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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
老兵散華編

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第百五十四話 老兵は散ろう

 シンディ・バーンズはハイヴァーンの名家バーンズの家の長女として生まれ、現在こそバーンズの家長を息子に譲り渡してはいるが、今なお現役の竜の巫女長でもあるこの国の重鎮のひとりである。


 竜の巫女長とは竜の巫女を束ねる立場のことであり、竜の巫女とは竜騎士たちの駆る騎竜の世話をする存在のことだ。

 騎竜は竜騎士契約により竜騎士の性格を受けやすく、有り体に言えば男性的思考になることが多い。そのため騎竜の世話をするのは女性が適しているという事情があり、竜の巫女という存在ができたと言われている。

 また竜の巫女は竜騎士と似たような竜女契約を行うことで、意思疎通を交わすことができるようになる。竜女契約とは複数の竜を世話するために、一対一の契約ではなく複数の竜との契約を交わすことが可能なものだ。それは本人のキャパシティの許す限りいくらでも可能であるらしい。また竜騎士契約ではないとはいえ、竜気の受け渡しも可能であった。


 そして竜の巫女長たるシンディ・バーンズは現存する騎竜432体と契約を交わしている。すべての竜より竜気を受け取ることができる彼女は文字通り、このディアサウス内においてはほとんど無敵の存在だと言えた。



 というような話を風音は事前に聞いていたのだが、だが目の前の人物がその聞かされていた話の人物像と一致しない。それは弓花とティアラも同じだった。もっともその他のメンバーは全員シンディとは面識があるので違和感はないようだったが。


「お帰りなさい」


 そうにこりと微笑む少女のような背の低い女性。その身長はほとんど風音と変わらない。胸のサイズも変わらない。だが風音は成長期だ。将来的に考えれば私の勝ちだろうと風音はタヌキの皮算用を頭の中で展開していた。

 そしてよく見れば確かにその顔には僅かながら年を経たと分かるものがあり、それなりの齢の女性であることは察せられる。だがそれでも年齢は30代後半といった感じで、なんとも可愛らしいといって良い人だった。

(あーまあ、時々妙に愛らしいお婆ちゃんっているよねえ)

 と風音は思うが、それにしても若い気がする。

「今帰った」

 ジンライの短い言葉にシンディは頷く。

「今回は賑やかなのねえ」

「まあ……な」

 シンディの言葉にジンライは若干ドモって答えた。

「賑やかなのは良いことだわね。竜たちもあなたの帰還を歓迎していたようだしね」

「予想以上の歓迎だったがな」

 ジンライの言葉を冗談と受け取ったのか、シンディはコロコロと笑った。そして笑い終えた後、間を置いてジンライに尋ねる。

「それで、少しおいたをしたって聞いたのだけれどそれは本当なのかしら?」

「うむ」

 そのシンディの問いにジンライは真っ向から肯定する。そしてシンディは笑顔のまま、その瞳から涙をこぼれさせた。


「ひ、ひぃいい」


 途端に風音が悲鳴をあげた。弓花もそれには気付いたが、だが風音は『犬の嗅覚』で相手の感情もある程度読むことができる。周囲の竜たちから一斉に突き刺さるような殺意がこの部屋に向けられたのを鋭く感じたのだ。

(こわああ。家の外の竜達が殺気立ってる)

 その圧力に風音はこの世界に来て、もっとも冷や汗をかいた気がした。尋常ではないプレッシャーを感じていた。

「ごめんなさいね。少し悲しくなってしまって。恥ずかしいわ」

 もっともシンディはそんな外野の様子などまったく気にも留めていないようだった。涙を拭い、申し訳なさそうに笑っていた。どうも自分の世界に入るタチの人らしく周りのことが見えていないようだった。

