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超次元電神ダイタニア  作者: マガミユウ
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第八話「水と炎の矜持」

【登場キャラクター紹介】

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 向こうから駆けてくるのは、まひる様とアース、ウィンド、か。

 どうやら全快したみてえだな。

 心配掛けさせやがって…


『心配』?

 心配って何だ!?


『心配』なんて感情が俺の中にあることに戸惑う。

 そして、戸惑いながらその感情に振り回されている俺がいる。


 まひる様…!?

 あぁ、まひる様ッ…!

 何て顔をしてやがる…!

 今にも泣きそうじゃねえか。


 誰がまひる様をこんな顔にした!?

 絶対に赦さねえ!


「マリンッ!ファイアッ!無事なの!?」

 まひる様は俺たちに向け叫んだ。

 それはもう悲痛な声で……


 なんでそんなに悲しそうな顔をしている…?

 俺はこの人を安心させてやりたいと思った。


「おお!まひる様!元気になったか?」

 俺は出来るだけ明るい笑顔を作り応えた。

 まひる様はすっかり回復したのか顔色は良くなっている。

 後はこの悲しそうな顔をいつもの…


「よかったぁ〜!二人とも無事だったんだね!」

 そう言って顔を上げたまひる様は、いつもの笑顔に戻ってたんだ…


 今のやりとりの中に、まひる様を笑顔に戻す何があった?

 まひる様は俺とマリンの顔を互いに見て『安心』したようだった。


 安心した?俺たちを見て?

 心配、されたのか?俺が?まひる様に?


 なんだこれは……

 この感覚は何だ?

 まひる様の顔を見ると心拍数が上がっていくのがわかる。

 身体が熱い。

 全身の血が沸騰するような感じがする。


 今直ぐ、このざわめきを鎮めたい…

 なら……!


「元気になったついでに、今から一緒にアイツを殴りに行かないか?」

 丁度いいヤツが近くにいる。

 取りあえずアイツをボコって気を晴らすしかねえな。


 俺は後ろで何やら藻掻いてる電神(ベルファーレ)を引きつった笑顔で指差す。


 心配するなまひる様…俺たちは何ともねえ。逆に心配掛けちまったみてえで済まなかった……


 主人どうこうより、今はこの(ひと)が愛おしい。

 俺はそっと手を差し出す。


「俺とドライブだ。さあ、乗った!」


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第八話「水と炎の矜持」



 あたしは差し出された手を取り、ファイアの顔を見る。

 その視線が合う。

 何故か今のファイアの視線は熱を帯びていてとても魅力的に映る。

 なんだろう……ちょっとドキっとしちゃった。


「…詠唱、いいか?まひる様……」

 ファイアが少し伏し目がちに訊いてくる。長いまつ毛が色っぽく、その声色もいつもよりしっとりしていて優しく感じられ


「は、はいッ!」

 あたしは何故か頬を赤らめ敬語で返事をしていた。

 そしてゆっくりと詠唱を始める。


「…至極なるファイア…泰然たる炎の精霊よ……今こそその力をこの天下(てんが)に示せ……(いで)よ…《アウマフ》…!」


 あたしの詠唱に合わせて召喚紋が宙空に描かれていく。そしてその中心から降りるように、全高17mの電神(デンジン)《アウマフ》が降臨する。

 “紅い甲冑の騎士”と形容するのがしっくりくる外観は、見るものに憧憬と畏怖の念を同時にもたらす。

挿絵(By みてみん)

「あっ!」

 あたしはファイアに抱き寄せられ操縦席へと収容された。

 なんだか顔が熱いよ…


「アウマフ・ファイアフォーム!」


 操縦席に座るとファイアの姿がない。

 あれっと思った瞬間にコクピット内にファイアの声が響いた。


「まひる様!自分の体を見てみな?」

 ファイアの明るい声に従い、何事かとあたしは自分の服を見る。

 するとあたしの服はいつの間にか紅いパイロットスーツに変身していた。


「えッ!?何これ!カッコいい!!」

 昔見たロボットアニメのコスチュームみたいであたしは驚きながらもテンションが上って来ていた。


「それが俺からのプレゼントだぜ!今俺はまひる様のその服に姿を変質させている。こうすればまひる様の魔法量を消費させることなく、まひる様自身もこの服で護れて一石二鳥なんだとよ?マリンめ、よく考えてやがる」


