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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
魔軍到来編

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第百九十九話 猫騎士様と呼ぼう

 虹色の竜気を纏わせて、弓花が戦場を駆けてゆく。

 吹き荒れる炎のブレスの中に入り込み、一振り二振りと槍を振る度にドラゴンベアが倒れてゆく。そのそばでライルも竜牙槍で戦っているのだが、弓花のまるでゴブリンでも相手にしているかのように切り倒すような真似はライルにはできない。得物こそそう差はないはずなのに、何故こうも結果が違うのか。それをライルは考える。

 単純に竜人化による膂力の差はあるだろう。それにレインボーカーテンによってブレスを気にせずに特攻できるから勢いを削がれずに戦えることも確かだ。だが、そんな凶暴な力を縦横無尽に操ることが可能ですらある地力の差こそがライルと弓花を分けている最たるものだ。それを理解できるほどの腕前ではあるライルはクチビルを噛みながら、二歳も年下の少女を悔しそうな顔をして見ている。

「兄さん、戦闘中だよ」

「分かってるさ!」

 エミリィの非難の声にライルは舌打ちしながら頷く。確かにボーッとしている場合ではないのだ。

 現在のライルはエミリィとタツヨシくんノーマルとのコンビで戦いに挑んでいる。タツヨシくんノーマルに敵の攻撃を受けさせたところを、エミリィと共にトドメを刺すパターンで安定していた。

 以前はこうしたときには直樹を前衛に、エミリィが後衛で、ライルは状況に応じてエミリィを守りながら戦っていた。だが風音から渡された黒岩竜製の装備もあり、かつての頃に比べれば彼らは格段に強くなっていた。

 だが足りない。目の前の弓花という祖父の愛弟子に届くためには全然足りないのだとライルは痛感する。

 しかし今は手持ちの力で戦うしかない。エミリィの竜翼弓は強力でこの乱戦の中でも的確にダメージを与えているし、風音から譲り受けたタツヨシくんノーマルは日々の修行で経験を積み続けることで以前よりも、より機敏な動きができるようになっていた。

 そしてライルも昔とは違う。竜牙槍を手に入れたことでかつてに比べて必殺力が上がった。直樹に頼らず決めてしまうことが可能になった点は大きい。

 そう焦っても仕方がない。強くなったのは確かなのだから、腐らずに一歩ずつ進んでいくことこそが重要だと、ライルは祖父の言葉を思い出す。

「しっかし、厳しいな」

 ライルたちのもとに戻ってきた直樹がそう口にする。現在の直樹は、戦っている冒険者や兵たちのフォローだ。離れた位置から魔剣を飛ばせる直樹は『察知』スキルで周囲を見渡しながら、危なそうな箇所の助けに回る。また弓花に対しても直樹は指示を行なっていた。彼女たちの第一前提はここの防衛だ。直樹の『察知』スキルはこうした状況に適している。いわゆるサブリーダーとしての役割を直樹は担っていた。

「倒しても倒しても押し寄せてくる」

「お前の姉さんが後ろで暴れ回ってるから逃げてきてるんじゃねえの?」

 ライルは冗談抜きでそう思っている。

「かもな。だけど、少し不味いかもしれない」

 さきほどから弓花が敵を倒すよりも周りのフォローに回る率が多くなっているのを直樹は懸念していた。それは周囲の冒険者や兵たちが自分たちだけでこの状況を対処できなくなってきていることを示している。そして直樹がどうしようかと考えていると叫び声があがった。


「み、ミノタウロスだぁああああ!!」


 思わず目を丸くした直樹たちだが、土と岩の固まりらしき巨大なゴーレムがこちらに近づいてきているのを見て理解した。

「あれは味方だ。怯えなくて良い!」

 直樹が声をあげる。事前にストーンミノタウロスのことは説明済みだったはずだが、どうやら理解していなかったらしい。まあ、あの姿が近付いてくれば怯えてしまうのも分からないでもないと直樹が苦笑する。

(姉貴が来てくれたのか)

 直樹がストーンミノタウロスの方に目を向ける。あの巨大なゴーレムは風音のミノくんだ。ならば、あれの下には風音がいるのだろうかと直樹が目を細めてみていると、まるで竜巻のような勢いの何かがドラゴンベアを蹴散らしながらこちらに向かってきているのが確認できた。そしてそれは多くのドラゴンベアたちを撥ね飛ばしながら、


「にゃーーーん!!」


 と声を張り上げてドラゴンベアの上を飛び越えた。その飛んでいる間も凶刃は振るわれ、いくつもの魔物の首が飛んだ。


「来てくれたのか、姉貴……じゃない?」


 直樹は姉だと思っていたものがまったく別のものであることに気付き驚愕する。スタンッ……と直樹たちの前に降りたそれは、ユッコネエに跨がったジンライだった。


「さすがだ。さすがだぞユッコネエ」

「ニャ、ニャニャニャニャーー!」

「ワシは今風になっておるわーーー!!」


 周囲の人間たちの驚愕の顔をよそに、一人と一匹はまるで付き合い始めたバカップルのように互いを褒め合い、ハイテンションでUターンしてまた魔物たちに向かっていく。そうジンライはまるで風のように戦場を駆けていた。風は風でも血風ではあったが。

