第六十三話「地底要塞を探れ」
「サニーだと!?」
風待さんが黒ずくめの男の返答に驚きの声を上げる。
「そうだ。俺たちは《サニー》からの命令でお前たちを捕えに来た」
黒ずくめの男がそう言うと、後ろの人たちも一斉に武器を構えたままジリジリとあたしたちに近付いてきた。
あたしはそんな彼らを見てその圧から少し後退りしそうになるが、なんとか踏み止まった。そして再び彼らに言う。
「あたしたちは次元を超えてこのダイタニアまで来たの! まずは話しを聴かせてください!」
あたしのその言葉に黒ずくめたちの先頭に立っていた男は鼻で笑い、
「ふっ……バカを言うな。そんな戯言など通用するものか。《遊戯者》は俺たちとは違い、魔力量も身体能力も高いと聞く……だが、この人数差ならどうかな?」
と吐き捨てるように言う。そして男の号令と共に後ろの人たちは武器を構えてあたしに突進してきた!
あたしは咄嗟にスキルを発動させる。
「《円形障壁》! 《防御力増強》! 《速度増強》…!」
シュオン! シュオン! と聞き慣れたゲームの効果音がこの地下迷宮に響き渡る。
さっき風待さんがこの周辺の“キャラ”に対して《偵察》を掛けてくれている。相手の頭の上にはレベルやクラスなどのステータスがゲームと同じように表示され、あたしたちには強さが筒抜けだった。
(この中で脅威になりそうな人は……いない!)
この力量差なら《円形障壁》だけでおそらく避けるまでもなく防御面は大丈夫なはずだ。身の安全は確保出来ている。そのはずなのに――
迫りくる大量の暴力と敵意を前にして、あたしは膝が震えるのを抑えられなかった。
この敵意を向けられている対象が自分だと思うと、それが余計に恐怖を助長させた。
あたしは両手を前に構えてスキル発動後の硬直時間が終わるのを待ったが、急に膝から力が抜けてバランスを崩してしまう。
(しまった!?)
そう思ったときには既に遅く、尻もちをつく形で転んでしまっていた。そして黒ずくめたちの集団は一気に押し寄せるとそのままあたしに向かって剣や斧を突き立て――
あたしは一瞬目を瞑り、次に襲ってくるだろう衝撃に耐えようと身を固くした。しかし、いつまでたっても覚悟していた痛みや衝撃は襲ってこなかった。あたしは恐る恐る目を開ける。
すると、振り下ろされた刃はあたしの眼前で止められていて、それを握り締める男の顔はあたしと同じように引きつっていた。
「…だ、駄目だ……! 人を殺しちまったらもう後戻り出来無くなる……家族に合わせる顔がねえ…!」
その男はそう言うとその場にへたり込んだ。そして周りの仲間に向かって叫ぶように言う。
「お、俺は抜ける! お前たちは好きにしろ!」
そんな男の言葉に黒ずくめたちは一瞬戸惑ったような様子を見せる。
そして一人が地面に武器を投げ捨てると、また一人、また一人と武装を解除する者が続いた。
その群衆の中から一人のエルフの男が黒ずくめに近づき言った。
「やはり、私たちは暴力を振りかざすくらいなら、暴力に屈した方がいい……人としての尊厳は、守らねば……なあ、リガルドよ」
エルフの男は黒ずくめの名前を呼び、フッと微笑む。
「ッ!?……トラス……」
リガルドはそんなエルフの男の名を忌々しそうに呟くと、武器を地面に投げ捨てた。
そして周りの仲間たちもそれに倣い武器を投げ捨てるとその場にへたり込む者、頭を抱えて蹲る者など様々だった。
そんな彼らを見てあたしはホッと胸を撫で下ろしたが、自分の両隣に目の前の人たちとは比べ物にならないほどの殺気が立ち込めていることに気付き、ハッとする。
「風待さん! シルフィ!」
あたしは慌てて二人に声を掛ける。二人とも未だに周辺にスキルを張り巡らせ武器を構え、臨戦態勢に入ったままだ。あたしはそんな二人を見て焦る。
「もう大丈夫です! 武器を下ろしてください!」
あたしは風待さんとシルフィに向かって言うが、二人は構えた武器を下ろそうとしない。そしてシルフィはあたしに言う。
「まひるさん、お忘れですか? 私たちは武器を向けられた……つまり、相手は敵です」
シルフィの言葉にあたしはハッとする。そうだ……あたしたちはこの人たちと敵対する立場にあるんだった。でも、それでも――