 確かにこんなこと出来るなんて知らなかったけど、これは凄く良いアイディアだと思う。薄手なのに頑丈そうな不思議な材質で出来ており、これなら激しい戦闘になっても大丈夫そうだ。


「ありがたいけど、ファイア、元の姿には戻れるの?」

 あたしはふと疑問を口にした。


「ああ、大丈夫だ。俺たち精霊は元々姿形を持たない存在だったろ?それが今まひる様のいた世界と混ざっちまったお陰でヒトの形にもなれてるってだけで、形は固定ではないんだとさ!だから…」


 そう言ってファイアは

「だからもう『心配』すんな…」

 と、優しい声で続けた。



「まひる様!そろそろマリンが張った《拘束(バインド)》が解ける頃だ。解けるのと同時に、行くぜ……!」

 ファイアが真剣な雰囲気で言った。

「うん。わかったよ、ファイア!」

 あたしも気を引き締めて返事をする。


「聴こえているかルナぁ!お前のその拘束が解けた瞬間が第二ラウンド始まりのゴングだ!今度は本気でいくぜぇ!!」

 ファイアが叫んだ。


 そして 《ドガァアアン!!》 という轟音が響き渡り あたしの視界が一気に開けた。

 どうやらバインドの効果が切れたらしい。


「よくもやってくれたわね!許さないんだからッ!!」

 コケにされ、相当頭にきたのか、ルナがガムシャラにパンチを繰り出す。


「…(のろ)いぜ!」

 バインドが解けると同時にブースターを全開にさせ飛び込んだあたしたちのアウマフにパンチはかすりもせず空を切る。そのままあたしたちはすれ違いざまにロングソードでその腕に斬りつけた。


「「《覇道剣》ッ!!」」

 ファイアと声が重なる。武器を一時的に硬質化させ攻撃力を高めた攻撃スキル。

 刃はベルファーレの右腕を前腕から上腕に掛けて一気に斬り裂いた。

「ああっ!?私のベルファーレの腕がぁあ!!」

 ルナは驚愕し叫ぶ。


「まだ終わらねぇぞぉ!!」

 ファイアが叫びながらブースターを全開にして再び突っ込む。


「ひッ!」

 ルナが怯えるように息を呑む。

 ベルファーレの左腕が上がり、指先がこちらに向けられる。そして指の先から魔法弾が連射された。


「だから!(のろ)いんだよッ!」

 だが、その魔法弾はアウマフの残像を貫き、虚しく地面に当たるだけだった。

 アウマフは既にベルファーレの懐に飛び込んでいる。

「くらえッ!」

「ッ!《地殻障壁(グランバリア)》ぁあッ!」

 ファイアとルナの叫びが重なる。

 ロングソードを横に振り抜き、ベルファーレの胴を両断した。と思われたが、剣は既での所で張られた土の障壁に遮られ、本体まで届いていない。


 更にルナは

「《鋼鉄化(メタリオン)》!」

 スキルを発動させた。


「《地殻障壁(グランバリア)》に《鋼鉄化(メタリオン)》…元々硬い機体なのに、更に地属性の防御スキルとはね…」

 あたしは舌打ちをした。


「あはははッ!私のベルファーレの防御力は伊達じゃないのよ!さあ!無駄にMPを消費しなさいっ!?」

 ルナが勝ち誇ったように笑う。


 《鋼鉄化(メタリオン)》――一定時間自身の体を鋼鉄と化し、あらゆる攻撃、魔法を無効化する防御スキル。ただし効果発動中は一切行動出来なくなるというデメリットもある。


