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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
幕間

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224/1136

白き一団の午後

◎大竜御殿前広場 昼


「姉貴、行っちまったな」

 そう言って直樹は姉の過ぎ去った空を見ていた。すでにナーガたちは御殿に帰り、ルイーズや弓花、ティアラ、ジンライにエミリィもドラゴニュートシティへと戻っていった。この場にいるのは少し残ると言った直樹と、その直樹に付き合っているライルだけである。

「どうしたよナオキ。姉ちゃんがいないと寂しいってか?」

 ひとりたそがれている直樹にライルが軽口を叩く。

「ま、な」

 冷やかし混じりのライルの言葉に直樹は寂しそうな顔をして答える。それはライルが昔、この白き一団に入る前に時折見た直樹の顔だった。

「なんだよ。少しマジ入ってねえか?」

 その直樹の顔を見てライルが心配そうに尋ねる。

「まあな。でもお前だって結構キツい顔してるぜ?」

 直樹からすればライルの方こそいつもとは違う顔をしているように感じられる。先の戦闘では直樹も死にかけたが、目の前の親友もかなりやられたらしいというのは聞いていた。

「うーん。あの黒い魔物との戦いでさ。カザネから借りてるタツヨシくんをかなりヘコませたんだよ。俺を庇いすぎたのが原因なんだけどな」

「まあ、姉貴はそれぐらい承知でお前に貸したとは思うけどな」

 その直樹の言葉にライルは頷いた。

「ああ、問題ないって笑ってたよ。俺が生きてるんならそれで良しってな。だけど、それじゃあ俺が納得行かねえよ」

「分かるけどな。俺なんてここ三年で集めた魔剣がまるで玩具みたいに壊されたし」

「残念だったな。修復は出来るのか?」

「可能だって言われた。だけど止めた」

「なんで?」

 予想外の返答にライルは首を傾げて尋ねる。それに対して直樹は真剣な眼差しで答えた。

「今のままじゃやっぱり俺は強くなれない。数をそろえてもあの様だ。だったらもっと強力なのを手に入れて、それを極めていくしかないと思ったんだよな」

「新しい魔剣か。確かカザネがお前用に作ってるクリスタルドラゴンの角のヤツだっけっけ?」

 ドルムーの街で作成してもらっているという話だったはずだとライルは聞いていた。

「それもあるけど、これからドラゴニュートシティの武具屋で一振りもらうことになってる。今回の悪魔騒動で壊れた魔剣の代わりにってビャクさんに言われてさ」

 そう言って直樹が立ち上がる。

「そんじゃ俺も付き合うかな。ちょうどいいし」

「お前もなんか用事があるのか?」

 直樹がライルに尋ねると、ライルが頷いた。

「昨日、ベアードドラゴンの素材のうちらの取り分が届いたんで、そいつを武具屋に持ってくようにカザネに言われてるんだよ」

「姉貴に?」

 直樹が訝しげに尋ねる。というかお前はいつひとの姉とそんなに話してるんだと小一時間問い詰めたい気持ちがわき上がる。実のところライルはカザネと結構馬が合い、直樹の抹殺対象リストに入りかけているのだ。

「カザネが俺の鎧を見て、もっといいもん使えって言ってきてさ。黒岩竜の鱗と一緒に、ベアードドラゴンの毛を組み入れた鎧を作ってもらう予定なんだよ。あとカザネの頼みもんも一緒に持ってくんだが」

 もはや限界といった軽鎧を見ながらライルが答える。

 それはこの白き一団に入る前から身に着けていたものだが、ここ最近の連戦もあっていよいよ限界に近づいているようだった。

 そして今のライルにとっては防御力強化は確かに必要なことだった。竜牙槍を手に入れてからというものライルは前線に立たされることが多くなっている。この槍でないと傷を付けにくい相手が増えたために、今まで以上に矢面に立って戦うケースが増えているのだ。そしてまだ若く経験も不足のライルは直撃こそ少ないもののダメージを受けやすい。またさきほどは口にしていないが、弓花と同じ黒岩竜の骨の盾も作るようにも指示されている。今のライルに求められるものは防御力だと風音は口にしていた。

