第百八十四話 武器作成を頼もう
※日程とズレのある下記内容を
竜救草を混ぜた特殊なスパイスをまぶして3日つけておく
→竜救草を混ぜた特殊なスパイスをまぶして2日つけておく
に修正しました。(2013/07/14)
ノーラたちを助けた後の風音たち一行は、その後はトラブルもなくドルムーの街へと夕方に入る頃には到着していた。
道中で風音から黒岩竜のステーキの調理を持ち掛けられたノーラだったが、他の何を優先してでも自分が調理すると豪語し即請け負ったのにはむしろ風音の方が驚いていた。
しかしノーラのテンションも彼の業界の現状を考えれば不思議なものではない。何しろ竜素材業界において、黒岩竜ジーヴェは久方ぶりの超大物素材だったのだ。冒険者ギルドも有力な素材管理人を派遣しオルドロックの洞窟に待機させていたほどだったのだが、実際に倒したのは知っての通り風音たちである。
そして風音たちは自前の不思議な倉庫を持っており、ジーヴェの素材の多くを自分たちで独占してしまったし、肉の多くは風音が竜葬土にするよう依頼してしまった上に自分たち用の肉もそこそこ確保していた。
そんなわけで、ヌマのダンジョンで討伐された黄牙竜ゼロモス以来の大物だというのに黒岩竜の素材が市場に出回る数は非常に少なかった。
ちなみに黒岩竜討伐にはミンシアナ王子の活躍を中心として話は広がっているので消えた黒岩竜の素材は白き一団ではなく、ミンシアナ王国が所有していると思われていた。風音が不思議な倉庫を所有してると知っている人間は限られるので無理もない話ではあるが、よけいな波風が立たなかったので風音たちにしてみれば結果オーライであろう。
そしてノーラ自身だが黒岩竜の肉は客から持ち込まれた僅かばかりのヒレ肉を調理したぐらいだった。口では「まだまだ」などと口にしても、ドラゴン調理人としての自負はある。流通ルートの違いから別の店にはいくつか出回ったらしいことも、彼の、そして店のプライドを著しく刺激するものだった。
また、大武闘会の召喚部門の賞品に黒岩竜の肉が出ると聞いたときには「あれを召喚獣風情に食わせるだと。ふざけるな」とシェフ同士で罵詈雑言の嵐となったらしい。ユッコネエとメフィルスに好きに食わせていたと知れば卒倒してしまうのではないかと思われた。
さらに今回、風音が出すといった部位は成竜クラスでも10人前の量しかとれないという、幻の肩部と竜翼の間の僅かな部位『エンジェル・ラダー』と呼ばれるものである。それを調理しないかと言われて断るようならドラゴン調理人など名乗りはしないとノーラは言い切ったのだ。
ちなみにドラゴンの肉の調理にはまずは竜気を一度中和する必要がある。人間がそのまま食べるには竜気の満ちた肉は毒性が強すぎるのだ。そのため、ドラゴンが体調を崩し、過剰な竜気を発した時に食することがあるという竜救草を混ぜた特殊なスパイスをまぶして2日つけておくのだそうだ。
また元より竜気を持っている風音と竜人化ができて竜気に耐性のある弓花、ベンゼルは1日程度漬けるだけでよいそうで、そこらへんの対応はすべてノーラが行うとのことだった。
そうしたやりとりも終え、風音は水晶保存していた黒岩竜の肉の水晶化を解いてノーラに渡した後、直樹を連れてハイヴァーンの匠がいるというシュライン魔法武具工房へと向かうことにした。いよいよ、直樹の必殺武器の製造が始まるのだ。
◎ドルムーの街 シュライン魔法武具工房 来客室
「ここがシュライン魔法武具工房だねえ」
風音がポンとソファーに座る。
シュライン魔法武具工房はその隣にシュライン魔法武具店を持っているが、今回風音たちはジライドの推薦状を持っているので工房にそのまま乗り込んだ。匠であるアイキス・シュラインに直接交渉するためだ。
受付が「なぜ子供が?」という顔をしていたが推薦状を受け取った途端に顔色を変えて奥の部屋へと入っていき、そして風音たちは来客室へと通されることになったのである。
持つべきものはコネであり、風音はそこを自重する気はなかった。望んだものが素早く手に入るのならそれに越したことはないのである。
「姉貴、行儀悪いぞ」
「誰も見てないからいいじゃない」
そういう風音に直樹が苦笑する。直樹は姉スキーの変態ではあるが、風音を全肯定しているわけではない。むしろ身内としては少し自重してほしい、そんな多感な年頃なのだ。
「ふんふーん」
その直樹に反して風音は上機嫌のようだった。
当初の予定では、黒岩竜のステーキについては調理してもらうメドはなく店を探すところから始める予定だったのだが、予期せぬ事態によりその問題は解決した。武器の製作についても元々は飛び込みで持ち込む予定だったが、こうしてジライドという強力なコネによってすぐさま交渉に持ち込めた。実際のところはスクラルキラー全滅のことを頭から追いやりたいが故にわざと明るく振る舞っている部分もあるのだが、ともあれ風音は表面上は上機嫌ではあったのだ。
