第百四十話 レアアイテムをゲットしよう
「さてやりますわよ」
ティアラはクリスタルドラゴンより50メートルは離れた地点でレイピアを指揮棒のように構えて、正面を見ていた。そしてその先の『這い寄る稲妻』によってその場に留められたクリスタルドラゴンの周囲を取り囲んだのはティアラの召喚した10体の炎の騎士たち。騎士たちはティアラの意志のままに大盾とランスを突き出しクリスタルドラゴンの動きを制限するように動き出した。今のティアラはそれだけの数の召喚体を動かせるまでにその実力を伸ばしていたのだ。持ち前の集中力とルイーズとメフィルスの指導による結果がここにある。
そしてその場から離れていく影が一つ。それはヒポ丸くんだった。ヒポ丸くんは『這い寄る稲妻』の一撃を見舞った後に小回りの利かないサンダーチャリオットの召喚を解除し離脱した。確かに竜角による突進攻撃は強力だが乗り手もおらず小回りの利かぬままではクリスタルブレスの餌食になる可能性は高い。故にヒポ丸くんの出番もここで終いとなる。
「いくぞ!」
「了解ですっ」
そのヒポ丸くんの離脱とクロスするようにジンライと弓花の師弟コンビが突撃する。投擲槍もすでに打ち止めとなったため、ジンライと弓花も愛用の槍を持って戦線へと直接参加することにしたのだ。そして弓花は神狼化を行い、銀狼も召喚してクリスタルドラゴンへの牽制をけしかける。量産型タツヨシくんたちも乱戦の中を見極め、的確に投石をし続けている。
クリスタルドラゴンも堪らずジンライと弓花に前足を振るい、尾を叩きつけ、相手を水晶化させるクリスタルブレスも吐き出して応戦するが、だが長年の経験によって読みだけでそのすべてを避けるジンライと、神狼化のスピードにシルフィンブーツという新たなる相棒を手に入れて絶好調の弓花に直撃させることはできない。さらにルイーズがブレスガードの魔術をかけ続けているので、わずかにかかるブレスのカスのようなものも弾いていた。本来であればこれで徐々にクリスタル化し動きを止められて行くはずだったのだが二人には効かない。
しかし弓花とジンライは良くてもフレイムナイトはそうはいかない。何体かの騎士が水晶化し、感覚をフィードバックされたティアラが苦痛の声をあげたが、だがティアラももはや素人ではない。その痛みに耐え抜き、残りのフレイムナイトの操作に集中し続けた。
そして、クリスタルドラゴンは水晶眼で一度確認しておきながら、ひとり誰かがいないことに今の今まで気付いていなかった。そう、ここまでの間に白き一団のリーダー風音とそれに付き従うユッコネエ、タツヨシくんドラグーンの姿をクリスタルドラゴンは捉えていなかった。無論、風音がしっぽを巻いて逃げ出したわけではない。そんな勿体ないことをするわけもない。彼女は一番おいしいところをとるのが大好きなのだ。
「キリングレェッグウウゥゥウウ!!」
そして全く無防備な誰もいないはずのクリスタルドラゴンの背後に突然の重い攻撃がぶち当たる。
「にゃーん」
いつの間にやらクリスタルドラゴンの背後にはユッコネエとそれに乗るタツヨシくんドラグーンの姿がある。クリスタルドラゴンは水晶眼を通じて背後にいるそれに気付いた。だが攻撃はそれからではない。ぶち当たったのは『インビジブル』を発動させ、身を隠して接近し、ユッコネエの背からジャンプしてファイアブーストで速度を上げながらチャージしたキリングレッグを放った風音の必殺技『カザネ・ネオバズーカ』だった。その工程数を考えれば必殺技と言うよりはコンボ技に近いかもしれない。
狙いは股関節部だ。その蹴りは下半身の中心を一気に撃ち抜き、上半身と両足と尾を分断させるに至る。例によって殺し切れぬ威力で風音はそのまま地面へと埋まっていった。
「マジでぇぇぇええええ!?」
そうは言っても仕方がない。風音は地中に潜る運命だ。
続いて火の玉を食べブースト化したユッコネエが走り出した。そして、その背に乗ったタツヨシくんドラグーンが巨大魔剣を振り上げ重量軽減の魔術がかかったと同時にジャンプする。
「にゃあああ!!」
気合いの声をあげるユッコネエに対してドラグーンは黙して語らぬが、だがユッコネエの背からそのまま飛び降りて、クリスタルドラゴンの右腕に向かって容赦なく斬りつけた。
凄まじい破壊音がして周囲に竜晶石の破片が飛び散る。だが切り落とすには至らなかった。そのままクリスタルドラゴンが振り上げた右腕に弾かれてタツヨシくんドラグーンは転げていく。
(まだ繋がってる。なんて頑丈な)
その様子を見ていたのは神狼化弓花。弓花の見る限り右腕はまだ三分の一ほどが繋がっているようだった。そしてその割れた右腕をクリスタルの結晶が塞いでいく。
