第百四話 死霊都市に行こう
日を跨いだ夜中にシジリの街を出た風音たち一行は廃都を目指しムルアージ街道を進み、南に向かって進んでいった。
途中に魔物と出会うかと思ったが、ヒポ丸くんに恐れを成したのか、或いは不滅の水晶灯の光が眩すぎたのか、ともあれ道行く先でトラブルのひとつにも遭遇せず、一行は無事廃都前までたどり着いた。
今はちょうど太陽が東の空に昇り始める頃。風音たちはジャストなタイミングで目的地へと入っていった。
◎ムルアージの廃都 入口
「そんじゃあスキル・ゴーレムメーカー・タツヨシくんドラグーン!」
風音は二つの不思議な袋からそれぞれの兜状のパーツを取り出すと杖をついて起動させる。二つの兜状のパーツがガコンガコンと動きだし、上半身と下半身の形に変形していく。
「なんだこれ? ロボット?」
驚きの声を上げる直樹の目の前で下半身は立ち上がると、その場で跪き、上半身がその下半身をよじ登って上に乗り、クルクルクルと自分を廻してはめ込んでいく。
そしてガコンっとはめ込んだ音がしてタツヨシくんドラグーンが出来上がった。
「ふむ、以前のタツヨシくんよりも大きいな」
ジンライの言葉に「身長は1.5倍くらいかなあ」と風音。
「パワーも増してるよ。その分前よりも魔力食うけど、移動時はこいつで補うわけ」
風音はアガトから手に入れていたもうひとつのチャイルドストーンをタツヨシくんドラグーンの胸にはめ込んだ。
「タツヨシくんに使うにはチャイルドストーンじゃ魔力足りないんじゃなかったっけ?」
弓花は風音からそう聞いていた。
「うん、全力で戦えばね。まあ戦闘次第だけど、途中で私の魔力供給への切り替えも出来るし。それにタツヨシくんドラグーンは今みたいに起動してから動くまでに時間かかるんだよね。だから移動時はチャイルドストーン供給でこうやって自分で動けるようにしとくの」
そう話す風音の後ろでタツヨシくんドラグーンはヒポ丸くんの左右にある竜角をそれぞれ外しグリップを握って持ち上げた。そして身長と同じくらいの竜の角をトンファーとして装備したタツヨシくんドラグーンだが、以前のタツヨシ君よりも身長が増した分、若干スリム化している。その姿形は黒い竜骨で覆われた刺々しいデザインの鎧武者のようだった。
「戦闘はいけるのか?」
「あの角なら死霊にも効くんでしょ。なら問題ないよ」
「姉貴、こいつはなんだ?」
直樹がタツヨシくんドラグーンを怖々と見ている。
「私の新しい相棒、もう一匹控えてるけどね」
ユッコネエは戦闘時に必要があれば呼び出す。瞬時の召喚が可能なため、奇襲などに使いやすいのがチャイルドストーン召喚の特徴だった。
「さて、準備も整ったし、これから探索だけどやっぱり相当に風化してるね」
風音が周囲を見渡しながら口にする。
『もう700年は昔のことだからのお』
風音の言葉にメフィルスがそう答えた。
石造りの建造物が多いため、形こそ残っているがそのほとんどが触れば崩れそうなくらいにボロボロだ。
「そんな昔からずっとさまよってるんだね」
「こういう場ができてしまうともうシミのようにこびりついて離れんのさ。だから封印するしかなくなっているわけだな」
ジンライが周囲を警戒しながらそう口にする。風音も周りを慎重に見回しながら「そういうものなんだ」と返す。死霊などのアストラル系魔物は臭いなどを発さないモノも多く、風音の『犬の嗅覚』が働かない可能性は高い。相手がゾンビなどならまた別だが。
「それでまずはどこにいくわけ? テキトーに散策してても意味ないわよね?」
ルイーズの言葉に直樹が地図を開きながら答える。
「過去の傾向を見るとミュールの大聖堂と領主の館、それと南北にある霊廟辺りに死霊がたまる傾向があるらしいですね」
「ミュール?」
「神様の一人だよ姉貴、この辺り一帯を守護してるらしい」
「ああ、ツヴァーラにも去年来てましたわね」
「?」「?」
風音と弓花が一緒に首を傾げてると、直樹が横から助け船を出す。
「いるんだよ。こっちには神様がさ」
「ふーん?」
よく分からない話だった。
「ところでナオキ、その依頼書はいつ発行されたものだ?」
ジンライの問いに直樹が依頼書を見る。
「うーん、一週間前くらいだな。入り口近くに他の冒険者が通ったらしい跡もあったし、案外もう終わってたりして……というのはないかな」
「その割には周囲の魔力が淀んでいる。寧ろゾンビ化した連中と鉢合わせしかねんかもしれぬな」
ジンライの言葉に風音が嫌そうな顔をする。
「嫌なこと言わないでほしいなあ。二手に分かれようかとか考えてる矢先にさあ」
「二手はホラー映画の死亡フラグだよ」
弓花が風音に忠告した。
「ワシも止めておいた方が良いと思うぞ」
ジンライもそう言うので風音も「じゃあ止めよっか」と返す。
「となるとー、直樹。地図借りるね」
そう言って直樹から地図を奪って風音は周囲と地図の配置を見る。
「今2パーティいるみたいなんだよね。両方とも大聖堂の方に向かったみたいだし」
「なんでわかるんだ?」
直樹の疑問に風音は「鼻が良いから」と答える。
「領主の館ってのはちょっと行ってみたいし、そっち行こうか?」
風音の言葉に一同は賛成の声を上げた。
◎ムルアージの廃都 商業地区
「武器屋かあ。中にはなにもないね」
風音が廃墟になった建物の中を見回す。
