第百六十四話 ミノさんと出会おう
◎ブルーリフォン要塞 第十一階層
「うわぁ、こいつは強力だなぁ」
風音が余裕のない声でそう声をあげる。ここまでの緊張感は久方ぶりかもしれないと思ったが、よく考えてみればディアサウスで竜に囲まれてたときの方が怖かったのでそうでもないか……などとは思い直したが、まあピンチはピンチだ。
「カザネッ、ぜんぜん矢が通らない!?」
「拘束系の魔術を詰めてともかく弱体化してッ」
エミリィの泣き言を風音はそう怒鳴り返す。
「くっ、俺のだと破砕の魔剣ぐらいしか使えないか」
「俺が行くっ」
「前に出過ぎるなよ」
飛び出すライルに直樹が声をかける。だがライルは冷や汗をかきながら「へへっ」と軽く笑って突き進む。このパーティにおいて目の前の敵へ有効なダメージを与えられるのは風音と竜牙槍を持つライルしかない。無茶をせざるを得ないポジションだ。そして同行しているセラもランスで攻撃を仕掛けたのだが、攻撃は通らず反対に一撃で大ダメージを食らってしまい今は後ろに下がっている。
当然ながら現状は苦戦していると言っていいだろう。このダンジョンでここまで遭遇した魔物と比較にならない強さの相手に今風音達は遭遇していた。ミノタウロスである。それも石でできたタイプのストーンミノタウロスが三体。マテリアルシールドは使えないがその膂力は変わらずで何より硬い。一定以上の攻撃力がなければダメージが通らない高レベルの魔物だった。
それを今現在、一体を風音が、一体をユッコネエや3メートル魔剣装備のタツヨシくんドラグーンやノーマルらが、そしてもう一体を直樹達が受け持って戦っていた。
(こいつがあのアルズさんを殺ったヤツか)
風音は『直感』と『身軽』、そして『キリングレッグ:Lv3』の能力によりストーンミノタウロスの攻撃を避け続けながら蹴りやファイアボーテックスなどを放っていたが、だがいつまでもというワケにもいかない。それに風音は大丈夫でも直樹たちは危ういのだ。すでにパターンは見えた。ならば勝負に出るときだ。
「ユッコネエ、ブーストしてかき回せっ!」
そして風音は情報連携を介しながらユッコネエに指示を出す。その指示に従い、ユッコネエが雷を纏った炎の玉を食べ、赤い炎と雷を纏って走り出した。
「ドラグーンはこっちっ!」
そしてタツヨシくんドラグーンは今まで風音の相手をしていたストーンミノタウロスへと走り出し、巨大な魔剣を振るう。その状況に風音と戦っていたストーンミノタウロスが戸惑いの動きをする。ストーンミノタウロスは非生物系の魔物であり、ゴーレムの系統はある程度の命令をプログラムされて動く存在だ。生物的な一瞬の判断ができず攻撃目標の選択時に僅かに反応が鈍る。
風音はそれを狙って戸惑うストーンミノタウロスにドラグーンを当てる。そして自分はユッコネエに動きを止められているストーンミノタウロスに走り出した。魔法短剣を取り出し魔術を込め、インビジブルを掛けながら、空中跳びで空へと駆け上がった。
「全力でいくよっ」
そして放たれるのは『カザネ・ネオバズーカ』だ。両足で錐揉みしながらのキリングレッグが見事にストーンミノタウロスを破壊する。威力はやはり以前よりも上がっている。だがやはり威力を殺せない。また地面に埋まってしまう。そしてそれを防ぐために風音が考案したのが、
「うりゃああッ」
開脚である。以前ならば股が裂けかねなかったが、今はキリングレッグLv3の効力により持ちこたえることができる。そしてその場で凄まじい勢いでコマのように回転しながら風音は土煙を上げて床に降り立った。
「ぐふっ」
風音はあまりにも目が回ってぶっ倒れそうになるが、叡智のサークレットによる精神系の状態異常の無効化が働き、すぐに治まる。
(つか、このクルクル目を回すのって精神系の状態異常でいいのかな?)