「いや、約束を破ったのはワシだ。お前は謝ることなど何もない」


『あたりまえじゃ。こらああ』

『モルド、おめえさんは黙ってろ』


 外からグシャアンと音が響く。どうも暴れた竜を別の竜が押さえつけたらしかった。

「まあまあ、そんな浮気男、とっとと見限っちゃってもいいのよ?」

 と、そこに言葉をかけてきたのはルイーズ・キャンサー。浮気相手である。

「ルイーズさん!?」

 さすがにそれは空気読めてないだろうと、この場のほとんどの人間が考えたが、だがシンディはルイーズに一言返した。

「それには及びませんわ。お婆さま」

「「「「は???」」」」

 そして、その場にいるほとんどの人間が声をあげた。

「この人はわたくしの夫。たとえどのような不貞を働こうともわたくしは愛し続けると決めております」

 ジンライがぐうと唸る。「すまんシンディ」と声を上げて嗚咽する。ルイーズはやれやれと肩をすくめる。その表情からすると、やはり予想していた答えのようだった。

「とはいえ、約束を破りわたくし以外の女性と通じたのは事実」

 シンディはルイーズを見ながら夫をしっかりと抱きしめた。言外に『これ』は自分のものだとその瞳が言っていた。

「そして罪には罰を与えねばなりません。悲しいことですが」

「がっ」

 悲鳴が漏れた。

「師匠っ!?」

 弓花が一歩出るが、ジンライがそれを手で制する。

「大丈夫だ。問題ない」

 明らかに無理をしている声だが、ジンライははっきりとそう答えた。

「シンディ。それでお前が許してくれるなら、ワシは命だって捧げるつもりだ」

 ジンライはシンディを抱きしめ返す。それをシンディは心底嬉しそうに「あなた嬉しい」と再び抱きしめる。ジンライの悲鳴を堪える声と骨の軋む音が聞こえた。そしてシンディの顔がジンライから、ルイーズや他の人間たちに向けられる。

「申し訳ございません」

 シンディはピクピクしているジンライを抱えたまま頭を下げる。

「ここから先は『夫婦の会話』とさせていただきますので、席を外させていただきます」

「えーと、シンディ。やり過ぎちゃ駄目よ」

 そのルイーズの言葉にシンディはチロリと舌なめずりをしてからにっこりと微笑む。そしてその場にいる人間に一礼すると、そのままジンライを引きずって奥の部屋へと消えていった。

 その様子が風音には獲物を咥えて巣に帰る虎のように見えた。或いはネズミを咥えた猫が去っていくような……だが声はかけられない。今まで目の前にいた女性の気配は黒岩竜ジーヴェ、或いはアオやアカに通じるものがあった。あれに意見できる者はこの場ではルイーズしかいなかったのだ。



◎首都ディアサウス ドラグナルホテル


 シンディとジンライが消え、メイドが「それでは」と言うと来客室に案内され、そこでジライドの磨いたドアと本人の土下座を見せられてから、風音たちはこの国で一等級のホテルに案内された。


 風音は一気に疲れが、ソレもおそらくは気疲れに襲われて、ぐったりとソファに座り込んだ。現在はライルとエミリィ、ジンライがいない。彼らは実家に戻っているため、ホテルには泊まらないとのことだった。


「ジンライさん。大丈夫だよね?」


 そして最大の懸案点を風音が確認のためにルイーズに尋ねる。その言葉にルイーズは一寸考えた後、躊躇いがちに答えた。

「ええと、たぶん?」

 疑問符だった。

「うわぁああああん、師匠ぉぉおおお!!」

「落ち着け弓花。大丈夫だ。大丈夫だから。シンディさん、マジでいい人だから」

 半狂乱になっている弓花を直樹が羽交い締めにする。いつもはそこそこにマイペースな弓花がここまで取り乱すとは……と風音は思ったが、分からないでもない。さっきのシンディの様子は笑えなかった。或いは外にいた三匹の竜よりも恐ろしい何かだった。

「さっきのあの子は竜気が溜まりすぎてほとんど人型の成竜だったからね。複数契約の欠点ね。感情が引っ張られちゃってるのよ」

「……じゃあ、あの竜たちの怒りって」

 シンディの怒りなのか、或いはシンディを裏切ったジンライへの竜たちの怒りなのか。

「さあね。どちらとも言えるし相互で引っ張ってる可能性もあるけど……とりあえずは放っておきなさい。あのこはあたしに似てエスだから加減を知ってるわ。周りの竜達のヘイトも下げないといけないし放っておくのが一番なのよ」

