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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
魔軍到来編

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第二百一話 竜の里へ飛び立とう

 この世界においての悪魔というものは、他の生物の魂を吸収する性質を持つアストラル体であると定義されている。それは人間の怨念の塊だったり、魔に魅入られた自然霊だったりと発生要因は多種多様ではあるのだが、生物から魂を吸収し魂のコロニーを形成し成長していくという点で共通している。

 そしてこの魂を吸収する能力だが、喰らった魂がより上位の位階にあった場合に支配構造が逆転し喰らわれた存在の魂や精神、人格などが上位存在として表に現れるという特徴がある。

 端的に言えば悪魔という存在は魂の集まったコミュニティ、或いは国そのものであり、最上位の魂とはその国の王であるとも言える。故により強い魂が入国すれば王の座は奪われるし、そうした王権の簒奪を現王が望むはずもなく、それを解消するために生まれたのが契約であるわけだ。契約で魂を縛ることで、悪魔は吸収する前に魂の従属を定め、人間の魂を安全に喰らえるのである。


 そういう存在である悪魔だが、彼らの発生は偶発的なものであり、種族として親から子が生まれるわけでもない。故に彼らに仲間意識などは皆無であるのだ。というよりも同類は魂のコロニーであることから餌そのものであるとも言える。

 だが彼らにはキャパシティの問題がある。彼らには吸収できる魂の数に限りがある。迂闊に吸収しては暴走してヒルコになりかねないという事情がある。

 また悪魔というものは基本的にはエネルギーある限り無限の生を約束されている。なので自らの成長を焦る必要はないし、悪魔同士の間には、基本的には互いに存在を認識しても無視して縄張りに立ち入らないという暗黙の了解が存在していた。

 それが悪魔を知る者の常識であったし、実際に悪魔にとっても常識であった。


 だから彼らが組織的に動くことはほとんどない。場合によっては手を組むこともあるし、悪魔の一体が魔王となって世に君臨することもあるのだが、悪魔であることを前提としたコミュニティなどかつて存在した話はなく、最高位の悪魔たちが徒党を組むなどという事態も表に出たことはなかった。

 そうした前提があるために、風音たちがデイドナの街で『ベンゼル』によって『悪魔』が捕縛されたという事実を聞いて事件が終わったと思ったとしても、それはこの世界の常識としては至極当然のことだったのだ。



◎デイドナの街 冒険者ギルド事務所 二階


「かなり上位の悪魔みたいだけど、どうやら役に立ったようね」

 ルイーズがカランとテーブルにそのアイテムをおいた。それは呪符の巻かれた魔鉱だけで出来た短剣だった。

「まったく、危なかった。さすがの僕も冷や汗が出ましたよ」

 そう答えるベンゼルも包帯でグルグル巻きになっている。そして部屋の中の様子もひどかった。様々なものがとっちらかっており、本棚が破壊され、破けた本などが散乱している。

「ここの支部長さんも後で悲鳴を上げるでしょうね」

 ルイーズの言葉にベンゼルは苦笑する。この街の支部長は領主と共にまっさきに逃げ出していた。そしてもうこの世にはいない。

「それでこいつが今回の強襲をかけた悪魔なの?」

 ルイーズと共にきた風音の視線が悪魔が封印されたという短剣に向けられる。

「ええ、無事に捕縛できました。ここまで封印式を構築できていれば逃げられることもないでしょう」

 風音の問いにベンゼルがそう答える。ベンゼルの言葉によれば、ベンゼルが書類をまとめているところに悪魔がやってきて『心臓はどこだ』と質問を投げかけたのだという。無論ベンゼルは拳で応えたと腕を突き出しながら笑って言った。

 竜騎士ベンゼル、彼の武器は拳であり拳闘士であるのだ。特に騎竜ライエルによる竜人化の突撃はジンライですら脅威と感じるほどのものだったらしい。

「うちのギルドの職員も元は冒険者が多いからね。騒ぎになったのを駆けつけてここで総力戦になりまして、それでなんとか撃退出来たってわけですよ。まあそれもこの短剣あってのことでしたが」

 テーブルに置かれたそれは強力な封印具でルイーズの切り札とでもいうべきものであった。念のために悪魔から身を守る術の少ないベンゼルに貸していたのだが、どうやら役に立ったというわけだった。

「ま、なんにせよ終わったんなら問題ないよ。ベンゼルさんもご苦労様」

 風音の言葉にベンゼルが微笑む。

「そうですね。とはいえ、もう面倒事もごめんですから急ぎましょうか」

 しかし風音の言葉に続いたのは白髪の女性だった。それはビャクという人化した成竜。東の竜の里ゼーガンの守り手の一人だと風音は聞いていた。

「うん。分かったよ」

 風音も、ベンゼルも、ルイーズも頷く。仲間たちもすでに準備は終えて外で待っている。

 当初の予定では一度コンロン山の麓のドラムスの街を経由して東の竜の里に行くつもりだった。だが、騎竜ライエルがベンゼルたちをデイドナの街に置いた後、全速力でコンロン山まで飛ばして竜たちの助けを呼んでくれたのだ。あいにくというべきか、幸いと言うべきか、ドラゴンたちが来たときには戦いはほとんどケリが付いていたが、ならばと戻るついでにと風音たちも運んでもらえることになっていた。


