第百八十八話 修理をしよう
◎ドルムーの街 レストラン『竜牙堂』
「オーライ、オーライ。よしストップ」
風音の言葉に従い、タツヨシくんドラグーンと量産型A・Bがゆっくりと水晶でできた竜の置物をその部屋に置く。見事なまでの造型に周囲の人間がホウッと声を出す。
「これで配置は終わったかな」
そういって汗を拭う風音は、タツヨシくんドラグーンに命令して背後にある水道管を竜の後ろにつなげて水を流させた。すると竜の口から滝のように水が流れ、それが竜の足下の水槽に溜まっていく。
「そしたら庭の方の引き戸をちゃんとはめ込んできて、タツヨシくん」
ラジャーという手振りをするとタツヨシくんたちがそれぞれ水晶でできた引き戸を持ってはめ込んでいく。夕日に照らされて水晶造りの部屋全体が赤い輝きを放っていた。それはそれは見事な光景だったという。
こうして昨日に風音のリアクションによって破壊されたレストラン『竜牙堂』は蘇った。もっとも風音の予想に反して実は被害自体はそれほどでもなかった。部屋がひとつ破壊されたが、他には燃え移らず、店全体は形を保っていたのだ。
そもそもドラゴンステーキは食べ終わるかその食事の過程でブレスもどきを吐くことがあるのは周知の事実である。
それを考慮して部屋全体も頑丈に造られていたのだが今回の風音のリアクションはその耐久度を大きく上回った。とはいえ、料理の代金には部屋の保証金も含まれているため、風音は修理費を払う義務はなかったのだが、しかし責任を感じていた風音は無償のボランティアとして修理することを願い出たのだ。
そうしてできたのが耐火、耐氷、耐雷などに強いようにイス、テーブルなどのすべてが水晶化加工され、中央に水晶化した竜の置物が置かれたクリスタルドラゴンルームであった。なお、その竜の置物はゴーレムの姿見の術で竜体化の姿のゴーレムを造ってそれを水晶化したものだ。
その、壊される前よりも遙かにゴージャスにパワーアップした部屋にオーナーが「おいくらで」と青い顔をして聞いていたが、あくまで部屋を壊したお詫びのボランティア活動である。風音はドヤ顔で「プライスレス」と返した。
昨日の暴走の反省から朝は超ローテンションだった風音だが、実際に造り始めると段々テンションが上がりはじめたようで、気がつけばノリノリで水晶造りの部屋にしてしまった。自重という言葉は遠い空の彼方に飛んでいってしまったようだった。
「さすがはリア王、見事なお手前。これがただとはキップの良さも素晴らしいですな」
オーナーが心の底からそう感心する。ノーラも「凄いですねえ」と感激している。それを見て風音はいいことしたなあ……と満足げに頷いていた。自重よ、早く戻ってこい。
ちなみに『リア王』とは国に認められた正式な称号で、値する人物がいれば、その街の料理人ギルドの判断で与えることが可能となるものだ。風音の冒険者ギルドカードにも既に表記されている。
なお、風音は黒岩竜のドラゴンステーキを食べたことで竜系統といくつかのスキルがレベルアップしていた。
内訳を説明すれば『マテリアルシールド』がLv2になったことでシールド強化と全周囲放射が出るようになり、『竜体化』がLv2になったことで竜体時が7メートルとなってコールドブレスを生身でも出せるようになった。また覚えたばかりでまだ実戦の使用経験もないはずの『メガビーム』も何故かLv2となってパッシブ化していた。ただし前日のようにパッシブだと迂闊に撃ちかねないため、通常はパッシブはオフにしてある。魔力350という人間の魔力量の限界を超えた消費量を必要とする大技だし、アクティブのボイスコマンドでも出すことは可能なのだ。
他にも『より頑丈な歯』と『水晶化』のレベルが上がったが、『より頑丈な歯』は歯がさらに頑丈になり、『水晶化』は効果範囲が広がり消費魔力が減った感じである。これにより老後の歯の心配は完全になくなったと言えよう。風音は死ぬまで煎餅をガリガリ食べることが可能になったのだ。
また他のメンバーの能力アップだが弓花は多少ではあるが雷の竜気を発することができるようになり、一日掛かりではあるが自力で竜気を竜結の腕輪に溜めることが可能になったようだった。
他のメンツも僅かに能力が上昇したようだが、目に見えるほどではなかった。これは竜気の中和度の違いが大きいと思われた。ただしジンライだけはかなり大きな変化が起きていた。
「若いわー、ないわー」
ルイーズが嬉しそうにジンライを見ている。
「ふむ。若返った感じだ」
「いや師匠、実際若返ってますってば。もうジライドさんと同い年ぐらいに見えるんですけど」
弓花の言葉にジンライは「そうか?」と照れているが、若く見えているのではなく実際に若返っているのである。どうも以前に飲んだ超レアアイテム『パナシアの雫』の効果がまだジンライの中に残っていて、それが刺激されたのではないかと思われた。今のジンライの見た目は40代前半。どう見てももう爺さんではない。