「でっでも! この人たちは攻撃する手を止めてくれた! 武装も解除してくれた! ここから! ここからやっと始められるの! ここはゲームの中かも知れないけど、人との関わり方まで変えちゃいけないッ!」
あたしは震える足に無理やり力を入れ、立ち上がる。左腕のボーガンは収納し、こちらの戦意がないことを示す。
「あたしたちが今ここで話し合わなければ…… この人たちと分かり合おうとしなければ…! きっとこの先、明るい未来なんて拓けない!」
あたしは風待さんの方に向き直る。そして彼の目をしっかり見据えて言う。
「だからお願いです! 武器を下げてください! 話し合いましょう!」
あたしのその言葉に彼は少し驚いたような顔をした後、フッと笑った。そしてシルフィに向き直ると彼女は頷き、スキルを解除した。あたしはそれを見て胸を撫で下ろし、シルフィに歩み寄る。
「よかった……ありがとうシルフィ! 風待さん!」
そう言ってあたしはシルフィを抱きしめた。彼女の体はほんの少し震えていたが、すぐに抱き返してくれた。そんなあたしとシルフィを見た風待さんも武器を下ろし、笑顔を浮かべながら溜め息をついて言った。
「まったく君は……お人好しにも程がある」
『超次元電神ダイタニア』
第六十三話「地底要塞を探れ」
黒ずくめの男――リガルドはその被っていたフードを取り、その顔をあたしたちの前に晒した。
「……俺の名はリガルド。お前たちを《サニー》の元へ連れていく、《労働者》の一人だ……」
そう言うと彼はフードの下から赤い髪を覗かせた。その顔は少し疲れが見えるものの、精悍で整った顔つきをしていた。風待さんよりも少しだけ年上に見える。
そんな彼の腰にはショートソードとダガーが下げられていた。あたしたちも気は完全に緩めることなくそれぞれ自己紹介をする。
「あたしは相川まひるです。地球という、こことは別の惑星から来ました。あなたたちの知ってる事、あたしたちが知ってる事、それぞれ情報交換させてください」
そして風待さん、シルフィも続けて自己紹介をしてくれた。それを聞くとリガルドは意外そうな顔をして言った。
「地球……? 別の星? 何を言っているんだ?」
「え?」
そんな彼の言葉と反応に今度はあたしたちが驚いた。
「いや……だってここはダイタニアでしょ? あなたたちの言う《サニー》という人が創ったゲームの中なんですよね?」
あたしの問いにリガルドは首を横に振る。そして少し悲しそうな顔で答えた。
「《サニー》はアンドールたちの親玉だ。とんだ悪党さ…… そして、この世界、《ダイタニア》を創ったと言われている神の名は――」
彼の言葉の続きを息を呑んで待つ。リガルドの口から漏れた言葉は…
「創造神、アマテラス…!」
リガルドはそう言うと目を伏せて唇を噛んだ。そんな彼の言葉を聞き、風待さんが問い掛ける。
「アマテラス!? そんな設定、プログラムに組み込んでいないぞッ!?」
その問いにリガルドは答えた。
「お前が何を言ってるのか知らんが、ダイタニアにおいて、この世界を創ったとされているのがアマテラスだ。神って言うだけあって誰も会ったこともないし、どんな姿をしているのかもわからない。だが、この世界はアマテラスが創造し、そして俺たちヒトに管理を委託した……」
「そんな……こんなにゲーム設定から違うことってある!?」
あたしはリガルドの言葉に絶句する。
「で、サニーってのはヒト以外の種族、《アンドール》を率いて決起しだした奴だ。この世界でも扱える奴が稀な《電神》を思いのままに引き連れてな…!」
リガルドはそう言うとあたしたちをギロリと睨み付けた。そして、
「お前たちが本当にアマテラスの使いなら、なぜ俺たちヒト族にこんな仕打ちをする! 俺たちはただ平和に暮らしたいだけなんだよ!」
そう叫ぶとリガルドは地面に拳を叩きつけた。その拳からは血が滲んでいた。
あたしは彼のそんな姿を見て、胸が張り裂けそうになる。
(この人たちだって……被害者なんだ……)
そんな思いが胸中を駆け巡る。
そして更に聞き込みをして、混乱していた状況と勢力図を頭の中で整理していく。