 アウマフはゆっくりとベルファーレに近付き、その鋼鉄化したベルファーレの胴体を拳でコンコンと叩く。


「ほんとに硬えな…」

 ファイアがぼそりと言う。

 そして、右手に持っていたロングソードを粒子に戻し、両前腕にあった篭手部分の装甲が拳を覆い隠す様に180°展開する。

 まるでボクサーのグローブの様に。


「ルナ、いつまでそうして硬いままでいられるのか知らねえが、これで少しは壊れなくなったってことだよな?」

 ファイアがニヤリと笑いながら言う。


「ふんっ。確かにあんた達の攻撃は多少は効くようになったみたいだけど、私にはこの障壁(バリア)があるわ。あんた達がいくら頑張っても私のHPを削ることなんて出来ないんだから!だから私はこのままでいいの。ベルファーレは負けない!」

 ルナはフンっと鼻息荒く言い放った。


「ふぅん。でもそれならそれで別に構わねぇけどよ。これで俺もようやく本気を出せるってもんだ…」

 ファイアはそう言って


「まひる様、《最終攻撃(ダイナミックコード)》、いいか?」

 とあたしに訊いてきた。


 ファイアフォームの《最終攻撃(ダイナミックコード)》…

 出来ればあまり使いたくはないけど…

 ファイアの声には有無を言わせない凄みがあった。


「うん。分かった…!だけど、無茶だけはしないでね?」

 あたしは心配しながらも力強く答えた。

「ああ、分かってるさ」

 ファイアは微笑むと、「行くぜ!」と言って両腕を引き締めて叫ぶ。


「ファイアダイナミック!《内燃機関爆走(ゾーンオブレッド)》ッ!!」

 すると、アウマフの全身にある、ダクトというダクトから紅蓮の炎が吹き出す。

 その勢いは、まるでジェットエンジンの如く、アウマフは一瞬にして加速した!


「うおおおぉぉぉぉーーーー!!!」

 ファイアが雄叫びを上げながらルナに向かって猛進する!速い!今までとは比べ物にならないくらいに速くなっている!あたしはアウマフの操縦桿を握り締め、どうにか機体を制御する。


 ゴォォォン…!アウマフの拳がベルファーレに突き刺さった。

 だが、《鋼鉄化(メタリオン)》の影響でベルファーレの装甲には傷一つ付いていない。

 それでも、ファイアは止まらない。


「まだまだぁ!オラァァアアーーー!!」

 今度は両脚蹴りを繰り出す。

 ドガガガガッ!! しかしこれもまた、ベルファーレの強固な鎧の前には通用しなかった。

 そして


「まひる様!ギアを上げていくぜッ!」

「了解ッ!セカンドギア!」

 そう言ってあたしはコンソールに映し出されている《内燃機関爆走(ゾーンオブレッド)》の表示の横に並んでいる『SAFETY』と書かれた表示の一つを真横にスワイプして消した。


 アウマフは更にスピードを上げた。

 ズガガガガガガガガガガガッ!!! 先程までよりも激しいラッシュを繰り出し始めた! バキィィン!! ベルファーレの堅牢な装甲がへこんだ。


「まだだ。もっと速く…!もっと強く……ッ!」

 ファイアが呟く。

「まひる様ッ!もう一つ上げてくれ!」


 あたしは一瞬迷う。

 ゲームでも《内燃機関爆走(ゾーンオブレッド)》は短期決戦を決める際にセカンドギアまでしか使ったことがなかった。

 サードギアに上げたこともないし、ましてや《鋼鉄化(メタリオン)》が掛かった相手に効くのか?

 これ以上ギアを上げたらどうなるか分からない。でも……もう既に機体は限界に近い。ならいっそ……

「分かったよっ!サードギア!!」

 あたしはコンソールの『SAFETY』と書かれた表示を更に一つスワイプして消す。


「これで決めるよファイアッ!」

「おうともさッ!!」

 ズガガガガガガ!! ドゴォンッ!! アウマフの鉄拳のラッシュは更に勢いと威力を増し、ベルファーレに襲いかかる!そして遂にその頑強な装甲にヒビが入る!


「おぉおおおっ!!」

 ファイアが雄叫びを上げ、あたしも必死にアウマフを制御する。


 ズドンッドカンッ!ボコンボコッ!ドガーンッ!バリリリッ!ボグシャアッ!! ベルファーレの装甲が砕け散り、内部の機械部分が露出していく!

