第百十一話 竜船に乗ろう
風音が新しい装備を買い揃えた翌日。風音たちはロイロホテルを出て、ヒポ丸くん&サンダーチャリオットに乗り込んでいく。なおヒッポーくんハイは追尾モードにしている。
「竜船日和だねえ」
見送りにホテルを出たシャラシャがそんなことを口にした。
「竜船日和?」
風音が窓からシャラシャの言葉の意味を尋ねる。
「今日は雲一つないだろ? 船のなかの貨物室は商人ギルドが占領しているから、私らに乗れるのは竜船の甲板だけってことなわけよ。だから雨とか降ってると結構辛いからね。こんぐらい晴れてる日を竜船日和って言うのさ」
(ああ、中には入れないんだっけ?)
風音はそういえばそうだったと頷いた。
「ま、移動途中に雷雲に当たっちまうこともあるから気をつけなよ」
「了解。まあこのまま乗り込んでくから問題ないよ」
風音がサンダーチャリオットのドアをゴンゴンと叩く。その叩いた場所からバチバチと紫色の雷が放電する。紫電結界というらしい。物理ダメージ軽減と雷属性無効化の効果がある。
「ああ、そうだったね。それじゃあ良い旅を」
そう言うシャラシャに別れを告げて風音たちは竜船乗り場に向かっていった。
◎竜船 甲板
「姉貴、固定終わったよ」
「サンキュー」
直樹の言葉に風音は振り向き礼を言ってから、ヒポ丸くんたちやサンダーチャリオットをロープで甲板床のアタッチメントにひっかけて固定してあるかを確認する。なお、この固定化は腕自慢の量産型タツヨシくんズが主に対応している。直樹が手をかけたのは指示と細かい調整ぐらいであった。
そして確認を終えると風音はまた竜船からの外の景色に視線を戻した。
「これからこれが浮かび上がるのかぁ。楽しみだねえ」
「まあ、ゲームじゃあ何度も見てるけど、だからって本物はやっぱ違うものね」
横にいる弓花も一緒に眺めている。
「わたくしも子供の頃以来です。それにそのときは貨物室の中にいましたのでこういう光景を見るのは初めてですわ」
王族関係者を乗せるときには貨物室を貸し切って一般とは隔離するのが普通のようだった。外の景色も見れないが、まあ、お姫様を船から落としてペッシャンコにしてしまったり雷で真っ黒焦げにするとマズいのでやむを得ない話だろう。
「それで風音、竜船の中のものって取って大丈夫なんだったの?」
それは以前にジンライに風音が質問していたこと。ジンライはウォンバードにある竜船管理局で聞いてみた方がよいだろうと答え、そして風音は乗り込む前に実際に質問をしにいっていた。
「とりあえずは問題ないって言ってたね。まあそんで船を落としちゃったらえらいことだぞーとか言われたけど」
「あんた、どういう風に尋ねたのよ?」
「普通だよ?」
風音の普通というのは「おじちゃん教えてー」「なんだいお嬢ちゃん?」的なものだろう。相手も子供相手の受け答えしかしてない可能性がある。
「ま、実際にできるって思われても困るしね」
そう風音は言葉を続けた。つまり狙って言質だけとったということだ。この弓花の親友はそういうあくどい部分がある。
「それで中に入っちゃうの?」
「今はしないけどね。目立つし」
弓花の言葉に風音はそう返す。中に入れる可能性のある無限の鍵はあまり存在を知られるのはよろしくないアイテムだ。例外はあるにしてもどんなものでも開けられてしまう鍵など警戒心しか生まないし、疎まれたり、利用しようとする人間も多く出てくるだろう。
「夜中に一人で行ってくる。壁歩きで外装部の入り口から入れば気付く人もいないっしょ」
「完全に泥棒ちっくよね。それ」
「わたくしも中に入りたかったですわぁ」
横でティアラがそう言うが、風音は内部構造を知っているがティアラたちは知らない。弓花も直樹もそこまでやり込んでいるわけでもないので内部構造を正確に把握しているわけでもないだろうし、場合によってはウィンドウの補助機能で知らずに操作してしまう可能性もある。同じくゼクシアハーツをやり込んで竜船探索も一通り行っているゆっこ姉なら同行も問題ないだろうが、今はいない。
なので下手に触られて船が落ちても困るし、慎重に事を進めるためにも風音は1人で探索することを選択していた。
「あら、あなたは昨日の」
風音たちが話していると後ろから声をかけてくる女性がいた。
「あ、昨日のお姉さん」
風音はその声をかけてきた女性を見て「こんちはー」と挨拶をする。
「はい。こんにちは。昨日はありがとうございました」
「私もただ案内しただけだしね。それで何か手に入ったの?」
「はい。これを」
女性が見せたのは昨日風音が「こええ」と言っていた自分に雷が当たる剣だった。
「それ、確か自分にダメージを与える奴だよね。大丈夫なの?」
風音は心配になって女性に尋ねるが女性は「平気です」と答える。
「私の戦闘にはモッテコイの武器です。正直、そんなものがあるとは思ってもいませんでしたが」
「そうなんだ」
もしかしてエムの人なんだろうかと風音は思った。そしてティアラの「どなたですの?」と言う言葉に風音も「ええとね」と言ってからまだ名前を聞いていないことに気付いた。
「昨日武器を見に行ってるときに会った人だよ」
「ミナカ・ライドウと申します」
風音の紹介にミナカが頭を下げて挨拶する。
「わたくし、ティアラ・エルマーと申しますの」
「私は弓花だよ。よろしく」
「そして私が風音です」
