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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
水晶竜編

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第百三十六話 真価を見よう

 風音は夢を見ていた。

「風音、起きて。早く」

 それは弓花が起こしてくる夢だ。風音は寝ぼけた頭の中でまったくだめな親友だと思っていた。人が眠いときに起こそうとするなんて人としてどうかと考えていた。だから男運が悪いのだと、そんなことを夢の中で口ずさみながら風音は定番の台詞を口にした。

「うーん、むにゃむにゃ」

「てりゃっ」

「ぎゃおっ」

 蹴られた。

「弓花、蹴るな。姉貴を乱暴に扱うなよ」

「むにゃむにゃとか言う奴はこんな扱いでいいのよ」

 そう憤る弓花の言葉を聞きながら風音は今が夢の中ではないことにようやく気付いた。

「うーん、おなか痛い」

 そしておなかを押さえながら目を開けた。

「あら、起きたのね」

「おはよう弓花、直樹。なんだかおなかが痛いんだけど」

 風音は若干涙目でそう言った。理由は分からないがおなかが痛い。

「昨日、変なものでも食べたんじゃないの?」

「そうかな?」

 弓花の言葉に首を傾げながら、だが地面か自分かが妙にゆらゆらしてることに気付く。

「地震?」

 風音の問いに弓花と直樹が首を振る。

「地竜が来てんのよ。集団で」

「このままだとここヤバいっぽい」

 続けざまのふたりの言葉に風音も目を丸くする。

「ちょっ、マジで?」

「マジよマジ。あんたもおなか痛いとかそんな場合じゃないでしょ」

 その弓花の言葉にはどこか腑に落ちないものを感じながらも風音は頷いた。おなかよりもまずは命が大事だ。


 そして、さきほど風音たちの会話に上がり今迫ってきているという地竜とはハイヴァーン領内では主に火山周辺に生息する低級竜のことである。ミミズのことではない。形も似ていない。

 地竜は竜種の中では比較的弱い部類に属するが、それでも竜であり火は吐けないが防御力は高く肉食である。集団で移動する習性があり、運悪く群れに近くまで遭遇された場合には命を諦めるしかないとまで言われている魔物でもある。もっとも、だからといって風音たちが命を諦める必要などは全くないのだが。


「数は103。横に広く、奥行きは薄目で5匹くらいか」

 弓花と直樹に起こされた風音は装備を整えてサンダーチャリオットを召喚し、今はコテージの屋根の上から叡智のサークレットの遠隔視で地竜の群れの様子を見ていた。

「カザネッ、ヒポ丸くんと馬車を繋いだぞ」

 屋根の下からジンライの声が響く。ジンライにはヒポ丸くんとサンダーチャリオットの接続をお願いしていたのである。

「了解。連中が来るまであと5分ってとこだね」

 地竜を発見したのはジンライだった。まだ豆粒ほどの塊が遠方から迫ってくるのが見えたのだそうだ。

「それでどうする?」

 風音はジンライの表情から、その問いは「どう逃げる?」ではなく「どう倒す」であると理解する。そして、そのジンライに対し風音も笑顔で返す。

「『這い寄る稲妻』を全力で行ってみよっか」

 それにはジンライの顔が喜びの笑顔に染まっていく。

 風音は「せっかく名付けてもらったものだから」とヒポ丸くんとサンダーチャリオットの全速力を『這い寄る稲妻』と呼んでいた。そして闘技場の黒い魔物戦ですら、サンダーチャリオットは戦闘モードではなくスピードに乗って放出される雷光の威力だけで魔物にダメージを与えていたのである。風音が正しく魔力を注ぎ、車輪から刃を出し全力放電した状態の真価はまだ明らかではないのだ。

 だがジンライもさすがに熟練である。自分の欲望の前に己を見失わず、尋ねるべきことを尋ねる。

「だが、お前の魔力は大丈夫なのか?」

 風音は昨日にコテージに魔力を大量に注いでいた。一般的な人間なら魔力量は半日ほどで回復するが、だが予備用の魔力蓄積アイテムの回復はその回復後からの魔力を吸収して貯めるのだ。

