして狂い鬼は見た。地面から盛り上がる巨大な腕を。ストーンミノタウロスがせり上がり、狂い鬼を襲う。もっとも所詮は土塊、猛る鬼を止めるほどの力はない。上半身までの状態で狂い鬼に掴みかかるストーンミノタウロスを相手に狂い鬼が猛然と立ち向かうが、だがそれは囮だった。


 風音にとって重要なのは、狂い鬼の居場所を固定すること。そして時間を稼ぐこと。ストーンミノタウロスはそれを見事に完遂し、そして砕け散る。


「スキル・チャージ・キリングレッェエエグ!!!」


 主の叫び声と共にストーンミノタウロスの胸から風音が蹴り飛び出し、カザネ・ネオバズーカが狂い鬼に直撃する。

 そして渾身の力を振り絞って狂い鬼を貫通し、その身体を粉々に破壊する。これ以上ないかというぐらいに狂い鬼を打ち倒したのである。


(いやー最後は納得してくれたみたいで良かったなあ)

 昨日の戦いを振り返りながら、風音はそう思う。散り際の狂い鬼が満足そうな顔でこちらを見ていたのだ。そして今も『竜鬼の甲冑靴』から進化した『竜喰らう鬼王の脚甲』からは満ち足りた気配が漂っていた。

『母上、まだ痛みますか』

 物思いに耽る風音にタツオが心配そうに尋ねる。

「ううん。大丈夫だから。お母さんは元気だからね。タツオも疲れてるんだから今はゆっくりしてなさい」

 風音はそういってタツオの頭を撫でる。そしてタツオは気持ちよさそうに目をつぶってゴロゴロと風音にすり寄る。

(あーもう。とんでもない親子ですねえ)

 そして自分の背中でのんびりしている親子の様子に疲れた顔のアオがため息をはく。

 実は結局狂い鬼との戦いに終始して終わった風音の特訓の後に、アオがタツオの手ほどきをしたのだ。正確にはしようとしたのだ。そして喰らったのである。タツオの『メガビーム』を。

 とっさに横に逸れたおかげで助かったが近距離で放たれたのだ。その際にアオの頬をメガビームがかすめていた。下手をしたら死んでいただろう。

 風音曰く、風音のメガビームはさらに出力が高いとのことなので、タツオのはその身体の分威力が小さいのだろうが、しかし魔力を大量に消費したのは違いなく、タツオもグロッキーになり、その日は解散となったのだ。

 アオは自分の背でのんびりする親子のことを思いながら、将来のことが怖くなったという。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器・虹のネックレス・虹竜の指輪

レベル:32

体力:124

魔力:235+420

筋力:55+20

俊敏力:50+14

持久力:32

知力:62

器用さ:39

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』


風音「衝撃の事実。ノータイムで放てる決め手が私にはない」

弓花「メガビームがあるじゃない」

風音「アレ、威力デカすぎる上に反射されたら私が即死しちゃうからなあ」


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