第九十五話 大猿を倒そう
「モーターマシラが攻めてきたのでございます」
おばちゃんが風音達のために置かれた水を一気に飲み干してまくし立てる。
「モーターマシラってあの猿達だよねえ。一応、注意はゆっこ姉にしてたはずだけど?」
風音はダルそうな顔でそう言うとおばちゃんもそれには首をブンブンと縦に振って肯定する。
「そうなのでございます。女王陛下の命にてわたくし共も冒険者を雇って護衛をさせていたのでございますが、突然巨大な猿がやってきまして、力及ばず退散せざるを得なかったのでございます」
「巨大な猿?」
それは以前戦ったときにはいなかった個体だ。
「確かジンライさんがイモータルマシラの討伐があったって言ってたなあ。また出てきたのかも」
「確か結構な強さのお猿さんですわよね?」
ティアラの言葉に風音も「そう聞いてるよ」と答えた。
「おかげでほぼほぼ完成していた施設も手放す羽目になってしまい、こうして無念にも逃げ帰ってきたわけでございます」
おばちゃんがプルプルしながら青筋を立ててそう話す。
「ところでおばちゃん、どなた?」
まあ大体分かったようなものなのだが、とりあえずは確認をとる。おばちゃんは自分が名乗りも上げてなかったことに気付き、ピンッと姿勢を正して名を名乗る。
「ハッ、申し訳ございません。わたくしゼニス商会の宿泊施設及び街発展振興部の代表をしておりますマッカ・トーマックと申します。このたびはカザネ様がオーナーでいらっしゃる魔法温泉の建設や運営を任されましたの」
そう言ったあとにマッカは肩を落とす。
「それが……こんなことに……まことに申し訳なく思いますわ」
「うん。まあ、気にしなくていいよ」
風音は自分がオーナーであることを知ったのもつい先日だし、それで儲けようという意思も希薄で、そうしたことに対して特に自覚もない。
「それでおばちゃんは私たちに何をしてほしいのかな?」
「カザネ様は以前にもモーターマシラを追い払った実績がございます。それになんでも最近ではドラゴンをも退治したのだとか」
「まあ、そうだね」
事実なので風音も頷く。噂が広がるのは早い。この世界には飛竜便という竜使いの郵便も存在する。情報の伝達速度はそれなりに高かった。
「なので、わたくしどもと致しましては、そのモーターマシラとイモータルマシラの討伐をご依頼させていただきたいのです」
(やっぱりそう来たか)
と風音は思ったが、面倒ではあっても引き受けないと、温泉にも入ることはできないし、風音は名ばかりとはいえ源泉のオーナーでもある。知らぬ間になったものだが責任というモノもあるだろうと考えた。
「それって私たちだけでってこと?」
「いえ。こちらの護衛の冒険者とこの街の冒険者もまるごと雇っても良いと考えております」
そのマッカの提案は実際大盤振る舞いとまでは言えない。建設していた施設が破壊される前にどうにかしないと損をするのはマッカだ。是が非でも猿達は対応しなければ温泉街計画も頓挫してしまう。
「受けましょうカザネ」
横からルイーズが口に出す。
「積極的だねルイーズさん」
「ええ、今はあたしどうしてもお風呂に入りたい気分なの」
「わたくしも温泉にはいるためにここに来ましたし」
風音は唸った。問題なのはモーターマシラの数とイモータルマシラの強さだ。
「うーん。でも、とりあえず依頼を受けるかは保留で」
あからさまにマッカが残念そうな顔をしたが風音は話を続ける。
「確か結構前にここでイモータルマシラ討伐があったはずだし、ギルドの資料をまずは見てみるよ。受けて大丈夫か分からないウチに引き受けるのも無責任だしね」
風音はそう言うとマッカはうんうんと頷いて、風音の手を引いて「じゃあ、とっとと見ましょうねえ」と受付の方に進んでいった。どうも子供なりの姿が不安だったので勢いで話してはいたのだが、まともな受け答えができる相手だと分かって安心できたのだろうな……と、ルイーズはほとんどエスパーのような人間観察眼で状況を把握し、うんうんと頷いた。
◎コンラッドの街 冒険者ギルド事務所 受付
「ありました。これです」
プランがギルドの依頼記録簿からイモータルマシラ討伐記録書を取り出した。ちなみに受付に来たとき、プランは風音に「おひさー」と口にしたのだがマッカは恐ろしい剣幕で「さっさと!」と資料を要求してきたので風音はちょっとビビった。
