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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
魔軍到来編

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第百九十五話 少年を思おう

 その日、突然訪れた悪夢をデイドナの街の人々は忘れはしないだろう。街に滞在していた冒険者のイリア・ノイシュテルもそれは決して忘れられない出来事となっただろう。


 絶望を感じた日、そして希望を見たその日を決して彼らは忘れないだろう。


 それは日が昇り始めた頃、デイドナの街の前にあるコリンゲ草畑の奥から土煙をあげながら突然現れた。


 見張り台の兵が叫んだ。いつものように眠りこけていたら或いは間に合わなかったかもしれないが、今日の彼は何かしらの前兆を感じ取ったのか、怠けず正しく職務を行なっていた。そして恐怖にかられながら魔物襲来の鐘を鳴らし、有らん限りの声を張り上げた。

 この世界の朝は早い。夜が遅い分、みな目が覚めるのが早いのだ。だがここまで早い時間に起きている人は少ない。みな、寝ぼけ眼でその鐘の音に起き出し、若干不安げな顔で家の外に出てくる。

 ここ数年聴かなかった魔物襲来の鐘の音だ。住民たちはなにが起きたのかと門の方へと向かっていく。もっとも街は石壁に守られている。たとえ、魔物が襲来しても街の中にいる限りは安全だと考えていた。だが、そこにあったのは絶望だった。


「ドラゴンベアだぁああああ!!!!!」


 誰かが叫んだ。正門から見えるその光景にその場にいる全員が戦慄した。数百というドラゴンベアが列をなしてこちらに向かってきている。

「あ、ああああ……」

 その姿をイリアも見ていた。鱗に覆われた2メートルほどの赤い目と、口からこぼれる炎を光らせながらやってくる異形の魔物たちを目に焼き付けていた。

 冒険者で魔術師でもあるイリアは遠見の術で遠くの光景まで見ることができる。だが今回ばかりはその便利な魔術も彼女の心を折るのを速めるだけでしかなかった。

(ダメだわ。こりゃ)

 焦燥した顔をしながら諦めという言葉が脳裏を掠める。


 しばらくして門が閉められた。裏門から逃げだそうと人が殺到したが、いつの間にやらそちらもドラゴンベアに囲まれていた。どうやら森の中を抜けてきていたようだった。真っ先に逃げだそうとした者がいなければ気付くのが遅れていたかもしれない。門を閉じるのが遅ければ、侵入されていたかもしれない。もっとも逃げることも戻ることもできなくなった人々の道先は魔物の腹の中に決まってしまったが。

 開けろと言う声に耳を塞ぎながら衛兵たちは門を閉める。子供の悲鳴も、女たちの叫びも、彼らの耳にこびりついたまま永遠に離れないだろう。その中にはこの街の領主の夫婦と子供たちの声も混じっていた。狂ったように叫ぶ声が悲鳴に変わり、やがて獣の呻き声に変わっていくのを聴きながら、衛兵たちはその場で泣き崩れた。


 そして冒険者ギルドから招集の鐘が鳴り響く。

 恐らく強制依頼だろうが、しかし受けるしかないだろうとイリアは溜め息を吐いた。それはもう生き延びるためのものではないが、だがやるしかないのだ。


 そうして鬱々とした気持ちのままイリアが冒険者ギルド事務所の前の広場にたどり着くとそこに召集された面々はみな一様に死んだような顔をしていた。イリアも、自分もそういう顔をしてるんだろうなと苦笑する。生き残れる確率はゼロだ。どこにも希望はない。

 イリアはここからでも見える街を覆っている石壁を見る。

 この街の石壁は対地竜にも耐えられるようにとそれなりに強度はあるが、だがあの数のドラゴンベアが相手では保って数時間というところだろう。門は木と鉄でできている。魔術で強化したところでタカがしれているし、石壁よりも保たない可能性も高い。

