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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
水晶竜編

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第百三十八話 水晶竜を倒そう

◎ドンゴルの街 冒険者ギルド隣接酒場


「全速力だと乗り心地があそこまで悪くなるのね」

「だからわたくしは嫌だったんですのよ」

「まあ、勝ったんだし、いいんじゃないかな」

『ジンライもなんだか目を輝かせておったしな』

 グテーッと酒場のテーブルに倒れている女性陣+ワン。

 かなりの綺麗どころがそろっているが、全員がグッタリしているし、すでに地竜を16匹狩った白き一団のことはここらの人間には伝わっているのでナンパをしようなんて命知らずはいなかった。

 また、ここにはいない風音は地竜の解体に、元気なジンライはひとり特訓に出掛けている。そして直樹は女性陣と少し離れたカウンターでヨークと飲んでいたのだった。


「再会を祝して」

「再会を祝して」

 直樹とヨークが掲げたグラスを重ね合ってから二人とも一気に飲み干した。

「プハー、うめえな」

「頭痛くてよく分かんねえよ」

 直樹はぐったり気味だ。実際に運転していたジンライと風音とは違って馬車の中の乗り心地は最悪だった。誰も吐いてないのが不思議なくらいだろう。

「それにしてもあの話題の鬼殺し姫さんがお前の姉貴だとはな。見た目子供だがお前の姉ってことはまあそういうことなんだよな」

 そんな風に年齢を誤解をしているヨークに直樹は「あはははは」と乾いた笑いを返す。性格はどちらかというと実年齢よりも見た目通りという感じだ。直樹にしてみればそこがかわいいところでもあるのだが。

「それになんだよ、その鎧は。いいもん手に入れやがって」

「姉貴にもらったんだよ」

 直樹は、目聡く鎧に視線を向けるヨークにそう言い返す。若干誇らしげである。

「あの鬼殺し姫がよこしたもんってことは黒岩竜の鱗だろうなあ。お前、その鱗が今市場でいくらで出回ってるのか教えてやろうか?」

「よせよ。聞くのが怖い」

 直樹は本気でそう答えた。弓花から聞いた、この世界に来てから風音のもらった金額と使った金額の話を思い出すだけで直樹は頭が痛くなるのだ。その上、普通は個人所有などありえない大量にアイテムを保管できる不思議な倉庫の中には、まだ黒岩竜の換金素材やコーラル神殿から持ち帰った不滅シリーズが置かれているのだ。

「へっ、それにしても妙に大人びて見えたあのナオキが変われば変わるもんだな。なんだか今のお前は見た目通りのやつって感じだぜ」

「それ、オーガンにも言われた。特に変えてるつもりはないんだけどよ。前の俺ってそんなにスカしてた感じだったか?」

 憮然とした顔の直樹がヨークにそう尋ねる。自分で言ったとおり直樹には変わったという自覚はない。ただ今まで張りつめていたものがなくなったことは確かに感じていた。

「まあな。ま、あれも様にはなってたと思うが、俺は今のお前の方が好きだぜ。親しみやすそうでな」

 ヨークは笑いながら酒を飲んだ。

「よせってえの。男に好かれても嬉しくねえよ」

 そうは言うが直樹もまんざらでもないという顔だ。

「けどあいつらはどうかな。結構戸惑いそうな気がするけどな」

 あいつらとは当然直樹の仲間のバーンズ兄妹である。

「ライルとエミリィはまだオルボアの街にいるのか?」

「いんや、昨日街を出ていった。お前が闘技場に出ているのを教えたら首都に戻るって言ってたぜ」

「そうか」

 直樹も戻ってきたら一度首都に着いてから連絡するとバーンズ兄妹には別れ際に約束していた。

「あいつらも元気でやってるのか?」

「まあ、元気っちゃあ元気だがお前がいないとどうにも調子が出ないなんて事を言ってたな。あの年であんだけやれれば十分だろうに」

「ライルもエミリィも家を背負ってるわけだからな。そりゃ俺たちとは意気込みが違うさ」

 ヨークは(俺たちの『たち』にお前は入ってねえよ)と心の中でツッコミを入れる。直樹の方こそ同年代の冒険者どころか、ハイヴァーン領内でも上位の冒険者だ。現時点でランクB、戦闘能力こそそれほどのものではないが、クエスト中の応用力の高さから冒険者としては突出した存在として見られている。ランクAにも一年以内には届くのでは……とまで言われていた。