今のダイタニアの状況は大まかに二つの勢力に分かれている。
一つはリガルドたち黒ずくめの労働者《ヒト》族と、サニー側についた《アンドール》と言う種族だ。
この二つの勢力の力の差は歴然で、地球で言うところの機械生命体であるアンドールだけでも脅威なのに、サニーは無人の電神も操り、戦力としていると言う。
『ダイタニア』のゲーム設定ではアンドールだけは電神に乗れない種族だ。その代わり、個のステータスは他のヒト族より遥かに優れている。そんなアンドールたちが電神を引き連れてこの世界の覇権をかけて攻め込んで来たという。
土地は荒らされ、街は焼かれ、ここまで来るまでに見た荒地がその爪跡だと言う……
そしてリガルドたちはサニーに家族を人質に捕られ、あたしたち《遊戯者》と呼ばれる異世界人を探す様に徒党を組まされた《労働者》だと言うのだ。
そこまで聴いてあたしは一つ呟いた。
「……ひどい……」
そしてリガルドは更に言う。
「俺たち労働者はな、サニーの奴らに暴力で抑え込まれて《遊戯者》を探す手伝いをさせられてるんだ。俺たちの世界の未来は、真っ暗だ……」
あたしはそんな彼を見て少し考える。そして口を開いた。
「……あたしたちが、何とかして……」
あたしの呟きが聞こえたのか、風待さんが咄嗟に割って入ってくる。
「相川さん駄目だ。彼らの状況は解った。だが、俺たちもこの世界でのんびり救世主ごっこをしている時間はない。一刻も早く――」
「分かってます!」
あたしは風待さんの言葉を遮る。
「…分かってます……あたしたちは急いでみんなを探さなくちゃいけないし、この人たちを救えるとも思ってないけど……それでも! 目の前で苦しんでいる人がいるなら放っておけない! そんなのは、あたしッ…!」
そこまで言ってあたしはハッとする。
「まひるさん……」
シルフィがあたしの肩に手を置いて言う。そして風待さんは溜め息をついて言った。
「分かったよ……君はそういう人だったね」
そんなあたしたちのやり取りをリガルドたちは呆然と見ていた。そんな彼らの視線に気付き、あたしは慌てて取り繕うように言った。
「可能な限り、やってみます! あたしたち、友達を連れ戻しに来たんです。サニーを絶対倒してみせるから、皆さんもあたしたちの友達を探すの手伝ってくれませんか? お願いします!」
あたしはそう言って頭を下げた。シルフィもそれに倣う様に頭を下げる。そんなあたしたちを見てリガルドは言った。
「本当に……俺たちを、救ってくれるのか?」
彼はそう言うと深く息を吐き、そして言った。
「わかった……俺たちの命は《サニー》の奴らに握られている様なものだ。だが、もしお前たちがあいつらを倒してくれるなら俺たちは全力でお前たちを支援する!」
そして彼は立ち上がると群衆に向き直り、大声で叫ぶ。
「お前らも聴いてたろ! 俺はこいつらに一つ賭けてみようと思う!」
その呼びかけに周りの男たちも戸惑った表情を浮かべる。そんな彼らにリガルドは更に言う。
「俺たちはもう、こんな生活はうんざりなんだ! この《遊戯者》の奴らが本当に俺たちを救ってくれるなら……俺は協力するぞッ!」
すると一人、また一人と武器を捨て始める。そしてそれを皮切りに群衆からざわめきが聞こえ、そして大歓声へと変わっていった。
「頼んだぞ! 俺たちの救世主ッ! 異世界の冒険者たちよッ!」
そんな声にあたしは目を白黒させる。シルフィも驚いているようだったが、風待さんだけは涼しい顔をしていた。
「なんだかまだよく分からないけど……よかった…」
そんなあたしたちにリガルドは手を差し伸べてきた。彼は照れた様に笑うと、こう言った。
「……ありがとうな。話を聴いてくれて…」
そんな彼の手を握り返すと、あたしは言った。
「こちらこそ! これからよろしくお願いします!」
それから風待さんが彼らに色々聴いていた。そしていくつか気になる情報を得た様で、あたしたちに向き直り言った。
「相川さんは『ダイタニア』をプレイしてたからアンドールが何かは知っているね?」
