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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
まのわアフター

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アフターデイズ編 風音さんと愉快な仲間たち4

「うむ。無事話も済んだようじゃの」

「なのじゃー」

「にゃー」


 由比浜夫妻と神竜帝ナーガが出会ってから十分後。頃合いを見計らったのか、小竜御殿へと金翼竜妃クロフェと菊那、それに達良とアオとソルがやってきていた。


「やっほぃ。菊那さんも来ていたんだね」

「お久しぶりです」


 その面子に風音が手を振り、直樹が頭を下げる。

 なお風音はクロフェたちを自分が連れてきていたし、達良が来ることも知ってはいたのだが、菊那がここに足を運ぶことだけは予想外であった。なぜならば彼女は本来土地に縛られており、己の領域外へと出ることはない存在だ。本体と距離を離せば存在の維持が困難となり、最終的には消滅してしまいかねない。


「うむ。さすがに竜の王たちを相手にするには、善滋では荷が重いであろうからな。アレは童の頃より気の弱い男なのじゃ。まあ、妾も東京をあまり離れられんので、すぐに戻るつもりじゃが」


 実のところ菊那の方も今それなりに耐えているところではあるのだが、子供の頃からの付き合いである扇の胃痛を想って頑張ってやってきていたのだった。

 一方で後方に控えているアオと達良は、天然のじゃロリと養殖のじゃロリのタッグのとうとさに打ち震えていた。


「ははは、さすがアオ氏。よくぞ育て上げたものですね。あの頃は気付かなかったけれども、素晴らしい趣味をお持ちだ。こんなことなら、もっと早く気付いておくべきでした。ヒントなどいくらでもあったのに」

「いえいえ、達良氏。こちらこそもっと早くに告白しておくべきでした。分かり合える同志はすぐそばにいた……なのに、あのときは己が立場を守る為にプレイヤーであるという事実を明かさなかった。ふふふ、小心者と笑ってください」

「いやいや、そんなことは……」


 過去にも知り合いであった彼ら(厳密にはこちらの達良は記憶を保持しているだけだが)は、どうやら再会を経て深く通じ合うようになっていたようである。

 なお、こちらの世界のアオは今も健在であり、ハードディスクの存在も家族には知られていないことまでは調査で明らかになっている。それは達良がアオがプレイヤーであることを知らなかった為に因果が結びつかなかった結果のひとつだ。


「あの……風音。この子たちはどちら様で?」

「おい。こちらはいったい……風音、直樹?」


 そんな状況の中で、由比浜夫妻は当然首を傾げていた。

 クロフェと菊那の見た目は子供そのもの。それがどうにも大物そうにしているし、風音たちもそういう相手として扱っている。

 だから一般人である彼らが訳も分からず、不思議がるのも無理はない。

 そのことを察した風音が「えーとね」と言って、クロフェと菊那へと視線を向ける。


「こっちの金髪の子供……に見えるのが、旦那様と同じくらい偉いドラゴンで、西の里ラグナの長である金翼竜妃クロフェさん。で、こっちの和風の子供っぽい人は、関東地区の神様の……代理人で、日本の神様の取りまとめ役のようなこともしている菊那さん」


 両親の傾げた首の角度がさらに傾いた。周囲からツッコミがないので的外れなことを娘が言っているわけではないのは二人も察したが、言っている意味が本当に分からない。その様子に直樹が助け舟を出す。


「母さん、父さん。ともかくその人たちは非常に身分の高い方々だ。菊那様は扇さんの上司だしな」

「なんだと?」


 その言葉に、特に直久が目を丸くした。

 扇善滋の名を彼は以前より知っていた。直久も風音が戻ってきてから今日に至るまでに様々なことに驚き続けてきたが、国家の重鎮としても知られるあの老人が風音と知り合いであったことは、サラリーマンである彼にとってはもっとも現実的に驚愕すべき出来事であった。

 その上司と言われても、彼には正直総理大臣ぐらいしか頭に浮かばない。故にさらに困惑する直久に、菊那が手を挙げて「気にするでない」と口にした。


「妾は、お飾りのようなものだからな。まあ、何かあれば善滋に言え。アレは気難しがり屋じゃが、それなりに使える。そうなるように妾が手取り足取りと仕込んでおいたのじゃからな」