「修復とかッ。させないよ!」
それを神狼化した弓花は見逃さない。ちぎれかかった腕に向かって一気に走り出す。クリスタルドラゴンもそれを察して水晶の一本角から七色の光線を撃ち出した。それはクリスタルドラゴンの隠し手。神狼化弓花はその攻撃を『直感』によって察知し、反射的に横跳びでかわす。そして弓花に当たらなかった光は一直線に地面に突き刺さり、瞬間的に大地が抉れ爆発する。それは凄まじい威力の放射系攻撃だった。
(おっとぉ)
今の攻撃を無理にかわしたことで、弓花の体勢は大きく崩れた。だがそれを補うものを弓花は持っている。神狼化弓花はシルフィンブーツによる空中ジャンプで何もない空間に足場を造ってそれを踏んで堪え、崩れた体勢を整え直したのだ。弓花はそのままひとっ飛びで右腕に到達し振動破壊技『振』の一撃を放った。腕は完全にちぎれ飛んだ。そして、その弓花の攻撃を叡智のサークレットで見ていた風音が最後の仕上げへと移る。
「スキル・竜体化!」
5メートルの青竜と化した風音は地面を割って飛び出し、残りの腕を掴み、口も押さえることでクリスタルブレスを封じる。その周囲ではユッコネエ、タツヨシくんドラグーンもいっしょに掴んで動きを封じていた。そして本日の決め手は風音ではなくジンライだ。
『ジンライさんっ』
「よかろう」
風音の声にジンライは頷く。
ジンライは風音がクリスタルドラゴンの動きを止めてから体を持ち上げて胸部をさらけ出させたのを確認するとゆっくりとその前に進み、両手の槍を構えた。
ジンライが大きく息を吸う。実はジンライも風音の『カザネ・ネオバズーカ』と同じように必殺技と呼べるものを持っている。普段はタメがあり過ぎて実戦では使えないようなシロモノだが仲間が敵を抑えてくれるならば放つことは可能だ。
狙うはクリスタルドラゴンの心臓『レインボーハート』、ジンライはその姿を確認し、そして一気に両腕と槍を突き出しグルンと抉った。
槍技『心臓狩り』。
ふたつの槍を用いて半円ずつ切り込み円の形に切り込む力技。全力の竜牙槍の攻撃に耐えられる竜など存在しないのだ。そして丸く抉られたクリスタルドラゴンの胸からボトリとレインボーハートが落ちそうになったので青竜風音があわててそれを受け止めた。その直後である。
「カザネ、それはマズい」
ジンライがそう叫んだ。
クリスタルドラゴンの体の主な構成要素は外殻となる竜晶石を抜かせば竜の肉が土に変わった竜葬土。それはマッスルクレイの元となるものであり、魔力を蓄積するのは竜葬土の特性でもあった。つまりレインボーハートを外してもわずかにだが魔力を残したクリスタルドラゴンは動けたのだ。
『ちぃっ』
風音が舌打ちをするが風音の竜体の腕にブレスがかかり水晶化していく。だが風音もむざむざやられはしない。
『ドラグーン、魔剣をっ!』
風音の指示を受け取ったドラグーンが巨大魔剣を投げ、青竜風音がそれを受け取り、
『これで終わりだーーーー!!!』
そして魔剣を振り下ろした。残存魔力が少なかったせいか想像以上に脆くなっていたクリスタルドラゴンの首はその一撃で簡単にはね飛ばされた。
『今度こそやった……かな?』
風音が再び襲ってくるのではないかと警戒しながら構えているがもう動き出すことはなかった。
水晶化した腕で持っているレインボーハートも無事である。そしてクリスタルドラゴンを倒した風音は新しいスキルを手に入れた。その名は『水晶化』。対象物を水晶化する、或いは水晶化を解くスキルである。そのスキルを手に入れた途端に青竜の鱗が輝きを見せ、クリスタルブレスも吐けるようになったようだった。
どうやら地竜から手に入れた『頑丈な歯』も機能している。竜体化すると他のスキルは使えなくなるはずだが、ドラゴンから得たスキルは風音の竜の姿にも影響を与えるようだった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:30
体力:107
魔力:181+420
筋力:52+10
俊敏力:43+4
持久力:29
知力:57
器用さ:38
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』『水晶化』
風音「衝撃の事実。竜体化はスキルが使えない!」
弓花「ええと、ソレ言うの遅くない?」
風音「竜体化を思った以上に使わなかったので伝えるタイミングがなかったんだよねえ。今は反省している」
弓花「まあ竜体化って雑魚敵相手にはコスパ悪いしボス戦で使うにはキリングレッグ以上の攻撃力がないから決め手にならないし、はっきり言って使い辛いよね」
風音「まあそこらへんは今後の成長次第と言うことで」