続けての挨拶で違いに名乗り合う。弓花がミナカの顔立ち、和服の身なりが気になっているのを察した風音は「ジャパネスの人なんだって」とフォローを入れる。それを聞いて弓花も「ああ」と口にした。プレイヤーではないかと考えていたのだろう。
「ミナカさんもこれに乗ったんだ。昨日も武器を捜してたし大闘技会に出るつもりなの?」
「はい。そのつもりです」
ミナカは凛とした声でそう返す。
「となると弓花と当たるかもしれないねえ」
「うーん。そんときはお手柔らかに」
風音が弓花を見る。弓花はタハハハと笑って返す。
「ご謙遜を。全力でお相手させていただきますよ」
ミナカはそう言って微笑む。ミナカは弓花の立ち居振る舞いから有る程度の実力を測れていた。そして手加減して勝てる相手ではないと感じた。
「みんなー、もう飛ぶってさー」
女子同士で話をしているとルイーズが奥からやってくる。
「それじゃあ私はここで」
ルイーズの言葉を聞いたミナカがその場を立ち去る。
「うん。じゃあね」
去るミナカの背中に風音たちが手を振り、そして合流したルイーズがそのミナカを見て風音に尋ねる。
「誰かしら?」
「ミナカさん。ジャパネスの人だって」
「へえ」
ルイーズの目が細まって去っていくミナカを見る。
「どうしたの?」
「うん。ちょっとね」
ルイーズは言葉を濁して笑う。だが次の瞬間にはとんでもないことを口にした。
「それで、あのミナカとかいうお嬢さんは昨晩は濃密な夜の稽古をしてなかったかしら?」
そのルイーズの言葉に「ちょっ」「まっ」と弓花とティアラが顔を赤くして声を上げる。風音は眉をひそめて「プライベート暴露はいけません」と返す。だが、それは答えているも同然だった。
「あら、ごめんなさいねえ。けど、ひとつだけ確認したいんだけど」
「あのこに『相手の男性の臭い』ってついてた?」
「ないよ」
風音はそう断言する。その言葉にルイーズが「1人で夜の稽古? 若いしねえ」と返すが風音は不審そうな顔でルイーズを見る。
「まあ気にかけとくわよ。私の分野っぽいし」
ルイーズは風音の視線に苦笑しながら答える。
「そうなんだ。すぐにはなんとかならないの?」
風音もその言葉で概ねの事情は掴めたようだった。
「操られてるのか分かっててやってるのかがねえ。悪魔使いってのもいるにはいるのよ。その辺の線引きは正直難しいわ」
そのルイーズの言葉に風音は「そっか」と返す。専門家がそう言うのなら風音のできることは何もない。ましてや今日昨日会ったばかりの相手だ。知ったかで動くわけにも行かない。
そうこうしているウチに汽笛が鳴らされ、竜船が浮かび上がる。風音たちから見れば徐々に街並みが下に落ちていくような錯覚に駆られる。
「すごいねえ」
「本当に」「素敵ですわ」
風音の感嘆の声に弓花とティアラが頷く。
尚ジンライと直樹は馬車の中にいた。直樹はちょっと前に乗ったばかりだし、その前にも搭乗経験があり、そこまで物珍しいわけでもない。それはジンライも同様だった。それとジンライはこの空を飛ぶ乗り物がちょっと苦手だった。
◎竜船甲板 夜中
「うーむ、良い夜空だ」
竜船が空を飛び続けている夜。風音は馬車にみんなを置いてきて1人甲板の端に立っていた。なおルイーズは馬車の中にはいない。「行ってくるわー」と出掛けに言っていたしそのことには誰も突っ込まなかった。夜の稽古かもしれないので。
そして現在、風音はインビジブルに光学迷彩の二重掛けで誰にも気付かれない状態にしてから「スキル・壁歩き」と唱える。ここ最近はダンジョンにも潜ってないのでご無沙汰だったスキルを発動させてから堀を乗り越えて、外装の部分に足を付けた。
「問題はないみたいだね」
そう言って風音は頷き、スタスタと目的の場所へと向かってゆく。途中、遠く離れた地上を見てビビり、少しだけ染みてしまったが、まあ止む無しであろう。先にトイレに行ってくれば良かったと後悔したが後の祭りであった。
「これだね」
足がガクガクになりながらも扉の前についた風音は無限の鍵を取り出し、扉を開けて中に入る。
「ふわあ。怖かったぁ」
かけていたスキルも解き、風音は床に崩れ落ちる。どれだけ力を手にしても怖いものは怖いのである。そして風音は買ったばかりのプラズマパンツが染みてないのを目視し、その中の下着が少しだけ湿ってるのを触って確認して、手を拭いてから「セーフ」と言った。基準は不明だ。
「さてっと探索しますか」
気を取り直して風音は通路の先を見る。夜目のスキルにより風音には暗い通路でもちゃんと見えている。目的地は動力炉。そこにある予備用の動力石が風音の狙いだった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:29
体力:101
魔力:170+420
筋力:49+10
俊敏力:40+4
持久力:29
知力:55
器用さ:33
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『背後の気配』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』
弓花「予備用の動力石?」
風音「実際に使用してる奴ほどの出力じゃあないんだけどさ。メインの動力石が動かなくなった時の軟着陸用に用意してるのがあるはずなのよ」
弓花「ふーん。あ、そういえばあんた、また漏らして」
風音「セーフです。セーフ」