 アウマフの苛烈な攻撃が強制的にベルファーレの《鋼鉄化(メタリオン)》を解除させてしまった。


「なッ!?何でっ?《鋼鉄化(メタリオン)》が発動中なのよ!?」

 ルナは驚愕した。

「攻撃が通るわけがないわ!プログラムによって制御されてるゲームの世界のハズよッ!?」


 確かに、この世界は現実じゃない。だけど……ゲームとも違う…!


「だったらよ…気合の差かもな?」

 ファイアがそう呟くと

  ズガァアアンッ!! アウマフは渾身の一撃でベルファーレを殴り飛ばした!

 ベルファーレの巨体が宙に浮き、沿岸部の方に吹き飛ばされて行く。


「きゃぁあああっ!!」

 ルナの悲鳴が聞こえ、遠くなる。


 アウマフから立ち昇っていた炎が消えていく。


「へっ!火の精霊の力、思い知ったかッ!」

 ファイアが自慢げに言うとアウマフが沿岸部に飛ばされたベルファーレに向かって駆け出す。


「まだ《鋼鉄化(メタリオン)》が解かれただけだ!畳み掛けるぞまひる様ッ!マリンとも約束したしな!」

「うん!」

 そうだ。もう油断はしない。

 あたしは眼前に見える海へと視界を定める。

 あたしたちとベルファーレの距離がどんどん縮まっていく。

 そしてあたし達はベルファーレがいる海岸に到着した。



 砂浜には巨大な《地殻障壁(グランバリア)》が幾重にも立っていた。

 その中心部である海上にベルファーレの姿があった。


 ファイアがあたしに言う。

「まひる様、無理を聞いてくれてありがとな。お陰でスッキリしたぜ!トドメはマリンに譲ることにすらぁ」


 するとどこからとも無くマリンの声が聞こえてきた。

「わざわざ僕のフィールドまで運んでくれて悪かったねファイア。この借りはいずれ返すよ…」

「んー…じゃあ、あとでクッキー三枚な?」

「……………それは断る」


 そう言ったところで、あたしのパイロットスーツの色が赤から青へと変色した。


「マ、マリンなの?」

 あたしは驚きながら呟くように聞いた。

「はい、僕だよ。済まなかったね、まひるの魔法量切れに感付いてあげられなくて…もう体調は大丈夫?」

 マリンの優しい声がコクピットに響く。


「う、うん。みんなとアウマフが護ってくれてるからあたしは平気だよ?マリンたちは無理してないかな?」

 あたしはアウマフの魔法量のことや、このスーツのことでみんなの負担になってはいないか気になっていた。


 マリンが答える。

「僕たちなら問題ないさ。それより見てごらん?見渡すほどの水…これが海、か……初めて見たけど、何て綺麗なんだろう……」

 確かに海はとても美しいものだった。

 今マリンがあたしの横に居たら、海を眺めるマリンの横顔はきっととても神秘的で綺麗なんだろうな。


「さあまひる?フォームチェンジといこう。ルナも何やらまだやる気があるようだしね」

 マリンが言う。

 ベルファーレもせっせと地殻障壁(グランバリア)を円周状に精製している。


「そうだね。このままじゃ終われないもんね!」

 あたしは気合いを入れ直す。

 そして、アウマフはベルファーレを横目に海へと飛び込んだ。


「えっ!?サニーの電神、私の防壁に恐れをなして逃げたのかしら?マジ!?」

 と、戸惑う口調で言うルナ。

 そしてその表情には安堵の色が浮かぶ。

「……まあ、いいわ。とりあえず助かったってことよねぇ。ふぅ……私も疲れちゃったし、そろそろ帰ろうかしら」


 ――雄大なるマリン…浩然たる水の精霊よ、今こそその力をこの大海に示せ――


 ベルファーレの背後の海面が波立ち、やがて大きな渦となる。

「アウマフ!フォームチェンジ!」

 あたしは叫ぶ。

 大渦の中心部から光の柱が空に上がる

「マリンフォーム!推参ッ!!」

挿絵(By みてみん)

