8.あやしい男たち
野営のテントで眠るのも初めてだけど、
日中ずっと馬車に揺られていた疲れもあるのか、
あっという間に眠りについていた。
朝起きたら、リマは腰が痛いと言っていたけれど、
私は特に異常は感じなかった。
用意された食事をリマと取り、
またアルフレッド様と馬車に乗る。
昨日は少し打ち解けた感じがしたけれど、
一晩立ったらまたアルフレッド様との間に壁を感じる。
それも仕方がないとあきらめ、窓の外を眺める。
王都から離れて国境へ向かう間は建物はほとんどなく、
窓から見えるのは木々だけだった。
それでも飽きもせずに眺めていると、
アルフレッド様が口を開いた。
「……飽きないのか?」
「ええ、楽しいです」
「そうか、ならいい」
安心したようなアルフレッド様の口調に、
何か心配されていたのだろうかと思う。
馬車が止まり、休憩だと思って降りようとしたら、
アルフレッド様に抱き上げられる。
「え?」
「……いろいろと見たいんだろう。
見せてやるからおとなしくしておけ。
ここは草だらけで歩かせたら転んでしまう」
「あ……わかりました」
どうやら昨日とは違って休憩場所が整地されていないようだ。
草むらを歩かせたら昨日のように転ぶからと抱き上げて運んでくれているらしい。
背の高いアルフレッド様に抱き上げられていると、
いつも見える景色とはまったく違う。
「そろそろいいか?」
「はい」
休憩が終わるとまた馬車に乗る。
馬車に乗っている間はほとんど会話がないが、
それも苦には感じない。
嫌われていないのがわかったので、
アルフレッド様が話さなくても気にしなくなっていた。
そんな感じで国境へと進んだ四日目。
リマとテントで寝ていたはずが、外に出ていた。
……ううん、違う。これは精霊が見せてくれる夢だ。
私たちが野営しているテントの周りで、
数人の男たちがこそこそと話をしている。
「……様子はどうだ」
「アルフレッド様は油断している。
王女が幼い子だったことでほっとしたのだろう」
「ああ、女嫌いだったな」
「いつものように周りを警戒していない。
今なら簡単に命を奪えるだろう」
命を奪う?アルフレッド様の!?
早く知らせなくちゃ。
がばっと起きたら、近くにいるリマはぐっすり眠っている。
起こそうかと思ったけれど、そんな悠長なことはしていられない。
靴だけ履いて、隣にあるアルフレッド様のテントに入り込む。
灯りもないテントの中だけど、うっすらと影が見える。
奥にアルフレッド様が一人で寝ているのがわかった。
「……アルフレッド様!」
「……ん。んんん?」
「静かに聞いて下さい!
怪しい男たちがアルフレッド様の命を狙っています!」
「……は?」
「数人の男たちが命を奪うという話をしているのを聞いたんです!
すぐに逃げてくださいっ!」
「俺の命を……」
「だから、急いでっ」
「大丈夫だ。……来たな。ルーチェはこの毛布の中に隠れていろ」
「え?」
アルフレッド様が立ち上がったと思ったら、手には剣を持っていた。
私はアルフレッド様が寝ていた毛布の中に押し込められ、
何があっても静かにしているように言われる。
「すぐに終わる。黙って隠れているんだ」
「……」
張りつめたような空気に何も言えずに毛布の中に隠れる。
少しして、テントの入り口が開いたのが見えた。
「っ!なんで起きているんだ!?」
「うわぁ!」
「引け!逃げるんだっ!」
バタバタと逃げ出す音と剣がぶつかる音、そして男の人の悲鳴。
震える身体をおさえるようにして必死に耐える。
しばらくして、テントの外でどさどさと何かを投げ出す音がした。
「警備は誰もいないのか。……おい、起きろ」
「アルフレッド様!?
この男たちはいったい!?」
「こいつらは俺を狙ってきた。
朝になるまでに処分しておいてくれ」
「なんですって?アルフレッド様を狙って!?
……処分ですね、わかりました。
ここの警備がどうなっていたか確認しておきます」
「ああ、頼んだ」
アルフレッド様は近くのテントに寝ていた騎士に指示を出して、
またこのテントの中に戻ってきた。
私が隠れていた毛布のところまで来ると、
隣に横たわりそっと声をかけてくる。
「もう大丈夫だ。安心していい」
「……は、はい」
なんとか毛布から顔を出したけれど、怖くてまだ身体が震えている。
「どうやって襲撃を知ったんだ?外を歩き回っていたのか?」
「ち、違います。精霊が夢で見せてくれて……」
「精霊が?そういうことか……助かった。ありがとう」
「……アルフレッド様は狙われているのですか?」
「ああ、今までも何度か襲われている。
さすがにこの旅は手を出してこないと思っていたが……。
巻き込んでしまって悪かったな」
「アルフレッド様のせいじゃないです」
「そうか」
どうして命を狙われているのかはわからないけれど、
精霊が助けようとしているのなら、アルフレッド様が悪いんじゃないと思った。
それでも身体の震えは止まらなくて、
アルフレッド様が毛布の上から背中を撫でてくれるうちに、
いつの間にか安心して眠ってしまっていたようだ。
朝起きたら、目の前にアルフレッド様の寝顔があった。