(そういや親方がおっかないって言ってたっけ)
と風音は思い出す。恐らく風音に対してニコニコ顔なのは、風音が源泉オーナーだったり、女王の知己だったり、ドラゴン殺しという要因があってのものなのだろうなと思いつつ、風音は資料を読む。
「具体的なことは燃やしたくらいしか書かれてないけどモンスターレベルが65ならまあやってやれないことはないかな」
レベル鑑定用のアイテムも存在はするが普通の冒険者は持っておらず、なぜ書かれてるのかと思って討伐メンバーを見たらゆっこ姉の名前があった。
(ああ、だから燃やした……なのか)
風音は納得いって記録書をプランに返す。ちなみにイモータルマシラはゲーム中には登場していない魔物だ。今までもそうだったがゲームで戦った魔物はいたりいなかったりで風音のゲーム知識が通用するのも半々と言ったところだった。
「おばちゃん。これならなんとかなると思うし依頼受けるよ」
「ありがとうございますわ!わたくし感激しております!!」
そう言ってマッカはカザネに抱きついて頬ずりをする。感情表現の豊かなおばちゃんだった。
「それでさー」
カザネはマッカが落ち着くのを見計らって尋ねる。
「今回襲ってきたモーターマシラたちの情報が知りたいんだけど護衛の冒険者さんたちって一緒に来てるの?」
風音の言葉にマッカは頷く。
「ええ、今は外に待機させてるわ。ちょっと待っててくださる?」
そう言ってマッカがとことこと外に出ていった。
「なかなか強力なババアね」
後ろでプランがぼやき、風音が苦笑いをしていると、外からマッカの罵声が聞こえて、ドンッと外から男が入ってきた。
「あら、キンバリーさん」
それは風音も見知った顔、キンバリーだった。
「やあカザネ。元気みたいだな」
キンバリーはやや疲労感ある顔で風音に挨拶をしてくる。
「護衛をしてるのってキンバリーさんだったんだねえ。元気なさげだけど」
風音の言葉に深くため息を吐くキンバリー。
「自分が情けなくてな。マッカ代表にもお叱りを受けたが、みすみす魔物に施設を奪われるとは、自分で自分を殺したい気分だよ」
「死なれては困るのでございます。ちゃんとお金を払ってるんだからしっかり仕事をしていただかないと」
キンバリーの言葉に、外から戻ってきたマッカが非難の声を上げる。
「分かっていますよマッカ代表。カザネとともにあれを討ち取らないうちは死んでも死に切れません」
「でもイモータルマシラもいたんでしょ? アレ、相当な魔物っぽいし退却も仕方ないんじゃない」
以前にあの場所の温泉を調べにいって全滅したこともあるはずだ。無事に帰ってきたのなら良い方だろう。
「確かにあの化け物猿も強敵だが問題はそれだけじゃあないんだ。モーターマシラの数が相当なものだった。多分、200か300はいたんじゃないかと思う」
「結構な数だね」
以前遭遇したときは50くらいだったのだが。
「ああ、かなりのものだな。あそこまで徒党を組まれるとそれなりの脅威になる。この街だって襲われかねないだろう」
「交易路も安全ではなくなるだろうね」
風音の言葉にマッカが「そこも問題なの」と言う。
「オーガ討伐からこう立て続けに魔物が出てきちゃうとねえ。ルートを見直す商人も出てきてしまうかも知れないし、悪評が立つ前に討伐してほしいのよ」
「うーん」
風音はうなり、状況を整理する。
実際、モーターマシラの数だけならばジンライと弓花はいなくとも風音達と、キンバリーの護衛集団に、この街の冒険者達をかき集めればなんとかなるかもしれない。それに恐らくは連中をまとめているのはイモータルマシラだ。統率能力の高いボスを倒せば、その集団をまとめられず瓦解するはずだろうと考え、風音は「じゃあ、そうするか」と頷いて、マッカとキンバリーに指示をする。キンバリーが「大丈夫か?」と尋ねたが風音は「問題なし」と返した。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット
レベル:29
体力:101
魔力:170+300
筋力:49+10
俊敏力:40
持久力:29
知力:55
器用さ:33
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』
風音「イベント戦だね」
弓花「私はいないのでさっさと終わって帰ってきてね」