 そう言いながら現れたのは蒼色の《アウマフ》。

 流線的な体に二本の腕、脚は人魚の様な形状になっている。腕には三叉の矛が握られている。


「電神の、形が変わった…?」

 ルナが驚き呟く。

「あの子達、一体どうしたっていうの?精霊の力をそんなことに使えるなんて聞いたことがないわ……」

 と、ルナが続けて言った。


「いいわ!やってあげましょうベルファーレ!あなたの力を見せてやりなさい!」

 ルナが叫ぶ。


 ベルファーレがその身をアウマフの方に向けようと動かした。


「…(のろ)い」

 アウマフが矛でベルファーレの後ろから、その膝裏を小突く。

 ベルファーレはそのまま大きく体制を崩し仰向けに倒れた。

 巨大な水飛沫が上がる。


「ルナ?僕は君のそういう少し間の抜けたところが嫌いじゃないんだ。とても人間らしくて好感が持てる」

 マリンが言う。


「その声は!さっきのバインド小娘ッ!?」

 と、焦る様子で聞くルナ。


「だけどね?うちのサニーに楯突こうとするなら話は別。君たちのような輩が居ると、僕の大切なヒトが怯えてしまうんだよ。だから、教えてもらおうか!」

 マリンが言うと、海が更に激しく揺れ出す。


「これから僕がルナ!君に対して幾つか質問をする!それにもし答えられなかったり、嘘を付いたりすると君とベルファーレは海の藻屑となるから注意して答えて!」

 とマリンが続ける。

「なっ!?」

 驚くルナ。


「マリン、あれをやるのね?」

 あたしはそこに存るマリンに向けて苦笑いする。

「はい、まひる。今回は僕に任せてくれますか?」

 マリンの語気はノリノリに感じられた。

 正直、このスキルはゲームでも持て余し気味だった。使用条件が特殊過ぎるのと、あたしの頭では思考が追っ付かないことがあった。


 あたしとマリンの声が重なる。

「「マリンダイナミック!《海神十戒(モーゼテンタクルズ)》!」」


 突如、アウマフからベルファーレまで直線で繋いだ海が二つに割れた。

 そしてベルファーレに向けて十本もの水の縄が襲いかかり、地殻障壁(グランバリア)をも貫き、その巨体の各所に巻き付いてまたも拘束した。

 この拘束技こそ、マリンフォームの《最終攻撃(ダイナミックコード)》、《海神十戒(モーゼテンタクルズ)》だ。


「まず一つ目。君は何者だい?」

 マリンが尋ねる。

「答えるわけないでしょ!こんなことしたらどうなるのか分かってんのあんた!?」

 と喚き散らすルナ。


「そうですか……じゃあ仕方ないね。ではまず、その左前腕から…」

 と、マリンが淡々と言うと、ベルファーレの左前腕に絡まっていた水の縄が急に締まりだし、その部分を引き千切った。

 ブチッと音を立てて落ちる左前腕。

 ルナは目を見開き絶句した。


「ルナ?質問を続けるよ?二つ目、同じ質問。君は何者?」

 とマリンは言いながら冷やかな視線でベルファーレを見据える。


 ルナは狼狽えながら

「な、何なのこの能力?あんた、さっきから私に何をしてるの!?」

 錯乱気味に叫ぶ。


「ルナ?質問を質問で返してはダメ。さあ、君の電神の左肩が落ちるよ」

 悦に入ったマリンの声がコクピット内に響く。あたしは「たはは」という感じで苦笑いを浮かべた。


 ベルファーレの左肩に巻かれていた水の縄がギリギリと締め付けを始める。

 バツン!と大きな音を立てて左肩の付け根からベルファーレの左腕が切断され、またも大きな水飛沫を上げながら海中へと沈んでいく。


「ひぃッ!」

 ルナが怯えた声を上げる。


「この技は、相手が如何に強固でも関係なく引き千切るよ。物理ではなく、自然の理との契約によって発動しているからね。相手を捕まえた時点で僕たちの勝ちなんだ」

 とマリンが淡々と続ける。


「三つ目の質問も同じ。ルナ?君は何者?」

 と言って再びマリンが冷たい視線を向ける。

「わっ、私は、手代木流那(てしろぎるな)!ただのキャバ嬢よおッ!」

 遂に観念したのか、ルナは本名を名乗った。そして続けて言う。


「ねえ?お願いだからもう止めて!何でも話すからあッ!!」

 と泣き叫び懇願するが、マリンは表情一つ変えずに次の言葉を発する。


「四つめの質問だよ。流那(るな)?君はどうしてこのゲーム『ダイタニア』をやってるんだい?」

 そう言ってマリンは問い掛けを続ける。


「うぅ……私、元々ゲームが好きで昔はよく遊んでたの。『ダイタニア』はお店のお客さんに教えてもらって、半年くらい前からやってる…だって、すごく面白いし、出てくるキャラも格好いいし…」

