第二百話 熊竜を倒そう
ベアードドラゴンが吠える。
この熊のようなドラゴンも、かつては周りにいるドラゴンベアと同じ姿をしていたはずだったが、今では大きく変わってしまった。全長が5メートルになり、鱗まみれであった全身からは長い毛が生え、牙はより鋭くなり、鼻と口元も伸びた。だが最大の進化は魔物のコアが今や竜の心臓と呼ばれる特殊なコアに変じたことだろう。この魔力の出力の大幅な上昇こそがベアードドラゴンを大きく進化させている元凶でもあった。
もっとも、実のところベアードドラゴンもドラゴンベアも積極的に人間を襲うことはあまりない。食糧事情の問題であぶれたドラゴンベアの群れが人を襲うことはあるが、テリトリーに入ってこなければ彼らは基本人里を襲うことはないのだ。
そしてヒエラルキーの頂点にいるベアードドラゴンが食料に困ることは少なく、結果として人間たちと顔を合わせることも今までなかったのだが、数日前に体内に『何か』を植え込まれてから、ベアードドラゴンは変わってしまった。
それは悪魔の種子と呼ばれるもので、悪魔の内部で従属している魂の一部を植え付けて同化させ、魔物を自らの従僕としてしまう悪魔固有のスキルである。
それからのベアードドラゴンは悪魔からの命令を受けるままに同族をかき集め、そして人間の街を襲うこととなったのだ。その結果が現在である。
◎デイドナの街近隣 コリンゲ草畑
「雷の魔術がッ、弾かれる?」
それは先ほど直樹に助けられたイリアの声。戦線に復帰した彼女がかけたサンダーはベアードドラゴンの周囲の毛によって完全に防がれていた。
「魔術師は下がれっ。コイツの毛は魔術を弾く効果があるんだ」
その言葉にイリアはガーンとした顔になり、こそこそと下がった。その後はドラゴンベアに何発かサンダーをかけるとそのまま街に戻っていったのだった。魔力もほとんど回復してないのに無理に出てくるから……とルインズは思ったが、ルインズはルインズでドラゴンベアと戦っているので、声をかける余裕はなかった。なので、悲しげな背中が去っていくのを見守ることしかできなかったのである。
そんなわけで魔術が効かないのであれば物理職のお仕事である。
「ユッコネエ、切り裂け!!」
「にゃっ!」
ユッコネエは紫のオーラを帯びた炎の爪でベアードドラゴンの鱗がはがれた箇所を切り裂いていく。その傷口から炎が吹き出てベアードドラゴンが痛みに叫んだ。この攻撃で焼かれると同時に毒も回っているはずだった。
元々ユッコネエの炎の爪は切り裂いた箇所を焼き続ける効果があるが、今回のユッコネエの爪には風音が大武闘会でもらったアイムの腕輪を通して『毒爪』の効果も付与されている。
このアイムの腕輪は風音が発動させたアクティブ系スキルをユッコネエから出力させる効果がある。故に他にも『キリングレッグ』や『メガビーム』などもユッコネエを通じて放つことが可能で、いずれはユッコネエの横に立ちながら「薙ぎ払えっ」と言ってメガビームを撃たせたいものだと風音は考えていた。
だが今は風音もルイーズの護衛に集中している。スキル発動自体は風音が行う必要があるため、頻繁にスキルを発動させることは出来ない。なので今回は継続効果のある『毒爪』を最初の段階でユッコネエにかけていた。
「ふむ。負けてはおられぬな」
そう言いながらジンライもベアードドラゴンの周囲を回りながら、その四肢に確実にダメージを与えていく。まずは機動力を削ぐとジンライは考えている。
ベアードドラゴンは見た目よりも素早く、炎のブレスも強力だが、『直感』と機動力に任せたユッコネエの回避能力は折り紙付きでまるで当たることはなかったため、ジンライはただひたすらに攻撃に集中が出来た。
「師匠っ、私もいますよー」
その横に弓花が併走する。竜人化はすでに解かれているので、、今は神狼化に変化している。
「ふむ。ずっと戦い詰めで疲れたろう。少し休んでいる方がよいだろうな」
「そんなー」
師匠の素気ない言葉に弓花が嘆きの声を上げる。
「冗談だ。だが、このデカブツも動きが鈍っている以上、そろそろ腰を据えた攻撃中心に変わるはずだ。周囲の連中のお守りはやっておくようにな」
