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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
悪魔契約編

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第百二十五話 全力を尽くそう

◎リザレクトの街 中央闘技場


 斧魔神ゴーゴルは、主に北のジャグラ共和国を中心に活動している名の知れた冒険者だ。その斧技は大木を一刀両断にし、ゴーレムクラスの硬度の敵をも易々と切り裂く。何よりも特徴的なのは片手斧を両手にそれぞれ持っての遠心力と重心移動を使ったコマのような攻撃『タイフーン』。それは並みいる魔物どもを竜巻のように回転しながら薙ぎ倒すと言われていた。


「はっはー。面白いな、君は」

 その強者を銀の鎧を着込み黒い剣を振るう男ヴァニルが圧倒していた。


「ぬぉぉおお」


 ゴーゴルが斧を振るい、どれだけ打ち込もうともヴァニルにはそれらをすべて黒い剣で弾いて返す。力技ではない。振り下ろそうとする直前、振りかぶって力を込める寸前を狙って、凄まじい速度で斬りつけ、ゴーゴルの攻撃自体を殺し続けていた。ゴーゴルはまるで攻撃をさせてもらえていない。

「なんて剣速だッ」

 ゴーゴルは苦しそうにそう口にする。しかし、対するヴァニルはそれを見て退屈そうにこう話した。

「だが、少し飽きたね」

 そして降り懸かる斧の一撃を踏み込みながら避けて、懐に飛び込んだ。

「やあ」

「貴様ぁ……」

 突然視界の前に現れたヴァニルの姿にゴーゴルは驚愕する。そしてそれ以上に腹のところで突き立てられた剣に防衛魔術がバチバチと反発しているのを見て恐怖する。

「おや、避けた方がいいね。壊れるよ、これ?」

 ヴァニルの言葉にゴーゴルは青ざめ、回避行動に出る。そして同時に爆発が起きた。


「しょ、勝者ヴァニルッ!」


 審判が手を挙げてそう宣言する。

 衝撃で吹き飛ばされたゴーゴルと仁王立ちしながら笑っているヴァニルの姿に場内は興奮し、拍手が吹き荒れた。

 なお、今起きた爆発は刃傷防衛の術が破れる際に衝撃を分散させて自壊した結果である。全身にダメージを負うが、それでもただ術が敗れて切り裂かれるよりはマシではあろうというシロモノだ。


 こうして大闘技会一般部門の決勝進出者は1人確定した。圧倒的な力を見せつけた謎の男ヴァニル。会場の全員がその男の強さに見惚れていた。



◎リザレクトの街 中央闘技場 観客席


「強い……」

 ミナカが一言そう呟いた。

 白銀鎧の剣士ヴァニル、その強さを目の当たりにし、以前に追われていた事実を思い出したことでミナカは思わず身震いしてしまう。あれとあの時に戦うことになっていたらどうなっていたかと思うと恐怖が過る。だがその横にいる風音は腑に落ちないという顔でヴァニルを見ていた。

「どうした?」

 その様子が気になったジンライがと問い掛ける。さきほど神ノーマンと会ってきた後、妙に心ここにあらずな状態だったが、今はいつもの風音の顔だった。

「うん、あのヴァニルさんなんだけど、どうも最初に見たときよりも若いように見えるんだよね」

「若い?」

 風音の言葉にジンライが訝しげな視線を会場にいるヴァニルに向ける。

「ミナカさんもそう思わない?」

 その風音の問いにミナカは申し訳なさそうに首を横に振った。

「ごめんなさい。ちょっと私には分かりません。言われればそうかなって位には思いますが」

 あまりそう言うのを覚えるのは苦手なようだった。しかしジンライは目を細めて「そうか」と言った。

「であれば、恐らくあの方はヴァール・ニールセンだ」

 ジンライはそう口にする。ミナカは「まさか……」と呟き、ルイーズとメフィルスも同じような反応を見せた。だが、風音もいっしょにいるティアラも直樹もその名に聞き覚えはなかった。

「確か剣を振ったことすら気付かせずに敵を倒す瞬殺剣の使い手だと聞いています」

「ええ、そんな話だったわね。あたしは会ったことはないけど何十年か前に一線で活躍していたランクSの冒険者よ。その剣速があまりにも速いことからライトニングと謳われていたわ」