 それにすでに近隣の街に通達はされているだろうが、兵や冒険者たちがここまで来るには普通に用意して一日は掛かる。数を揃えねば対抗できぬし、2日から3日はかかるかもしれない。つまり一日も保たないこの街はすでに詰んでいるのだ。

 ところどころではすすり泣く声と怒号が響く。そういうのは気持ちが削がれるから止めてほしいなぁとイリアは心底思う。

(……気持ちは本当に分かるんだけどね)

 自分だって今すぐにでも泣きたいのだ。憧れていた彼にだってまだ何も言っていないのだと自分の未練をイリアは思い出す。あの魔剣を操る少しぶっきらぼうな少年の顔が心の中に映し出される。

「ナオキくん。私たちを守って……」

 だからイリアはかつて自分を救ってくれたその少年の名を口にする。するとイリアの後ろにいる仲間のルインズが何かしらぼそっと口にした。

 俺じゃだめなのか……そんな風にイリアは聞こえたが、だがイリアはひとり首を横に振った。

(ごめんねルインズ。私には君は弟にしかみれないよ)

 好意を寄せてくれているのは分かってる。だけど、今このときだってイリアはルインズを受け入れようという気にはならなかった。それは仕方ないことだ。彼女の心の中にはもう別の男がいるのだから。

 だがイリアも仲間として、弟分を守って死ぬ覚悟はある。それはルインズの望む恋ではないだろうが、イリアなりの愛でもって報いようと考えている。せめて最期の時はそうありたいと心から願っている。


 その後、冒険者ギルドの職員から近隣の街にギルドマスターと白き一団、ソードフィッシュが滞在していて今まさに救援に向かっているとの説明があった。周囲の冒険者たちからは、だからどうしたといった声が上がる。

 たとえギルドマスターがいようとどうにかなるわけがない。白き一団の名はそこそこ知られていたが、彼らが最初に名を知られた『狂鬼群討伐』は街全体で準備を整えての戦いだった。もっとも有名な黒岩竜討伐も彼らはミンシアナの宝剣携えた王子の護衛だったじゃないかと男たちが怒鳴った。一方でソードフィッシュはこのハイヴァーンでは名が知られている存在だ。リーダーのグロリアスは義に熱い男で、恐らくは死を覚悟で自分たちを助けに来たのだろうと感涙する者が多くいた。

 そこらへんの違いは、それまでの行いの結果なのだろう。ギルドマスターは日和見主義と悪い意味で有名だし、白き一団は色々と黒い噂が絶えない。なのでその評価も仕方がないのだろう。それはその場にいたイリアにしても同じ思いだった。

 それにたかだかひとつやふたつのパーティが来ても焼け石に水。本当に欲しいのは近隣のハイヴァーン軍や竜騎士たちの軍勢。だが1日2日で届かないのは分かっている。どうにもならない。自分たちの命はこんなにもどうにもならないと理解している。


 そしてドラゴンベア討伐というできもしない依頼が下された。

 死にたくない。最後の静寂の時間の中でイリアはそう思う。涙がツーと零れ落ちるが、だが戦闘開始の鐘が鳴り響き、イリアはそれを拭って立ち上がった。

 終わりの始まりの時間。ここから先はこの街の人々を護る戦いではない。自分たちが嬲られ、殺され、食われた後のさらなる犠牲者を減らすための戦いだ。それだけが彼女たちが生きた証になる。そんな戦いだった。


 デイドナの街は既に籠城に入っている。なので最初の攻撃は城壁の上からの弓矢や魔術によるものだった。

 ドラゴンベアは炎の耐性が高く、火矢やファイアの魔術はあまり効果がない。そして炎の属性が強ければ氷が効きやすいというわけでもない。中途半端な氷の魔術はドラゴンベアの熱気によってダメージが通る前に溶かされてしまうのだ。