「あ、はい。初期プレイ時に選べる種族の一つですよね? ヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人にホビット、そして、アンドール…」
「そう。アンドールは元々電神を使えない種族だ。それが今この世界ではサニー率いるアンドールたちが電神と共に反乱を起こしたと言う。アンドールも電神も元は魔力制御で動いているもの、つまり、地球で言うところの電子制御だ。そのプログラムを操る者がそのサニーなら、やはり放ってはおけないな…」
風待さんの言葉にあたしは頷いた。そしてリガルドが続ける。
「そのアンドールからこの隠れ遺跡を与えられ、来たる《遊戯者》を待ち構えていたんだ。だが、来た《遊戯者》はお前たちだった。それがまさか救世主だとは思わなかったがな……」
リガルドはそこまで言うと改めて姿勢を正して言う。
「サニーの奴らを倒すためにも、まずはこの遺跡から先へ進むといい」
「奴らの拠点は?」
風待さんがリガルドに訊く。
「この遺跡の更に地下だ。地底湖の底を通る道がある。そこを進めば奴らが占拠している階層に出るはずだ」
そんな彼の言葉を聞き、風待さんは頷く。そしてあたしたちの方に向き直り言った。
「それじゃあ行こうか。リガルド、あんたたちはこの遺跡から退避して自分の身を守ることだけを考えてくれ。地下で戦闘になった場合、あんたらの無事まで保証できないからな」
そう言って歩き出そうとする彼の腕をシルフィが摑んだ。風待さんが不思議そうな顔をする中、彼女は口を開いた。
「……風待、やっぱり少しおかしいです」
「ん? 何がだ?」
「この方たち、確かに今でこそ私たちに協力的に接してくれていますが……仮にも私たちを捉えて取引材料にしようとした人たちですよ? 信じられるのですか? それに《SANY》の反応は変わらずありません……この話は少し不自然な気がします」
そんなシルフィの言葉に風待さんはフッと笑うとシルフィに言う。
「まあそう言ってやるな。家族を人質に捕られてるんだ。何だってするさ。それに、サニーのことに関しちゃ俺はそよ君とは関係ないと思っている。どこぞの悪党がサニーの名を語ってる線が濃厚だろう」
「そうでしょうか……そうだとしても、やはり不自然に感じないですか?」
シルフィは風待さんに食い下がる。そんな会話を後ろで聞いていたあたしにも確かに疑問が浮かぶ。
(サニーの名前を知ってる人がそんなにいっぱいいる訳がない……ましてやこのゲームの中のダイタニアで……)
そこまで考えてあたしは二人に向かい
「そのシルフィの疑問を解消する為にも、今はその湖に行ってみようよ」
と、明るく言った。そして続ける。
「もしかしたら何かみんなの手掛かりが見つかるかも知れないし!」
そんなあたしの掛け声と共にあたしたちは遺跡の更に地下へと進むのだった……
『ダイタニア』の世界では地底湖が重要な施設になっていることが多い。それはこのダンジョンでも例外ではなく、この隠れ遺跡にも大きな地底湖があった。
そしてその地底湖の水面には巨大な穴が空いており、そこから地下に降りていくことが出来る様だった。
あたしたちはリガルドに別れを告げ、その地下へと足を進めた。
「あの穴の下がこの遺跡の最下層のようですね」
シルフィがあたしの隣に来て冷静な声で言う。
「そうだね……行こう!」
あたしがそう言うと風待さんも頷く。そしてあたしたちは更に地下深くへと進むのだった。
「この遺跡、かなり深いですね……」
シルフィが呟く。あたしたちは地底湖の底を歩き続けていた。
「そうだね……それに、なんだか変な感じ」
あたしはそう言いながら辺りを見回す。確かに地底湖の底には空洞があり、水が溜まっていた。その水は光を発して辺りを薄く照らしている。とても綺麗なんだけど……
「なんか気味が悪いね……この景色」
あたしは率直な感想を言った。すると風待さんは苦笑いして言う。
「まあ、ゲームの中の世界だからな。とりあえず先を急ごう」
そんな彼の呼び掛けにあたしたちは更に深い階層へと進んでいくのだった。
そして暫く歩くと大きく開けた場所へ出た。それと同時に先頭を歩いていた風待さんの足が止まる。その表情は明らかに動揺していた。