 ナミカとルイーズの言葉にジンライが頷く。

「そう。現在の年はたしか70〜80くらいはいっているはずだ。あの剣筋には覚えがあると思ったので弟子か何かかと思っていたが、まさか悪魔の力で若さを願ったのか」

 そう言いながらジンライは神妙な顔で会場を去りゆくヴァニルを見ている。

「知り合いなの?」

 その様子に風音が尋ね、ジンライは頷いた。

「顔見知りという程度だがな。それも30年くらい前の」

「そっか」

 ジンライの言葉に風音も頷く。

「ま、分かったところで今はどうなるものでもないが。それよりも続いてのユミカとあのゲンゾーの試合だ」

「確かすぐに始まるんだっけ?」

「そのようだな。問題は神狼化が通じるかどうかだが」

 その言葉にミナカが反応する。

「神狼化。それ、ユミカも言ってました。謝られましたし」

「ああ、ミナカさんが雷神化を見せたのに自分は手の内を出さなかったってなんか落ち込んでたね」

「それを謝られる方がショックなんですけどねえ」

「弟子が済まぬ」

 ミナカの不本意な苦笑いにジンライが謝った。

「まあやってみないと分かんないとは思うけどさ」

「まあな。あのゲンゾーという男の力、まだ底は見えておらぬしな」

「ジンライさんもあっちのお爺ちゃんの方は知らないんだよね?」

「ああ」

 ジンライは頷いた。ミナカと同じ東方の流れを汲んだ戦い方だとはジンライも感じているが、だがその素性はまったく見当がない。

「あ、出てきたみたいですよ」

 ジンライと風音の会話の横でミナカがそう言った。



◎リザレクトの街 中央闘技場


 弓花が西門から出てくるとそこには彼女を見る大勢の観客たちの姿があった。

(慣れないなあ……)

 弓花はそう苦笑する。自分は少し前までただの女子高生で、こんなところに出るような人間ではなかったはずだ。だが今はここに立っている。

「まあ、やるしかないか」

 そう独り言を呟き、前を見た。そこには刀を腰に差した老人がいた。その眼光は強かったが、だがその視線は弓花に向けられたものではなかった。

(誰か見てる?)

 その視線を追うと最上観客室の方を見ているようだった。その弓花の様子に気づいたゲンゾーは向けていた視線を弓花に変える。だが、そこにあったのは先ほどまでの強い敵意ではなかった。

「ふむ。随分と若いお嬢さんだな」

「すみません。私なんかが出てきちゃって」

 そう口にする弓花にゲンゾーは首を横に振る。

「そういう言い方は良くないな。君に敗れた者たちも『私なんか』という人物に敗れたわけではないだろう」

 そのゲンゾーの言葉に弓花もバツの悪そうな顔をして「そうですね」と返す。その弓花にゲンゾーは頷く。

「そうだ。でなければ私が倒すだけの価値もないということになる」

 そしてゲンゾーは刀を抜いた。その黒い刃から発せられる恐るべき威圧感に弓花が唸る。だが怯えていても仕方がない。弓花も槍を背中から外し、前に出す。

 審判はその両者の刃が重なるのを確認し刃傷防衛の術をかけてから下がらせる。

 そして両者が所定の位置に着き、構えるのを確認してから


「始めッ」


 と手を挙げてた。


「先手必勝!!」

 弓花が神狼化を発動させる。

「なんとっ?」

 その様子にさすがのゲンゾーも驚く。

 目の前の少女の髪が銀色になり、顔も獣人のそれに変わっていく。のみならず耳も犬のそれとなりピンと立ち、尻尾も生えた。だがそんな見かけの変化はどうでも良い。恐るべきは能力強化だ。

「行きますっ!」

 神狼化弓花が大地を蹴り、駆ける。俊敏力が二倍となって人族の脚力を大きく超える。

「速いな」

 ゲンゾーがそれに驚きと言うよりも感心してみる。だが弓花もゲンゾーの能力は知らない。ニンジャマスターから派生したスキル『情報探査』によって弓花が実際に何の能力を強化したのかを正確に把握していることなど知る由もない。

そしてゲンゾーとて悪魔の力を得て人の能力を超えた存在だ。ほとんど神狼化弓花と同速で槍の一撃を刀で受け止める。

「なっ?」

 それには弓花が驚く番だった。筋力も二倍になった神狼化弓花の攻撃を正面から受け止めた。そんなことは人間相手では初めてだった。

「なんて馬鹿力なのよ」

 ギリギリと槍の先と刀の刃がぶつかり合う。本当に僅かなところでぶつかり合い、留まっている。

「君もお友達に聞いているんじゃないのかね。私が悪魔使いということを?」

「ああ、そういうこと」

 神狼化のアドバンテージはかなり減少してしまったようだが、だが神狼化なしでは勝負にならなかった可能性もある。

(けど出してきたってことは私闘えてるってことよね)

