第六十一話「旅立ちは次元を超えて」
お母さんがお昼を食べて行きなさいと言ってくれたので、あたしとシルフィ、風待さんの三人は実家で昼食を頂いた。
お父さんが獲ってきた魚介をふんだんに使ってお母さんとお兄ちゃんが作ってくれたとっても美味しい料理の数々。
あたしは涙を零しそうになりながらそれを堪能した。
就職して一人暮らしを始めた頃にも思ったけど、今まで当たり前に感じていたことは当たり前のことではなくて、周りのみんなの優しさと恵まれた環境に依るものなのだ。いつもと変わらないお母さんの美味しい料理が今はとても有難く、尊い。
あたしはゆっくりと、手を合わせ「ごちそうさま」をする。
「御馳走様でした! とっても、美味しゅう御座いました…!」
シルフィが勢いよく胸の前で手を合わせて言う。その顔は幸せそうで、本心で言っていることが一目で見て取れた。
「ご馳走様でした。大変美味しかったです。済みません、私まで頂いてしまって…」
風待さんもシルフィを見てか、ちゃんと両手を合わせて遠慮がちにごちそうさまをしてくれた。
自分の実家で男の人と一緒に食事をするのは何だか不思議な気分だった。
「俺とお袋が作ったんだ。美味いに決まってらあ」
お兄ちゃんが腕を組んで得意気に言う。風待さんに向け少しだけの嫌味がまだ籠もっていそう…
「皆さんにそう言って貰えて嬉しいわ」
お母さんが上品に微笑む。あたしはお母さんの側に行き、その優しい顔を見つめて言った。
「お母さん、いつも美味しいご飯、作ってくれてありがとう」
お母さんは突然何事かと目をパチクリさせる。あたしはそれを見て微笑みながら今度はお父さんに向き、
「お父さん、いつも優しく見守ってくれて、ありがとう」
と言った。お父さんも少し驚いたような顔をして小さく「…むう」とだけ言った。
最後にお兄ちゃんに向かって、
「お兄ちゃん、いつも守ってくれてありがとう」
あたしは笑顔なのか泣き顔なのか自分でも分からない顔で感謝の言葉を述べた。
「まひる……」
お兄ちゃんは珍しく眉を下げ、辛気な顔をしてあたしを見ている。
するとお母さんがあたしを抱きしめてきた。
「…あなたは私たちの娘で、家族で……絶対に失えない唯一の存在なの。あなたも友達の皆を同じように思っているのよね?」
お母さんは、泣いていた。あたしは驚きながらも、そっと目を閉じ、お母さんを抱きしめ返す。
「うん…! あたしにとってお母さんたち家族は何者にも代えられない存在……それでね、ありがたいことにね、この夏に同じくらい大事にしたい友達が沢山できたんだ!」
あたしは笑顔で涙を零しながらそう答えた。あたしは零れる涙をそのままに、しっかりとお母さんを見つめる。
「だから、行ってきます!」
お母さんはあたしを見て、やっぱり泣きながら笑顔で優しく、そして力強く、
「行ってらっしゃい…!」
と、あたしたちを送り出してくれたのだった。
『超次元電神ダイタニア』
第六十一話「旅立ちは次元を超えて」
夕方六時までには必ず合流するからと、あたしは風待さんとシルフィに伝え、実家からは一人で自分のアパートに戻って来た。
火の元の確認、ゴミ出し、電源コンセント、冷蔵庫の中身確認、と、しばらく留守にすること前提で、あたしはアパートの各部屋の点検を行い、玄関に鍵をかける。
出発の準備は出来た。後は――
あたしは意識を集中させ《瞬間転移》を唱えた。
夕方五時を回った『スナックかきつばた』の玄関で開店準備をお店のママ自ら行う。そのおもてなしの心意気と所作があたしにはとても美しく感じられた。
「こんにちは。いつもお忙しい時間帯に来て済みません」
あたしはママのよし子さんに申し訳なさそうに声を掛ける。あたしの声に気付いたよし子さんが顔を上げ、あたしの顔を見るなり目を細め笑顔で迎えてくれた。
あたしとよし子さんはお互いの顔を見ただけで、言いたいことが大体分かった。それは以前にも経験したことのあるやりとりだった。
「今度来る時は、流那ちゃんと一緒に来ますね!」
「あら、若い娘さんが来るような店じゃありません。ご遠慮ください」
あたしがよし子さんのその返しに「ふふっ」と笑うと、よし子さんも上品に微笑み、
