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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
ベビーダンジョン編

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第百六十五話 ボスと戦おう

◎ブルーリフォン要塞 最深層 心臓球の間 入り口


「封印門が消えておるな。やはりチャイルドストーン反応がなくなったのは間違いではなかったか」

 心臓球の間、ダンジョンの最深層を冒険者たちはそう呼んでいる。そしてその最深層の入り口には封印門と呼ばれる多重の封印が張られており、その封印の一層一層がダンジョン内に点在する強力な魔物の核であるチャイルドストーンと連動しているのだ。故にダンジョンとは最深層の心臓球の間を目指すと同時にチャイルドストーン持ちの魔物も併せて倒すことを求められる。ただ下に降りても心臓球の間には入れないのだ。これはすべてのダンジョンに共通する『仕様』であり、冒険者ギルドからダンジョンとは認められていないこのブルーリフォン要塞も同様であった。


 そのチャイルドストーンと連動していた封印が解除されていた。そのことに魔術の探査でオルトヴァが気付いたのが昼の頃であった。というよりも、その時間に解除されたので気付いたというべきか。

「昨日までに俺らがチャイルドストーン持ちを全部潰したってのにモンスターハウスと同時にまた復活しやがったからな。まったく畜生なダンジョンだぜ」

 そう声を荒らげているのはドワーフの戦士バックスだ。手持ちの斧を持つ手が若干震えてるのは肩口の傷の痛みだけではないはずだ。怒りと武者震いの双方がこの小さき戦士の内に充満している。

「けど、チャイルドストーン持ちが死んだってことでしょ? やっぱりあのストーンミノタウロスよね、やったの?」

 弓使いのナイラがそう口にする。

「だろうよ。あれはチャイルドストーン持ちでもないくせにあの強さだ。明らかにバランスを欠いた魔物だった。故に自らを守るチャイルドストーン持ちすらも殺されてしまったのだ」

 魔術師オルトヴァがそう答えた。基本魔物同士は種族が違えば遭遇すれば戦闘となる。それはチャイルドストーン持ちでも同様だ。だがチャイルドストーン持ちが生き残る。理由は単純でその階層でもっとも強いからである。だがあのストーンミノタウロスは明らかにそれを凌駕する強さだった。バランスを欠いたと評価されるのも当然ではあったのだ。

「それにだ。地上にいる連中ではチャイルドストーン持ちは疎か、10階層まで来ることも不可能だろうよ。モンスターハウスで大量の魔物が解き放たれた現在のダンジョンは我々とて危ういのだからな」

 オルトヴァの言葉に続けて物静かな神官のアグイがそう付け加える。

 昨夜、彼らがモンスターハウスに遭遇してからすでに半日以上が経ったが、地上からは誰もやってきてはいない。それも当然だろうとこの場にいる全員が考えているが、理由は先ほどアグイが述べたとおり、魔物が激増し、地上の冒険者たちでは攻略が困難だからだ。

 地上にいる冒険者の数は70名ほどだが、その多くがDかC、ランクBの冒険者は数えるほどしかいない。そしてモンスターハウスから多くの魔物が散らばった今のダンジョン内を攻略できるほどの腕の冒険者は当然いなかったはずなのだ。

「セラのやつがってのはまあ、甘い考えだろうな」

 バックスの言葉にアグイが首を振る。

「希望的観測は止めるんだな。寧ろ入ってこないことを祈っておくべきだ」

「ま、な」

 バックスが「へへっ」と笑って頷く。

「だがよぉ。本当にユズのやつ。連れてこなくて良かったのかよリーダー?」

「今更グチグチ言うんじゃないよバックス」

「うるせえよナイラ。アイツだってな。最期ぐらい一緒にいてやった方がいいんじゃねえかって話しだよ。そりゃアイツの王子様がナオ坊なのは分かってるけどよ。でも俺ら仲間じゃないか」

 そう言うドワーフのバックスにオーリが笑って返す。

「ハハハ、勘違いするなよバックス。俺たちは死ぬために戦うんじゃない。ユズは足を骨折していたしな。身動きの取りづらい状況でこの先のヤツに戦うのは危険すぎるから、ちょっと休んでもらってるだけだ」

 リーダーのオーリの言葉にはアグイが一人頷いていた。ただ怪我をしただけならばヒールかハイヒールだけでも対処できるがストーンミノタウロスの一撃で砕けた足の骨の修復には時間と魔力が多く必要となる。昨日は逃げる際に魔力は底を突いていたし、今日にはある程度回復はしたが戦いの前にアグイに魔力を使い切らせるわけにも行かなかった。痛み止めの術をかけておくのが精々だったのだ。

「それに偶然とは言え、モンスターハウスを出す前にあの隠し部屋を発見できたのは幸運だったとしか言いようがなかった。だから俺たちは今、運があると思っていい」

 その言葉に全員が笑った。確かに偶然にしては出来過ぎな状況だった。逃げた先にたまたま数時間前に発見した隠し部屋があってあの魔物の群れから逃げ切れたのだ。その際にひとりはぐれてしまったが、だがそれは誰も口にはしない。ただ逃げ切れていることを祈るだけだ。

