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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
悪魔契約編

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第百二十八話 悪魔を喰らおう

 外で大歓声が響きわたっているのが聞こえてくる。確か召喚試合の決勝はあの風音という少女が出ていたはずだ……と老人は思い出す。

「ふむ、勝ったのであれば良いのだが」

 もうじき世界は終わる。この偽りの世界は消え去る。そのときには良い思い出のまま終えてほしいとゲンゾーは心から考えていた。そして手に持つ黒い刀を老人ゲンゾー・アイダは鬼気迫る顔で眺めていた。

(浸食刀ゾアラル。悪魔の外部への執着が生み出した魔刀か)

 ゲンゾーが刀を抜いてその刃を再度確認する。それは強固な封印から抜け出そうと足掻き、それが能力として固定してしまった悪魔の力が込められた刀だ。それほど大層な能力というわけではない。ただ斬れば斬るほどに相手のことが読み取れる悪魔憑きの憑依刀。切りつければ相手の癖を読み取り戦況を有利にも展開できる悪魔の能力だが、切りつけないといけないという条件が難点だ。刃傷防衛の術ありきの今大会ではそもそも使用ができない。だがゲンゾーの『情報探査』との組み合わせでその情報探査能力は記憶の奥底まで見通すことが可能になる。ヴァニルから悪魔の力を吸収できれば、さらに深いところにまで届くことができるはずだった。

(神ノーマン、これをあいつに突きつける)

 そのためにここまで準備してきた。子供の姿に惑わされてはいけない。あれは開発者がこの世界を管理するために用意したただのアバターだ。だが、だからこそ、あれが外部へと繋がるポータル的な役割であるとゲンゾーは考えていた。


「ゲンゾー選手、出番です」


 ドアの外側から声がする。

「分かった。すぐ行く」

 ゲンゾーはそう返し、刀を鞘に収めた。問題は次の相手に勝てるかだが、

「勝たねばならぬだろうな」

 そうひとり呟いてゲンゾーは控え室を出ていった。もうひとつで願いは叶う。自ら取り込んだ悪魔を武器にして分けて放ち、ここまで準備し続けてきた。今大会までに各々のなかで悪魔を成長させ、それをこの大会で回収する。大会延期というトラブルはあったがようやくここまできたのだ。負けるわけにはいかない。



◎リザレクトの街 中央闘技場 観客席


 多くの観客が見守る闘技場の観客席、風音は仲間たちのいるところまでトコトコと歩いていく。


「やったじゃあねえか嬢ちゃん」

「猫ちゃんも頑張ったわねえ」


 道行く人に声をかけられ、対応に苦慮しながら目的地までたどり着く。

 そしてパパパパパンとそれぞれ仲間たちが差し出した手と風音はたたき合う。

「おめっとさん」

 弓花の隣に座り込んだ風音に弓花が声をかけ、

「あんがとさん」

 と、風音が返す。だが風音の表情がどことなく明るくないので「何かあった?」と尋ねると「それがさあ」と風音が返す。

「優勝賞品の召喚体の強化素材ってのがさ。ドラゴンの肉だったんだよね」

「あーそういえば、ユッコネエもあの黒岩竜の肉でパワーアップしたんだっけ」

「うん。その私たちが換金した黒岩竜の肉だったんだよね。賞品って」

 それには弓花も、他の仲間も目を丸くする。

「マジで?」

「マジだよ。もうユッコネエは嫌ってほど食べてるしこれ以上はあの肉で強化は無理なんだねえ」

 黒岩竜の肉は強化仕切るまでその場でユッコネエに食べさせていたのだ。ちなみにルビーグリフォンであるメフィルスもバクバク食べてたし強化もされてるらしいが、まだティアラが戦闘用に呼び出せないのでその能力は不明だ。

「ハイヴァーンの専門店で調理してもらうように換金してない肉も不思議なポーチに入れて保存してあるし、もらう分にはもらうけどありがたみはないよね」

 なお竜の肉はそのままでは人間には食せない。竜気と呼ばれる竜の力が毒性となって人の身を蝕むためである。そのため、竜の肉を食べるのであれば専門の料理店にいって調理をしてもらう必要がある。そして竜に馴染みのあるこのハイヴァーンにはそうした料理店がいくつか存在しているのである。なお食べるとユッコネエのように姿形が変わるわけではないが、能力が強化されるらしい。