「やるべき事が決まったみたいね。いい目をしているわ」
と、あたしの目をしっかり見ながら言ってくれた。
「はい! その節はご迷惑お掛けしました!」
あたしもよし子さんの目を見てはっきりと答える。
「うふふ。あなたの瞳に映るもの、今度お話し聴かせてね。なるちゃんも一緒に」
あたしはよし子さんに笑顔でお辞儀をすると、また今度ゆっくりお話しさせてくださいとお願いする。
よし子さんは何も言わずに軽く手を振って答えてくれた。
あたしはよし子さんに手を振られながら『かきつばた』を後にした。
今日何度目かの《瞬間転移》であたしは昨夜も来た千葉理学大学の電算室の前にやって来た。
時刻は午後五時十分。すると、あたしが最後の到着だったようで既に皆揃っていた。
「まひるさん! こちらです」
あたしを見付けたシルフィが笑顔で小走りに駆け寄ってきてくれた。何だか仔犬みたいで可愛い。
「先生、全員揃いました」
ドックさんが先生と言った人に声を掛ける。そう言えば初めて見掛けるスーツ姿のナイスミドルな男性がいる。
風待さんがあたしの下までやってきて声を掛けてくれた。
「やあ、相川さん。今日は来てくれてありがとう」
そう言ってあたしの前で改めて頭を下げられた。
「あ! いえいえ! あたしこそ、力になれるか分かりませんが、足を引っ張らないよう頑張ります!」
あたしは慌てて両手を振って答えた。
「相川さん、こちらがこの電算室の責任者でバーチャルエクスペリエンスの生みの親、浅岡教授です。俺の恩師でもあるんだ」
風待さんが紹介をしてくれる。あたしは改めて教授に向き直り挨拶をした。
「は、初めまして! 相川まひると申します。今日はよろしくお願いします!」
「これはご丁寧にどうもありがとう。私は彼らの顧問をしていた浅岡です。こちらこそ今日は宜しくお願いしますね」
よし子さんに負けず劣らずの優しい笑顔で浅岡教授はそう言ってくれた。
「迫田君から少し話は聴いたよ。済まなかったね、君のような一般の方まで巻き込むようなことになってしまって…」
浅岡教授があたしに向かって申し訳無さそうに言う。
「いえ、今はもう私自身の問題でもあります。必ず、成功させます!」
あたしは浅岡教授に向かって両手でガッツポーズをして見せた。
「うん、いい心意気だ。迫田君が言うように前向きな思考が小気味良いお嬢さんだ…」
教授があたしを見る目はどこか遠くの誰かを見るかのような、そんな優しい目をしていた。
「よし! それでは皆揃ったようなので早速ミッションを始めよう! 時計を合わせるぞ! 八月十一日十七時二十分…………今!」
コニシキさんがそう言うとその場の全員の顔付きが一斉に真剣なものへと変わった。
私もみんなに習い自分の腕時計の時刻を確認する。
「ザコタ! 二人を連れて屋外で電神に乗って待機。今ミッチーが三人にバイタルモニターとGPSを付ける。以前シルフィの電神に付けたGPSは二次元化しても『天照』を指し示していたからな。時と場合によっては有効だと検証されている」
ドックさんが風待さんに指示を出す。
「了解! 頼みました! ドック先輩!」
風待さんは頷くと、あたしとシルフィを連れてその場を立ち去ろうとする。
「あ? 何度言わせんだ! 俺はドクじゃ――」
ドック先輩が自分で言っておいて、その違和感に気付いた。
「だから、頼りにしてるよ。ドック!」
風待さんがドックさんにサムズアップしながら召喚したダイテンマオーに乗り込む。
それを少し呆気に取られたドックさんが見て、直ぐに視線を手元の『天照』に移し、
「………あンのやろう…ッ!」
と一つ吐き捨てた。だが、その口元は弧を描いていた。
「三人共乗ったわね? 現在みんなバイタル正常! こっちで拾えるところは全部フォローするから絶対無事に帰って来るのよ!?」
ミッチーさんがあたし達にそう言ってくれる。
「「「はい!」」」
あたしたちは同時に声を揃えて返事をした。
コニシキさんが、ドックさんが、ミッチーさんが、浅岡教授が見送ってくれる。
あたしはコクピット内でシルフィに向き直り、その目を見て言った。
「……行こう! みんなのいる場所へ!」
シルフィもあたしに頷き返し、そして力強く答えた。