「……おいおい…本当にあったぞ…!」
彼は小さくそう呟くとその場に立ちつくす。あたしたちも彼の視線の先を見ると、そこには巨大な空間が広がっていた。そしてその中に巨大な物体が幾つも佇んでいた。
「あれは……」
あたしは思わず言葉を漏らす。その横でシルフィが呟いた。
「電神……!」
そこに佇んでいるのは紛れもなく電神だった。それもかなりの数、十機以上の機体がいる様に見える。
「…ここは、要塞だな。それも、周囲を電神に護らせている。相当用心深い奴のアジトのようだ…」
風待さんの言葉にあたしは息を呑む。
リガルドさんからこの最深部のどこかに電神の要塞がある、とは聞いていたけど……それが今目の前に現れた。
「風待さん。まずはあの電神たちを何とかしないと」
そんなあたしの呼び掛けに彼は首を横に振る。そして言った。
「無理だ……この地下で俺たちにはあの数の電神を倒す力は無い。地下で電神を喚べるのはエレメンタラー系統のジョブだけだ…」
その言葉にあたしたちは絶句するしかなかった。そんなあたしたちに更に追い討ちをかける様にシルフィが言う。
「それに、あの数です……もし電神が有ったとしても苦戦は必至でしょう……」
「じゃ、じゃあ! 生身でバフ盛りまくればどうにかなりませんかね? 風待さんレベルカンストしてるくらいですし!」
あたしはそんな無謀なことを言ってみる。すると風待さんは呆れたように言った。
「電神にプレイヤー単体での物理攻撃は通り難いのは知ってるね? もし倒すなら魔力を一点に収束した、そうだな……スナイパー辺りの強力な一撃が必要だろう」
そんな彼の言葉を聞きあたしはハッとする。
「…風待さん、あたし、アーチャー履修してます。それに、この《ウィンドのボーガン》の固有スキルで《一陣の風》が使えるようになってます…今確認しました」
あたしの言葉に風待さんがハッとしてあたしに振り向く。
「《一陣の風》だって!? アーチャーの上級職、スナイパーの最終必殺技じゃないか! いや……そうか……それが、彼女が君に遺してくれたものなんだね……」
風待さんはまた前に向き直ると少し俯き、そして再びあたしの目を真っ直ぐ見ると言った。
「相川さん! 俺は今からアサシンの隠密スキルを使ってあの要塞に侵入してサニーとやらに話を聴いてくる。ついでに人質の解放も出来たらしよう。だから君はシルフィとここで待っていてくれ」
彼はそう言うと腰の剣を抜き放つと駆け出した。そんな姿を見てあたしは慌てて言う。
「ちょッ! 待ってくださいよ! そんな無茶なッ!」
あたしがそう言う間もなく、彼はスキルで気配を殺し、電神の集団に見つかることなく要塞の入り口まで安々と到達した。それから彼は一人その中へ入って行ってしまった。
「もうッ! 勝手なんだから!」
あたしはそう叫び、それから風待さんの無事を祈った。
「まひるさん」
そんなあたしの肩にシルフィが手を置いた。そして彼女はあたしに優しく語りかける様に言う。
「風待はこの世界を創った者の一人です。そう安々とやられはしないでしょう。問題は彼が中で何か事をお越し、戻って来た時に、私たちがどう対象するかです」
「風待さんが戻って来た時、それをどうフォローするか……そうだね」
あたしの言葉にシルフィは頷く。
「周りにはあの数の電神がいます。まひるさんの狙撃スキルだけではどこまで対象しきれるか分かりません。ならば……」
シルフィはそう言うと私の目をしっかりと見据えながら真剣な顔付きで言った。
「精霊でない私と、出来るかは分かりませんが、まひるさん! 《契約》しましょう!」
【次回予告】
[まひる]
“人間同士話せば分かる”って言うけど
本当に怖かったんだからあ!
風待さんは一人乗り込んじゃうし
シルフィは変なこと言い出すし、もう!
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第六十四話「もう何人目かのサニー」
えーと……そもそも最初のサニーって誰だっけ?
――――achievement[言葉制する者]
※まひるが《労働者》と仲間の説得に成功した。