「このパーティに入って装備品の重要性はよく分かったからなあ。遠慮せずにやれることはやっておこうって思うわけだ。俺としてもな。うん」

 いつの間にやら直樹のことではなくライルの話に変わっていたが、直樹としてはたそがれていた理由はあまり人に触れられたくはない部分でもあるし、話が逸れたことには万々歳であった。だが、別の爆弾が親友の口から投下される。

「ああ。そういや、お前、ルイーズさんと何かあった?」

「ハ、ナニカトハ?」

 親友のその唐突な質問に思わず直樹の顔が固まった。

「いや、昨日辺りからルイーズさんのお前を見る目がどこか違う気がしてだな……ってなんで、そんなに目を反らす?」

「キノセイデスヨ、マジデ」

 その顔を見てライルは悟った。この男『ヤッタな』と。

 戦慄するライルにあくまで無視を決め込む直樹。男の友情に若干の陰りが見えた。そんな午後であった。



◎ドラゴニュートシティ 喫茶ナーグラジャ 夕方


「えーここ数日のルイーズさんの直樹を見る目が妙に優しくなった件について」

「ああ、やっぱりエミリィもそう思うのですね。わたくしもどこか変だとは思っていたのですが」

 ドラゴニュートシティ内の喫茶店ナーグラジャ。そのラウンジでは先ほどから少女たちによる会議が始まっていた。お題はルイーズの直樹に対する心境変化である。

「うん。だってあからさまに変わってるじゃん。前まではカザネの弟ぐらいにしか見てなかったっていうか、興味ありませんって感じだったのに、妙に女の目線って言うかそんな風に直樹を見ている気がするんだよねえ」

(あー、さっぱりしていて美味しい)

 ふたりの会話がヒートし続けている中、弓花はひとりチューチューとストローで果実水を飲んでいた。どうやらふたりの会話の中心は直樹のようである。その話になると弓花は口を割って入れない。弓花も直樹のことを人一倍分かっている自負はあるので色々とつっこみたいことは多々あるのだが、ブッチャケどうでもいいというか、会話に巻き込まれたくないので弓花は敢えて現実逃避の道を選んでいた。

(早く終わんないかなー)

 どちらも直樹が好きなのに、どちらも遠回しに話をしてるから尚更面倒なのだ。そうボーッと考えていたらいつの間にやら目の前にふたりが身を乗り出していた。


「それで弓花はどう思うの?」

「ルイーズさんおかしいですわよね?」


「え? 何が?」


 本気で聞いていなかった弓花に、ティアラが頬を膨らませて先ほどまでの話を繰り返す。

「ルイーズさんが最近ナオキと仲が良いのではないかということです。ユミカだって気になるでしょう?」

「あーそうねえ。まあ少しはね」

 そう口にする弓花だが、弓花は悪魔襲撃の夜に直樹とルイーズが夜の稽古をしていたことを知っている。風音から愚痴で聞いてたし、ルイーズからも神狼化したときに臭いで気付くかも知れないけどー……と最初に前置かれていた。ルイーズは弓花が直樹となんでもないと分かっているのでその点は明け透けだ。

「もしかして治療したときに話があっちゃったとかそういうことがあったのかもしれないなあ」

 目の前の二人には真実は刺激が強すぎるかなあ……と思いつつ、適当に話す弓花にティアラとエミリィはうんうんと頷く。

「なるほど、それですわ」

「くっ、やっぱりナオキのことよく見てるのねえ」

 ふたりの視線がどこかライバルを見るようなものになって弓花を貫く。

(いや私を敵視してる間にきっちり食われちゃってるんだけどねえ)

 今回の件に対してどちらがプレデターだったのかまでは弓花にも分からないがともかく自分は無関係。そう言いたいが、だが仲間として話を進めている以上はそうも言えない。ただため息は出る。