「はい! ダイタニアへ…!」
風待さんがシートに座り、電神のコンソールパネルを流れる手付きで操作していく。
あたしとシルフィはシートの両脇に掴まり、その行程を興味深く眺めていた。
(電神って見た目はみんな違うけど、コクピットの中や操作パネルはほとんど共通なのね…他人の電神に乗るのって初めてだから興味が尽きないなあ)
そうこうしている内に、スーパーコンピューター《天照》の準備も整い、ドックさんから通信が入った。
『シルフィから言われた通りプログラムを組み直した。そいつの言っていることが本当ならダイテンマオーが《天照》に触れれば一瞬でダイタニアに行けるだろうぜ。だよなシルフィ?』
ドックさんはまだシルフィが信用ならないのか、少し棘のある言い方をする。
『…はい! 電神は二次元の存在です。《天照》で電神を電子化することでVEで電脳世界へアクセスする時と同じ感覚で行けるはずです!』
シルフィも負けじとドックさんに言い返す。あたしはそんな二人を見て思わず苦笑してしまった。
「よし! ダイテンマオー、突入する!」
風待さんがコンソールをタッチするとダイテンマオーが姿勢を低くしその腕を《天照》に向け伸ばす。
その手は建物に干渉することなくすり抜け、電算室の最奥に鎮座する《天照》の前まで来た。
そしてあたしはシルフィの方を見て笑顔で言った。
「ダイタニアに行けば、シルフィも消えずに済むんだよね?」
「はい…! 魔力も常に充填されますし、そこは精霊と同じ原理かと思われます。ダイタニアが、存在している内は、ですが……」
シルフィはあたしに向かってしっかりと答える。
「じゃあ、絶対ダイタニアを元に戻さなくちゃ! もう軽々しく命を投げ出すようなこと言っちゃダメだからね!」
あたしは自分の左手をシルフィの右肩に添える。
「はい! 私にはまだやるべき事が残されています!」
シルフィもあたしの左肩に右手を置きながら言う。
『ダイテンマオーと《天照》の接触を確認。電神の電子化が始まるぞ! ザコタ! 皆が待っていることを忘れるな! 必ず戻れ!』
コニシキさんの檄が飛ぶ。
『バイタル正常範囲内! みんな! 絶対戻って来るのよ! 誰一人欠けてはダメよ!』
ミッチーさんが優しくも凛とした声で送ってくれる。
風待さんはコクピットからそれぞれに笑顔を向け無言で応える。
粒子化が始まっているダイテンマオーの下でドックさんがあたしたちを睨むように真剣な顔で見上げていた。
『…………』
風待さんはそれを見て一言、
「決着をつけてくる…!」
とだけ言い、ダイテンマオーの操縦桿を握り直した。
ダイテンマオーが光に包まれ《天照》の中に伸ばした指先から吸い込まれていく。
「行ってきます!」
あたしがそう叫ぶと《天照》が光輝き、その光があたしたち三人を包む。そして次の瞬間にはもうそこは電算室ではなかった。
光に包まれ、咄嗟に目を瞑ったあたしはゆっくりと目を開ける。
「……ここは……ダイタニア……!」
目の前にはゲームで見慣れた西欧風のファンタジーな世界が広がっていた。
空中に浮かぶ島、大陸を穿つ大滝、海上に浮かぶ遺跡。いずれもゲームと同じ景観だった。
「…はい。ここが、SANYと風待たちが創り上げた、ダイタニアです……!」
シルフィはあたしの問い掛けにそう答えてくれた。
「…前に秋葉原でシルフィが見せてくれた、地球の建物が建ち並ぶような景色は見当たらないね」
「はい。ダイタニアの地球侵食は既に停止しました。その為元のダイタニアの姿に戻ったのでしょう」
あたしの疑問に直ぐにシルフィが答えてくれる。
遥か遠くを真剣な眼差しで見渡すシルフィは、以前自分が犯してしまった過ちをしっかりと受け止め、尚且つ前に進もうと決心したような、そんな覚悟が決まった顔をしていた。
「一先ずダイタニアに来ることには成功だ。じゃあ電神を地上に降ろして一旦戻す。何が起こるか分からないから出来るだけMPは温存して、周囲を警戒しながら一つ一つやることを片付けていこう」
そう言って風待さんは空中からゆっくりブーストを蒸しながら電神を草原広がる平地に着け光の粒子に戻した。
「早速だがシルフィ、SANYの存在を感知出来るか?」
