第二百十三話 朝チュンをしよう
やっちゃった……
ルイーズが頭を抱えている。世の中、誰にでも過ちはある。実際、ルイーズも普段であればそこまでは悩まないだろう。自分で戒めをしていなければ堂々とやってしまう方だ。だから自分の中の約束を破ってしまったことにルイーズは酷く後悔していた。
具体的に言うと横で裸で寝ている直樹とかのことだ。
「あー夢じゃないわねえ」
そう口にしながら昨日の夜のことをルイーズは思い出す。
昨日の戦闘により、治療の出来る人間は手一杯であったため、同じパーティの仲間である直樹の治療はルイーズが請け負っていた。だが目覚めた直樹の取り乱しようは酷かった。余りに酷いのでムリヤリ個室を借りて放り込んで治療をしていたのだが、落ち着いた直樹から話を聞けば、どうやら目の前でジンライの腕を食いちぎられ、悪魔に自分は役立たずと罵られて、終いには姉に救ってもらったのだという。
あまりにも弱く、情けない自分が嫌だと泣いた直樹に、ルイーズもちょうど精神的に弱っている時だったのだろう。風音の弟には手を出さないと決めていたはずが、ついキューンとなってしまったのだ。
気がつけば、ルイーズは泣いている直樹をあやし、時折見せる寂しげな表情と、少年の快活さ、そしてこちらを気遣う優しさにほだされて、あれよあれよとベッドインしていた。
普段のソレとは違う、自分で誘うのではなく自然と誘い込まれた感じであった。甘い匂いを出されてフラフラと誘われたのは自分だった。なるほど、この少年に惚れる女の子があれだけいるわけだと理解した。怖い。横のこの少年の女たらしぶりが怖い。ついでに今日の自分の日がアレな感じでやばい。種族間が違うと出来にくいけど出来ちゃったら怖い。なにこれ怖い。超怖い。そんな感じでルイーズは恐慌状態に陥っていた。
「ルイーズさん?」
「あら、起きたのね」
目を覚ました直樹は見事に男の顔になっていた。もしくはルイーズの心情変化補正かも知れないが、まあなんか凛々しく見えたのだろう。
「えーと、昨日は」
そして気恥ずかしそうに何かを言おうとした直樹だったが、
「いや、待って」
ルイーズがそこから先にストップをかける。
(ダメよダメダメ。エミリィとティアラは置いておくとしてもカザネのことがあるもの)
自分からアプローチもしていかない小娘など、こういう点ではどうでも良いと考えるルイーズである。しかし風音に知られるのはマズい。マズいというか風音に嫌われるのは嫌なルイーズさんである。ぶっちゃけ超風音大好きっこのルイーズさんとしては風音の不興を買う真似は控えたい。
それを顔に出したのか、直樹はにこやかに笑って「分かってます」と答える。
「ルイーズさんは情けない俺に少しだけお情けをくれて、助けてくれた。勇気を分けてくれた。そういうことですよね?」
恐るべき好意的解釈であった。
「え、ええ。そう、そうなのよ。うん」
そう返すルイーズに直樹は頷く。
(分かってますって顔して、まったくもう)
少し顔を赤くしてルイーズが笑うと直樹も笑った。
「ま、あんたも悪い男じゃないわよ。だけど……ね」
ルイーズの言葉に直樹もこの人が自分に本気になるわけはないとは理解していた。
「一夜限り。ルイーズさんと俺は何もなかった……ってとこかな」
パーティ内でそういうのを持ち込みたくないというのも分かる。肌の温もりは惜しいが、本気ではないのが分かるから直樹は自分から離れようと思った。
「そういうことね」
そういってルイーズは直樹の頬を優しく触って微笑む。
「それじゃあ、ドアから出たらいつも通り。良いわね」
ルイーズの言葉に直樹も頷く。一夜限りの契りはこうして終わりを迎えた。
ちなみに臭いで速攻バレました。
◎大竜御殿 神竜帝の間
「別にいんだよー。お姉ちゃんに合わせて子供を作ろうとしなくてもさー」
風音がブーっとむくれていた。
「お付き合いするなら別に私だって怒らないよー。怒ってるのはふたりともその場限りってことにしちゃってることだよー。不潔なんだよー」
ブーブーブーと風音が豚みたいになっていた。それはそれで可愛いなーとルイーズは思ったが。
『カザネよ。まあ、それぐらいで良いではないか』
「旦那様は黙ってて」
ビシッとした風音の言葉にナーガが黙る。
