第十四話 魔術を覚えよう
◎コンラッドの街 冒険者ギルド事務所
「大きい獲物はコアストーン4個…と。この半分になってるのは合わせて100ってところだね」
風音たちの前で受付のプラン・プルートは彼女たちの持ち込んだ素材の鑑定をしていた。
「ホント稼ぐわねえ。あんたたち」
「あはははは」
プランの半分呆れた声に笑って返す弓花。リンリーのところで宿の手伝いをしていた弓花にとっても「これでいいのか?」と思うぐらいに風音と弓花は稼いでいた。
「他の素材や討伐報酬と合わせて2220キリギアね。いやもうぶっちぎりで稼ぎ頭だよ、アンタら」
「一昨日はあれだけ苦労して242キリギアだったもんね。コアストーン狩りが一番効率いいや」
風音の言葉にハッとプランは笑う。
「1日200稼げりゃ普通はいい方なんだよ。グレイゴーレム狩りっつっても原形をとってこれてこそだしね。ゴーレムは硬いし武器を潰すことも多いから欠片だけだとトントンなんだよ」
「ああ、そうですね」
弓花の槍もいくらか刃が欠けている。しとめるのは風音のゴーレムでも牽制としてふるう槍の消耗は弓花の気にしているところでもあった。
「あと、これは忠告だけどこんな風に稼いでるってのは酒場の連中とかには話すんじゃないよ」
「え、はい」
「私達も命は惜しいからね。大丈夫だよプランさん」
プランの声を潜めた警告に弓花は「なんでだろう?」と首を傾げながら頷いたが、風音はすべてを理解した上で首肯していた。
「それじゃあご飯食べにいこうよ弓花」
「ああ、うん。あの風音」
ギルドの事務所から出ると弓花が難しい顔をして風音に訪ねた。
「さっきの、命が惜しいとかどういう話なの?」
そう言われて風音はきょとんとした後、うーんとうなった後
「ご飯食べながらにしよっか」
と言った。
◎サンドナ食堂
「簡単に言っちゃうとコアストーンをそのまま持ってこれるのが私のスキルだけってのが問題なんだよ」
本日の風音たちの昼食はサンドナ食堂でアサリのスパゲティ。何故貝をはずして出さないのかと風音はグチグチ言いながら、弓花にさきほどの問いの回答を口にする。
「問題って確かに風音以外は手を出せないのはズルっぽい気もするけど」
「うん。そういうことだね。ズルいと思ったら自分だってやりたいし、儲かる手段があるなら、その手段を手に入れようってのが人間なんだよ。この場合の手段ってのは私だし弓花だよ」
「私も?」
弓花は意外そうに聞き返す。
「弓花を人質にすれば私が言うこと聞く…かもね?」
「でもそんなことしたら犯罪だよね」
「そうだよ。だけど私達冒険者だからね」
風音は手に持つフォークを弓花に向ける。
「コアストーンが数十個市場に流れた後に新人冒険者二人組がレイダードッグに食われていたのを発見されても誰も犯罪とか言えないんだよねえ」
「うっ、うーん」
「可能性の問題だけどね。別にギルメンだけを疑ってるわけじゃあないよ。どこで誰が儲け話に食いつくかわかんない。この街にだって奴隷商やアンダーな方々もいるしね。できれば危険は冒さない方がいい。プランさんもそういうの心配してくれるってわけだよ」
そう言って風音はズルズルとパスタを口に運ぶ。
「命が軽いなぁ」
「そういう世界だもんね。しゃーないよ」
「ところで話は変わるけど」
スパゲティを食べ終わった後、風音が口を開いた。
「今日と明日はお仕事お休みしようと思うんだ」
「ああ、そうね」
「今日はこれからちょっと魔術を覚えに行こうと思うんだけど弓花はどうする?」
「魔術? どうするかって、私も覚えるかってこと?」
「うーん。便利ではあるんだけど戦士に特化するつもりなら覚えない方がいいよ。魔術覚えるとマイナス補正はいるし」
「マジで?」
その話は弓花は初めて聞いた。
「マジで。こっちの世界も同じかは分からないけどさ」
「そうなんだ」
「で、単純に一緒に見に行くかって話なんだけど」
「うーん、ゴメン。今日は私、親方に稽古付けてもらう約束があるんだわ」
「そっか。それじゃあ一人で行ってくるよ。宿には夕方くらいには戻ってくるから」
「了解。気をつけてね」
***************
魔術。
魔力を消費し奇跡を代行する力。8つのファクターを元に基本8系統があり、各系統にはさらに枝分かれした系統が存在している。
このコンラッドの街にある魔術研究院は火のファクターと命のファクターを専門としていると風音は聞いていた。典型的な炎の攻撃と回復の系統だ。
◎コンラッド魔導学習院