とは思うが効いているのだから仕方がない。そしてタツヨシくんドラグーンが抑えているもう一体に向かい、今度はユッコネエと風音とで牽制をかけながらタツヨシくんドラグーンの3メートル魔剣で削って倒した。
そして最後の一体だが、
「よっしゃあぁああああ!!」
風音が二体目を倒したと同時にライルが見事ストーンミノタウロスのコアストーンを槍術の『振』で破壊していた。決め手となったのは量産型タツヨシくんA・Bの投石である。最初の段階で起動させた後、ダメージを負って後ろに下がったセラに石を運ばせて攻撃させていたのだ。その攻撃でよろめいたところにライルが一撃を見舞ったのである。
そうしてライルは叫んだ後、その場で崩れ落ちて大の字で地面に寝そべった。傷は大して負っていないが戦いに精神力を根こそぎ奪われていた。休息が必要だった。
そのライルを後目に風音はセラの下に駆け寄る。
「セラさん、傷は大丈夫?」
「ま、石を運べるくらいにはね」
量産型タツヨシくんの前でグッタリしているセラは痩せ我慢ではあるだろうが笑って返した。少なくともストーンミノタウロス3体を見て「ああ、死ぬなぁ」と思っていた先ほどよりも気分がいいには違いなかった。
「そっか。良かった」
そう言いながら風音はヒールの上位版である『ハイヒール』をセラにかける。それを受けてセラが気持ちよさそうな顔をしていた。もっとも風音の心中はまだ先ほどの戦闘に占められていた。
(でも危なかったなぁ。高レベルの魔物にはああいうダメージが通らないのがいるから恐いよ)
風音はさきほどの状況を思いだしブルッと震えた。この戦闘でレベルは1上がった。そして『ストーンミノタウロス』というスキルも手には入った。
だが今回の戦闘、ストーンミノタウロスが後一体いたら抑え切れた自信はなかった。相手をしていたライルたちとユッコネエたちのそれぞれのどこかが崩れていたとしても同様だ。
竜になってクリスタルブレスで水晶化させるという方法もあったが、水晶化しきる前に風音が逆に倒されたらお終いだ。そしてストーンミノタウロスの攻撃力なら高確率でそうなる可能性はあった。直樹たちがどうにかライルをフォローできていなかったらと思うとゾッとする……という際どい状況ではあったのだが、だが勝利は勝利だ。だから笑うべきだと風音は強く思った。
「…………」
その風音の葛藤を目の前で見ていたセラが少し安堵の笑みを浮かべた。風音の百面相のように変わる顔からその心情が簡単に察せられたためだ。
「それで、あそこにオーリ達がいるんだな」
落ち着いて立ち上がったライルが見たのはストーンミノタウロスたちがたむろっていた奥の壁。そこに不自然に色の違う壁があった。風音たちはあの場所を目指して進んでストーンミノタウロスたちに遭遇したのだ。
「オーリさんかどうかは分からないけど……一人はそこにいるね」
そう風音ははっきりしない声で返した。
「どういうこと?」
エミリィが尋ねるが、風音は首を傾げながらとりあえず直樹に声をかけるよう指示した。こちらから壁を破壊することもできるが、下手をすると救いにきた相手から手痛い攻撃を食らうかもしれない。
そして直樹が声をかけると中からはか細い少女の声が聞こえてきた。やがて壁が内側から壊され、その中から出てきたのは足を引きずっている風音と同じくらいの身長の少女だった。耳がとがっておりどうやらエルフのようである。
「ナオくんなの?」
そのエルフの少女は自分の目の前のメンバーにも目もくれず最初に目に入った直樹を見て声を出した。
「ユズ、お前だったのか。と、大丈夫か、その足?」
直樹がユズと呼ばれた少女に駆け寄った。ユズも立っているのが限界だったのか、その場で直樹にもたれ掛かる。そしてそのまま直樹の胸の中で泣き出した。
「むう」
エミリィが不機嫌な顔をしたが、だがさすがに直樹に泣きながら抱きついてる少女をどうにかしようと思うほど自制心がないわけではない。
「うう、ナオくん!ナオくん!ナオくん!ナオくん!」
よほど辛かったのだろう。直樹を抱き締めずっと名前を呼び続けるユズに直樹も困り顔だ。直樹が姉を見るが(落ち着かせて)とジェスチャーで返してきたので直樹は了解とばかりに頷いてユズが泣き止むのを待った。
そしてライルと風音は先ほどまでユズが中に入っていた隠し部屋の中に入る。
「うん。オーリたちはいねえのか?」
ライルが部屋の中を見回すがそこにはゴーレムが一体いるだけで他には誰もいなかった。
