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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
悪魔契約編

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第百八話 竜船を見よう

 翌朝。風音たちは昼を越えたあたりでシジリの街を出ることとなり、風音はサンダーチャリオットを召喚して道行く人の視線を集めながらドヤ顔で街を出ていった。オーガンはそれを苦笑しながら、見送った。親友の無事を祈りながら。

 そして途中何事もなく(せいぜいが通り越した馬車や擦れ違う冒険者がビビってたくらいだ)一行は旅を続け、夜に入る前にはウルグスカのダンジョン前市場へとたどり着いた。



◎ウルグスカのダンジョン前市場近辺


「スキル・ゴーレムメーカー・リニューアルコテージ」

 市場から少し離れた場所で風音はコテージを作り出す。直樹がそれを驚いて見ていたがその反応は以下略的な感じである。そして風音はお気に入りのドアをできたコテージにはめ込み、中に入っていった。

「かざねちゃんのおうち?」

 入口のドアに書かれた文字を惚けた顔で見ている直樹に、ジンライは中に入るように促す。気持ちは分かるが、いつまでもボーッとされても困るのだ。

 なお、造りだしたコテージはやはり以前よりも改築されていて、小さいながらもさらに機能的な姿になっている。一番の違いは寝室と風呂が男女別になっていることだ。直樹が中に入ると風音がすでに不滅の水晶灯を設置していたので夜にさしかかっているのにもかかわらず、昼間のように明るかった。

 ちなみにタツヨシくんノーマルとドラグーンには川に水を汲みに行かせている。これは飲料水とお風呂の水の確保のためだ。現状温泉のない風音たちにとってお風呂の確保はパーティの生命線にも等しい。やはり日本人としては毎日風呂に入りたいモノなのだ。そのため今回のコテージには貯水用の堀も用意してある。冒険を続けていくうちに風音コテージの隙は限りなく減っていったのだ。今後の更なる成長に期待である。


 そして時間は流れて日も暮れて、みんなで市場で食料を購入して夕食の準備も出来上がった時のこと。


「俺、最初はボロ宿泊まりで、ここ最近はじいさんの孫の目もあるから少し贅沢して普通の宿に泊まってたんだけどさ」

 直樹が食事を前にそう漏らした。

 ちなみに本日の夕食のメインは豚肉を焼いて甘タレを漬けたもので、それを購入してきた弓花が切り分けて、これまた高そうな食器にサラダと一緒に乗せられて並べている。勿論これは弓花が持ってきた不滅シリーズの食器で、水で流すだけで汚れが落ち、しかも清潔な状態がいつまで経っても維持されているという主婦垂涎のアイテムだ。油汚れもなんのそのだった。

「こっち来てこんな旨いの食ったの初めてかもしれねえよ」

 ポロポロと涙を流しながら食事をとる直樹に風音とティアラが大袈裟だなあと笑うが、実際風音たちの生活水準はこの世界の一般的な冒険者と比較すれば異常に高い。特にティアラがパーティに参加してからは顕著だった。それはティアラの食生活の水準に多少なりとて近付けている結果ともいえるし、風音がツヴァーラで購入した不思議なポーチ内の冷凍袋などによる食料の保存手段の確保による部分も大きかった。またそれを維持できるだけの資金もある。

 なお、直樹が本当に生活水準の違いを理解したのはその後だ。男女分かれた風呂に入り、たっぷり湯に浸かってから出ると用意された不滅のタオルで体を拭き、不滅のガウンを着て、不滅の布団で寝る。

 直樹はそのあまりにも心地良い環境に1人涙した。ちなみに今回から男女部屋が分かれてるので一緒にいるのはジンライだけである。ジンライもその涙の意味が大体分かっていたので何も言わずに目を瞑ってそのまま眠りについた。このままだと人間としてダメになるのではないか。日々ジンライもその葛藤と戦っているのだ。


 翌日、夢心地すぎて精神が何処かに行ってしまった直樹を馬車に押し込めてから、風音たちはダンジョンには寄らずにそのままウォンバードの街に向かうことにする。初めてのダンジョンに心惹かれるモノもあったが、このダンジョンの魔物の構成はオルドロックと大体同じらしくスキル取りもできなさそうだったので諦めたのだ。

