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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
まのわアフター

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アフターデイズ編 風音さんと達良くんと直樹がただゲームするだけのお話

※サンドボックスゲーム推進小説


◎由比浜家 風音の部屋


 パリンと部屋の中で音がした。

 それは先ほどコンビニから買ったばかりの銀色の包みから取り出されたジャガイモをスライスして揚げたもの、つまりはポティトティープスが風音の口の中で噛み砕かれた音だった。そしてその音を風音は未だ態度の固いゲーム開始直後のツンデレキャラのようだと感じていた。


「ははは、愛い奴め。口の中で柔らかくしてやろう」


 風音がそう言いながら悦に浸る。

 ツンデレキャラ。ギャルゲーも乙女ゲーも嗜まぬ風音だが、見ているアニメのキャラゲーであれば評判が良いものは何作か遊んだことはあるため、ツンデレったキャラについては熟知もしていた。


「しかし、ツンデレか。そうだね。まあ、そういうのを落とすのも醍醐味のひとつだよね。けどキャラゲーってのも難しいジャンルだしね」


 これまでの経験から素晴らしいキャラゲーとは何かと問われれば、風音にとってそれはアニメの追体験ではなく物語としてのイフを体験できるゲームだろうと考える。


「アニメと同じ展開じゃあ正直飽きるし、けどオリジナル展開ってのは茨の道ではあるし。ヘイトのたまらない主人公とキャラ崩壊しないシナリオ。そもそもアニメができていない、キャラ設定も定まっていないような段階でシナリオを執筆しなければならないライターさんの苦労とか、なのにアニメの後に発売してキャラを分かっていないと言われる屈辱とか、そういう色々なものが絶妙なバランスで混ざり合って出来上がった奇跡のキャラゲーってのはなかなかないよね。だからこそ完成されたキャラゲーってのはファンの心を震わせるんだろうね。そう、このポティトティープスのようにね」


 風音がひとりフフンと言いながら、ドヤ顔をしてもう一枚ポティトティープスを口にした。

 それはただひとりで部屋の中にいたからこそできる所業であった。

 ドヤ顔である意味も、そもそもキャラゲーからポティトティープスへと何が繋がっているのかも本人ですら把握はしていないのだ。風音はただ思うがままに振る舞っているだけ。そもそも製作の苦労など風音が知るはずもなく、つまりは今口にしたことも全ては想像の産物だ。

 だが風音はそれがまるで確定した事実のように口にする。口にしたいから呟いた。そうすることが許される自由が彼女にはあった。あらゆる柵から解放された存在、それが今の風音であったのだ。

 それから風音は目の前にあるテレビへと視線を向ける。モニター上ではすでにゲームが起動され、アップデートの方も完了している。準備はオーケー。素敵な時間ゲームの始まりである。


「とはいえだよ。やはり時代は洋ゲー。ゾンビゲー。クラフトゲーなんだよ。アップデートも終わったし、それじゃあそろそろやりますかね。ポチッとな」


 風音がそう独り言をブツブツと呟きながらゲームをスタートする。

 ついでにテレビの電源を消して、横に置いてあったVR用ヘッドマウントディスプレイを被った。小型で軽量のソレは、イッツアマミー(母ですが何か)のキャッチフレーズで有名なマミー製の最新型だ。色々とお金が入るようになった風音は、そうしたものに対しての出費を惜しまない。

 なお、2040年にも近付いている今となってはこのタイプのVR用デバイスはもはや一般的なものではあったが長時間のプレイはプレイヤーに過度な負担がかかるため、現在の時点でも通常のテレビモニターでプレイできるゲームも多かった。インプラント技術の進歩も目覚ましくはあるが、未だ倫理の壁は越えられず、民生での普及は一部医療での使用に留まっているのが現状である。