 ルイーズはそう言って風音の横に座る。

「ところでルイーズさん。シンディさんにお婆さんって呼ばれてたよね?」

「いやよねえ。こんなに若いのに」

 そう口にするルイーズはなぜか部屋にいるジライドに視線を向ける。ジライドはぬううという顔をしてルイーズを見る。風音がなぜジライドに……と首を傾げるとジライドは唸りながら答えた。

「その女は……母シンディの祖母なのだ。そして現ハイヴァーン大公のライノクス様の祖母でもある」

「つまり私はそこのジライドくんの曾お婆ちゃんでもあるのでーす」


 パンパカパーンとルイーズが両手を広げて答える。

 衝撃の事実である。風音と弓花とティアラは唖然としたが、風音はその話題を頭の中からブン投げた。なんか面倒くさい話っぽかったので。


「あとジライドさんはどうしてここに?」

 横で「あれ、聞かないの? 聞いてもいいのよ?」とにこにこアピール顔のウザったいルイーズを無視して風音はジライドに尋ねる。ホテルまで来てチェックインしてくれてからも同行していたのだ。こちらはこちらでよく分からなかったのである。

「母上に『カザネさんたちはこの町は初めてなのだから案内するように』と言われたのだ」

「いや仕事してたほうがいいんじゃないの、将軍様なんでしょ?」

 風音は迷惑と言うよりもどちらかというと心配そうにそう聞いた。シロディエの街まで来たこともそうだが、戻ってきてからもずっとドアを磨き続けていたらしい。4日は仕事してないです、この人。

「まあ、そちらは母上が声をかけたようだから大丈夫だろう。それに」

 ジライドはティアラの方を向き、緊張した面もちで進むと膝を突いて頭を垂れた。

「まあ?」

 ティアラは何事かと首を傾げた。

「知らぬ事とはいえ」

 ジライドは頭を下げながら噛みしめるように声を出した。

「ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラ王女殿下にも無礼を働いてしまい、まことに申し訳なく思っています。ここで謝罪の言葉を述べさせていただきたく」

 ここに至るまでにずっと、この機会を窺っていたのだろう。やや性急な勢いでジライドはティアラへ謝罪を行なった。これはシンディとは関係のないジライドとしての意志でのものだ。

「いえいえ」

 だがティアラは大して気にしてもいなかった。概要は多少聞いていたが、自分に何も害を及ぼしていない噂など考えても仕方がないと思っていた。

「そんなことよりもひとつよろしいですか?」

「はっ?」

 もっともジライドはここに来るまでに首をはねられる覚悟もしていたので「そんなことよりも」とすませられて、少し呆然とした。

「さきほど案内をしていたただけると聞いたので、お願いしたいことがあるんですけども」

「なんでしょうか?」

「おそらく母、ケイラン・エルマーがこちらの街にいるはずなのですが、ご案内いただけないでしょうか?」

 ケイラン・エルマー。ティアラの母にしてツヴァーラ国王アウディーンの第一夫人。彼女はアウディーンの浮気に愛想を尽かし、故郷の、このディアサウスに戻っているはずなのであった。


 なおジンライのその後だが、翌日ジライドから朝方に癒術院で集中治療を受けた後、病院に移送されたと告げられた。なんでも全身の骨が軋んだとか折れたとか。こういうときの対処は元の世界よりも魔術がある分こちらの世界の方が秀でている。一週間で完治するとのことだった。

 「何されたんだろ」と呟いた風音に「ナニよ、ナニ」とルイーズが口にしていたのだが、純真少女の風音ちゃんは何も聞かなかったことにした。あの竜気をため込んだ怪力乱神の状態で事に及べばどうなるかは聞くまでもなかったのではあるが。


 まあ、取り敢えず我らが老兵は散らずには済んだようだった。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:30

体力:107

魔力:181+420

筋力:52+10

俊敏力:43+4

持久力:29

知力:57

器用さ:38

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』『水晶化』


風音「あ、ゆっこ姉からメール届いてる。なになに『怒りで目覚めたりする超ゴイスーな戦士がナニしたらどうなるのか昔から気になって』……はい、デリート、デリートっと」

弓花「ししょーーーー(涙)」

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