 と涙声で答える。


「なるほど。五つ目の質問。君が今回このイベントに参加した経緯を教えて?」

 心なしか、質問するマリンの声色が少し優しくなったような気がした。


「いいわ。えっと……いつものように仕事が終わって朝家に帰って来たら、スマホに『ダイタニア』から新イベのお知らせ通知が来てて。寝る前に少しやってみようと思ってログインしたら画面が光って…」

 流那が続ける。

(ここまではまひるの時とほぼ同じか…)


「最初プレイした時はまだここが現実だって分からなくて夢だと思ったの。あー、私また寝落ちしちゃったかな!って」


「六つ目。そのイベントのお知らせ通知には何て書いてあった?」


「…サニーっていう四精霊を連れたパーティーを探して、電神でサニーを倒した者に、賞金が出るって……私、欲しい物あって、今お金貯めてて。これしかないッ!て思ったのよ。ゲーム内じゃそこそこ強かったしね」

 と、自嘲気味に言う。

(この時点で既にイベント内容が書き換わっていたのか…だがどうして?)


「七つ目。賞金が欲しかった理由は何だい?」


「……それは…自動車とかよ」

 流那が視線を横にずらし、ボソっと呟く。


 ベルファーレの右くるぶしに巻き付いた水の縄がそれを切断した。右足首を無くした巨体は大きくバランスを崩す。

「きゃああぁーーッ!!」

 操縦席の流那も突然の揺れに叫び声を上げる。


「流那?嘘はいけないよ?」

 マリンが尚も落ち着いた声で言う。

「言うわよ!言えばいいんでしょッ!?おばあちゃんに電動ベッド買ってあげたかったのよッ!」


 意外な言葉にマリンとまひるは一瞬言葉を失った。流那は涙目でこちらを睨んでいる。


「じゃあ次の質問…」

 マリンがそう言おうとした時だった。

「マリン!ストップ!」

 あたしは割って入った。


「もう、ルナさんに戦意はないよ。解放して、普通にお話ししてもらおう?何だかあたしたち、ちょっと悪者みたいな雰囲気になってないかな…?」


「えっ、でも……まひるがそれで良いなら」

 あたしの言葉にマリンは少し戸惑っていたが、すぐに納得してくれた。


「ありがとうマリン。ルナさん、怖い思いさせてごめんなさい。あの……怪我はありませんか?」


 アウマフが《海神十戒(モーゼテンタクルズ)》を解除すると、ベルファーレは粒子化され、その場に海水に濡れたルナだけが残される。

 あたしたちもアウマフから降り、ルナの元へ駆け付けた。


「大丈夫ですか?」

「……」

 ルナは無表情のまま何も言わなかった。ただ呆然と立ち尽くしている。


 …やっぱりショックが大きいよね…あたしもワイバーンの時はほんとに怖かったもの…

「あたしはまひる。ルナさんのお話、聞かせてもらっても良いでしょうか?」

 あたしはなるべく優しく声を掛けた。


「……」

 やはりルナさんから返事はない。

 すると突然ルナさんがあたしに抱き着いて来た。


「…怖かった……ごわがっだよおぉぉおぉーーー!!」

 ルナさんは子供の様に号泣しだした。

【次回予告】


[まひる]

激闘の末、あたしたちはベルファーレを倒した!

ファイア!マリン!凄かったよ!

あたしの長かった週末が終わり、

月曜日が来る!


次回!『超次元電神ダイタニア』!


 第九話「オフィス前線異常あり」


なんだか久々の出勤な気がするよー!

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