「オルボアの街にまだいるんなら姉貴に頼んでひとっ走りで連れてってもらえるんだけどな。もう街を出てるんじゃ首都に行った方が早そうだな」

 直樹がそう口にする。バーンズ兄妹が馬車を乗り継いで首都に着くのと、直樹がサンダーチャリオットに乗って首都に辿り着くのとではどちらが先になるかは時間的に微妙であった。

「ああ、あの馬と馬車な」

 ヨークが直樹の言葉を聞いて朝のことを思い出した。

「あれの前に立ったときには正直生きた心地がしなかった」

 その言葉に直樹は苦笑する。気持ちはよく分かった。あの姉のセンスには直樹もついてはいけない。

「それにしても、まだ一ヶ月半くらいしか経ってないのに随分と懐かしく感じるな。早く会いたいよ」

 そう口にする直樹をヨークは見て、そしてぐったりしている白き一団の女性陣を見る。ひとりはダイナマイツボディのエルフ姉さん、ひとりは絶世の美貌のお嬢様、もうひとりは二人には見劣りはするものの冒険者なら声をかけるのはまずこの娘だろうとヨークが思うような活発そうな少女。彼女が一番エミリィに近い気がするとヨークは感じていた。ともあれ、三人とも魅力的な女性には違いない。

(ま、姉の鬼殺し姫は抜かしておくとしても間違いなくエミリィは荒れるな)

 ヨークにはその光景が目に浮かぶようだった。さらに言えばヨークは一番の問題の人物を換算せずに考えていた。


 そして、その問題児が今街中を駆け回り、クリスタルドラゴンの情報を片っ端から集めていることをここにいるメンツは知らない。



◎ドンゴルの街 ダインホテル


「クリスタルドラゴン討伐のクエストを受けようと思うんだ」

 ようやく気持ちも落ち着いていた一同が宿に戻る(チェックインは街に入った時に済ませていた)といっしょに帰ってきた問題児がそんなことを言ってきた。ちなみに帰り道に会ったジンライもいっしょである。

「クリスタルドラゴン?」

 弓花が首を傾げるが、その説明にはクリスタルドラゴンの名前を聞いた途端に興奮状態になったルイーズが行う。

「歩く宝石箱って言われてるドラゴンよ。全身が宝石に包まれてるみたいにキラキラキラキラしてて見てるだけで気分が高揚してくるのよねえ。確か元となる竜の骨次第でその姿が変わるって聞いてるけど?」

「今回のは地核竜とかいう地竜の親玉みたいなのの骨からできたらしいよ。サイズは8メートルくらいかな。デカい地竜みたいな感じだって言ってた」

 ルイーズの言葉を風音が引き継ぐ。

「俺も名前は聞いたことがある。ドラゴンっていってもゴーレムみたいなもんだろ。確かクリスタルブレスっていうブレス攻撃を喰らうと結晶が身体について動けなくなるし武器も腐食するって聞いてるぜ」

 さすがに直樹も竜の国ハイヴァーンの冒険者だけあってその手の話題には詳しい。もっともドラゴンの恐ろしさを知っているだけに若干顔はこわばっている。この人数でやろうというのは一般的な冒険者として考えれば無茶無謀な話であるのだ。

「そうだね。どうも4日ぐらい前に一度挑んで負けてるらしくって。今回はブレスにやられてクリスタル化した冒険者を助けるクエストも並行する予定だけど、ここまでで何かある人いる?」