(うわー、このこってやっぱり大物だわ)
この最大クラスのドラゴンを尻に敷いているリーダーにルイーズが戦慄する。
「うん、まあ、そのね。ごめんなさい」
ルイーズはそう素直に謝った。風音もそんな直線的に謝罪されれば嫌とは言えない。
「まあ、いんだよ。直樹とお付き合いするならする、しないならしないではっきりとして欲しいだけなの」
「分かったわ。お付き合いはしないから……ね?」
風音の言葉にルイーズが苦笑する。風音としては弟に彼女が出来ること自体は本当に喜ばしいらしい。ふと、ベッドの中で寝ている直樹が姉貴と呟いたのを思いだして、少し切なくなった。そしておなかをさする。まあデキたらデキたでこの娘と姉妹になれるのならいいかともちょっと思ったりしていた。
「それで、話の続きはよろしいですか?」
コホンッとアオから咳払いが入る。それにその場のふたりと一体がピンとなってアオを見る。
「申し訳ありませんアオ様」
ルイーズが謝罪し、ブーブー言う風音が発端で脱却してしまった先ほどの話を続ける。
現在、風音たちがいるのは神竜帝の間。その場にいるのは風音とナーガにアオ、そしてルイーズとその腕の中のメフィルスだ。昨日の襲ってきた黒い魔物についてルイーズから一定の結果がでたとのことでの会合だった。
ちなみに風音はナーガとともに子供が産まれるまではここにいるらしい。
(恋とかそういうのとは違うようだけど……)
風音とナーガの距離感が異様に縮まっているのは感じている。擬似的な夫婦ごっこに近いものがあるだろうが、子供が実際に出来た後は分からないなーとルイーズは考える。直樹に対しての態度を見ていれば分かるが風音の情は少し度が過ぎるくらいに深い気がする。ティアラを助けたときもそうだったと聞いているし、コロッと転がっちゃったりしてと思わなくもない。
(パーティ解散でカザネはここで奥さんかしら)
まあそれも悪い話ではないだろう。もっとも、風音がじっとしてるともルイーズは思わないが。
ともあれ、ルイーズがこの場で述べたのは黒い魔物、その中に寄生していた悪魔についてである。結論から言えばあれは前述した通りの悪魔の憑依した魔物である。簡単に言えば、デイドナの街で暴れた黒いベアードドラゴンに近い。だがベアードドラゴンには魔物から出ている白い顔はなかった。
そしてあれに近いものを風音は見ている。ゲンゾーが暴走して成った悪魔ヒルコである。その状態についてはルイーズは、悪魔が暴走状態の場合に一時的にペルソナを概念化したマスクを外に出す形で魂を退避させることがあると語った。
『あれが暴走状態?』
ルイーズの腕の中にいるメフィルスの問いにルイーズは首を振る。
「いや、暴走ではないでしょうね。あれで噛んで悪魔の種子を植え付けていたから、そういう機能として造られているんだと思う」
ルイーズの言葉にアオが顔を向ける。
「となると誰が造ったか……ということでしょうね」
『それは、あの悪魔どもだろう』
ナーガの言葉にルイーズは頷くが、ですが……と言葉を続ける。
「あの悪魔たちの数は千を超えていました。悪魔というものは本来単独で行動するもの。しかもあの黒い魔物に取り憑いてた魔物は自分の意志ではないと感じました」
『己の意志ではない?』
ナーガの確認にルイーズは再び頷く。
「悪魔というのは悪意こそあれ、人間性の塊のような存在です。それがあんな秩序的に動くことはあり得ません」
「確かに、だとすればどういうことでしょう?」
アオの続きを促す声に答えてルイーズが口を開く。
「洗脳でしょうね」
『悪魔というのは洗脳などの精神操作は効かないのではないのか?』
ナーガの問いにルイーズは首を横に振る。
「耐性が極端に高いと言うべきですね。何しろ精神だけで出来てるようなものですし。だから術をかけられれば操作が可能です。精神を操作すると言うことは彼らのすべてを支配すると言うことですから」
『なるほどの』
「すると、問題はあの数ですか」
アオの言葉にルイーズが頷き、そして次の言葉を紡ぐ。
「恐らくは悪魔狩り、キャンサー家の浄化塚から持ち出されたものであるかと」
その言葉にその場の全員の目が細まる。
「ルイーズさん、それはあなたの実家ですね」
アオの分かり切った確認の問いにルイーズが頷く。