 そして今日、全員が泥のように眠って目を覚ますと心臓球の間の封印がいつの間にやら解けていたのだ。望外の幸運の下に自分達がいるのは違いないと全員が笑いあった。

「この先の番人を倒してベビーコアを手に入れれば、ゴーレム系は勝手に消滅するし、魔物もコレ以上は発生しなくなる。そしてユズとアルズを迎えにいって俺達は地上に帰る!」

 そこまで言ってオーリは剣を抜いた。

「行くぞみんなっ!!」


 そして全員が声をあげ、走り出す。敵は一つ目の巨大な番人『キュクロープス』。


 そして最初に攻撃を仕掛けたのはランクA冒険者、『氷剣』と呼ばれるあざなを持つオーリだ。彼は魔剣も魔法剣も持たない己の剣術だけを磨き上げた生粋の剣士だった。

 この世界では自身の魔力を練り上げて循環させることを『気を纏う』と表現する。そうすることで自らの能力を上げたり、攻撃に属性を帯びさせ、雷を纏う槍を投擲したりもできるようになるわけだ。そしてオーリの剣は氷を纏う。切り裂いた箇所を氷結させ砕く。

 その攻撃がキュクロープスの足を狙う。だが、それを見ていたキュクロープスはその巨体に似合わぬ機敏な動きで飛び退き避ける。


「こいつはどうさっ」

 それを弓使いナイラの矢が襲う。キュクロープスはそれを右手の盾ではじき返した。

「いつの間に盾なんか出した?」

 その様子をバックスが驚きの目で見ている。飛び退いた瞬間には無手だったはずだ。だが現実にはキュクロープスの手には盾が収まっている。それだけではなく、左手には巨大なハンマーが握られていた。

「不味い、避けろっ!!」

 オーリの言葉と同時にハンマーが投げつけられる。目標は矢を放ったナイラだ。

「ちょっと、嘘でしょぉ!!!」

 そう叫びながらナイラが横に跳んで避ける。ナイラのいた場所の背後にあった壁が凄まじい音を立てながら崩れ落ちた。そして投げつけたハンマーはチリのようになってすぐに消滅した。


「うぉぉおおお!!」


 バックスが飛び出した。投げつけた状態なら次の動作までに時間があろうと。だがキュクロープスの左手には巨大な斧が、さらに右手も盾から巨大な斧に変わっていた。

(キュクロープスの能力『武具創造』か。厄介な!?)

 そしてバックスからの攻撃が届く前に、逆にキュクロープスの両腕の二本の腕から攻撃が繰り出される。その斧の連撃にバックスがとっさに手持ちの両手斧を盾にして受けたが、そのまま吹き飛んだ。

「オルトヴァッ!」

「黒き雲よ! 彼の者等の視線を殺せ!!」

 オーリの言葉に従ってオルトヴァが杖を掲げながら、キュクロープスの周囲に目隠しの雲を生み出す。同時にオーリが飛びかかる。


「うぉぉお!!」

 

 そしてオーリのレイア流剣術の剣技『氷結刃』がキュクロープスの左腕をはね飛ばした。だが、同時に煙の向こうから光が放たれる。

「なんだと!?」

 それはとっさに避けたオーリの左腕をかすめた。だがかすめただけでボウッとオーリの左腕が発火したのだ。たまらずオーリが悲鳴を上げて転げた。


「癒やしの御手よ! 傷つきし者に救いの風を!!」


 そのオーリに神官であるアグイがハイヒールを唱える。

 同時に先ほど吹き飛ばされたバックスが駆け出し、オーリに一撃を見舞おうとキュクロープスの右腕から繰り出される斧の一撃を受け止める。

「ぐおっ」

 バックスが苦痛の声を上げる。いかに力自慢のドワーフとてその巨人の繰り出す攻撃を真っ向から受け止めきるのは無謀だ。そしてそのズングリとした身体が続けて繰り出される巨人の蹴りによって大きく弾き飛ばされた。


「バックスッ!!」


 左腕が動ける程度に回復したオーリが叫ぶ。だがオーリも仲間の心配をしている場合ではない。いつの間にやらキュクロープスの右腕の武器は槍へと変わり、その槍から繰り出される連続突きを剣で受け、そして避け、体勢を立て直しながらバックステップで下がって逃げる。

 そのキュクロープスにナイラの特製の矢が、そして続けてオルトヴァが雷属性の上位魔術『ボルト』を放った。そして突き刺さった鋼鉄の矢にボルトが吸い込まれるように当たり、キュクロープスが悲鳴を上げた。だがそれも一瞬のこと。傷口から白い煙を出しながらキュクロープスはその瞳を光らせて、より強力な攻撃を放ったと判断したオルトヴァに対し光線を放射した。