 なおコテージはここの商いを纏めているゼニス商会に売り払った。中身は普通に住める程度にはよくできているので多少改装してから住みたい人間がいれば後で販売するらしい。



 *************



「おおおおおお、でかいなあ」

 ウォンバードの街にたどり着く少し前の街道で、風音たちは空から翼の生えた船が街の方角に降りていくのを目撃した。

「ああ、ああいう感じだったなあ」

 弓花はその姿を見て懐かしさを感じていた。ゲームの後半では比較的見慣れた光景だが、こうして実物を目撃すると確かに大きく見える。

「ふむ。久方ぶりに見たな。よくもあんな巨大なものが浮かぶものだ」

「なかに魔導石を加工した浮遊石が入っていて浮力を持ってるんだよねえ。あとは大体竜が飛ぶのと同じ原理だね。風の属性魔術で動いて、細かい調整はマッスルクレイを用いた翼で姿勢制御してるわけ。だから竜船って言われてるんだよ」

 相変わらずよくもまあそんなことを知っているものだとジンライは感心する。ルイーズとメフィルスは興味深そうに聞いているが、風音自身が口にする以上のことには特にツッコミはいれなかった。

 そして風音たちは竜船の進んだ後を追って進み、夕方には街の中に入った。なかなかの大都市で色々な人やものが溢れている街だったが、そのなかを横切る漆黒の甲冑馬と装甲武装した馬車はそれでも明らかに目立っていた。



◎ウォンバードの街 夕方


「そりゃ、どんなものに乗っていようとそれは勝手ですがね」

 あまりにも人が集まったせいで、衛兵たちもやってきて御者席にいたジンライが事情聴取されていた。

「まあ、あまり目立たんようにしてください」

 もっともただ街に入っただけである。特に咎められる要素もなく、その場でジンライたちはペナルティもなく解放となった。


「ふん。この良さに惹かれる連中が集まっただけだろうに」

「そうだよねえ」

 ジンライのぼやきに御者席の裏の窓から風音が同意する。

 その後ろで二人の会話に一同がため息をついていたが、実際ジンライの言う通り、恐れだけではない、何かしらの憧憬の視線を送る人間も少なからずはいた。特に荒くれ者らしき人種からは「すげえぜ」「ああいうのが欲しいんだよなあ」「いつかは俺も」などの声もあがっている。モヒカン男が興奮の余り絶叫していた。その反応を見てジンライも若干のドヤ顔である。こんなジンライはルイーズも初めて見た。