 結果として雷属性の魔術が多く放たれた。その中にはイリアの魔術も交ざっている。敵の数は膨大だ。目をつぶっても当たるだろう。

 さりとて敵も一方的に攻撃を食らうばかりではないのだ。ドラゴンベアは竜種のように炎のブレスを炎球にして吐き出すことができる。なので、まるで雨のように石壁に炎の玉が降り注いだ。


「……うぐ」

 その中をイリアは必死で恐怖を殺し、杖を振るう。緊張で吐きそうだったがそんな余裕はない。

 その横では燃え広がり悲鳴を上げる魔術師がいた。狂ったように転げ、その場にいた仲間から冷却の魔術を受けるが、そのまま動かなくなった。少し離れたところではドラゴンフライベアという翼の生えたドラゴンベアの変異種が登って暴れていた。まるでゴミのように仲間たちが蹴散らされていく。

 そしてドラゴンベアたちの炎球のシャワーは止まない。すすだらけの顔でイリアは必死で呪文を唱える。だがもうダメだろう。次々と仲間が倒れ、もはや自分の魔力も尽きようとしている。門も燃え盛り、もうじき破壊される。どうしようもない死が目の前に迫っている。


「イリアァアアア!!!」


 遠くからルインズの声が響いた。振り向くとドラゴンフライベアがこちらに迫っていた。ルインズはその魔物に振り払われて、転がりながらこちらを必死に見ている。そしてイリアは悟った。


(……ここが私の死に場所か)


 杖を持つ手が力なく落ちた。魔力はもう尽きていた。

 そして思い浮かぶのはひとりの少年の顔だ。どこかひねくれた、年相応ではない大人びた寂しげな雰囲気のあの少年を思って嗚咽する。そして最期のその時は戦士ではなくひとりの少女であろうと、その名を呼んだ。


「助けてよ……ナオキくん」


「任せろッ」


 そしてイリアはあり得ない声を聞いた。それは死を前にした都合の良い幻聴か。だが現実は極めて劇的に彼女の願いを叶えるのだ。


「グギャアアアアアア!!!!」


 突如ドラゴンフライベアに無数の剣が突き刺さった。斬られた傷から炎が漏れ、氷が吹き荒れ、雷が舞った。そしてトドメに少年が魔物の首を刎ね飛ばし、イリアの前に立った。

「ナオキくん……?」

 イリアは涙でにじんだ目でそれを見た。もしや自分が狂ってしまったのではないかと思ったほどだ。なぜならば目の前には彼女が望んだ少年がいたのだから。

「悪いな。少し遅れた」

 あのときと同じように、ばつの悪そうな顔でそんなことを言う。

 そしてイリアは走り出して直樹に抱きついた。泣きながら少年の名を叫んだ。その少女を直樹は抱き締め、頭を撫でる。もう大丈夫だと安心させるように。

 その様子にルインズが「あっ」という顔をしたが、だがその視線を横に向ける。気に入らないが目の前の少年にはイリアの抱擁を受ける資格があるとルインズも理解している。

 そしてルインズは視線を逸らした先にいた、ようやく追いついたらしいエミリィとライルがそれぞれ悔しそうな顔をして直樹たちを凝視しているのを見て、相変わらずだなと苦笑する。未だ変わらぬピンチのままだというのに笑える自分に気付き、彼はさらに大きく笑った。

 それが転機だったのだろう。周囲の冒険者たちもそれに気付いた。いつの間にか炎の玉が飛んでこなくなったのを。ドラゴンベアたちの視線がどこに向いているのかを。


 雷の音がした。荒れ狂っているような、怒り狂っているような轟音が響き渡った。直樹はイリアを抱き締めたまま、ゆっくりと剣を外壁の外へと向けた。


 そして、その先には紫色の雷光が……


名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:31

体力:114

魔力:205+420

筋力:55+10

俊敏力:48+4

持久力:31

知力:62

器用さ:39

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』


風音「そんじゃいくよ」

弓花「うん、盛大にやっちゃいなよ」

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