 今はもう弟のようにしか見れないかつての彼氏に直接苦情をぶつけてやろうかなーとか思いつつも、ふたりの愚痴を右から左へと流しながら弓花は果実水をチューチューと飲み続けた。



◎ドラゴニュートシティ ドラゴンファイア酒場 夜


「また先に逝かれちゃったわね」

 チンッとテーブルの空席に置かれている酒の入ったグラスに自分のグラスを軽くつけてから、ルイーズは一気に酒を飲み干した。

 そしてジンライも左手でグラスを持って、ルイーズと同じようにしてから酒を飲む。ジンライはどちらの手でも槍が扱えるようにと生来の右利きを両利きに矯正してあるために、左手でも普通に食事もできるようだった。

「ワシよりも早く亡くなるとは思わなかったがな。馬鹿者が」

 ジンライが寂しそうにそう呟いた。

「本当に完璧な擬態だったわ。正直いつ変わったのか分からなかったもの」

「北の封印宮からライエルの亡骸が見つかったそうです。おそらくはデイドナの街ですり替わったんでしょうな。あの悪魔を捕まえたってのが恐らくは誘導だったのでしょう」

 ルイーズの言葉にジンライがそう返す。ハイヴァーンの冒険者ギルドのギルドマスター ベンゼルは行方不明、その騎竜ライエルの死亡は確認された。だが状況からいえばベンゼルは既に死亡し悪魔に取り込まれたと考えるしかなかった。

『それ以前かもしれぬがな。悪魔小僧が変化していたのだそうよな?』

「ま、そうだとしてもここまで気付けないってのはね。ライエルが離れた隙を狙ってすり替わったと考えないと。正直ライエルの竜騎士契約まで誤魔化せてたって言われたらお手上げよ」

 実際のところ、彼女らのデイドナの街ですり替わったという推測は正しかった。ライエルがいなかったのを狙ったというのもまたその通りである。ただし、完全ではないとはいえ竜騎士契約を誤魔化せてもいたという事実までは当然彼女らは知らない。

「悪魔小僧、エイジと言ったか。ま、次に会えばワシには分かります。ベンゼルの仇も取ってやりましょう」

 ジンライがグラスに酒を注ぎなおしながらそう告げた。

「あれだけ完璧な偽装を分かるっていうの?」

「ええ」

 ルイーズの問いにジンライが確信に満ちた目で答える。

「少し、変わったかしらねジンライくん?」

『その目、ライノクス大公に似ておるな』

「ふむ。ようやくあの方の目線に近づいたと思いたいですな」

 メフィルスの言葉にジンライはそう返す。ハイヴァーンのライノクス大公その人こそジンライが目標に掲げる人物だ。槍聖と呼ばれる最強の槍使い。それがライノクスという男だった。なおルイーズの孫である。母好きをこじらせて愛人関係を見咎めるような風潮を作って、結果的に泣く泣くルイーズを追いやることになってしまったマザコンの息子でもある。

「そういえばカザネがジンライくんの腕を造るんだってすっごく意気込んでたわね。あれ、何?」

「ええ、なんでもマッスルクレイを使って義手を造ってくれるということですな。意識を失う前に約束したらしいのですが」

 どうやら手術に入る前にジンライは風音とそうした約束を交わしたらしい。ジンライは朦朧としていて覚えていなかったのだが。

「そんなことも出来るのねえ」

「ええ、昨日に改めて聞いてみたのですが、なぜかカザネ本人もそれが出来ることに驚いておりましたな。ばーじょんあっぷで消えたはずとか、そんなことを言ってましたが。ワシにはゴーレムの術式のことなど分かりませんしな」

(しかし、あのカザネ作成の腕かぁ。またとんでもないもののような気がするわねえ)

 そう考えるルイーズの認識が正しいか否かが分かるにはまだしばしの時を必要としていたのだった。

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