「ゴーレム?」
風音は隠し部屋の中にいた土塊の人型を物珍しそうにみる。
「ユズはトゥーレ王国の出身でさ。カザネと同じゴーレム使いなんだよ」
その言葉に風音は「へえ」と興味深そうにゴーレムを見る。
「そうなんだ。私、自分以外のゴーレム使いって初めて見た」
「そうなのか?」
ライルは風音の言葉に首を傾げる。ゴーレムを操る技術はこの大陸ではトゥーレ王国一国だけの秘匿魔術となっている。ユズのように魔術師が他国に行くことは許されてはいるが、ゴーレムの魔術はトゥーレ王国の出身者しか覚えることを許されていないしトゥーレの特殊な場所でなければゴーレムの魔術は覚えられないはずなのだ。なのでゴーレム使いは基本トゥーレ王国出身なのは間違いないし、他のゴーレム使いを知らないということはないと思うのだが……とライルは考えたが、目の前の少女の例外っぷりからすれば今更かとその疑問を頭から振り払った。
「なあ、ユズ。オーリたちはいないのか?」
ようやく泣き声も小さくなり、落ち着いたと見た直樹がユズに尋ねた。
オーリングのメンバーでこの場にいたのはユズだけだった。であれば他のメンバーはどこにいるのか。
「うん。みんながさっき出ていったの。あ、でもアルズくんは途中ではぐれちゃったんだけど。えーと、その、アルズくんは新人さんのメンバーなんだけど」
その言葉にユズを除く全員が苦い顔をする。
「あれ? どうしたの?」
その様子にユズが不思議そうな顔をして首を傾げるが、だがヒッポーくんハイの後ろに積まれたモノを見て、そして直樹に向き直して、直樹が頷いたのを確認するとまた目から滴がこぼれ始めた。
「ちょっとユズ」
だが、それにはさすがにエミリィも耐えかねてユズまで近寄り、肩を掴みながら声を荒らげた。
「今は泣いてる場合じゃないでしょ。オーリ達はどこ? 私たちは助けに来たのよ!」
その言葉にユズが一瞬また大粒の涙を溜めるが、だが耐えた。昨日からの状況にユズの精神は擦り切れる寸前ではあったが、どうにか持ちこたえた。
「お、オーリくんたちは、ベビーコアのところにいったの」
「ベビーコア?」
直樹の確認の問いにユズが頷いた。
「このままストーンミノタウロスから逃げきれるとは思えないから、だったら一か八か挑んでみようって。そうすればゴーレム系は動かなくなるはずだしって。ただ私は怪我してて置いてかれちゃって」
そこまで言ってユズは俯いた。そしてここにひとりで残っていた……ということだろう。
「……あの馬鹿、早まった真似を」
ライルはそう言うが、だがその判断自体は正しいと風音は思う。外の冒険者たちの援軍が期待できない前提ならば自力で帰るためにはそうするしかあるまい。基本的にダンジョン内のゴーレム系の魔物は心臓球の停止と共に崩壊する。ストーンミノタウロスがいなければ後は雑魚ばかりだし魔物が追加で出現することもないのだ。ここでのイレギュラーは助けに来た風音たちの方なのだ。
「ユズさん、オーリさん達はいつ出て行ったの?」
突然の見知らぬ少女の問いに戸惑いながらもユズは答えた。
「えっとね。30分くらい前かな」
(なるほど。さっきのストーンミノタウロスはオーリさん達が出ていったのを嗅ぎ付けてウロウロしてたのかなぁ)
現在のオーリたちの状況がどうなっているかは分からないがダンジョンに変化がない以上はまだベビーコアを手に入れたわけではないのだろう。であれば、やられてなければ今は戦闘前か戦闘中のはずだ。ならばこちらも先に進み急いで合流するしかあるまい。
と、そこまで考えたところで風音は仲間たちを見回した。
「よし、じゃあ急ぐよ!」
そして風音の言葉に全員が頷いた。考えていることは同じだったのだ。
なお状況の読めていないユズだけは首を傾げながら恐る恐る頷いていた。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:31
体力:114
魔力:205+420
筋力:55+10
俊敏力:48+4
持久力:31
知力:62
器用さ:39
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『より頑丈な歯』『水晶化』『偽りの威圧』『ストーンミノタウロス』
風音「弱気なロリキャラだよ」
弓花「ゴーレム使いかぁ。あんた以外のゴーレム操れる人初めて出たわね」
風音「そだねー」




