第十六話 ランクを上げよう
◎クォン草原
「いぁああああ!!!」
突き!突き!突き!突き!
と、弓花の連続する槍の攻撃にホーンドラビット二匹は攻撃に転じることすらできず為す術もなく倒されていく。
「うーん」
風音は自分の持ち分だった元魔物の残骸のそばでそれを見ていた。
(随分と様になってきたもんだなあ)
弓花の槍の冴えはたった一日でも恐ろしく伸びているのが風音にも分かる。この世界に来て二週間、冒険者になって一週間でここまで槍の使える人間になるとは誰にも想像できなかっただろう。
(ゲーム仕様の通りの実力に弓花自身が変わりつつあるということかな)
「ちょっとぉ、なにをぼーっとこっちみてんのさ」
ホーンドラビット二匹を倒した弓花は槍の先の血糊を拭いながら、さきほどから自分を眺めていた風音を見返す。
「いやー弓花は凄いよねえって思ってたところ」
「あんたに言われたくないわ」
そう言って弓花は風音の周囲を見回す。
風音が倒したホーンドラビットは3匹。一匹は爆発して素材の回収はできない有様で、一匹は体の一部分が大きく欠けており、残り一匹はほぼ無傷の状態で倒れていた。
「ゲームだとどんだけ派手な魔術使ってもちゃんと素材落としてたんだけどなあ」
「だから現実とゲームとは違うってことよ」
弓花が苦笑してそう答える。
「だねえ。ま、素材取りを考えるならニードルが一番かな。こっちの命中率が追いついてないから。収束率をちょっと落として普通にダメージ通るように調整する必要があるけどなぁ」
そう風音が口にするとウィンドウを開き、さっそくカスタマイズを開始した。
「風音、それで今後はどうする?」
「うーん、そだね。魔術の慣らしもしたいから今日は後4件くらい回りたいんだけどいいかな?」
風音の質問に弓花は頷く。前日の休息で体の方も動きたがっている。
「それじゃあ、このままクォン草原でいく? それともグレイゴーレム?」
「ゴーレムはパスで。今から行くと帰るの明日になるし準備してないから夜営はできないしね。あと、弓花の槍もそろそろ怖いかな」
そう言われて弓花も渋い顔をする。
「やっぱりそうか」
槍術の腕前は一週間前まで素人だったとは思えないほど上がっていても、武器の手入れまではまだ門外漢だ。そろそろ鍛冶師に見てもらおうかとは思っていたのだけれども…と、弓花は自分の中でもいいわけをする。
「いったん修理に出すといいんじゃないかな。私もそろそろこの剣見てもらいたいし」
◎コンラッドの街
「上げなさいよランク」
狩りも終え、事務所の受付で素材の換金をしてもらっていると、プランから突然そんな言葉が飛んできた。
「ランクですかぁ」
風音が聞き返す。
「そう、ランクね。あんたらが来てから1週間しか経ってないし新人にこんなこというのもなんだけど、そりゃあまあ稼いだわよね」
「そうですね」
親方との共同クエストから累計で5000キリギアは儲けを出している。新人でというかこの街のギルド内でダントツの稼ぎ頭である。またコアストーンの存在ナシでも風音たちの稼ぎは高い。
それはここのギルドメンバーの力量が総じて低いこともあるのだろうが、魔物との遭遇率がそれほど高くないので素材を手に入れることができないということもある。半日で5回魔物と遭遇なんてここらでは普通あり得ない。
「先祖返りで獣人なみに鼻が利くってのはホント利点よねえ。場所が分かるってのは先制とりまくりってことでしょ?」
プランが風音の鼻を見て感心する。
まあね、と風音もいつもの無表情のまま口にするが、先祖帰りで獣人と同じように鼻が利くというのは当然嘘である。エンカウント率の高さをごまかすための方便ではあるが、実のところ『獣人の嗅覚』は『犬の嗅覚』よりも落ちるため、感覚を研ぎ澄ました高レベルの獣人でもなければ風音と同程度の能力は持っていない。
「あんたらから買い取ったコアストーンも高く売れてるし、あたしらとしても懐暖かくて万々歳なんだけどね。ただちょっと体裁が悪い」
「悪い?」
弓花が聞き返す。
「ぶっちゃけ来週にギルドの定例の状況報告があんのよ。で、当然あんたらのことも報告するんだけどね」
「あー、そりゃ妙な疑惑をもたれるかもしれないねえ」
風音が同意する。
「どういうこと?」
「何かしらの不正があるんじゃないかってことだよ。半日で5回魔物と遭遇してなんてあんまないしね」