「じゃあ強化できないんですの?」

 ティアラの問に風音が「うーん」と言う。

「今、準優勝と三位用の強化アイテムと交換できないか交渉中。まあ結果待ちかな」

 というわけで強化アイテム目当てで参加した風音としてはいまいちサッパリと勝ったと喜べない状況であったのだ。

「できれば毛がふさふさのままでいてほしいがな」

「かわいいままの方がいいですよねえ」

 ジンライの言葉に弓花が同意する。なお直樹は姉のそばにいるユッコネエにライバル心を抱いているので会話には参加しない。器の小さい男だ。

 そんなやり取りをしてた風音たちにルイーズが声をかける。

「あんたら、ほら決勝戦始まるみたいよ」

「あ、ホントだ」

 そして全員の視線が闘技場の中央に注がれる。いよいよ一般部門における決勝戦が始まるのだ。



◎リザレクトの街 中央闘技場


「結局、あなたが大方やったんでしょうね」

「はははははは、まあな」


 ゲンゾーとヴァニル、二人が闘技場の中央まで歩き、そして向かい合った最初の言葉がそれであった。

 その会話の意味は審判には分からないが、だが一部の事情に通じている人間には理解できた。悪魔使いを殺したのはこいつだと。ヴァニルだと。だが、それを咎めて試合を中断などということにはならない。あの程度の会話の内容などどうとでも言い訳できるし証拠もないのだろう。

 そしてゲンゾーの黒い禍々しい刀とヴァニルの黒い禍々しい剣が抜かれた。

 途端に周囲の温度が急激に冷えたような、そんな感覚に審判は襲われ身体を震えさせた。その場にいれば殺されると本能が訴えていた。

 とはいえ、そうした感覚に捉われようとやるべきことはやらねばならない。刃傷防衛の術を審判は両者にかけ、そして前に出た男たちは互いの刃を重ね、にらみ合う。

「こんな舞台を用意してくれて感謝している。これは本当だ」

 そのヴァニルの言葉に、

「私は後悔してますよ。もう少し弱い人を狙えば良かった」

 とゲンゾーは返す。その言葉にヴァニルが笑い、両者は得物を離して下がり配置に着く。

「これよりリザレクト大武闘会 一般部門決勝戦を開始する」

 そして審判がサッと手を挙げた。


「始めっ!」


 その声と共にヴァニルが消える。文字通り姿そのものが消えた。

「ッ!」

 だがゲンゾーの『直感』が空間の揺らぎを感知し動く。

 わずかな刻の中でヴァニルがゲンゾーの背後に出現し、ゲンゾーの身体を切り裂いたと思えば、それはゲンゾーの着ていた上着だけであった。空蝉の術、オートで反応するその術にヴァニルは掛かった。

 そして当のゲンゾーはそれよりも少し離れた位置に出現し、そのまま実体を伴う分身をみっつ放つ。本体を含めた4体のゲンゾーが一斉に手裏剣を放った。それをヴァニルはかわさず身に纏っている魔力を練り込んだ気だけで弾いたが、ゲンゾーはそのままヴァニルへと突き進む。そうして四方に分かれたゲンゾーの突きがヴァニルへと向かうが、しかしヴァニルは再度姿を消した。

 それが魔族などの一部しか使用できない転移術だと気づいているものは場内にはわずかしかいないだろう。大概はそう見せただけの幻術や光術、闇術の類のまやかしだ。ゲンゾーの空蝉の術のような。

 そしてヴァニルが出現したのはゲンゾーの一体の真上だ。一瞬にしてヴァニルはゲンゾーを切り裂いた。だがヴァニルに斬られたゲンゾーがにやりと笑った。


 そして爆発が起きる。


「ぬぅぅ、おおおお」

 ヴァニルはその爆発の衝撃で吹き飛び、そのまま転がっていく。

 攻撃魔術かと場内がどよめいたが、審判はこれには反応しない。攻撃魔術ではなく、補助系魔術と判断したようだった。

 であれば試合は続行。本体を含むであろう残り三体のゲンゾーが吹き飛んだヴァニルに向かって走り出す。

 握られる浸食刀ゾアラルは三刀。転げて呻いているヴァニルにはどれが本物かは分からない。だが彼には鍛え上げられた剣技があった。転げたままの体勢からではろくな攻撃は放てないが、ヴァニルの、いやかつてライトニングと謳われたヴァール・ニールセンの剣撃ならばただの突きの繰り返しのラッシュとて必殺の攻撃となる。