風待さんが立ち上がりながらシルフィに聞く。
「……今探っています……」
すると既にシルフィは目を閉じ意識を集中させてSANY…そよちゃんを探してくれている様だった。
暫しの静寂が三人の前に訪れる。シルフィがゆっくりとその目を開けた。
「…SANYの反応、ありません……」
シルフィは申し訳なさそうに言う。
「ッ!!」
その言葉を聴いたあたしと風待さんは思わず息を飲む。
「そんな……そよちゃん……」
ダイタニアに来たばかりだと言うのに、最初から途方もない絶望感があたしたちを包んだ。
「シルフィ、確かなのか?」
風待さんの言葉にも力がない。
「はい……これでも私はこの世界を構築するSANYの半身です。間違えるはずがありません。残念ですが……」
シルフィはきっぱりと断言する。
「……シルフィの言うように、SANYがいない場合、ダイタニアは滅びるんだよな? 今その兆候はあるのか?」
風待さんはシルフィに確認する。
「いえ。何故だかまだその兆候は感じられません。ですが……」
シルフィは言葉を濁す。
「何だ? 言い難いことでもあるのか?」
「……いえ。定かではないのですが、ダイタニア全体に違和感を感じます…」
「違和感?」
あたしがシルフィに訊き返す。
「はい。SANYの存在は確かに感じ取れないのですが、それに取って代わるような、得体の知れない存在を感じるのです……」
シルフィが言いにくそうに言う。
「得体の知れない存在?」
あたしは思わずまた訊き返す。風待さんも険しい顔でシルフィを見ている。
「はい……SANYとはまた違う、何か異質な力を持ったもの……」
シルフィはそこで言葉を切る。
「……その力を感知出来るか?」
風待さんが真剣な眼差しで訊く。
「いえ……場所や全貌までは……ただ、余り良くない雰囲気を感じると言いますか…」
シルフィは申し訳なさそうに答える。
(そよちゃんの存在も感じ取れず、しかも得体の知れない何かがいる……)
あたしは深刻な顔のシルフィを見て、一つの覚悟を決めた。
「風待さん! あたし、そよちゃんたちを探すのも勿論ですけど、シルフィが感じている違和感の正体も突き止めたいです!」
この時のあたしは何故だかシルフィが感じている違和感を取り除かない限り、ダイタニアに平穏が訪れないような気がしていた。
あたしがそう言うと風待さんも頷いた。
「ああ、俺も同じ気持ちだよ。今ダイタニアはSANY不在で滅びる危機にあるが、まだ猶予があるようだ。ならそのシルフィが感じている違和感は是非とも調べるべきだろう。もしかしたらそれで道が拓けるかも知れないしね」
風待さんはそう言ってあたしの方を見てくれる。
「はい!」
あたしは笑顔で答えた。
「よし。まずは皆の捜索と、シルフィが感じている違和感の正体を探ること。この二つを目標にして行動しよう」
風待さんがそう言うと、あたしたちはダイタニアでの最初の一歩を踏み出したのだった。
「アイテムボックスやステータスはゲームと同じに開きますけど、元々持っていたゲームの所持品は失くなっちゃってますね…」
次にあたしと風待さんはこのダイタニアがどこまで元のゲームの『ダイタニア』と同じなのか検証する作業に取り掛かっていた。
「そうだね。レベルや修得したスキルはそのままだったのがせめてもの救いか…やはり、君のアウマフが喚べなくなっていたのは残念だが…」
風待さんも自身のステータスウィンドウを目の前の宙空に映し出してスワイプしながら返答してくれる。
そしてNPCのシルフィだけが黙ってその様子を視線だけ動かし興味ありげに眺めていた。
現在まだ検証中ではあるけど、今までで判ったことは、あたしはアウマフが喚べないということ。シルフィ曰く、電神は契約した精霊がいて初めて召喚できるそうで、今のあたしにはその精霊がいない……
先に契約していた四精霊の気配も調べてもらったが、個人として存在している精霊はいないとのことだった。
「じゃあ、風待さんのアイテムも?」
あたしは寂しさを胸の奥にしまい込み、風待さんに訊く。
「ああ、俺も手に持っていたアイテムは無いな。ただ、パッシブスキルの《隠し金庫》に預けていた所持金とアイテムは取り出せそうだからどうにかなるだろう…」