「あまり中に入るなよ。太陽の死角、暗い場所や影の中に死霊は潜むことがある」
「怖いなあ」
もっとも叡智のサークレットがある以上はカザネがとり憑かれる心配はない。憑依も状態異常の類なのである。
「それに、もう700年も経っていてお宝なんて取り尽くされてるわよ」
ルイーズの指摘に風音は「確かに」と頷く。
「でも、わたくしダウジングぐらいは後でやってみても良いんじゃないかと思いますの」
ティアラの言葉にジンライも「そうですな」と返す。
「確かに隠し部屋はあるかもしれませんな。領主の館を探索後に試してみても良いかもしれないな」
直樹はその言葉の意味が分からず首を傾げているが風音は頷いた。仮に隠し部屋があっても中が無事とは限らない。というか風化している可能性の方が高そうだった。
そうこう話しているうちに風音とジンライ、弓花の足が同時に止まった。続いて直樹も気配に気付き、周囲を見回す。ルイーズとティアラはそれを見て周辺の警戒を強める。
「領主の館まであと一歩ってところなんだけどなあ」
「その一歩先まで進んで挟み撃ちでも喰らったら目も当てられんよ」
「だねえ」
ジンライの言葉に風音は頷き黒牙を抜いた。
(そういや、ディアボがこの剣を警戒してたんだよね)
ディアボがオルドロックでの闘いの際に「ちょっと危ない」と口にしていたのを思い出した。
(アストラル系には結構効くのかもしれないなあ)
そう風音が思っているとガシャンガシャンと音が聞こえてきた。
「臭いしない。多分生物じゃあないね」
そう風音が口にするのと同時に、角から10体ほどの剣を持った鎧姿の敵が現れる。
「亡霊騎士か。連中は硬い。気をつけろよ」
ジンライと弓花がそれぞれに槍を握る。
「ルイーズさん、一発かましちゃって」
「はいはいっと」
風音の指示にルイーズがサンダーストームを撃つと中央の4体ほどが当たり、よろめいた。そして当たらなかった亡霊騎士が敵を感知して走り出す。
「左をジンライさん、弓花、右を私、タツヨシくん、直樹。ティアラはフレアバードで残り4体を牽制して」
「「「「了解っ!!」」」」
風音の指示に4人が一斉に頷き、指示通りに動き出す。直樹はその様子に軽く口笛を「ヒュウッ」と吹く。
「直樹、一体は任せて大丈夫?」
「問題ないっ」
直樹の頷きを見て、風音はスキル・ダッシュを唱え、走り出す。
タツヨシくんドラグーンもそれに合わせ走り、直樹も続く。
「さてっと」
風音は右手を出してマテリアルシールドを放つ。ガンッと亡霊騎士が何もないところで不可視の壁にぶつかり、よろける。
「スキル・突進」
風音は崩れた亡霊騎士まで一気に跳び、そのまま跳び蹴りを放った。
ゴウンという音と共に亡霊騎士が倒れる。それを見た風音は空中跳びで飛び上がり「スキル・キリングレッグ」と声を上げ、一気にその胴体を破壊した。
その様子を呆気にとられて見ていたのは二体の亡霊騎士と直樹だったが、タツヨシくんドラグーンは主のことに気など取られず、左右の竜角トンファーの角の先を前に突き出し、一体の亡霊騎士の胴体に突き差してから真横に腕を曲げて引き裂いた。
「どっちもとんでもないな」
と直樹は口にしながら、魔剣の一本を取り出し、亡霊騎士に切りかかる。
「食らえっ!!」
直樹が亡霊騎士を切りつけると剣は鎧の中をすり抜け、そのまま通した。
すると亡霊騎士の体がガランガランと分解し崩れた。
「なにそれ?」
風音の問いに直樹は「霊殺剣クドウっていう幽霊の剣だよ」とだけ答える。実体は柄だけの幽霊剣。直樹の言っていた死霊用の、正確には対アストラル用の魔剣である。
直樹が他の様子を見ると、ジンライと弓花はとうに持ち分を倒し、今は電撃を喰らった4体をフレイバードと共に戦っていた。それに風音も参加してほどなく戦闘は終了した。
「うーん、剣は全部ナマクラ、鎧もボロボロだねえ」
戦闘終了後、素材取りをする風音がぼやく。
「持ち帰っても鉄くずとして売るぐらいになりそうじゃない。これ?」
弓花もガッカリしながら崩れた鎧を見る。
「まあそんなものだろう。時折大層な剣を持つ個体もいるそうだが。とりあえずこういうモノだけ拾っておけ」
そう言ってジンライは鎧の残骸からビー玉のようなのを取り出した。
「なにそれ?」
「アストラル系の魔物のコアで霊核という。このサイズだとコアストーンよりも低級の素材だが、これを持って帰れば討伐報酬とこれ自体の換金が可能だ」
風音は「なるほどー」と言いながらバラバラの鎧をガシャガシャと探っていった。ちなみにスキルは増えませんでした。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・甲殻牛のズボン・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:29
体力:101
魔力:170+420
筋力:49+10
俊敏力:40
持久力:29
知力:55
器用さ:33
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』
弓花「スキル増えなかったんだ?」
風音「うーん、堅いのは鎧が本体だからだし剣で斬るぐらいしか出来ないヤツだからスキルとか持ってないのかも」