「こんにちはぁ」
魔術研究院の入り口を開き、風音が中に入る。
(装いが同じ。千年前のままってことかぁ)
歴史のある建物なのだなと風音が考えていると、受付の奥からおばちゃんが顔を見せる。
「おやおや、ずいぶんと小さいお客様だね」
(また子供扱い…むぅ)
毎度のことである。
「ようこそコンラッド魔術研究院へ。何のご用かな」
そして出てきたのは小太りのおばちゃん。
(この地方の女のひとは中年をすぎると太る体質なのかなぁ)
などとリンリーを思い出しながら風音は用を告げる。
「グリモアを購入したいんですがこちらで扱ってますか?」
「ええ、扱ってはいるよ」
だが、おばちゃんは困ったような顔で風音に言う。
「ただねお嬢ちゃん、あれは子供の買える金額じゃあないのよ」
「お金ならあります。まずは何があるのか教えてください」
ブスッとしながら答える。ようやく魔術を使えると意気込んでいるところに水を差されたので風音のご機嫌は斜めになった。
「あらあら」
風音の雰囲気を察したのか、もしくは諦めたのかおばちゃんは帳簿を開いて、在庫を確認する。
「そうねえ。うちにあるのは炎の書と癒しの書だね。どちらも二章までの写本だけど。グリモア二章っていって分かるかな」
「うん、とりあえず二章まであるなら十分だよ」
グリモア。
魔導具の一種として知られるソレは1000年前から存在している魔術習得用の消費アイテムである。
魔力を流すことで書いてある文字を情報として読み出し、使用者に吸収させることでグリモアに書かれた内容、つまり魔術の理を覚えさせるためのアイテムなのだ。
しかし知力が低いと得た情報を理解できず、他にも魔力総量やファクターの相性などによっては理を入手できない可能性もあり、扱う人間にとってはギャンブル性が高いシロモノだと認識されている。
「あなたのようにまだ幼いのであればキチンと学んで身につけた方が良いと思うけど」
またグリモアに知力が必要なのは突然頭に浮かんだ理を理解するためであり、グリモアに頼らず自力で学んで覚えても二章までならば知力が低くても習得は可能だ。むしろ博打のようなグリモアを買って使うのは稀で普通に学習して覚えるのが一般的なのだ。
「お気にせずに。両方でいくらかな?」
意にも介さない風音におばちゃんは苦笑しながら答える。
「炎は500、癒しは1000だね。併せて買うなら1300でおまけしとくよ」
風音はアイテムボックスの中のお金を取り出す。弓花とは2000キリギアずつ分けて持っているので余裕で購入可能だ。
「それじゃあ両方ください」
1300キリギアを置く。
「それと訓練場もお借りしたいのですけどいくらになります?」
「あー本当に出せるんだねえ。訓練場は購入したお客さんなら初回はただ。だけど、グリモアで魔術を覚えられるかは分からないからね」
そうおばちゃんは警告する。それというのもグリモアで修得できないと、不良品をつかまされたと怒鳴り込んでくる輩が多いためだ。おばちゃんにとって怖いのは目の前の少女の親が怒鳴り込んでくることだが1300の収入は惜しいので忠告だけはして細かいことは目を瞑ることにした。
「ええ。問題ないです」
無論、風音もちゃんとグリモアの仕組みは理解している。自動習得自体は『フライ』で実証済み。知力24であれば二章までの理はファクターの相性に関係なく習得は可能なハズだ。
「それじゃあグリモアと訓練場の鍵を出してくるからちょいとお待ちよ」
そういっておばちゃんは受付の奥に足を運んでいった。
名前:由比浜 風音
職業:冒険者
装備:鋼鉄の両手剣・レザージャケット・鉄の小手・布の服・皮のズボン・革の靴・ポーチ
レベル:16
体力:45
魔力:68
筋力:17
俊敏力:12
持久力:13
知力:24
器用さ:12
スペル:『フライ』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』
風音「私は変わってないけど弓花はレベル上がったんだよね」
弓花「13レベルね。あとラッシュというスキルも覚えたわ」
風音「へえ」
弓花「といってもスキルコマンドなど使わずに連続突きすればいいだけなんだけどね」
風音「まあ普通に考えればスキルって覚えたから使うんじゃなく、覚えて使えるようになったからスキルって呼ばれるんだよね」
弓花「うん。なにげに今のってこのウィンドウのシステムの根幹の話だったりするらしいよ」
風音「そうなの?」




