第百五十八話 依頼をもらおう
◎首都ディアサウス 冒険者ギルド事務所 ギルドマスタールーム
「ようこそ皆様方」
風音たちが案内されたギルドマスタールームに入ると、その中にはまん丸いふくよかそうな老人が座っていた。
(この人がギルドマスターのベンゼル・ボイラーさんか)
廊下で聞かされたルイーズの話ではかなり痩せてたとの話だったが、案内していた受付嬢は今はそうでもないですよと答えていた。実際にはそうでもないどころではない違いがあるようだった。
「ふむ、鬼殺し姫以外は見知った顔か。何十年ぶりかの人物もいるようだね」
ライル、エミリィはここで冒険者となったし、直樹がランクBに昇格したときにはこのベンゼルから直接昇格の報を受けている。そしてルイーズもベンゼルとは知り合いのようで、つまり風音以外は全員知り合いだということだった。
「ぬ、私もしかしてハブっすか?」
「何の話だね?」
風音の問いにベンゼルが首を傾げる。
「お子さまの戯れ言にいちいち耳を貸さないのベンゼル。それにしても随分と変わったわね」
「ははは、あんたにそう言われるとこそばゆいなぁ、デスクワークオンリーになったら途端にこうなってね」
「ライエルだってこんなの乗せたらつぶれちゃうんじゃないの?」
ルイーズの皮肉にベンゼルは笑ってごまかした。そのふたりの会話が終わったのを見計らって風音が声をかける。
「ベンゼルさん、私たちは依頼を受けて、あなたに竜の里へ行く方法を尋ねろと言われて来てるんだけど。それで間違いないよね?」
竜の里という言葉にライルとエミリィが目を丸くして風音を見る。このハイヴァーンにおいて竜の里という場所は非常に重要な場所だ。それが風音の口から出てくるとは兄妹もまったく予想していなかったのである。
「そうだね。ええと、そちらのバーンズの子供たちも一緒に聞いても問題はないということでいいんだよね?」
ベンゼルの視線にライルとエミリィが不安げな視線で風音を見る。が、風音は特に気にすることなく頷いた。
「うん、パーティの仲間だからね。竜の里にも一緒に行くことになるから、とりあえずは分かることは知っておいた方がいいと思ってきてもらったんだ」
「なるほど。しかし、依頼の契約に書いてあったあれは『ここ』でも有効なんだよね。この部屋の結界では情報の漏洩の危険性があることは否定できないから」
『黒竜ハガス』の心臓の移送。蒼焔のアオと呼ばれる竜より与えられた依頼の契約内容には他言無用という点が非常に強く書かれていた。なので直樹も今に至っても竜の里に行くということぐらいしか風音たちの目的を知らないでいた。
「名を呼んでしまえばその場に縁が結ばれ、何者かがそれを逆走してやってくるやもしれないしね。王族クラスの結界でもなければ怖くて話せないよ」
「そういう魔術もあるんだっけ?」
「まあどちらかといえば魔法の類だけど」
そうベンゼルが風音の問いに答える。
「実際のところ僕も詳しくは知らないんだよね。ミンシアナから大公経由で僕に依頼が来たことは確かだけど、僕は僕で君たちを案内するようにとしか言われていないから」
「そんな依頼の一端をよく受けるようになったね」
「さすがに大公からでなければ関わろうとは思わなかったよ。ただ君たちを竜の里へ送るという話だけど、実は今は無理なんだよね」
「どういうこと?」
首を傾げる風音にベンゼルは話を続ける。
「竜の里へ案内は僕ではなく、僕の相棒の役割なんだよ」
「相棒?」
さらに疑問が増える風音に対し、横からルイーズが声をかける。
「カザネ、こいつはこの国でも珍しい国家に帰属しないフリーの竜騎士なのよ」
ルイーズの言葉に風音が「おお!」と声をあげた。が、他のメンバーは知っていたので特に反応はない。「うう、疎外感を感じる」と呟く風音。豆腐メンタルなめんどくさいお子さまであった。