 もっとも実際の乗り心地の良さもあって他のメンバーもこの馬車に対して強く出れないでいる。内装も豪華で中で過ごす分には非常に良いのだ。

「もう諦めてるからいいけどさ。とりあえず今日は泊まる宿を探そうよ。もう夕方だし、修行の時間も取れなくなっちゃう」

 弓花の言葉に風音も頷く。

「あいよ。ジンライさんはこの街の宿とか分かる?」

「場所ぐらいはな」

「ああ、あたしの知り合いがやってるところがあるから、そっち泊まりましょ」

 風音とジンライのやりとりにルイーズが声をかける。

「まさか変な宿じゃないでしょうねルイーズ姉さん?」

「失礼ね。夜中に騒動のタネをもらいに行くわよ」

 ジト目のジンライにルイーズがそう返す。それはジンライの子供のタネで、ハイヴァーンで確実に一悶着を起こすタネだ。

「この街でも上級ホテルのオーナーよ。まあ貸しもあるから安く泊めてくれると思うわ」

 そう言いながら、ルイーズがジンライに場所の指示をする。



◎ウォンバードの街 ロイロホテル


「というわけで泊ーーめて!」

 ルイーズの指定通りのホテルにたどり着き、中に入ってからルイーズが受付に顔を見せると受付嬢も知った顔だったらしく、すぐにオーナーと呼ばれる老婆を呼んできた。


「あんたはまた、唐突にくるねえ」

 とやってきた老婆は仏頂面で口にする。

「まあまあ、シャラシャとあたしの仲じゃないの」

 ルイーズは、そのシャラシャと呼んだ老婆に手を合わせて「お願いっ」と頭を下げる。

「別に構いやしないよ。また湯治に行くときにはこっちもタダで頼むからね」

「だからシャラシャって好きよ。めいっぱいサービスするわよ」

「うっとうしいから抱きつくな」

 抱きしめるルイーズにシャラシャは文句を言いながら風音たちをみる。

「そんでこっちは……まさかあんたの孫とかじゃないわよね」

「違うわよ。そんな歳に見える?」

「見えないけど可能性はあんでしょうが。となるとそっちがあんたの男か。随分と若いのを連れてるね」

 シャラシャが直樹を見るが直樹は「いや、違いますってば」と言い、ルイーズも「そっちは保護者がいるからねえ」と風音を見た。

「なんだい、ロリコンかい」

「いや、違います」「姉です」

 シャラシャの言葉に直樹と風音が同時に言葉を返す。息の合いようがやはり姉弟だった。

「ま、今あたしが組んでるパーティよ。そっちのジンライくんは名前は知ってるでしょ?」

「ああ、確かあんたの昔の仲間だったっけ」

 その言葉にジンライも言葉を返す。

「あなたはシャラシャ・カーマイン殿ですな。ルイーズ姉さんからは優秀な斥候であったとうかがっています」

「よしとくれよ。昔の話だよ」

「シャラシャはあたしがジンライくんよりも前に組んでたパーティの仲間だったのよ。途中でこのホテルのオーナーの息子を誑し込んでね。そのまんま乗っ取っちゃったのよね」

「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ。単に長生きしてたらひとりになっちまっただけさ」

 そうシャラシャは寂しげに口にした。

「それで、あんたら、どれくらい泊まってくんだい?」

 シャラシャの言葉を受けてルイーズは風音に尋ねる。

「カザネ、確か明日は街を散策するのよね?」

「うん。竜船に乗るのは明後日だね」

「なんだい。ルイーズ、こんな子供にお伺いを立ててるのかい?」

 シャラシャの不審な表情にルイーズは「このこがうちのリーダーだしねえ」と返す。

「ふーん。ようするにあんた同様、見た目と違う歳なのかね」

「ぴっちぴちの15歳です」

「なるほどね。歳を言う気はないわけかい」

 なんか誤解された。

「まあいいよ。子供モドキのリーダーさんだろうが、こいつの連れなら問題ないよ」

 シャラシャの言葉に風音が「……15なのに」とぼやきながらシュンとなったので、その後ろで直樹とティアラが慰めていた。

「……おや」

 その慰めているティアラの顔にシャラシャが若干のつっかかりを覚えたが、

「ああ、内緒でね」

 と、すぐさまシャラシャの視線に気付いたルイーズから忠告が飛ぶ。それでシャラシャはティアラの素性を察し、何も言わずに頷いた。


 というやりとりが玄関であり、案内された部屋はこのホテルの中でも最上クラスだったのはティアラの正体に気付いたシャラシャの采配だろう。

 ある程度の事情通であれば、ツヴァーラの国王の死、次期国王の指に王位継承の紅玉獣の指輪がないこと、そして王女が以降姿を見せていないことを知っている。王が死んだというのに王族内で特にもめ事もなく、すべてが何事もなかったかのように動いていることも掴んでいる。

 加えて、王位継承者の紅玉獣継承レベルの問題についても実はある程度知れ渡っていた。歴代の旅に出た王位継承者が結構そこらヘんを話してしまっているのだ。それでいて今もその流れが続いているのはルビーグリフォン自身が意志を持って王を選ぶこととツヴァーラ王家に絶大な影響力を持つ顧問のアオの存在があるためである。

 まあそこらへんの事情を知っている人間の間ではアウディーンがメフィルスを殺して王位を奪ったが紅玉獣に拒絶された説と、継承したのは王女で今は修行の旅に出ている説のふたつが上がっている。そして、元よりメフィルス王は病に伏せていたし王族内での揉め事もない様子から後者の説だろうという話が有力だったが、まあそれが事実であったことをシャラシャも知ったわけだ。しかし王女をもてなすという前提で泊まることになるホテルであるにもかかわらずそれに不平を持つ男が1人いた。


「え、あの布団使わないの?」


 直樹である。

 もてなされた食事は確かに前日のものよりも洗練されたもので、直樹も舌鼓を打った。だが、用意された布団はやはり不滅の布団よりは見劣りする。その直樹にジンライは忠告する。

「他の布団でも慣れておかないと辛いぞ」

 その言葉に直樹は首を傾げるが、それをジンライは「若いな」と口にした。その横で風音が直樹に告げる。

「直樹、あれのことは絶対に口外しちゃダメだからね。あれは魔性のアイテムだからね。下手をすると戦争が起きるから。私達『だけ』で『正しく管理』しておく必要があるんだよ」

「あ、ああ」

 直樹が「何をバカな」と口にしようとしたが、全員の本気の視線が直樹に突き刺さったので、大人しく頷いていた。

「大丈夫? 悪いけど何かあった場合、私はお姉ちゃんじゃいられないかもしれないよ?」

 その声は本気の心配の声だった。だから尚更その言葉が恐ろしい。そしてその言葉に頷いている他のメンバーも恐ろしい。

 パーティのメンバーは既に全員あの布団にとり憑かれているようだった。その状況を本気で恐ろしいと直樹は思った。

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・甲殻牛のズボン・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器

レベル:29

体力:101

魔力:170+420

筋力:49+10

俊敏力:40

持久力:29

知力:55

器用さ:33

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『背後の気配』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』


弓花「不滅の布団の取り合い、それが起きたときがこのパーティの終焉のときかもね」

風音「悪いけど、例えこの手を汚すことになっても私は躊躇わないよ」

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布団のためなら彼女は躊躇いなく彼をヤる
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