 それはまさしく水を得た魚のようであった。あくまで人の域の達人であったジンライがここに来てユッコネエという人を超えた機動力を得たのだ。

 攻撃力も高く、中距離攻撃もこなし、危機感知能力にも優れたまさしくジンライにとっての良妻賢母のようなユッコネエの力に、ジンライが猛烈に惚れ込んでしまったのも無理のないことだ。

「ワハハハハハハハハ!」

「にゃっにゃーーーーー!!!」

 笑いながら、鳴きながら、おっさんと巨大猫が魔物を蹴散らすその光景を冒険者たちは唖然とした顔で見ている。


「あれはなんだ? まるで風のようじゃないか」

 冒険者の一人がそう口にした。その姿は男の目では捉え切れぬほどに素早く、まるで嵐のようにも見えていた。


「猫に乗った戦士か、或いは猫騎士とでも言うべきなのか」

 白いマントを羽織ったふた振りの槍を持つ男が巨大な猫に跨がった姿を見て兵のひとりが呟いた。猫騎士という言葉が周囲でも広がっていく。


「あの方は牙の槍兵だ。バーンズのジンライだぞ。あれがハイヴァーンの槍術の達人の力なのか」

 古参の兵のひとりが見覚えのある男の姿を認めた。その兵がジンライから槍の手ほどきを受けたのはもう20年近く前になるだろうか。あの頃とまったく同じ姿で戦うジンライに驚嘆する。それに牙の槍兵ジンライの名はハイヴァーンでも知られている。周囲で「あれが……」と呟く声が聞こえた。


「なんという膂力!なんという速度!!」

 純粋にその力に震える戦士がいた。次々とドラゴンベアを倒していく、その自分の常識を越えた戦いぶりに戦士は戦慄する。


「猫騎士ジンライだ!猫騎士ジンライが助けに来てくれたぞぉおお!!」

 ジンライに救われた兵がそう叫んだ。「猫騎士ジンライ!」の名がその場に連呼され響き渡るのにそう時間はかからなかった。


 だが今のジンライはそんな些末事を気にすることなどない。やられかかっていた冒険者たちを救い、風のような速度でドラゴンベアを倒し、飛び上がったユッコネエの背を蹴り、さらに高く跳ぶことで、ドラゴンフライベアすらもその手で打ち落とした。それはまさしく嵐の如き勢いでジンライは戦場を駆けた。一番勢いのあった最初の方に参加できなかったうっぷんを晴らすかのように。


「し、師匠……」

 そして、これまで懸命に戦っていた弓花が師匠に美味しいところをすべて持っていかれて意気消沈していた。それが雰囲気で分かったのか周囲の人間が苦笑する。

「あんたはよくやってるよ」

 と、声をかけられて、弓花は「え、そう?」と照れながら顔を上げた。相変わらずのチョロインである。

「それにあれもこっちに向かってきてるしな。アレの相手は俺たちじゃあちょっとできねえよ」

 別の男が緊張気味にそう口にする。

「あれ?」


『グォッォオオオオオオオ!!!』


 弓花がドラゴンベアの群れの先を見ると先ほどまで中心にいて動かなかった黒い巨大な魔物、ドラゴンベアを統率していると思われるボスクラスの魔物『ベアードドラゴン』がこちらに向かって歩き出していた。

 それはドラゴンベアの竜と熊の因子が逆転した魔物。微妙に熊っぽい毛むくじゃらのドラゴンであった。


「ふむ。ユッコネエ、やれるか?」

「にゃあああーーー!!」

 その巨大な魔物に対し、ジンライとユッコネエは頷きあって走り出し、それを「待ってください。私も行きますー!」と弓花が追いかけ、こちらの戦線にたどり着いたパーティ『ソードフィッシュ』の面々や、ある程度腕のある冒険者たちも参戦する。


 その様子を風音はじっと見ている。悪魔はこないが、ベアードドラゴンに集中している今のこの状況こそが悪魔の狙いかもしれないと思えば油断はできない。

 そして戦いは最終段階へと入る。ついに猫騎士ジンライの名を掲げながら群れのボスの討伐が開始されたのだ。


(ユッコネエ、ラストはお前がしとめてね)

(にゃーん)


 その状況下で風音は『情報連携』でユッコネエにこっそり命令を下していた。スキルを手に入れるには自分でトドメを刺す必要があるようなのだが、召喚体にトドメを刺してもらえば経験値が入るのは確認している。ならば或いはスキルも手にはいるかもしれないと考え、風音はユッコネエにすべてを託したのだ。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:32

体力:124

魔力:235+420

筋力:55+10

俊敏力:50+4

持久力:32

知力:62

器用さ:39

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』


弓花「師匠に美味しいとこ持ってかれた。かっちょいいあざなとかもらえると思ったのに、このままでは『あ、猫騎士のお弟子さんですね』とか言われてしまう」

風音「そして私はユッコネエが寝取られたと見せかけて、それを裏で操る悪い女。悪女と呼んでくれても良いんだよ?」

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