「自分の魔力は全快。紅の聖柩はさっきサンダーチャリオットを喚んだから残り100くらいで、白蓄魔器の自動回復は20ってとこかな」

 ステータスの見えないジンライにはよく分からない数字の話だが、だが余裕はありそうだということは分かった。であれば遠慮はいらない。

「ならば行くぞ風音!」

「ラジャー!」

 ジンライのかけ声に風音も元気よく応じて屋根から飛び降りた。



◎モロゴ山 ニルの川 サンダーチャリオット


「本気ですのね」

 その諦めたような声はティアラ。ルイーズはいざというときのために防御魔術を構築している。ティアラもフレイムナイトを呼び出す準備はしているが、今から行われることについては、とても同意しがたい気持ちでいっぱいだった。

「風になるってさ」

 ティアラの横にいるのは弓花。問題が発生した場合に神狼化でティアラを護るためにこの配置に付いている。

「はあ、はははは。大丈夫だって。姉貴を信じようぜ」

 最後にそう口にする直樹が一番青いカオをしていた。今までの風音の無茶ぶりを体験しているティアラや弓花、ルイーズはそれでもできないことは風音はやらないだろうとは体感的に理解していたが直樹は違う。本当に可哀想なくらいに怯えていた。そして直樹の過去の出来事を考えればそれも無理もない話である。直樹はこの世界に現れたときに、地竜のさらに下位の存在である地竜モドキに追いかけ回された記憶があるのだ。さらにハイヴァーンで活動している冒険者にとって地竜の群れとの遭遇は死に等しいと認識されている。何人かの顔馴染みも亡くなっている。

 そんな過去の下地のある直樹にしてみれば今の風音の行動は自殺行為にしか思えないが、風音とジンライがイケルと踏んでいる以上は信じることに決めたのだ。

 そして今回は風音もジンライと並んで御者席に座っている。サンダーチャリオットの操作と叡智のサークレットの遠隔視でのモニタも同時に行う必要があるためだ。またいざとなればカザネ・ネオバズーカを撃つつもりでもいる。

「じゃあ行くよ」

 そして風音が手すりを握り魔力を送るとサンダーチャリオットが唸りを上げて動き出す。ボディがわずかに流線型になり、車輪からはミキサーの刃のような巨大な刃が飛び出し、すさまじい量の放電を吐き出す。

「戦闘目的はコテージの死守。正面からぶち当たって群れを分断させる……でいいんだよね?」

 風音の問いにジンライが頷いた。地竜とは肉食ではあるが臆病なタイプでもある。通常は群れの通る場所に爆破魔術等を仕掛け、群れが分散したところをドラゴンハンターたちが狙うらしい。そして逃げる地竜たちは引き返さない。どちらかといえば草食動物に近い習性だと風音は思った。

「Uターンでさらに仕留められれば良し。そうでなくとも数が少なければ、そのまま戦闘に入ってカタを付けてしまえばよかろう」

「了解。そんじゃシュッパーツ!!」


 そしてヒポ丸くんとサンダーチャリオットが走り出す。謎の電磁的な効果により周囲に防御フィールドが張られ、ヒポ丸くんは空気抵抗もほとんどないままに、グングンと速度を上げていく。それに応じて車輪と刃からの放電がいっそう激しくなっていく。凄まじい雷鳴を轟かせながら、走っていく。それはヒポ丸くんから突き出ている黒岩竜の角にも到達し、宿った竜気とともに凄まじい放電を開始する。

 その姿は遠目から見ればもはや地面を走る稲妻そのもの。それがわずかな間に地竜の群れにまで到達し、そしてその中心部を盛大に蹂躙した。


「「「「「「グギャアアアア!!」」」」」」


 地竜たちが叫びながら吹き飛ばされていく。5、6体は飛んだだろうか。確認する間もなく、群れを過ぎ去った風音たちは数百メートル後ろまで進んだあたりでUターンし再度、群れに特攻する。そして地竜たちは再び叫び、逃げ惑う。突然の驚異の登場に臆病な習性の地竜たちは恐怖した。明らかに上位種である竜気も混じっているのも体感的に感じている。

