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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
悪魔契約編

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第百十六話 ストーカーに気を付けよう

 風音がウォンバードの市場で出会ったミナカ・ライドウという少女は東の国ジャパネスの出身である。そして、そのジャパネスの中でも上流階級であるライドウ家という武家の娘でもあった。

 これは本人も知っている事実だが元々ミナカは町人の子供だったのだという。だが幼い頃から発揮していた剣術の才能を買われライドウ家の養子となった。

 そうした経緯からミナカは己は常に強くあるべきだという強迫観念が強い。育ての両親も愛情を持って自分を育ててくれたことはミナカも感じてはいるが、だが自分の存在価値を思うとそうあるべきだとどうしても思ってしまう。それに養子になる前の関係を断ち切るために古い記憶を封印していることもあり、強さこそが自分のアイデンンティティだと彼女が強く感じているのも止むを得ないことかもしれない。

 そしてミナカは現在大陸を横断しながら武者修行の旅をしていた。武家であるからにはたとえ女であっても強くあらねばならない。ジャパネスとはそんな話がまかり通るお国柄であり、ミナカが15を越えたときに武者修行の旅を命じられたためだ。そしてハタチになるまでは戻ることを許されない。それがライドウ家のしきたりであった。

 以来、ミナカは1人で旅をしていた。

 そしてそんな1人旅の途中で偶然見つけたのが魔剣の類と思われる黒い短剣だった。この時点でミナカは気付いていなかったが、その剣には悪魔、色欲を司る淫魔が憑いていた。

 その後の自分の状況についてはミナカにとっては二度と思い出したくもない記憶だ。いつの間にか初めてを散らされ、生娘ではなくなったばかりではなく、夜な夜な悪魔に抱かれ続けて快楽を貪っていた。あの頃のことを思うと恥辱で耳まで赤くなる。あのときの自分はどうかしていた。そう思わないと自分を保てない。

 だが、それもルイーズという女性の力によって救われた。今はもう悪魔は憑いておらず、異国の大闘技会の中で自己研鑽している真っ最中だ。


 そう、そのはずだった。


(なんなのでしょう。あいつらは)

 今ミナカは追われていた。まだ過度に近付かれてはいないが、確実に複数、確認できるだけで4人の人間が追ってきていた。

 一人一人の実力がミナカが見る限りミナカと同等かそれ以上に見える。特に刀を腰に下げている老人と白銀の鎧の男からは、ルイーズや風音と同じパーティにいたジンライという老兵にも似た強力な気配を感じる。

 他の2人にしても明らかに実力者の気配を放っており、こちらを追ってくる際の連携も上手くとれているし、囲まれると確実に終わってしまうとミナカは恐怖に駆られながらも歩き続けていた。

(宿まで戻れば大丈夫でしょうか。ですが居場所を知られては、そのまま踏み込まれてしまうかもしれないし)

 捕らえられれば勝てる自信はない。ミナカは焦る頭の中で必死で考える。このまま囲まれぬにはどうしたらよいのか。

 だが、そう考えながら早歩きをしているミナカに別の人物が近付きつつあったのには彼女は気付かなかった。



 **********



 複数の走る足音がその路地に響き渡る。

「おい、消えたぞ」

 男たちが突然人気のない路地に入ったターゲットを追って、路地の中に入っていったが、入ってみるとその先には誰もいなかった。

「気付かれて逃げたか?」

 そう男が口にするが、だがこの場から全力で駆けだした形跡はない。

「違うようだがな。手段は分からんがどうやらまんまと逃げられたらしいな」

 白銀の鎧の男がそう言って笑った。

「大の男が4人で娘ひとり逃がしたんだ。笑い事じゃあない」

 男のひとりの言葉に白銀の鎧の男は「すまん」と返答する。

「だが、何故逃げる?」

 もうひとりの男がそう口にする。元々彼等はミナカを捕まえようとしていたのではない。だが会えば分かるはずの自分たちのことが分からないようだったのでこうして状況を探るために追いかけていたのだ。そして、そのやりとりを見ていた老人が「やはり払われたのではないかな?」と口にする。