 ともあれ、今回風音が遊ぶのはVR対応の『大豆は七度死ぬ』と言うゲームであった。

 それは、大豆が発芽したことでゾンビ化した人間が徘徊する滅びた世界の中で、ひとり正しい大豆の育て方を模索し七度の品種改良を行うことにより極めて栄養価の高い大豆を作り出すことが目的のゲームであった。なお多人数プレイも可能であり、風音はタイトル画面からマルチプレイをクリックして達良が名付けて生成したワールドを選択し、オンラインプレイを開始した。



◎『大豆は七度死ぬ』ゲーム内 ワールド『ヘルプミーユミカ』


『やあジーク。時間通りに来たんだね』


 十秒程度のロードを終えた風音が自分のキャラクターであるイケメン男ジークをその世界へと出現させると、目の前にきわどい格好のマイクロビキニ姿の幼女のプレイヤーが立っていた。

 その幼女の頭上にはSATSUMIと表記されており、中の人は当然達良であった。

 元々『大豆は七度死ぬ』は濃い顔、ジジィ、マッチョメンかデブくらいしかキャラメイキングできないゲームではあるのだが、達良はダンスを踊らせるために自作していたロリキャラのデータを導入して使用していた。


『あね……ギャアアアアアア』


 また達良の後ろから風音そっくりのキャラが嬉しそうに近付いてきたので、風音は装備していた軽機関銃を派手に鳴らしながらそのチンチクリンを蜂の巣にした。飛び散った血によって達良がトマトをぶつけられたようにもなっていたが、その表示は数秒後には消えていった。


『ええい。揺らして近付くな。撃つぞフーネ!』


 風音が己のキャラをロールプレイしながらそう叫んだ。

 ともあれ風音の怒りももっともなものであった。何しろ風音の愚かなる弟はまたしても姉そっくりの外見におっぱいを盛ったキャラを作って参入していたのだ。ああ、許すまじと風音の怒りは凄まじく、その制裁はたびたび鉛玉によって支払われていた。


『いや、もう撃ってるし。ひでぇよ、あね……いやジークさん。って壁とか作らないでくれる? あ、囲まれてる。硬いし、あの、ちょっと……壊せないんですけど?』


 続けて風音がポンポンポンと復活リスポーンした直樹のプレイヤーキャラの周囲を壁で取り囲んで包囲していく。それは視界に収めるのが不愉快だからという実に単純明快な理由によって行われていた。

 風音が壁に使用しているブロックの材質は非常に硬い硬化プラスチックであり、ゲームをやり込んでいない直樹のキャラでは破壊するのにかなりの時間を費やすものであった。また、仮に中で自殺コマンドを発動させても復活リスポーン地点ごと取り囲んでいるので、結局は壁の中に復活してしまうというオマケ付きだ。


『あ、相変わらずフーネには容赦ないねジーク』

『ふん。邪悪は封印した。それでは作業に取り掛かろうか殺魅』


 風音は自分の操作する西洋イケメンをキリッとさせながらそう口にすると、それから目の前の巨大な建造物へと視線を向けた。そこにあるのは、すでに50時間をかけて作り上げた苦労の結晶だ。


 その名もカザネーキャッスルin大豆。


 この『大豆は七度死ぬ』はクラフトゲーと呼ばれる、色々な資材を組み合わせてアイテムを作成してそれらで建築をすることも可能なゲームであった。

 風音たちは平地である街の一角を解体してそのお城を一から作り上げていたのである。


『むふぅ。相変わらずかっこいいね』


 質実剛健な西洋風のお城と周囲の倒壊した建物とのミスマッチ感がなんとも言えぬと風音は自画自賛し、思わずスクリーンショットボタンを連射した。

 もっとも現在出来上がっているのはまだ外見のみで、内部は仮入れで設置された金属枠フレームで埋まっている。内装を整えるのはこれからであり、その作業を行うために風音は今回ここにやってきたのである。