 それに対しオルトヴァはとっさに持っていたアクセサリーを前へと突き出す。それは防衛魔術を込めた首飾りだ。

 その首飾りがオルトヴァの正面で光り、瞳から放たれた光とぶつかり合う。衝撃で爆発が起こり、オルトヴァが大きく弾き飛ばされ壁に激突した。


「おおおおおおおお!!!!!!」


 そしてそのタイミングでオーリが駆け出す。アグイも接近してメイスで攻撃する。対してキュクロープスは今度は右手の槍をハルバードに変えて、一気に横に薙いだ。

「避けろアグイッ!?」

「構うなオーリ!」

 叫ぶオーリにアグイはメイスを持って構え、そしてハルバードを受けきった。

「グゥウッ」

 アグイがうめき声を上げるが、だが耐えきった。防衛魔術を限界まで唱え、衝撃を殺したのである。攻撃を放った直後の瞬間、その一瞬の隙を造るために。

 そしてオーリがその隙を見逃すはずもない。わずかばかりアグイに気を取られたが、だがすぐさま頭の中を切り替え、そしてその場から剣を振るう。その腹に向かって横に一閃。腹圧で腸が外に漏れた。


「こっちもだぁあ!!」


 ザクッとキュクロープスの背中に斧が二本刺さる。それはバックスの投げた投擲用の手斧。そして愛用の両刃の斧を持って走り出した。そのバックスにキュクロープスは目からの光線で応戦しようとするが、


「ヒット!」


 ナイラがその瞳に矢を放ち命中させる。瞳に集まった光は霧散しキュクロープスが叫び声をあげた。


「バックス!」

「おうよ、いくぞオーリ!!」


 そしてオーリの剣とバックスの斧がキュクロープスの右腕とわき腹をそれぞれ切り裂いた。キュクロープスの鮮血が飛び散る。

「やったか?」

 そう言ってバックスがキュクロープスを見るが、だがその瞳には信じられないものが映っていた。

「バカなッ!?」

 キュクロープスの能力である『武具創造』、それがキュクロープスの腹の傷を鋼鉄の鎧で閉ざし、、失われた左手と右手を鋼鉄のガントレットで補う。見る見るうちに一つ目の巨人を鋼鉄が覆っていく。そして全身にフルプレートメイルを纏わせ、その一つ目も赤く発光し、瞳に突き刺さった矢が燃え尽きる。さらに両腕には巨大な剣が握られていた。


 それはあまりにも絶望的な光景だった。オーリ達の全力をあざ笑うかのようにキュクロープスはさらに強化されてその場に立っていたのである。

「これが心臓球の門番……か」

 オーリはまだ心臓球の門番と戦ったことはなかった。ダンジョン最奥の魔物の本当の強さを知らなかった。だが……と、再度剣を握る。

(まだだ。まだ終わっていない。まだ)


「まだ俺はやれるっ!」

「オーリ、逃げてぇぇえええ!!」


 声を振り絞るオーリにナイラの悲痛な叫びが上がる。そしてキュクロープスの瞳が赤く光り、オーリへと


「キリィインングレェエエエエエエッグゥゥゥウウ!」


 同時に元気の良い声がオーリの上空を飛び越えた。

 その元気の良い何かがキュクロープスに激突し、赤い光はオーリより僅かに逸れ、床と壁を焼いた。


「みなさん、大丈夫ですか」


 あっけにとられたオーリの背後から今度は聞き覚えのある声が届く。

「ユズ? って、なんでここにストーンミノタウロスッ!?」

 後ろを向いたオーリがまさかの敵を見た。ストーンミノタウロス、あのモンスターハウスと共に出現した5体の魔物。激闘の末2体は倒したが、残り3体の攻略は諦めて番人を倒すことを選択せざるをえなかった相手が一体、入り口に立っていた。

(こんなところで……もうダメだというのか)

 本気でオーリがそう思い、徒労感に片膝を突いたが、だが内に響いた情けない心の声を吐き出す前に、懐かしい声が連続で響き渡った。


「おいおい、こんなところでダウンか大将?」

「ランクAなんだから根性見せてよね」

 ライルとエミリィ、バーンズの兄妹がそこにいた。オーリはその声に涙が出そうになる。夢ならば覚めるなと心の底から願った。そしてオーリが『彼ならば自分と対等の立場に立てる』と見込んだあの少年もそこに立っていた。

「やれるか、オーリ? 片膝突いてるなんてあんたらしくないぜ」

 少し人を小馬鹿にしたように直樹は笑ってオーリを見た。

「うるさいな。ここからが本番だったんだよ」

 直樹から伸ばされた手を握り、若干照れながらオーリは立ち上がる。状況は分からない。だがここに来て、最後の最後にここに来て援軍が到着した。もっとも頼りになる友がやってきた。そして直樹とオーリは笑い合い、並び立つ。

「そんじゃあまあ」

「さてと」

「「反撃と行きますか!」」

 ふたり同時に叫びあった。


「あれ、なんで私抜きで盛り上がってるの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

 なお、そこより少し離れた位置で呻いて倒れているフルメタルキュクロープスと、寂しそうに直樹たちを見る風音がいた。空気に混ざれない悲しい少女がそこにひとりポツンといたのである。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:31

体力:114

魔力:205+420

筋力:55+10

俊敏力:48+4

持久力:31

知力:62

器用さ:39

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『より頑丈な歯』『水晶化』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』


風音「ここはアウェーだよ(涙)」

弓花「よしよし」


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