「あたし、結構レア装備で固めてたんですけど、全部ロストしちゃってて悲しいです……あッ!」
あたしはインベントリ欄にあった未装備の所持品に気付き声を上げた。
「どうした相川さん?」
風待さんはあたしの声に振り向く。
「……ウィンドのボーガンが、在ります……それにマリンのスタンガン…ファイアの髪飾り、アースのリボンまで……」
あたしはそれを見つけるなり胸の奥が熱くなるのを感じた。
「…まさか、現実から持ってきた物は存在出来るのか? ……よかったね、相川さん……」
風待さんはそう言って、あたしの顔を見ないようにまたステータスウィンドウに視線を戻す。
「……はいッ!」
あたしは力強く頷いて答えたが、その顔は既に涙で濡れていた。
シルフィが困り顔で直ぐ側にやって来てくれてあたしの肩を支えようとしてくれる。
「ありがとうシルフィ。大丈夫だよ…これは半分、嬉し涙だから…」
あたしはそう言ってシルフィに笑顔を向けた。
「はい……」
そんなあたしを風待さんは黙って見守ってくれていた。
あたしはある事を思い付いた。そう言えばあたしは《勇者》の能力で何でも大気中のニュートリノを物質にすることが出来るらしい。それを使えば――
(まずは自分の身が守れない様じゃこれから先誰も守れない……。誰かを守る為にも、あたしに鎧をください……!)
あたしの全身が一瞬光輝くと、次にはイメージした通りの白い軽装鎧を着ていた。同じ要領でケープも生成する。
「お! いいね。それが《勇者》の特殊能力か。初めて目にしたよ。アルケミストの《物質変換》の上位版みたいなものかな」
風待さんが感心するように言ってくれる。
「風待さんの装備もご用意しましょうか?」
あたしは笑顔で風待さんに答えた。
「え? 本当? じゃあ一つ格好いいのを頼むよ」
風待さんは少し照れながら承諾してくれる。
「はいッ! おまかせあれ!」
あたしは意気込んで頷く。
(カッコいい装備、カッコいい装備……)
意識を“自分の考える格好いい装備”に集中させながらあたしは《勇者》のスキルを発動させる。
風待さんの体が一瞬光った。そして、その光が収まった時、そこにはトリコロールカラーの重装鎧に身を包んだ風待さんがいた。
「これは……何とも……」
風待さんは何故か顔を引きつらせていた。
「やっぱり王道のこの色使いは格好いいですね!」
あたしは目を輝かせて風待さんに言う。主人公機みたいでカッコいい!
「あ、うん……いいと思うんだけど、その…俺はメインがマジックナイトなんでもう少し軽装で……あと隠密もしたいから地味目の色味でお願いしたい、かな?」
風待さんは無理して作ったような笑顔であたしに注文を出してきた。
「え~? 折角格好いいのに……分かりました。地味目の色味で作りますね」
あたしはちょっと残念に思いながらも再度《勇者力》を発動させる。 そして出来上がったのは黒に近いダークグレーの軽装鎧だった。
「おお! これはいいな!」
風待さんが自分の装備を見ながら嬉しそうに言う。心做しかさっきより大分嬉しそうに見える。
「ありがとう相川さん。助かるよ」
風待さんは笑顔でそう言ってくれた。
「いえいえ。どういたしまして」
あたしも満面の笑みで答える。
そんなあたしをシルフィは何故かジト目で見ていた。
「どうしたの? シルフィ?」
あたしはシルフィにそう訊いてみた。
「いえ……ちょっと、羨ましかっただけです……」
シルフィはそう言ってまたあたしから視線を逸らす。
「ああ! ごめんシルフィ! シルフィの服も創ってあげるね? やっぱり可愛いのがいいかな?」
「あ! いえ! 私が羨ましいと言ったのは服装のことではなく――」
シルフィが何か言い終える前にあたしの《勇者力》が発動し、シルフィはあたしが思い描いた通りの可愛い姿になった。
シルフィは全身をレースとフリルをふんだんに使ったピンクのドレスを身に纏っていた。
「うわ~! やっぱり可愛い~!」
あたしは思わず声を上げた。シルフィは顔を真っ赤にして固まっている。
「あ、あの……折角して頂いて、大変申し上げ難いのですが……」
シルフィが恥ずかしそうにあたしに言う。
「ん?」
「…チェンジで」