「相棒のライエルは今ヘルクト国にお使いに行っていてね。帰ってくるのはもう少しかかるんだよね。多分三日だか四日だかってところだけど」
「うーん、そうなんだ。実はこっちもパーティメンバーが入院しちゃってて、一週間は動けないらしいからそれは別にいいんだけど」
「ジンライのことだね。また今回は派手にやってしまったようだしね」
「ベンゼルさん、よく知ってるね?」
風音の問いにベンゼルは笑って返した。
「まあ冒険者ギルドは情報の集まるところだからさ。ギルドマスターってのはそういうのに過敏なんだ」
そういってベンゼルが笑った。
「まあ、君たちのクエストは極秘性が高いけど、時間制限はないからね。僕はそちらの都合の良い時で構わないよ」
「了解。そんじゃあジンライさんが退院したときに改めて来るよ」
「よろしく」
「あのー」
とトントンと進む話に対してエミリィが挙手して質問する。
「何かな?」
ベンゼルがエミリィの方を向いて尋ねた。
「そのカザネ達が受けてる依頼ってそんなに難しいものなんですか?」
当然といえば当然の疑問である。自分たちがいつの間にやら巻き込まれているものの正体が結局伏せられながら進められている。気持ちの悪い話だった。
「そうだね。僕も内容は知らないけどそちらの彼女にしかできない仕事だとは聞いているよ」
ベンゼルはそう言って風音を見た。それに対し風音は少し考え込んでから口を開いた。
「まあ、仕事自体は大したことないよ。ミンシアナから東の竜の里に荷物を運ぶだけだし。どっちかというと技能の問題かな」
必要なのは風音ではなく風音のアイテムボックスだ。故に弓花や直樹でも代用は利く。問題は『何』を運んでいるかということだが、
「エミリィ」
「うー了解、兄さん」
尋ねたそうな顔をしていたエミリィをライルが制した。それに対し風音は申し訳なさそうに笑うと、
「まあ、あっちにつけば話せるかもしれないしね。気になるならここで待っててもらってもいいけど」
そう答えた。途中参加なのだし、まだ仮入団だ。内容もわからないような依頼に無理につきあう必要はないと風音は考えていた。だがライルは「冗談じゃねえ」と憤る。
「こちとら、竜騎士になれなかったんだから、これ逃すと竜の里なんてもう一生拝めねえかもしれねえしな。これだけは意地でもついてくぜ」
「はぁ、直樹と兄さんがいくんなら私がいかないってわけにもいかないよね」
鼻息荒くするライルにエミリィが溜息を吐いてそう口にした。
「おうともよ。伝説の大竜御殿を見て、ヨークたちに自慢してやる」
「大竜御殿?」
ライルの言葉の中にあった単語に首を傾げる風音にエミリィが答えた。
「えっとね。竜騎士の叙任式にそこに行くんだって。神竜帝ナーガ様のお言葉を賜るらしい……よ?」
そう言いながらもエミリィはライルを見る。エミリィは竜騎士を目指してなかったので竜騎士の話には疎い。そのエミリィにライルが大きく頷いた。
「まあな。俺もその場でナーガ様からお言葉をもらう予定だったん……だけどなぁ」
話しているうちにライルがだんだん落ち込んできた。竜騎士に選ばれなかったことがまだ吹っ切れていないらしい。まあハイヴァーンの男の子ならば憧れて当然の花形職業である。その上、父親は王竜三騎士と呼ばれる公国最強の一人でもある。周囲の期待と自分への確信を持っていたライルがそこで挫折感を覚えてしまったとしても仕方のない話である。
「それで鬼殺し姫さんはジンライが退院するまで何かする用事はあるのかい?」
と、ライル周辺の空気の悪さを感じたのかベンゼルが話題を変えた。
「いんや。今のところは何の予定もないけど、そう聞くってことはなんかあるの?」
風音が尋ねるとベンゼルはうんうんと頷きながら言葉を続ける。