 そう弓花は考え、バックステップで一気に下がる。

「下がれば、槍の有利とでも思ったか?」

 だがゲンゾーはその場で『4人』に分かれる。

「分身?」

 ニンジャだとは風音から聞いていたが、まさか分身とは……と舌打ちをする。高位のニンジャのスキルには実像を伴うものも存在している。ならばこれもその可能性がある。思わず銀狼を召喚したくなったが、召喚は禁止だ。

(だったら分身ってどうなのよ?)

 そうも思ったが、審判が反則を取ってない以上、試合は続行である。

 だが分身だけではない。ゲンゾーはもうひとつ忍術を放つ。

「スキル・金遁の術」

 その言葉とともに凄まじい金属音が神狼化弓花の周囲でかき鳴らされる。金遁の術とは、本来は周囲に金属音をかき鳴らし注意を引きつけて逃げる術であるが、こうした牽制としても利用可能だ。

「いや、なにこれ?」

 神狼化弓花は突然の雑音に激しく動揺する。神狼化に伴い付与される『超聴覚』が負荷となっているのだ。そしてそれは当然『情報探査』で弓花の能力を見切っている故のゲンゾーの攻撃である。

 突然の音の障害と分身含む4体の猛攻にピンチの弓花だが『直感』と『身軽』のパッシブスキルによりどうにか攻撃を避け続けることには成功する。だが、攻め手に回れず戦闘のイニシアチブをまったく取れていない。それは今まで本能の赴くままに戦う魔物や、正面から挑むジンライとしか戦ってこなかった弓花には未知の領域だった。

(あーもう、訳が分からない)

 そう弓花は焦るが、攻撃を避けるので精一杯。

 ここで集中力をブーストするスキル『ゾーン』を発動させたいところだが、あのスキルは相手のペースを崩すタイプとは相性が悪い。もしゾーン発動後に調子を崩されるようなことがあるとゾーンが解除されるだけではなく、精神の安定が崩れて不調の状態になる。だが、そんなことを考えているうちに4体のゲンゾーが四方向から駆けてくる。

(考える隙すら与えてくれない?)

 弓花はこの戦法をとる相手に心当たりがある。

(風音か!)

 相手の知らぬ攻撃を繰り出し、こちらの攻撃の隙を与えず一方的に攻撃する。弓花も風音ならば手持ちのスキルが分かる分対処のしようもあるが、

だが見知らぬ相手の見知らぬ技の応酬に完全に手玉に取られている。

(でもっ)

 親友の顔が頭に浮かんだ弓花の意識が自然体に切り替わる。そして集中力が増し、スキルリストからではなく地力で『ゾーン』を発動させる。周囲の景色や音が消え、極限まで集中力が上がっていく。

(1・2・3、見えてる!)

 神狼化弓花は三方向からの分身体をギュンッと槍を真横に回転させて一気に切り裂いた。そして切り裂かれた分身体が消える。だが……


 トンッと弓花の槍の上に何かが乗る音がした。

(4人目が……そうか、さっきは確かに四方向から)

 何故かそれを認識できていなかった。恐らくはインビジブルに似た認識阻害のスキルが使われていたのだろう。そして弓花の目の前に刀の先が突き出されている。

「私の勝ちだと思うが」

 弓花の槍の上に立ち、そう口にするゲンゾーに弓花は悔しそうに歯軋りしながら、

「負けました」

 そう告げた。その言葉とともに審判が手を挙げ「勝者ゲンゾー」と叫んだ。

 そして起こる大歓声の中で、ゲンゾーは「ホッ」と言いながら、神狼化弓花の槍から降りる。乗られていた時にはゲンゾーの重さはまるでなかったが、だが降りられてみるとズッシリとしたものがとれたように感じた。

「……負けちゃった」

 そしてそう小さく呟いた。弓花の完敗だった。


名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:29

体力:101

魔力:170+420

筋力:49+10

俊敏力:40+4

持久力:29

知力:55

器用さ:33

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『背後の気配』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』


風音「弓花は頑張ったよ」

弓花「ありがとうね。けどさ。ちょっと泣くから背中貸してね」

風音「……うん」

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