ジンライが周囲を見る。そこにはライルやエミリィもいる。ここは戦場だが、孫たちをこんなところで死なせたくはない。
「分かりましたけど師匠は?」
「まずは鱗を削る。しかる後に首を落とす!」
自重しない元老人がそこにいた。弓花のやっぱりなあ……という顔を無視してジンライはユッコネエと共に駆ける。ベアードドラゴンの魔物としてのランクは地核竜よりも高いが、クリスタルドラゴンよりは低い。クリスタルブレスのような厄介な攻撃はないし、魔術が効かないという特性はあるがそれ以外は通常のドラゴンと変わらない。
もっともドラゴンと言うだけでも十分に驚異的な存在なのだが、それはあくまで防御力の高いドラゴンの鱗の問題があるからだ。ダメージを通す手段があれば、状況は変わるのである。
そしてジンライの竜牙槍は成竜ですらないドラゴンの鱗など易々と切り裂く。つくづく黒岩竜の凶悪さの分かるものだが、手段がある以上はドラゴンとて普通の魔物と同じ格に落ちる。ジンライと神狼化弓花とライルの三人で鱗を切り裂いて、他の冒険者や兵たちに攻撃させることでダメージを蓄積させていくことが出来る。
(まあ、ライルにそこまで求めるのはまだ酷だろうがな)
ジンライは己の孫が才あふれる者ではないと理解している。だが、それを越えようという意志があることも分かっている。だからいずれは『才能などなにひとつ持ち合わせていなかった』自分よりも高みにたどり着くことも可能だろうと考えていた。
(だが、今はまだ雛鳥のままよ)
エミリィと直樹に支えられながらもわずかながらにベアードドラゴンにダメージを与える程度がせいぜい。その姿を「まあ頑張れ」と一人つぶやき、竜に立ち向かっていく。
その猫騎士の姿は、周囲の戦士たちを後押しする。ドラゴン50人体勢という言葉がある。それは通常ドラゴンを相手にするのならば50人の討伐者で当たれというものだ。内実はいろいろとあるが人数だけならば、十分にそろっているし、鱗を削り、ダメージを与える存在もいる。
またデイドナの街にはさすがに竜の生息する国だけあり、ドラゴンチェーンと呼ばれる竜の捕縛用拘束鎖が存在していた。それを動きの鈍ったベアードドラゴンに絡ませ、さらにその活動を制限させる。
周辺のドラゴンベアが狂ったように襲いかかってくるが、炎の騎士や水晶の騎士、そして高名なパーティ『ソードフィッシュ』の面々がそれらに当たり、この戦場を支配していた。
「あ、勝っちゃった」
それは風音のつぶやきである。
そしてベアードドラゴンとの戦闘から20分ばかり経過したところで、ついに竜が落ちた。どうやらトドメはユッコネエがしてくれたらしい。スキルに『キューティクル』というものが追加された。待望の魔術防御スキルではあるが、
(キューティクル? まさか髪がツヤツヤに?)
なにやらビジュアル面で気になる部分があるスキルだった。
ドラゴンが倒れ、その上にジンライとユッコネエが乗って鬨の声をあげ、それを見た戦士たちの喝采が響き、そして残りのドラゴンベアたちの掃討に移ろうとした。だが、突然空が暗くなったのに気付いた。そして彼らは空を見上げて悲鳴を上げた。
「ど、ドラゴンの群れだぁああああ!!」
驚愕した者、絶望した顔の者が出たが、だが風音は「ちょっと遅かったよね」と呟いた。上空を舞う10を超える成竜の群れ、それは騎竜ライエルが急ぎ飛んで呼んだ東の竜の里ゼーガンからの援軍であった。
その後、冒険者と兵たちとドラゴンの共闘によりわずか10分とかからずに残りのドラゴンベアたちの群れは駆逐される。こうしてドラゴンベア討伐戦は幕を下ろしたのだ。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:32
体力:124
魔力:235+420
筋力:55+10
俊敏力:50+4
持久力:32
知力:62
器用さ:39
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』
弓花「キューティクル?」
風音「つやつやーって感じになるのかな?」