そして風音と、その横に座った直樹が数分待っていると、扉が開いて女性がひとり入ってきた。その女性はなりは小さいが彫りの深い顔をした女ドワーフだった。
「この工房を任されているアイキス・シュラインだ。よろしく頼む」
そう言って頭を下げ、風音たちも挨拶を返すと、アイキスは風音たちとテーブルを挟んで反対側のソファーに座った。
「なんでもジライド将軍のツテだそうだな」
「はい。よろしくお願いします」
直樹が頭を下げる。風音も「しまーっす」と併せて頭を下げた。
「推薦状には武器の作成を頼みたいとあったが、どんなモノをお望みなんだい?」
そのアイキスの言葉に、風音がアイテムボックスからふたつの素材を取り出してテーブルに並べた。それはクリスタルドラゴンから入手した水晶竜角とふたつの水晶眼だった。
「なるほど。あんたらが白き一団か」
その素材を見てすぐさまアイキスは目の前のふたりの素性に見当が付いた。白いマントのゴツイ足装備の子供など早々いるものではないし、白き一団がクリスタルドラゴンを討伐した話はアイキスの耳にも入っている。そしてもうひとつ、彼女の職業的にも気になるパーティだったのだ。
「ジョーンズ専属のパーティだと聞いたがあたしに頼んじゃっていいのかい?」
そう、ミンシアナの匠であるジョーンズ・バトロアが贔屓にしているパーティとして風音たちは武具を取り扱う業界ではそこそこ有名であった。
「親方とは縁があって武器の作成をしてもらったけど、専属って訳じゃあないよ。それに魔法剣や魔剣の類だとアイキスさんに頼む方が正しいよね」
その言葉にアイキスが笑う。
「まあ、確かにな。あの男もようやく魔術を併せた武器の製作に入ってるとは聞くが、実際には弟子がやっていることらしいからな」
(モンドリーさんのことだろうなぁ。あの人もなにげに有名なんだね)
アイキスの言葉を聞いて、モンドリーのことを思い出す風音。風音の武器の『黒牙』もモンドリーの作品だ。最近は使っていないが。
「それで、この素材を持ってきたということは」
「『セブンスレイ』と『第三の目』を使える武器を造ってもらいたいの。こっちの弟用に」
「弟?」
アイキスは直樹を見て、風音を見て、そしてまた直樹を見た。
「弟?」
アイキスの二度の疑問の声に、
「そうなんです」
「お姉ちゃんです」
二人はそう答えた。アイキスは少し首を捻って考えたが(そういうこともあるのだなあ)と思い、頷いた。
「まあ、いい。クリスタルドラゴンの素材を持ってきた大物様だ。あのジライド将軍の推薦も在るなら断る理由はないが、金はあるのかい?」
「うん。直樹」
「ああ。これだけあるけど、足りるかな?」
直樹はクリスタルドラゴンとブルーリフォン要塞で得た金額のすべてを目の前のテーブルの上に出す。
「問題はないな」
そう言ってアイキスは直樹にその金を仕舞うように促した。
「あとで見積もりを出して、金額はそのときに改めて確認させてもらう。それとお前、確か『魔剣の操者』のナオキだな」
「ああ、そうだけど」
突然、字を呼ばれて、驚く直樹だったが、アイキスは「魔剣を飛ばして戦わせると聞いたのでね。魔剣の鍛冶師としては気になるじゃないか」と返す。
「今回の剣もそういう用途かい?」
「セブンス・レイを撃つには遠隔操作だと難しくない?」
だが、そう返したのは風音だ。
「確かにな。魔力を蓄積できれば可能だろうが」
そのアイキスの言葉に風音はピンッと閃いた。
「ひとつ、方法はあるかな」
「なんだと?」
「アテはあるんだけどひとりで決められないから連絡してみるよ」
風音はそう言ってひとりニマッとした。
その言葉にアイキスと直樹が首を傾げながらも、武器の内容について詰めていく。その中で風音が要求したのは主に水晶竜角の剣の柄の部分だった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣フェザーx2・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:31
体力:114
魔力:205+420
筋力:55+10
俊敏力:48+4
持久力:31
知力:62
器用さ:39
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『より頑丈な歯[竜系統]』『水晶化[竜系統]』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』『メガビーム』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』
弓花「蓄積するっていうとアレしかないね」
風音「だねえ」




