シェルステン王国からの逃亡
「すぐに、逃げてください!」
ルドルフがセリアとケイトリアがいる居間に飛び込んで来た。
「王家にこの家がバレました!」
シェルステン王家がセリアをチェイザレではなく、王太子ライデンに娶らせて戦争を拡大させようとしているとわかり、逃げて秘匿された館で生活を始めたのだが、チェイザレの持つ情報と、シェルステン王家の策謀を伝える為に、チェイザレはイグデニエル王国に向かった。
そして、セリアとケイトリアの護衛にルドルフが残ったのだ。
だが、シェルステン国内では王家の捜査の方が上手だったらしい。
ルドルフを先頭に、セリア、ケイトリアが馬を駆けて逃げる。向かうのはガイザーン帝国。
だが、雨上がりの道を駆けて行くのにケイトリアの体力はもたなかった。
悪路を走る馬の手綱を持つ手の力が入らなくなっていた。
気付いたのはセリアだ。後ろを走るケイトリアとの距離が離れてきていたのだ。
「ルドルフ、お母様が疲れてきたみたい。すこし緩めて」
館を逃げ出してから、半日かけてきたのだ。
セリアがルドルフに、馬のスピードを弱めるように言っている時だった。
ケイトリアの馬の歩みがふらふらになってきた。
手綱を持つケイトリアの手が、左右に揺れだしたのだ。
ルドルフが戻ってきて、ケイトリアの馬の手綱をもち馬を止めて、ケイトリアを抱き上げた。
「ごめんなさいね、ルドルフ」
体力が磨り減っているであろうケイトリアが謝っているのは、ルドルフだけではない。娘のセリアにも謝っているのだ。
ケイトリアは、自分が足手まといで辛いのだ。
だからといって、体力が一朝一夕で付くわけでもない。
「大丈夫です。馬も休養させねばならない頃でしたから」
ルドルフは、ケイトリアを岩の上に座らすと、馬を小川の縁に連れて行って、水を飲ませた。
セリアはルドルフの横にくると、自分の馬にも水を飲ます。
「ルドルフ、あの・・」
何かを言おうとしたセリアに、ルドルフは手で制した。
「セリア、気にしないでください。
貴女は気がついていないと思いますが、俺もチェイザレもわかっています」
ルドルフは装具の中から、野菜を取り出すと馬に食べさせた。
「俺達は子供の頃から剣術を訓練してきました。それは騎士として恥じぬ教育を受けたのです。
夫人は、騎士として守らねばならない女性そのものです。
それが、我々に高い志と思いもよらぬ力が出ていると思ってます。
セリア、貴方自身も母君を守るという強い意志の元だからこそ、頑張ってこられたのでは?」
ルドルフは水筒から水をコップに入れて、セリアに渡す。
セリアが飲んでいる間に、ケイトリアにもコップを持って行く。
その様子を見ながら、セリアは考えた。
その通りかもしれない。
お母様が一緒でなかったら、もっと無謀なことをしていて見つかったかもしれない。
お父様が亡くなったと聞いた時もショックだったけど、私がお母様を守らないといけないからと諦めることはなかった。
お兄様はこれを考えて、私とお母様を一緒に逃がしたのかな?
きっと、私がお母様を守ると信用してくださったのだわ。
セリアは水を飲み干すと、ケイトリアの横に座った。
「お母様、出発できますか?」
「大丈夫よ」
笑みを浮かべるケイトリアは、疲れがでてる。
セリアの為に無理をしているとわかる。
「夫人は、俺と一緒に馬に乗りましょう」
ルドルフは何度もケイトリアを馬に乗せている。お互いに慣れたものだ。
「シェルステン王国の事は任せてください。街道じゃなくとも超えやすい国境を知ってますから」
さらりと言ってのけるルドルフの言葉が頼もしい。
チェイザレが信頼するのがわかる、とセリアは追われて焦っている気持ちが薄れて笑うのだった。
イグデニエル王国では、処刑対象のセリアとケイトリア。
だが、国が違えば利用価値のある人質。
王家の考えで、逃げないといけないのならば、逃げないでいい王家をつくればいい、
ふと、そんな事がセリアの脳裏に浮かんだ。