 そして風音たちは早々にドラゴンたちに乗ってコンロン山にあるという東の竜の里ゼーガンへと向かうこととなり、デイドナの人々はそれを笑顔で見送った。彼らの英雄たちとの別れを惜しみながら。


 実際のところ、デイドナの街の人々は悪魔の策略に巻き込まれた立場ではあるのだが、当然のことながらその事実を彼らは知らない。またこれからも知ることはないだろう。そのことに対して風音たちは内心苦い思いではいたのだが、だがそれを吐露したところで彼らを困惑させるだけのただの自己満足でしかないのも事実だった。

 元より、今回の依頼は西の竜の里からのもので、ミンシアナとハイヴァーンも国として関わっている。クエストの難易度も悪魔が追跡するなど想定していなかったし、それを事前に察知できなかったのは依頼した側の落ち度なのは事実だ。

 それに領主と冒険者ギルドの支部長という権力側の人間が真っ先に逃げ出したことも外聞が悪かった。幸いなことに街の住人の被害は少なかったが、そこまでの問題が積み上がったのだ。その事実からデイドナの街に対しては国から何かしらの助けが入るだろうということをベンゼルから聞いて風音たちもわずかながら安堵した。

 なお魔力不足で仮眠をしていたイリアは直樹たちが去ったことを起きた後に知り、非常に残念そうな顔をしながら龍たちが去ったというコンロン山の方を見ていた。そして、その様子を見てルインズは正直ホッとしてしまった。明らかに目覚めた後のイリアは高ぶっていて、恐らくは直樹に自分の気持ちを伝えようと考えていたのが分かったからである。

 そしてルインズもコンロン山の方を見ながら思う。もう二度と戻ってくるなよと。それは勝ち目がないと嘆く悲しい少年の負け犬精神の発露だった。



◎ハイヴァーン公国 コンロン山付近上空


「おお、綺麗だねえ」

 風音が成竜ビャクの背中で感嘆の声を上げる。

「いや、なんでそんなはしゃげるの?」

「死ぬ。いやマジ死ぬだろ、これ」

 風音の後ろにいるライルとエミリィがブルブル震えている。実はビャクは西洋型のトカゲのような竜ではなく、東洋型の蛇に近い姿の竜である。兄妹は慣れぬ丸太のような胴におっかなびっくり乗っていた。

 ふたりは何度かドラゴンの騎乗経験はあったが、山の上にくるような高々度を飛んだことも、不安定な東洋型の竜に乗ったこともなかったのだ。

「ともかく下を見ない。横の風景だけを見てれば怖くないよ」

 そう口にするのは風音が竜船に潜り込んだ経験があるからだ。もっとも風音も実は口元がちょいプルプルしている。

(いっそ竜体化して一緒に飛んじゃえば気にならないかも)

 それはとても良いアイディアに思えたが、だが現在の風音の魔力量はまだあまり回復していない。自前の魔力が回復しても紅の聖柩と蓄魔器の魔力も貯めねばならないし自重すべきだろうと思った。

(それにしてもゆっこ姉とは相変わらず連絡が繋がらないな)

 それも気掛かりではある。どうやら、王都シュバインにオーガが攻め込んだのは事実のようで、それを撃退したのも本当らしい。しかし問題はその後だ。ドラゴンたちが掴んでいる情報によれば、オーガ討伐後、王城で戦闘があったらしいということだった。そして凄まじい魔力の爆発が起きた後、シュヴァインからは情報が流れなくなったという。どうやら情報規制が入っているのだろうという話だった。

 何か隠さなければならない重要なことが起きている……とすればゆっこ姉が連絡を取れないのもそれに関係があるかも知れないと風音も思うが、だが死んでいるわけではないハズだ。ウィンドウはゆっこ姉の生存を示している。それにベンゼルが捕まえた悪魔がゆっこ姉をどうにかできるとは到底思えない。

 ゆっこ姉のアーティファクト『真実の目の額飾りホルスアイ・サークレット』があれば不意打ちはほぼ不可能だ。あれはそういうアイテムで、そして不意を打たれなければ、例えディアボであろうとゆっこ姉に勝てるとは考えられなかった。

(となれば何かしらの手段でメールが妨害されているって考える方がいいのかな)

 もっともここでウンウン唸っても結論が出るわけでもない。仕方なく風音はさきほどのように景色を楽しむことにした。

 このハイヴァーンは山脈が連なり、活火山もいくつかある。そしてこうしてドラゴンに乗っていると遠方にはあの浮遊島が見える。

 エルスタの浮遊王国と呼ばれているようだが、恐らくはゼクシアハーツにもあった鳥人族の浮遊島『アルクス』だろう。もっと北の地にあるはずの島がここまで流れてきた理由は分からないが、ミンシアナに戻るときに立ち寄るのをジンライと約束していることを風音は思い出していた。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:32

体力:124

魔力:235+420

筋力:55+10

俊敏力:50+4

持久力:32

知力:62

器用さ:39

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』


弓花「次回、驚愕の展開が!」

風音「ああ、弓花ってハリがあってツンッと立っていてビャクさんの好みなんだよね?」

弓花「いや、そっちじゃないわよ」

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