「ウォォオオ!!」

 猛りの声とともに一体、二体、そして三体目が切り裂かれて消えた。

「なに?」

 ヴァニルは思わず声を上げた。そう三体とも消えたのである。つまり今目の前にいたゲンゾーはすべて分身だった。

 それに気付いたヴァニルは背後からの気配に気付き、黒い剣を本能のままに後ろに向けて振るう。ガキィンッと金属同士のぶつかり合う音がしたが、相手の振りの強さにヴァニルの肉体が押し切れずに浮かび上がった。

「ぐっ、随分と強化してるじゃないか」

「若さにだけ集中して悪魔の力を振ったあんたとは違うのでね」

 その筋力は明らかに老人のものではない。対してヴァニルの身体能力は確かに上がってはいるがその多くは若さを手に入れるのに使っていたのだ。

「うぉおっと」

 そのままゲンゾーの斬撃に吹き飛ばされたヴァニルだったが浮かび上がった拍子に体勢を持ち直し地面に転がった状態からは脱した。そしてヴァニルは油断なくゲンゾーに向き合う。

 その様子を見ながらゲンゾーはそのまま駆けてヴァニルに斬りつける。それを受けるヴァニルが犬歯をむき出しにして笑った。

「小細工など必要ないではないか」

 ゲンゾーはそれには応えない。ただ刀を振るうのみ。剣技の実力では劣っているのだ。気迫で推せなくては勝ち目などない。

 そしてそこからは先ほどのような分身や転移といった技の応酬ではなく剣と刀の激突。ライトニングと呼ばれた男の剣撃はたしかに速く、技量としてはゲンゾーの分が悪いが、だが身体能力の差と、そして意志の差がそれをものともしなかった。

 対してヴァニルはもはや満ち足りた顔をしていた。欲しかったのだ、このときが。ベッドで死に逝く自分に怯えたあの頃とは雲泥の差だ。ヴァニルは今自分が生きていると感じた。このときこそが自分の望むものだと。これが永遠に続いてしまえと思った。思ってしまった。

 故に勝利への執着の違いが、刃に宿る思いの違いが出てしまったのだろう。


 ガィンッ


 と、黒い刃が宙に舞った。折れたのはヴァニルの剣。それは弧を描き、そして地面に突き刺さった。

「終わって……しまったか」

 それを寂しそうに見るヴァニル。彼は本当に残念そうにそれを見た。夢が覚めるのを悲しむ子供のような顔をしていた。そしてヴァニルの身体から黒い何かが吹き出し、ゲンゾーの持つ刀へと吸い込まれていく。


 その様子を何事かと見ていた審判だったが、その後の動きがないのを確認すると「勝者ゲンゾー」と声を挙げた。審判の言葉とともに爆発したような大歓声が上がり、勝者を讃える拍手が鳴り響いた。


「……これで揃ったか」


 だが、勝利したはずのゲンゾーはその手の刀を鞘へは戻さない。審判の声も、観客の声援もゲンゾーには届いていないようだった。そして漆黒の刀を握ったままある一点を見ていた。

「……?」

 その視線に気付いた審判が、ゲンゾーの視線の先を辿ってみるとそこにあったのは中央闘技場の最上観客室。その部屋の窓からはこの地の神とされるノーマンの姿があった。それをゲンゾーは殺意の籠もった目で見ていたのだ。

 審判は、それが尋常ではない状況だと気付いたが、だが声は出なかった。目の前の老人を包む気配が既に人のそれではないと気付いたから。そして老人の視線の間に入り込む行為が死に繋がると理解したからだ。


「……管理者め」


 ゲンゾーは神ノーマンを見ながらボソリとそう呟き、そのままヴァニルから吸収したスキル『転位』で飛んだ。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:29

体力:101

魔力:170+420

筋力:49+10

俊敏力:40+4

持久力:29

知力:55

器用さ:33

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『背後の気配』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』


風音「あれ、あのお爺ちゃん消えた?」

弓花「へ?」

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