 その結果として、当然戦意など起こるはずもなく彼らは逃げ続けた。それを風音たちは執拗に追いかけ、最終的に仕留めた地竜の数は16匹。風音はレベルが1上がり、スキルも『頑丈な歯』というのが増えた。文字通りのパッシブスキルだが使い道があるかは不明である。

 その後はヒポ丸くんやタツヨシくんシリーズを使って地竜の亡骸を一カ所にまとめてはみたものの、さすがにこれら全部を持って帰るのは無理だろうと風音とジンライが対応を考えていると(ほかの仲間はみんな凄くグッタリしていた)、遠くから馬に乗った男が来るのが見えた。

「誰だ?」

 ジンライの問いに風音は遠隔視で見て「おっさんっぽい強面の若い人だねえ」と答えた。誰だかは分からなかった。とりあえず危険はなさそうなので待っていると、その男が興奮した面持ちでやってきた。

「おい、あんたら。な、な、な、なんだよ、こりゃあ」

 どうも興奮しすぎてよく分からない感じになっていた。まあ、地竜は10人ほどのメンバーで一、二匹程度を誘導して狩るのが一般的である。遠目から地竜の群れが謎の光に襲われているのを目撃したと思ったら、どこからか馬車が出現して倒された地竜を集め始めたのだ。とりあえず様子は見ていたものの、近付いて見れば爺さんと子供が唸ってる。訳が分からないのも当然だろう。

「落ち着け、若いの」

 ジンライはその男にそう声をかける。

「あ、はい。す、すみません」

 ジンライの貫禄に男の興奮も冷えてゆき、徐々に落ち着きを取り戻していく。

「いや、そのですね。これ、みんなあなたたちがやったのか?」

「あったりまえじゃないのさ」

 返ってきた返事は老人からではなく、偉そうにふんぞり返っている子供からだった。

(子供?)

 男は少女を見る。この場にはえらく不釣り合いに見えるが、その慣れた感じがどことなく自然でもある。そしてよくよく見れば老人と子供は白いマントを付けていて、少女のマントの切れ目からは足を覆う凶暴そうな装甲が見えていた。

 それを見たとき男は自分の血の気が引いていくのが分かった。白いマントに足を甲冑で覆った少女、ここ数日前にも噂を聞いていた。目の前の子供らしきものの正体に思い当たったのだ。

(まさか……鬼殺し姫?)

 改めて見てみればそれは間違いなく噂通りの姿だ。意外だったのは本当に噂通りの子供だったということだった。いくらなんでも噂の内容は盛っているだろうと思っていたし、話をしていた酒場の連中も「そんな訳の分からねえ子供がいるわけねえ」と大爆笑だったのだ。

 だが目の前にいた。ただ会っただけならカタリと考えることもできたが目の前には16体の地竜の死骸。そして地竜に目がいって気付いていなかったが鬼殺し姫らしき少女の後ろにある馬と馬車がヤバい。その馬は今男が乗っている馬よりもずっと大きい上に全身を黒い甲冑で覆っていて、竜のものらしき巨大な角を正面に突き出していた。そしてそれが引いている馬車は大型で同じように漆黒の装甲が貼られており、やたら横幅の広い車輪から刃らしきものが横に突き出ていた。その角も車輪も車輪の刃も地竜らしきものの血に染まっているので、おそらくはこれが地竜を倒したものと思われた。

 なんというか、この世の暴力を体現したような姿だったのだ。

(殺される!?)

 男はそのとき、心底そう思ったのだという。


名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:30

体力:107

魔力:181+420

筋力:52+10

俊敏力:43+4

持久力:29

知力:57

器用さ:38

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』


風音「失礼だよね、殺されるとか」

弓花「いや普通にスモークガラスの黒塗りのベンツに近付きたくないような心境だとは思うけどね」


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