「いやさ。君がチャイルドストーンとか魔力生成のアイテムを多く持ってるらしいって聞いてるんだけど本当かな?」
「うん。まあね」
ユッコネエを含めるとチャイルドストーンは4つ。動力球、竜の心臓に、さらにレインボーハートまで所持している。動力系の魔法具をここまで持っている人間はそうはいないし普通は必要もない。
「そんなお姫様にちょうど良いクエストがあるんだけど、どうかと思ってね」
「ほぉほぉ」
非常に興味深そうに頷きながら風音はベンゼルの言葉に耳を傾けた。
「あんた、やっかいごとを押し付けようってんじゃないでしょうね」
だが横にいたルイーズがベンゼルを睨む。ルイーズの記憶が確かならこの男は昔からにこにこ顔で人に面倒な用事を押しつけるのが得意なヤツだった。
「そう睨まないでくださいよ。厄介ごとではあるけど、リターンも大きいですし。ちゃんと説明もしますから」
「そう願いたいわね」
ルイーズの言葉に「ははは」と返しながら、ベンゼルが机の中から依頼書を出してきた。
「それは?」
ベンゼルが出してきた依頼書には『ブルーリフォン要塞奪還』と書かれていた。
「ブルーリフォン要塞?」
風音の呟きにその名前に聞き覚えのあるエミリィが説明する。
「そこって竜帝戦争時に建設された建物だって確か学校で習ったよ。ねえ兄さん?」
「そうだっけ?」
エミリィの言葉にライルが首を傾げながら尋ねる。
「習ったわよ。どうせ授業中は兄さん寝てたんじゃないの?」
まったく記憶にないライルの様子にエミリィがジト目で返した。まあエミリィの言ったとおり、ブルーリフォン要塞とはかつての戦争時に利用され、現在ではすでに廃棄された施設のひとつだ。
「うん、それだね。ここ数百年は放置されてて時々魔物が住み着くからってんで年に何回か大掃除にいくんだけどね」
なお大掃除とは言葉通りの意味ではなく、魔物討伐のことである。
「半月前に掃除の時期になったんで行ってみたらどうもダンジョンになりかけているみたいなんだよね」
「そりゃまた珍しいな」
直樹がそう答えた。
「まだダンジョン化はほとんどしてないようだけど魔物がかなり発生していてね。量だけでなく質もまばらでちょっと危ない状態」
拡大期などの不安定な状態のダンジョンではレベル差が考慮されていない魔物発生がある。もっともレベル差を考慮されてる魔物発生というものがそもそもおかしいのだが、ダンジョンの存在ありきのこの世界の住人は不自然と感じることはないようだった。
「んー、それってもしかしてまだダンジョン認定されてないの?」
風音がベンゼルにそう尋ねた。
「ああ、そうだねえ。ダンジョンなら近隣にひとつあるし、ナーガラインからの魔力の供給バランスを考えてこっちは潰すことになったんだよねえ」
風音がゴクッとのどを鳴らす。
「つまり認定されてないってことは攻略すれば心臓球がもしかして」
「うん。勿論成長した心臓球に比べるとそんなに強力ではないけどね。国に渡す義務は発生しないから手に入れられればベビーコアって呼ばれている若い心臓球が君のモノになる」
そう口にするベンゼルに顔を突き出しながらフンフンと鼻息荒く頷く風音をルイーズは見ながら(ああ、こりゃあかんわ)と思ったという。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:30
体力:107
魔力:181+420
筋力:52+10
俊敏力:43+4
持久力:29
知力:57
器用さ:38
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』『水晶化』
風音「おおおおお、なんか良さげなアイテムが来た」
弓花「あんた、これ以上そんなの手に入れてどうするのよ?」
風音「ダンジョン生成の動力アイテムならコテージとかと相性良さそうな気がするんだよねえ」