 風音の言葉に(やること前提なんだ)と直樹は思ったが、そういう前提である。ちなみにルイーズは凄く乗り気であった。今から行こうと言い出しそうな勢いであった。

「ええと、クリスタル化って四日前なんだよね? もう亡くなってるんじゃないの?」

 弓花が挙手して質問する。水も飲まずに生きていられるのはせいぜいが三日程度だと弓花は聞いていた。であればもう生存者はいないのではないかと考えたのだ。

「それがさ。なんでもクリスタル化すると仮死状態になるらしいよ。何十年も昔の人が復活したって例もあるみたいだし。まあ崩されたら終わりなんだけど」

「あれ、クリスタルドラゴンの非常食って感じだからねえ」

 ルイーズがそう口にする。

「ま、自分たちの命をまず優先で行くけどね。クリスタル化した人たちには悪いけどその人たちも覚悟して戦ったんだから過度に意識する必要はないから」

 クリスタル化された相手を考えすぎて行動すればミイラ取りがミイラになんてなりかねない。なので風音はそう言い含める。

「そうだな。そちらまで気にかけ続けるには少々辛い相手だ」

 ジンライも同意する。冷たいようだが冒険者である以上はそうしたリスクも想定して動いていることが前提だ。そしてそれは風音たち自身に対しても言えることなのだ。

「そんで今回の狙いは竜晶石とレア素材のレインボーハートだよ」

「レインボーハートね。七色の竜の心臓、欠片だけでも恐ろしく価値のあるシロモノよ。手に入ったらじっくり見せてね」

 ルイーズの言葉に風音も「了解」と答える。現時点ではまだ使い道も決まっていないのだ。観賞する時間はたっぷりあった。

「それで竜晶石って何?」

 そして弓花が風音にもう一つの素材のことを尋ねる。

「クリスタルドラゴンの表面の水晶のことだね。竜気を宿してるから魔除けにも使えるらしいよ」

「でもカザネは魔除けに使うわけではないですわよね?」

 続けてのティアラの質問に風音は気持ち悪い方の笑顔を浮かべた。

「うん。これで新たなヒッポーくんを造るよ。水晶の馬だよ。竜の心臓で動かすから水晶の竜馬だねえ」

 その提案には女性陣も「おおっ」と声を上げた。ヒポ丸くんは風音以外の女性陣には人気はないが白い大理石の石像のようなヒッポーくんハイは好評だ。時々見に行ってはウットリしたり、ツヤツヤした表面に頬摺りしたりしている。そしてルイーズ以下女性メンバーの脳裏には今度の馬はさらに素晴らしいものになりそうな予感が駆け巡っていた。

『しかし、今はヒッポーくんハイがいよう。数は十分ではないのか?』

 そんな夢見る少女たちは捨て置いてメフィルスが現実的な質問をする。余計なことをとルイーズがメフィルスの頭をポカリとしたが、そもそも馬車があるのでヒッポーくんハイも今は乗ることが少なくなっている。

 だが風音は首を横に振る。風音には風音で別の構想があった。

「今はいいんだけどね。直樹のお友達が来たらパーティの数も増えるし、ダンジョンの中で移動する際には必要になるはずだよ」

「姉貴ぃ」

「むう」

 風音の言葉に直樹は感涙しジンライは唸った。他のメンバーも(ああ、そういうことか)という顔をしていた。風音はすでにライルとエミリィをパーティに加えることを前提に考えているようだった。ちなみに直樹は感動していてダンジョン内で馬に乗るという謎の発言に気付いていなかった。


 その他、細かい戦闘の手筈を話し今夜はそのまま就寝となり、クリスタルドラゴンの討伐は明日に行う。

 そして先ほど風音はクリスタル化の相手よりも自分たちを優先と言ったがそれはあくまで心構えの問題である。情報収集の際に失敗した討伐メンバーの恋人や家族の涙を見ている風音としては早急に対応しなければという気持ちを鉄の精神で抑えていた。自分たちの命をまず優先、その言葉は風音自身への戒めの言葉でもあったのだ。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:30

体力:107

魔力:181+420

筋力:52+10

俊敏力:43+4

持久力:29

知力:57

器用さ:38

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』


弓花「水晶の馬とか。もうファンタジーというかメルヘンね」

風音「けど、そんなメルヘンを自分で操れるとしたら?」

弓花「うーん、早く乗ってみたいかも」


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