「もうジンライくんったら男の匂いを出しちゃって。誘ってるのかしら?いいわよ?今夜いいわよ?」
「いや姉さん、勘弁してください。あとライル、お前にはまだ早いから見るんじゃない」
チラッと服を脱ごうとするルイーズと、慌てるジンライと、それをガン見して怒られるライルがいた。
「兄さんってば、ホントにもう」
「いや、その。ルイーズさんも結構なものをお持ちですよね。ははは」
ライルの言葉にルイーズが微笑む。
「ありがとう。でもね、ジンライくんはまだ早いって言ってたけど、そんなことないのよ。だってジンライくんの初体験って●才の時なんだし」
その場の全員が一斉に吹いた。
「ね、姉さん。その話は……」
「お相手はジンライくんの故郷の宿屋女将のメーベルさんって人でねえ。幼なじみのミルラちゃんとも村を出る1●才までは良い仲だったらしいし、以前に村に立ち寄ったときには4人で一緒に」
「ルイーズ姉さーーーーーーーーん!!!」
ジンライが叫び、ルイーズの口をふさいだ。
「あらやだ。もう怒っちゃやーだ」
ルイーズはジンライの手をふりほどいてペロッと舌を出すが、ジンライは顔を真っ赤にして首を横に振っている。
「すげえぜ爺さん」
「ふ、フケツだわ」
孫の尊敬と軽蔑の視線が痛い。ジンライの顔から冷や汗がダクダクと流れ出ていた。
「ま、ジンライくんはモテてたからねえ。女に興味がないって顔しながら来るもの拒まずだったし。まあ最終的にシンディのおなかの中にジライドくんがデキちゃってようやく収まったのよねえ」
「む、むう。あの頃は知らんかったのです。女性からは誘いを受けたら応じなければいけないと教えられていて」
『ふむ。あの頃のこやつはヒドかった。ナンパなど何故する必要があるのか?……と素で言われたときにはさすがの余も殺意を覚えたものよ』
メフィルスも続いて過去話を暴露する。
「メフィルス様。もうその話は良いですから」
ジンライは必死だった。実際彼は生まれてこの方、女性に不自由したことがなかったのだ。野生のリア充は世に解き放たれても、それが当然だと思っていたので、次々と女性と関係を持っていた。寄ってくる女性がルイーズ的なのばかりだったため、それがおかしいことだとまったく気付かぬまま冒険者として過ごし、最終的にひとりのヤンデレさんに捕まって今に至るのである。
ちなみに弓花の『大丈夫です。私は師匠を槍の師匠として尊敬していますから』というフォローでジンライは完全に撃沈していた。槍の師匠以外を全否定された気がしたので。ジンライのメンタルはそっち方面ではあまり強くはないのだ。
まあ、それはそれとして話は終わり、ライルはフンッと素振りをしてみる。何か変わったのか?と思ったが故に。
「うーん、身体のキレは良くなった気はするんだけどな」
「うん。妙に体が軽いし、集中力も増したような気がすることはするよね」
ライルとエミリィは、自らの中に微妙な変化が起きているのは感じ取れたが、微妙そうだった。それはルイーズとティアラも同様である。
「うりゃあ!」
ライルたちに横にあるベッドの中で風音が自分の手からコールドブレスを出しタオルを凍らせて、頭の上に乗せる。
「姉貴、大丈夫か?」
直樹が風音が横になってるベッドの横で心配そうに見ている。
「問題ないよ。ちょーっと、魔力使いすぎて身体がビックリしただけっぽいから」
風音は直樹にそう返した。
風音は竜牙堂で工事を完了した後にホテルに戻るとそのままベッドに飛び込んで倒れてしまっていた。かなり熱もあるようで、さきほどから苦しそうである。ティアラも直樹の後ろで心配そうに見ている。
「急激な強化も原因のひとつかもね。とりあえず明日まで様子見しましょ。明日に普通に戻ってれば大丈夫だから」
ルイーズはそう言って風音の肩まで布団を掛ける。
「くふふふふ、身体が燃えるようだよ。もしかしたら目が覚めたら身体も成長してボインボインかもしれない」
「そういう強化は多分ないから、もう寝れ」
風音の妄想に弓花があきれてそう返す。そんなわけで本日はそのまま終わりを迎えた。
もちろん、翌日にボインボインにはなりませんでした。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザー×2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:31
体力:114
魔力:205+420
筋力:55+10
俊敏力:48+4
持久力:31
知力:62
器用さ:39
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』
弓花「もう諦めなさい」
風音「いやだ!まだボインの道は閉ざされてない!!」