『それでは殺魅。今日は内部の建築に取り掛かろうか』

『うん。そうだね……フーネは、え、うん。放っておくんだね』


 それから風音と達良のキャラはお城の中へと入っていき、それぞれ己の部屋として用意したスペースへと向かっていく。そして、背後からは直樹のキャラが硬化プラスチック壁を破壊しようとあがく音だけが響き渡っていた。




  **********




『ふむ。内装は……と、ここに机置いて、テーブルとベッドは……壁紙ペタペタと』


 それからマイルーム予定スペースへと辿り着いた風音は、インベントリからアイテムを取り出すと次々と部屋を構築していった。

 周囲の壁を頑丈な石壁に変え、さらには壁紙ペイントを貼り付けて明るい見た目へと仕上げていく。

 続けてあらかじめ作成クラフトしていた家具を次々と設置していき、また空いたスペースにはヒノキブロックを使って湯船を作り、湯沸かし器を横に設置して浴場も用意した。


『ああ、こういうのも懐かしいなぁ』


 そんな風にゲームをやりながら、風音がほほえましく笑う。

 実のところ、こうした作業はゴーレムメーカーでのクリエイターモードで何度も繰り返してきたことなのだ。みんなが寝静まっているときにも、馬車に乗っているときにも、ひとりホテルに閉じこもってるときにも、風音はひとりウィンドウを開いてこうして悩みながら風音コテージを造っていたのだ。


『ま、1号が来たら、また記憶統合されるから懐かしさもなくなるんだけどさ』


 そんなことを口にしながら風音が次々と部屋を飾っていく。

 そもそも、ここにいる風音は2号と呼ばれている召喚体だ。本体である1号は現在北大陸を旅しており、今も風音コテージの改良を続けているはずであった。

 ときおり1号は記憶統合のために戻ってくるので、その経験は統合した2号にも引き継がれている。

 我ながら奇妙な存在になったと風音も思うが、やれることが多いのは良いことだし、自宅警備員をずっとしながら冒険をして内政も行うという同時に三つの生活が送れることにも満足はしていた。


 ちゅどーん あーれー


 ともあれ風音が無心で作業を行い続けていると、唐突に外から爆発音と頭の悪そうな声の悲鳴が聞こえてきた。


『あ、フーネが飛んでる』


 風音が視線を向けた窓の先で上空に打ち上げられている直樹のキャラが見えた。

 また窓の下を除けばどこからか湧いてきた大豆ゾンビが次々と地雷トラップに引っかかっている姿も確認ができた。

 この世界のエネミーである大豆ゾンビは時折やってきては、ああしてプレイヤーに襲いかかる。その対処のためにお城の周囲には様々なトラップが仕掛けられているのだが、どうやらトラップに引っかかったゾンビと共に直樹も一緒に吹き飛んでいたようだった。


『フーネ。地雷は倉庫にいっぱい入れてあるから、終わったら後で設置しておいてよ』

『ああ、分かったぜ。あね……ジーク。というかリスポーン地点に大豆の集団がいてすぐ死んじゃうんだけど? ああ、また死んだ。何度も殺される。姉貴、姉貴助けて!』

『さて、とりあえずは部屋もある程度出来上がってきたし、今度は資材集めに出かけようかな』


 悲痛な助けを求める声が聞こえたが、風音は気にしない。

 続けて欲しい家具の資材を検索し、必要な資材の数の確認と、それが置いてあるであろう場所をマーキングすると、風音はガレージに止めてある五重連チェーンソー前面設置ダンプカーへと乗って、フーネごと大豆ゾンビを轢き殺して廃墟の街へと向かったのである。

 なお、このことによりリスポーン地点の大豆ゾンビは一掃されたため、復活リスポーンした直樹は大豆ゾンビに殺される連鎖を抜け出せていた。そして弟は「このツンデレめ」と気持ち悪いことを口にしていたのだが、帰ってきた風音にまた轢かれて死んでいた後は流石に無言になっていたようである。

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