「ハ、ハァ……恐縮です」


 直久はもはや、それ以外の言葉が出せない。対して菊那の視線は直久から、琴音に、そして琴音の抱いている赤子へと移動していた。


「ふむ。これは……」


 それか何かを覗き込むような顔になり、少しばかり神妙そうに頷いた。

 その様子に風音が首を傾げる。


「菊那さん、渚がどうかしたの?」


 風音と直樹はすでにアレな存在だが、それらは後天的なもの。由比浜夫妻はただの一般人であり、二人から生まれた渚に妙な力があるわけではない。少なくとも風音はそう認識していた。だから神の端末である菊那が関心を示すこともないはずだと考えていたのだが、菊那の様子は明らかにおかしかった。


「いや……数奇というか。器を考えれば、還るべき場所に還ってきたというべきかもしれぬが、或いはこれも大神様の」

「あの……どういうことでしょう?」


 菊那の呟きに不安になった琴音が問うと、ハッとなった菊那が首を横に振って苦笑する。


「すまぬ。気にするでない。どのような運命があったにせよ、命はみな旅の途中のようなもの。妾が見たのもそうしたもののひとつ。うむ、珍しい手相を見たようなものじゃよ」


 その要領を得ぬ言葉になおさら琴音や風音が困惑の顔を見せるが、菊那はそれ以上の説明を口にする気はないようで「とはいえ、これも何かの縁か」と口にした。


「良い兆しが見えた。渚、それにそちらの竜の子らにも我が祝福を贈ろう」


 菊那がそう口にしてパンと両の手のひらを叩き合うと、そこからみっつの光が飛び出てきた。


「祝福?」


 風音が眉をひそめたが、その光は暖かく、護るという意志があるのは理解できた。そして渚、タツオ、ソルへと光は飛んでいき、それぞれの中へと吸いこまれていく。


「暖かい……けど、今のは何なのでしょう?」

「うーん。神気の気配だったね。強力な護りの力っぽい?」


 恐る恐ると尋ねた琴音に、風音が横からそう答える。

 風音は菊那が自分の身内を傷つけるとは思っていなかったし、放たれた光が渚を害するものではないことも察していた。それはナーガもクロフェも同様で、両者はむしろ感激しているような素振りを見せていた。


『おお、異界の神の加護とはありがたい。タツオよ。そなたの水晶角の輝きに新たなる光が見えおるわ』

『本当ですか父上!』


 ナーガの言葉にタツオがくわーっと鳴いた。またクロフェの方もアオの抱いていた我が子ソルを見て、喜びを露わにしている。


「ほっほおー。ソル、そなたの中に神気が宿ったのじゃー。種火ではあるが、これを育てれば神竜へと至れるのじゃーぞ!」

「にゃー!」


 クロフェの言葉にソルが嬉しそうに鳴くと、琴音もようやく良いものをいただいたのだろうということは理解し始めた。


「風音、ありがたいものなのよね」

「え、まあ普通の10万倍くらいご利益のあるお守りを貰ったと思えば……上級神の祝福常態バフだし。私も欲しいんだけど」

「神のご加護というやつじゃ。風音がいうほどに強力なものではないが、何かしらの役には立つではあろうよ。あ、そなたにはやらん」


 風音の要望はキッパリお断りされていた。菊那がそうしたいと願わぬ限りは祝福を授けることはできず、そもそも「そなたには必要なかろうが」とのことである。そしてぐぬぬとなった風音に、少しばかり苦笑しながらナーガが口を開く。


『ふむ。それでは我も義父上、義母上とお会いできた。続けてはクロフェ、そなたらの用事だな』


 そのナーガの言葉にクロフェが頷き、それからソルが「にゃー」と鳴いた。


『そうなのじゃー。話もまとまっておるし、後は本人同士のお披露目のみなのじゃー。婿殿を驚かせるのじゃー』

『にゃー』


 グッと握りこぶしを掲げたクロフェの言葉にソルが声高に鳴く。

 その言葉に風音やスザ、アオは、ニヤリと笑い、由比浜夫妻や直樹、達良、タツオらはなんだろうという顔をしているが、誰も説明をしようとはしない。

 ともあれここから先に何かが始まるようだとは、彼らにも理解はできた。そしてその事態の当事者であるライルは……


「こっちの飯も美味いな。ナオキに時々届けてもらおうかなぁ」

「ちょっと兄さん。口元、汚れてる! もう王様になってもだらしないんだから」


 パーティー会場で久方ぶりの自由を満喫しているようだった。

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