「あんまというかここらじゃ1日歩き回って3回遭遇できりゃいい方よ。それも自分たちで狩れる適量の魔物の群れとなんてね」
プランは風音の言葉を訂正する。加えて遭遇してすべて先制なんてあり得ない。普通3回のうち2回は魔物から襲われての遭遇だろう。
「となると私たち二人で狩りをしているという前提が怪しまれるよね」
「集団で狩ってる可能性は指摘されるわねえ」
「それって何が問題あるの?」
「まあ私たちがランクFだからランクの実績上げるために人を雇って稼ぎを増やしてるように見せてるって思われるかも」
弓花の疑問に風音がそう答えた。
「他にも別のパーティを脅すか襲って素材を奪ってるかもって説も考えられるわよねえ」
「酷いなあ。私たちがそんなことすると思う?」
「思う。あんた、なんか腹黒そうだもの」
プランの言葉にむぅうとうなる風音だが弓花は釈然としない顔で言い返す。
「そんな、不正なんて私たちがしてるはずないじゃないですか」
「まあねえ」
風音も当然頷く。そしてプランもまあまあと言いながら弓花を宥める。
「あたしもね。こいつはともかくあんたがそんな真似するとは思ってないわよ。ただ判断するのはあんたらなんか見たこともない連中なわけよ」
「確かにそうですけど」
それには弓花も同意するしかない。人となりなど実際に見てみなければ分かるものではない。
「実際あるのよ。ボンボンだかが中途半端に冒険者にあこがれて手っ取り早くランクを上げようってする事例がね」
ランクE、ランクFは基本町内の便利屋さんである。それは本来の意味での冒険者ではない。もっとも稼ぎとしてはランクDの冒険者とどっこいどっこいか上だったりするのだが、
「で、ランクを上げろってわけだ。プランさん、親方からは一週間ぐらいしたらDランク申請をしてみたらとは言われているんだけど推薦ってもらってるかな?」
「もらってるけど、あんたらにはCランク申請を受けてもらった方がいいと思うんだよね。推薦と実績でDは申請したらすぐとれるし」
「確実なんだ?」
それは風音も意外だった。確かに風音たちの実績は高いが、それはここ一週間内のことで累計で考えればまだそこまでではないと考えていたからだ。
「コアストーンの原形、レア素材だからポイント高いのよ」
だがプランの言葉で風音もなるほどと納得する。ここでの基準は知らないがゲーム中でのレア素材のギルドポイントは通常のものと二桁は違っていたと風音は記憶している。
「それでね。Dランクは魔物を倒した実績だけでランクアップできるけどCランク評価はそこに実力が伴うわけね。実力をギルドの試験官に判断させる必要がある」
「試験があるってことかな?」
風音の質問にプランが頷く。
「具体的な内容は試験官との模擬戦とCランククエストを試験官同行で達成させることね。本来はウィンラードの街に行ってやるんだけどちょうど試験官の資格を持ってるのが来てるんでね。そいつにやらせようと思ってるわけ」
「ちょうど来てるってことは他の用事で来たってことだよね。結構時間なかったりするの?」
「そうね。そいつは明日、ここを発つのよ。これを逃すとウィンラードに行ってもらう必要があるわね」
プランの言葉にうーんと唸り、風音は弓花を見る。
「私はいいわよ」
弓花があっさり頷くと
「それじゃあ受けよっか」
と、風音も試験を受けることを決める。ランクが上がるならそれに越したことはないのだ。
「あいよ。それじゃあ準備はしとくから明日の朝にここ集合でいいわね?」
プランの言葉に風音と弓花は同時に頷いた。
名前:由比浜 風音
職業:冒険者
装備:鋼鉄の両手剣・レザージャケット・鉄の小手・布の服・皮のズボン・革の靴・ポーチ
レベル:17
体力:50
魔力:83
筋力:18
俊敏力:13
持久力:13
知力:26
器用さ:15
スペル:『フライ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』
風音「レベルは上がったけど前みたいにスキルがぽんぽん増えないね」
弓花「同じ魔物ばかり相手してるし、ここら辺じゃ頭打ちなのかもよ。でもひとつ増えてるよね」
風音「ホーンドラビットの『空中跳び』だね。多段ジャンプみたいなヤツだよ」
弓花「あ、なんか便利そう」