「悪魔狩りの連中がやったとでもいうのか」

 男のひとりが老人を見て悔しそうにそう尋ねた。老人は「その可能性はあるだろう」と口にする。

「チッ、取り分がまた減ったか」

「まだそうと決まったわけでもないだろう」

 それはガッシリした身体に白銀の鎧を纏った男の発した言葉だった。

「まあ確かにな。自力で脱したかも知れぬし、まだ繋がりが弱いだけかも知れぬ。いずれにせよここで議論していても仕方あるまい」

 老人の言葉に白銀鎧の男も頷く。

「どのみち、あの技量ならば『闇討ち』している連中とは別だろうさ」

「確かにな。我等が敢えて接触をして釘を刺す必要もないか」

 他の2人もそう口にする。

「まあ良かろう。対戦表が決まるまでもう間もない。ひとまずはここで解散するか」

 老人の言葉に男たちが頷き、その後は一言も発さず、僅かにテンポをずらして別々にその場を離れていった。



   **********



(逃げる? 闇討ち?)

 風音は男たちが話している路地の上、二階の壁際に『壁歩き』と『インビジブル』を併用してミナカとともに隠れていた。『インビジブル』は周囲の認識力を落とす効果のあるスキルだ。死角的な場所にいるならばなお効果があり気付かれる恐れは少なくなる。

 そして男たちが去ったのを確認すると風音は横にいるミナカに尋ねる。

「ミナカさん、心当たりは?」

 その質問にミナカは首を横に振る。まったく身に覚えのない連中だった。

「ないけど……悪魔狩りって言ってたから、やっぱりそっち関係ってことじゃないかな?」

 ミナカはこの風音の壁にくっつくスキルと気配を消すスキルに驚きながらも答える。風音もミナカの返答は予想できていたし「それっぽいね」と口にしてそのまま頷いた。なお接触で一緒に効果を持つインビジブルと違い、壁歩きは風音にしか適用されないのでミナカは風音に支えられながら壁際の溝に足をかけて下を覗いていた。

「悪魔憑きの人が殺されてるらしいし、なんかそれに関係ありそうなこと言ったもんなあ」

 その風音の言葉にミナカが驚いた顔で風音を見た。

「悪魔憑きが殺されてるんですか? まさか、あの人たちに?」

 風音はミナカの質問に「さあ?」と返した。風音もブリックに聞いた以上の話は知らないのだ。

「殺したのがあいつらかどうかは知らないけどね。でも、さっきの話聞く限りじゃどちらかというとミナカさんが疑われていたみたいだよ」

「やってませんよ。そんなこと」

 あせって言い返すミナカの言葉には風音は「そりゃ、あいつらに言ってよ」と返す。だが、さすがに今から追いかけて問い質すほどの度胸はミナカにはない。

「となると今のは悪魔狩りの人かな? けど取り分とか変なこと言ってたよねえ」

(そもそも悪魔狩りなら『悪魔狩りの連中』なんて言うはずもないか)

 風音は自分の言葉に頭の中でツッコミを入れる。

「どんな方々なのか分かりませんが、少なくとも腕は立つと思います。特にあの白銀の鎧の男と老人は相当な強者ではないかと」

「うん。ジンライさんに似たものを感じたし、怖い人っぽいね」 

 そう口にする風音だが、ともあれ一旦はミナカを送り届けるべく宿屋まで戻ることにする。そして宿屋にいたジンライにミナカのことを任せると返す刀で今度はルイーズに会うために冒険者ギルドの事務所に向かい始めた。



◎リザレクトの街 商業区


「また会ったな。お嬢さん」

 それは風音がギルドに向かう途中のことだった。通りを歩いているといつの間にやら風音の横にあの老人がいたのは。

 風音は突然かけられた声にギョッとしたが平静を装いながら老人に言葉を返す。

「うーん。初めて会ったと思うけど」

 人通りの多い中だ。滅多なことはされないだろうとは思ったが、だが老人から発せられる気配に風音の『直感』が危険を訴えている。正直に言えば一刻も早く攻撃をしかけたいとすら感じていた。今ならまだ対処はできる。風音の『直感』はそう告げていた。そして焦る気持ちの中で今の状況を分析する。

(臭いはあった。でも気付けなかった。インビジブルに近い、認識力を阻害するスキルかな?)