「この大陸でも浄化塚は14ほどありますが、そのいずれかから持ち出された可能性が高いと見ています」
「浄化塚って何?」
それは風音が今まで聞いたことのない名称変更だった。
「封印した悪魔を封じておく塚ね。非常に清廉な空間で精神体を鎮めて浄化する作用があるところなんだけど。ほらムルアージの廃都の浄化の杖があった部屋、あれみたいな感じ」
風音の問いにルイーズが答える。
「ああ、あのサッパリ系の」
風音もルイーズの言葉で思い出す。あと死霊王ヨハン、今は何をやってるんだろうとも。
「悪魔狩りのキャンサー家が出来てから五百年。年々浄化塚の数が増えていっていますけどね」
アオの言葉にルイーズが苦笑する。
「浄化し切れていないのは事実ですわね。かといって個別で浄化しようにもそのための費用対効果を考えると難しいものがありますわ。そして封印される悪魔は次々と運ばれますし、スポンサーである国々のみなさまも現状維持を望んでいます。ねえメフィルス?」
ルイーズの抗議の視線にメフィルスは顔を背ける。
『今現在維持で問題がなければ、これ以上国からは金は出せぬよ』
元王として、その点ではルイーズとずいぶん揉めたこともあった。
「うーん、それって私の『魂を砕く刃』でどうにかならない?」
その言葉に、元より風音に視線を向けていたルイーズを除く全員が風音の方を向いた。
「なるわ」
それは今までにルイーズも考えたことがあったのだろう。風音の質問に即答する。だがルイーズの顔は堅い。
「ルイーズさん?」
「でもそうなればあの人たちは確実にあなたを使い潰す。それだけは絶対に駄目」
その言葉は確信に満ちていた。風音も目を丸くして「う、うん」と答える。それを見てルイーズはにっこりと笑う。
「まあ、いずれはお願いするかもしれないから、その時はよろしくね」
風音はルイーズの言葉に気圧され、素直に頷く。
「ともかく、そういう家なので、今回の件も慎重に動く必要があります。今はまだ可能性でしかありませんし証拠もありません。それにあの家は醜聞を何かと嫌いますし、もみ消すためならあたしひとり簡単に消そうとするでしょう」
『確かにの……』
少しオーバーかと風音は考えたが、メフィルスの言葉でその思いは塗りつぶされる。
「では、どうします?」
アオの言葉にルイーズは迷いなく答える。
「幸いなことにミンシアナのユウコ女王はカザネの知己の方です。一旦、あの方に指示を仰いでみようかと」
「なるほど。しかし悪魔狩りは国家の醜聞と表裏一体の面もあります。下手な脅しが入る前にツヴァーラとハイヴァーンにも裏で協調路線を立てる必要がありそうですね」
「ええ、そうしていただければ。それと問題なのは……」
「ゼクウ・キャンサー」
その名前を呟いたアオの声はソレまでとは違う冷たさがあった。それも無理もない話だ。アオはゼクウに息子を殺されたのだから。
「はい、我が祖父にして師であるゼクウ・キャンサー。キャンサー家の家長にして、キャンサー族の長老でもあります。しかしそれもまだ、ただの目撃情報のみ」
そう口にするルイーズの表情は晴れない。あの氷のような家の中で数少ない自分の味方をしてくれた老人をルイーズは未だに疑いきれないでいた。
或いはゼクウを蹴落とそうとする家の誰かという可能性もある。だからこそルイーズはこの件を第三者に委ねようと考えていた。それは恐らく情に濁った自分の目よりは正しいだろうと。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜喰らいし鬼王の脚甲・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:32
体力:124
魔力:235+420
筋力:55+20
俊敏力:50+14
持久力:32
知力:62
器用さ:39
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』
弓花「あーあーやっちゃった」
風音「あれ、弓花は何とも思わないの?」
弓花「なんで?」
風音「んー私は昔、弓花と姉妹になれると思って喜んでたんだけどなあ」
弓花「ごめんねー。あいつキモいからもう無理なの」
風音「だーよーねー」