 高位の斥候などの持つスキルにはそうしたものもある。

「いやいや。さきほどのあの長髪のお嬢さんを助けた手並みは見事だった。私でなければ気付かなかっただろうよ」

「あれ、バレてた?」

 どうやら目の前の老人は、最初から風音のことに気付いていたようだった。

「でも、さっきは見逃してくれたよね?」

 慎重に歩を進めながら風音が尋ねる。ちょっと見た感じでは老人と孫が歩いているようにしか見えない。

(助けは……誰も来れないよねえ)

 残念ながらジンライはミナカとともに宿にいるし他の仲間も同様だ。ルイーズが偶然風音を目撃できれば良いが、その可能性も薄いだろう。

「連中に知られれば戦闘になった恐れもある。無駄な争いはこちらとて望まぬよ、同郷の人間ではなおさらな。由比浜ゆいはま 風音かざねくん」

 それは不意打ちの言葉だった。

「なんで知ってるの?」

 風音は今度こそ目を丸くして驚いた。だが老人は落ち着いた顔で答えを告げる。

「私のユニークスキルは『ニンジャマスター』、それより派生したスキル『情報探査』ならば相手のステータスが見破れるのさ」

 その言葉から風音も目の前の老人の正体に思い当たる。

「もしかして『プレイヤー』の人?」

 風音の言葉に老人が頷いた。

「2年前にこちらの世界に落とされてな。今日までなんとか生きながらえてきた。プレイヤーの存在は知っていたが実際にお仲間にあったのは初めてだよ」

 そう話す老人の言葉は何かを懐かしむようだった。

「あー、それは良かったとは思うけどさ。それでミナカさんを狙ったのと今私に接触した理由はなんなのかな」

 とても同じプレイヤーと出会えたことを喜べない風音は固い口調で尋ねる。

「ああ、その道を右に。ギルドからは離れてもらう」

 だが老人は風音の言葉には答えず、ただ指示を出した。

「りょーかい」

 風音は老人の言葉のままに、その道を歩いていく。先にあったのは人気のない倉庫街。ヒポ丸くん二号(仮)の置いてあった場所からは若干離れたところだ。そこで風音は老人に促され、倉庫の入り口の前の階段に座った。


「それで、何のようなのさ」

「まあ別に話すことなどないのだがな。今君に、あのルイーズ・キャンサーと接触されて我々のことを話されるのは少し困るんだよ」

「ふーん、私がここを突破してルイーズさんに知らせるとどうなるのさ?」

「最悪のケースとしては悪魔使い共が一斉に動き出し、街中でバトルロイヤルに移行する可能性もある」

 風音が眉をひそめる。

「君が何も知らせず、本日の予選が終了し、そして本選の対戦表が決まれば問題はない。我々は我々の中で物事を完結させ、周囲にも迷惑はかけることはないだろう。だから、君には本選の対戦表が発表されるまではここにいてもらおう」

「ま、いいけどさ」

 その言葉に嘘はないと風音は『直感』で理解している。もっとも『ニンジャマスター』のスキルが事実ならば諜報関係の情報を偽装するスキルを持っているかもしれないが。

「それで、お爺ちゃんは悪魔使いなの?」

 動けないと悟れば風音としても無理に動く気もない。少なくとも敵意は感じないのを確認できた風音は出来うる限りの情報を得ようとアプローチを変えた。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:29

体力:101

魔力:170+420

筋力:49+10

俊敏力:40+4

持久力:29

知力:55

器用さ:33

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『背後の気配』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』


弓花「ミナカさん、養子だったんだね」

風音「まあそれはいいけど武家とか色々とツッコミどころがありそうな話が……」

弓花「あれは日本ではないわ。トンデモ日本という謎の国よ」

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